「企業の事業継続に係る意識調査(第6回)」

コロナ禍においてBCPを発動した企業は2割にとどまる
~BCP策定率は初の減少に。「初動対応の多様化」「モノ・コト代替策の再検討」が課題~

株式会社NTTデータ経営研究所

株式会社NTT データ経営研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:柳 圭一郎)は、NTTコムオンライン・マーケティング・ソリューション株式会社(本社:東京都品川区、代表取締役社長:塚本 良江)が提供する「NTTコム リサーチ」登録モニターを対象に、「企業の事業継続に係る意識調査(第6回)」を2020年6月下旬から7月中旬にかけて実施しました。
本調査は、2011年7月に実施した「東日本大震災を受けた企業の事業継続に係る意識調査」(以下、第1回調査)から、過去計5回にかけて実施している継続調査です。企業の事業継続に対する取り組みや意識にどのような変化が生じたか、企業はBCPの運用・管理(BCM)について現在どのような課題認識を持っているかなどに関する調査を実施しました。今回の調査ではとくに、新型コロナウイルスの発生に伴い、BCPに対する意識がどのように変化したかに着目し、パンデミック発生前に策定したBCPがパンデミック発生後に想定通り機能したか、パンデミックに対応したBCP策定への今後の意向などについて調査を行いました。

調査ハイライト

BCP策定状況とその変化

BCPの策定状況について、前回の第5回調査(2018年)と比較し、BCP策定済み企業は減少しており、策定状況に後退が見られる。【図表A-1】

・・・参照P.9※1

  • BCPの策定状況について、第1回調査から今回の第6回調査までの回答結果を比較すると、東日本大震災後に実施した第2回調査ではBCP策定済み企業が25.8%から40.4%と大きく増加したものの、前回の第5回調査(2018年12月時点)から今回調査(2020年7月時点)にかけて、「策定済み」が43.5%から36.9%と6.6ポイント減少しており、企業のBCP策定状況が後退していることが分かる。
【図表A-1】 BCP策定状況の経年変化

業種別のBCP策定状況の推移について、業種毎に大きな違いが見られる。理由として、事業実施にあたって中心となる経営資源が、業種毎に異なっていることが影響していると考えられる。【図表A-2】

・・・参照P.12(従業員規模別、地域別、資本金別、年間売上高別に集計した結果はP.11~P.15に掲載)

  • 業種別のBCP策定状況について、前回の第5回調査(2018年12月時点)と今回の第6回調査(2020年7月時点)を比較すると、教育・医療・研究機関において、「策定済み」、「策定中」を合わせた割合が4.8ポイント増加している。
  • 公共機関では、「策定済み」、「策定中」を合わせた割合が5.9ポイント増加している。
  • 一方で、「策定済み」の回答割合の減少が見られた業種について、建設・土木・不動産では11.3ポイント、商業・流通・飲食では9.7ポイント、製造業では8.7ポイント、金融・保険では5.5ポイント、通信・メディア・情報サービス・その他サービス業では2.7ポイント減少しており、中でも特に、建設・土木・不動産、商業・流通・飲食、製造業で大きく減少していることが分かる。
  • 建設・土木・不動産、商業・流通・飲食、製造業において、特に大きな減少が見られた理由として、商品やサービスを提供するための経営資源が、施設や設備等のモノ中心(場所の依存性が高い)であることが影響していると思われる。新型コロナウイルスのパンデミック発生によって、これらの業種の従業員は店舗や工場に出勤できず、顧客に対して商品やサービスを提供できない状況が発生したと想定される。これらの業種では、過去にBCPを策定していたものの、商品やサービスを提供できない状況が発生したことで、過去に策定したBCPが十分に機能しないことが明らかとなった。過去に策定したBCPが事業継続に向けて十分に機能しないことを、企業自身が認識したため、過去調査と比較して「策定済み」の割合が減少したと推察される。
  • また、商品やサービスを提供する主体が従業員や職員自身であるため、経営資源がヒト中心となる教育・医療・研究機関、公共機関においては、サービスの提供手段をリモートにする等、代替策や対応策を比較的検討しやすかったと考えられる。なおかつ、新型コロナウイルスのパンデミック発生によって、BCPの効果が十分に発揮されたため、前回の第5回調査と比較して、今回の調査で「策定済み」の割合が減少しなかったと思われる。
【図表A-2】第5回調査(2018年12月時点)と今回調査(2020年7月時点)における、
企業のBCP策定状況の比較
<業種別>

