大規模調査で見えたDXの現在の到達点。そこから導かれる推進の成功要件とは?

主催:NTTデータ経営研究所

日本企業の生き残りのために、DX (デジタルトランスフォーメーション)が必須になっている。しかし、欧米や中国に比べて大幅に後れを取っているように映るが、実際はどうなのか。NTTデータ経営研究所は先ごろ、実態を把握し対策を講じるべく「日本企業のデジタル化への取り組みに関するアンケート調査」を実施した。そこから見えてきたものは何だったのか。「NTTデータ経営研究所主催 第4回 イノベーティブセミナー~DX狂想曲を超えて」(2019年11月21日開催)では、調査から見えてきた衝撃的な実態と実践企業の最前線、それらから抽出されたDX推進の成功要件が示された。

DX推進の成功要件 Case:全日本空輸

搭乗に限らず生活のあらゆるシーンで顧客接点を強化

全日本空輸株式会社 執行役員 マーケティング室副室長 兼 アジア・オセアニア担当 冨田 光欧 氏

全日本空輸(ANA)の冨田光欧氏は「当社グループでは、従来から丁寧なお客様への対応を大切にしているが、近年はデジタルを接点としたお客様対応の重要性が高まっている」と語った。DXを急ピッチで進めている背景には、LCC(ローコストエアライン)や外国航空会社との競争が激化している中で高品質なサービスやホスピタリティーを維持するには、デジタル技術によるサポートが不可欠となっているという現状がある。
ANAのデジタルでの顧客接点としては、Webサイトの「ANA SKY WEB」、ANAアプリ、ANAマイレージクラブアプリなどによる双方向型の顧客コミュニケーションがあるという。国内外からのWebサイトへのアクセス数は1日当たり57万人、ページビューは930万PVにも達しており、さらに加えて昨今はモバイル端末へのアクセスが増えている。
同時に同社では現在、デジタル接点を通して顧客の属性や過去の利用履歴、行動データなどのデータ収集・解析をするとともに、AI(人工知能)などを用いた予測に基づき、顧客との適切なコミュニケーションに努めている。
「ご搭乗に限らず、生活のあらゆるシーンのデータを用いてお客様の行動を理解し、ライフステージに合わせたサービスを提供していきたい」と冨田氏は話した。
講演では、定時性確保のための顧客へのアプローチやスタッフのコミュニケーション、顔認証による搭乗手続きなどに行動科学に基づくデジタル技術を活用し、利便性を向上させる取り組みも紹介。さらに、将来に向けては他業種との連携によるシームレスな移動サービスの提供についても言及した。

DX推進の成功要件 Case:デジタルシフトウェーブ

人手不足を埋めるにはデジタルシフトによる生産性向上が不可欠

株式会社デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長 鈴木 康弘 氏

デジタルシフトウェーブの鈴木康弘氏は、SIベンダー、大手インターネット企業、大手小売企業でECサイトやオムニチャネルの立ち上げ、デジタル化を推進してきた実績を持つ。
鈴木氏は日本企業にDXが求められる背景の一つとして、労働市場の変化を挙げる。日本の労働市場では、2030年に644万人が不足すると見積もられており、この人手不足を埋めるには、「単なる業務の効率化にとどまらず、デジタルシフトによる改革を興し、生産性を向上させるしか方法はない」と語気を強める。
日本企業がDXを進める道しるべとして、鈴木氏はデジタルシフトが進む米国の大手小売業の実態を紹介した。鈴木氏自身が実際に米国を訪問し取材した経験を基に、アマゾン・ドット・コムが「Amazon Go」などの先進的な挑戦を進める一方で、ウォルマートは違う切り口での改革を進めていることを紹介。米国ではあらゆる企業がリアルとネットを融合させた取り組みを進めている中、日本企業はデジタルシフトに後れを取っていると語った。
鈴木氏は日本企業が「トップが担当任せで、途中で頓挫する」といったデジタルシフトに失敗する共通の問題点を指摘した上で、それらを解決する成功の道として、「経営者の意識改革&決意」「改革推進体制の構築」「業務改革の推進」「IT自社コントロールの実現」「不退転の継続実行」などを挙げ、それぞれのポイントを解説した。
その上で、「日本企業は今が勝負の時。私たちはデジタルシフト推進の支援で、企業の変革を力強く後押ししたい」と呼び掛けた。