BCP策定対象とその変化

BCPで想定するリスクの経年変化をみると、パンデミックを想定したBCP策定が急激に増加し、一転して増加傾向を示している。「地震(南海トラフ地震等の超広域地震)」の減少傾向、「地震以外の自然災害(風水害等)」の増加傾向について、依然として続いている。【図表A-3】

・・・参照P.18

  • BCPで想定するリスクの経年変化をみると、「ウイルスや病原菌等によるパンデミック」への想定は、第1回調査から前回の第5回調査(2018年12月時点)にかけて減少傾向にあったものの、今回の第6回調査(2020年7月時点)では回答割合が40.6%となっており、前回調査から14.2ポイント増加し、一転して増加傾向を示していることが分かる。新型コロナウイルスのパンデミック発生に伴い、BCPにおいてパンデミックを想定した企業が増加したものと考えられる。
  • 「地震(南海トラフ地震等の超広域地震)」を想定している企業は、前回調査(2018年12月時点)が62.6%、今回調査(2020年7月時点)が53.8%と前回調査から8.8ポイント減少しており、減少傾向が変わらず続いている。
  • 一方で、「地震以外の自然災害(風水害等)」を想定している企業は、今回調査(2020年7月時点)で54.5%と前回調査から0.5ポイント増加しており、依然として増加傾向を示している。
【図表A-3】 BCP(策定済み・策定中・策定予定あり)において想定しているリスクの経年変化

今回調査時点のBCPにおいてパンデミックを想定していなかった主たる理由として、世の中のBCPへの理解が十分に進んでいないことと、パンデミックに対する関心の希薄さが挙げられる。【図表A-4】

・・・参照P.19

  • 今回調査時点のBCPにおいてパンデミックを想定していなかった理由をみると、最も多かった回答が「BCPを「地震や自然災害時の対応」と認識していたため、BCPの検討対象にはパンデミックは含まれないと思っていた」であり約5割にも及ぶ。これに加えて、「BCPで地震や自然災害を想定していれば、他の様々なリスクにも幅広く対応できると考え、パンデミックにフォーカスし想定する必要性を感じていなかった」と回答した企業が2割存在する。これらのことから、世の中のBCPへの理解が十分に進んでいないことが、BCPにおいてパンデミックを想定していなかったことに大きく影響していると考えられる。
  • また、「BCPの想定リスク検討対象としてパンデミックが遡上に上がらなかった(パンデミックに関心がなかった)」(30.5%)が高く、パンデミックに対する企業の関心の希薄さが現れている。
【図表A-4】 今回調査時点のBCP(策定済み・策定中・策定予定あり)において
パンデミックを想定していなかった理由(n=364)

BCP策定対象とその変化

今回調査時点の企業の事業継続に向けた取り組みに関して、取り組み内容ごとに策定有無を尋ねたところ、初期段階での対策は多くの企業で策定されているものの、自社リソース復旧や外部連携についての策定割合が低く、応急・復旧段階での対策が進んでいない状況であった。このことから、策定されたBCPは、地震をはじめとする突発性災害に対する防災対策の観点から主に考慮されており、パンデミックをはじめとする進行性災害に対する事業継続という観点からは十分に考慮されていないと考えられる。【図表A-5】

・・・参照P.23(業種別、従業員規模別に集計した結果はP.24~P.25に掲載)

  • 今回調査時点の企業の事業継続に向けた取り組み(対策)に関して、BCP策定状況別に、取り組み(対策)内容ごとに策定有無を尋ねたところ(複数回答)、「初期段階の対策」に関わる「災害・事故・パンデミック等発生時の体制設置」や「被災・被害・罹患状況の確認・連絡手順の策定」、「従業員・職員への退社・出勤等の判断指針」は高い割合で策定されている。
  • また、「BCP策定済み」の企業をみると、「自社リソース復旧」や「外部連携」に関する項目の回答割合が低い状況にある。BCPを「策定済み」と回答した企業においても、BCPにおける取り組みが防災対策の水準に留まっており、「自社リソース復旧」や「外部連携」といった「応急・復旧段階での対策」が進んでいないことが分かる。
  • 「初期段階の対策」の回答割合が高い一方で、「応急・復旧段階での対策」の回答割合が低いことから、策定されたBCPは、地震をはじめとする突発性災害に対する防災対策の観点から主に検討されており、パンデミックをはじめとする進行性災害に対する事業継続という観点からは十分に検討されていないと考えられる。

自社リソース復旧に着目すると、コト対策にあたる「自社の商品やサービスの提供方法についての代替策の用意」が最も低い。次いで、ヒト対策にあたる「人的リソース(従業員・職員等)についての代替策の用意」、モノ対策にあたる「自社経営資源(情報システム等含む)についての復旧手順・代替策の用意」の順に低いことが読み取れる。【図表A-5】