DX推進の成功要件 Case:ZOZOテクノロジーズ

令和は“本格AI活用”時代。AI “共創(競争)力”を付けるために必要なこと

株式会社ZOZOテクノロジーズ VP of AI driven business / AI・プロジェクト推進部 部長 野口 竜司 氏

ZOZOテクノロジーズの野口竜司氏は「日本は早晩、本格的なAIドリブン社会になる。そのため、AIネイティブ度の向上が急務」と切り出した。
データ量や種類が増え続ける時代では、人によるデータ処理は限界を迎え、AIや機械学習による自動処理が必然となるだけでなく、AIを使いこなす企業とそうでない企業との間に大きな格差が生じることになると警鐘を鳴らす。
野口氏は「企業はAIとの“共創力”を付け、“競争力”を確保することが重要」と話し、その取り組みとして経団連の「AI-Ready度」などのガイドラインを紹介、AIレベルを高めていくべきと語る。
そのためにはまず、AIによる「顧客体験変化」「企業内の変化」「従業員の変化」という3つの変化に対応することが求められるとする。
さらに、野口氏は「AIにも得意分野がある」とした上で、AIの8つの類型を紹介した。これは、人間の脳の機能に準じた「識別系AI」「予測系AI」「会話系AI」「実行系AI」と、人間との関わりにおける「人間代行型」「人間拡張型」の4×2のマトリックスに分類したものとなっている。講演では先進企業におけるそれぞれのAI活用例のほか、ZOZOTOWNタウンの「類似アイテム検索機能」、ZOZOUSEDの古着の買い取りの値付けなど、ZOZOグループにおけるAI活用例も紹介した。
さまざまなビジネスでの活用が有望視されているAIだが、「AIを推進するのは理系人材だけではない。AIを『つくる』能力だけでなく『使う』能力を磨くべき。そのためには企業独自のAI推進方針を定め実行することが重要」と野口氏は提起した。

NTTデータ経営研究所

かつてない大規模調査で見えた日本企業のDXに関する現状と成功要件

株式会社NTTデータ経営研究所 企業戦略事業本部長 兼 ビジネスストラテジーコンサルティングユニット長/パートナー 加藤 賢哉 氏

日本企業のデジタル化の取り組みを調査

米国では、アマゾン・ドット・コムにより既存の小売・流通事業者が淘汰される「アマゾン・エフェクト」がますます拡大している。それに対して、ウォルマートなどの大手小売りはネットとリアルの融合などのDXを加速させている。
「翻って日本企業では、経済産業省が『2025年までにDXに乗り出さなければ日本企業は生き残れない』という、いわゆる『2025年の崖』問題に言及した『DXレポート』(2018年9月)を公表し衝撃を与えた一方で、実際はまだDXは始まったばかり」と、NTTデータ経営研究所の加藤賢哉氏は概観する。
加藤氏は、同社が実施した「日本企業のデジタル化への取り組みに関するアンケート調査」の結果を紹介。日本企業のDXの現在の実態を示すとともに、そこから得られたDXの成功要件を示した。
調査は2019年7~8月に、国内の売上高100億円以上の大企業・中堅企業1万4,509社を対象に郵送依頼により行われた。有効回答数は694社(4.8%)で、「回答企業・回答者のプロフィールを見ると、幅広い業界からまんべんなく回答が得られたことが分かる」と、かつてない規模で行われた調査であることを加藤氏は話し、調査が実質的に、日本のDXの実態調査最新版であることをアピールした。

どのくらいの企業がDXに取り組んでいるのか

まず、DXの取り組み状況について「具体的に取り組んでいる」と回答した企業は全体の44.4%、「具体的に取り組んでいないが興味がある」と回答した企業は43.8%で、合わせて9割近くの企業が、DXへの意識の高さがうかがえることが分かった。
ただし、その内訳を規模別に見ると、売り上げ1,000億円以上の企業では78.7%がDXに取り組んでいる一方、売り上げ500億円未満の企業では34.5%となっている。また、業種・業界別で見ると、金融で69.2%、テレコム・メディアで65.9%の企業がDXに取り組んでいると回答した反面、小売りでは34.6%、商社・卸では30.1%にとどまっている。
加藤氏は「企業規模や業種・業界の違いによって、かなり温度差がある」と見る。

DXで「何を目的にどのような取り組み」をしているのか

DXに「具体的に取り組んでいる」と回答した44.4%の企業に対し、さらにその目的や対象を6つの分類で尋ねた。
具体的には「守り」のDXが「Operation/業務処理の効率化・省力化」「Process/業務プロセスの抜本的な改革・再設計」「Management/経営データ可視化によるスピード経営・的確な意志決定」の3つであり、「攻め」のDXが「Product・Service/既存の商品・サービスの高度化や提供価値向上」「Customer experience/顧客接点の抜本的改革」「Business Model/ビジネスモデルの抜本的改革」の3つである。
これらの目的・対象ごとのDXの取り組み状況について、「『守り』のDXのみに取り組む」と回答した企業は43%、「両方のDXに取り組む」と回答した企業は48%、「『攻め』のDXのみに取り組む」と回答した企業は6%となっている。
加藤氏は「日本の企業はまだ『守り』のDXが先行し、『攻め』のDXまで至っていないところがほとんど」と指摘した。

DXに向けどのような取り組みをしているのか

調査では、「DXへの取り組みの巻き込みレベル」「DX推進専門組織設置状況/CDO(Chief Digital Officer)設置状況」「DX推進キーマンのポジション(役職、所属部署)」などのDXの推進構造についても確認している。
興味深いのは、「DX推進予算の増減傾向(トレンド・投資意欲)」に関してだ。DX推進のための予算が「増加傾向」にあると回答した企業が54.9%と高くなっている一方で、「減少傾向」にあると回答した企業は1.6%にすぎない。
「IT予算が減少傾向にある中で、DXの推進予算は着実に増えており、多くの企業がDXを重視していることがうかがえる」と加藤氏は分析する。
では、DXへの取り組みは実際のところどうなっているのか。調査では、「Operation」「Process」「Management」の3つの「守り」のDXと、「Product・Service」「Customer experience」「Business Model」の3つの「攻め」のDX、それぞれについて進捗状況を尋ねている。

「Operation」については、「本格活用・展開段階」と回答した企業が27.3%と取り組みが進んでいるものの、「Business Model」では、「助走段階」と回答した企業が42.7%となっており、ここでも「守り」のDXが先行していることがうかがえた。
また、DXの取り組みについて「うまくいっていると思うか」と尋ねたところ、ポジティブ(「強くそう思う」「おおむねそう思う」の合計)にとらえている企業は41.9%だったが、ネガティブ(「そう思わない」「あまりそう思わない」の合計)にとらえている企業が49.7%と上回った。
講演では、DX推進の成功企業の定義として、「守りのDX」および「攻めのDX」と、「実践前段階」「実践段階」とのマトリックスを作成、それぞれの象限でどのような「Essential-KFS(満たさないと失敗する要件)」「Booster-KFS(プラスに働く要件)」があるのかが、調査結果の分析を基に示された。
加藤氏は「DXは一様ではありません。DXの方向性、テーマによって直面する壁が異なるため、そこをどう乗り越えるかを考える必要がある。日本企業の『攻め』のDXは緒に就いたばかり。企業の経営環境の先行きは不透明かつ不確実だが、必要以上に不安に思ったり焦ったりせず、前向きに取り組んでほしい」とエールを送り、NTTデータ経営研究所が実施した今回のデータから読み取れるDX推進の成功要件を、広く提供したいと語った。


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