・・・参照P.23(業種別、従業員規模別に集計した結果はP.24~P.25に掲載)

  • 「自社リソース復旧」に着目すると、全体において、コト対策にあたる「自社の商品やサービスの提供方法についての代替策の用意」が17.3%と最も低く、「自社リソース復旧」において、コト対策が最も遅れていることが分かる。
  • 次いで、ヒト対策にあたる「人的リソース(従業員・職員等)についての代替策の用意」(21.4%)、モノ対策にあたる「自社経営資源(情報システム等含む)についての復旧手順・代替策の用意」(24.3%)の順に低いことが読み取れる。
【図表A-5】今回調査時点の企業の事業継続に向けた取り組み(対策)別策定有無(n=889)
<BCP策定状況別>

今回調査時点の企業の事業継続に向けた取り組みに関して、業種別に、取り組み内容ごとに策定有無を尋ねたところ、「初期段階での対策」は比較的進んでいるのに対して、「応急・復旧段階での対策」は遅れている。【図表A-6】

・・・参照P.24(BCP策定状況別、従業員規模別に集計した結果はP.23,P.25に掲載)

  • 今回調査時点の企業の事業継続に向けた取り組み(対策)に関して、業種別に、取り組み(対策)内容ごとに策定有無を尋ねたところ(複数回答)、BCP策定状況別に見た時と同様に、いずれの業種においても、「初期段階での対策」は比較的進んでいるのに対し、「応急・復旧段階での対策」は遅れている状況にある。

取り組みが遅れている「応急・復旧段階の対策」の中でも、とりわけコト対策にあたる「自社の商品やサービスの提供方法についての代替策の用意」において、建設・土木・不動産、教育・医療・研究機関、製造業で、取り組みが進んでいない状況にある。【図表A-6】

・・・参照P.24(BCP策定状況別、従業員規模別に集計した結果はP.23,P.25に掲載)

  • 「応急・復旧段階の対策」の中でも、とりわけコト対策にあたる「自社の商品やサービスの提供方法についての代替策の用意」において、業種別に特徴が見られる。
  • 商業・流通・飲食と比較して、建設・土木・不動産、教育・医療・研究機関、製造業において、コト対策の取り組みが進んでいない状況にある。この理由として、商業・流通・飲食は商品やサービスの提供方法に関する代替策として、デリバリー等を検討しやすかったと推察される。
  • これに対して、建設・土木・不動産、製造業と教育・医療・研究機関は、商品やサービスの提供において場所の制約を大きく受けるため、対策を立てようにも立てられない状況にあったと思われる。
【図表A-6】今回調査時点の企業の事業継続に向けた取り組み(対策)別策定有無(n=889)
<業種別>

策定したBCPのパンデミック発生後における実効性とBCPが機能しない要因

期間毎の企業における業務形態を尋ねたところ、半数程度の企業が、全国の小学校、中学校、高校での臨時休校が実施された2020年3月2日~2020年4月6日時点で「在宅勤務」、または「時差出社(シフト出社も含む)」に移行しており、臨時休校の実施以前と比較して、「在宅勤務」は約3倍、「時差出社(シフト出社も含む)」は約2倍の増加が見られる。【図表A-7】

・・・参照P.38(地域別、業種別、従業員規模別に集計した結果はP.41~P.42に掲載)

  • BCP策定済みの回答者(n=328)に対し、2020年2月1日~2020年3月1日から2020年6月12日~現時点等の各期間での基本的な業務形態について尋ねたところ、2020年2月1日~2020年3月1日時点で「在宅勤務」が7.6%、「時差出社(シフト出社も含む)」が12.8%となり、「在宅勤務」と「時差出社(シフト出社も含む)」を合わせた割合が20.4%であった。
  • その後、全国の小学校、中学校、高校での臨時休校が実施された2020年3月2日~2020年4月6日時点で「在宅勤務」が21.6%、「時差出社(シフト出社も含む)」が23.8%に増加し、臨時休校の実施以前と比較して、「在宅勤務」が約3倍、「時差出社(シフト出社も含む)」が約2倍の増加が見られる。
  • 「在宅勤務」と「時差出社(シフト出社も含む)」を合わせた割合は45.4%となり、2020年2月1日~2020年3月1日時点と比較して2倍以上増加し、全体の5割弱が臨時休校の実施以降の時点で、既に「在宅勤務」や「時差出社(シフト出社も含む)」に移行していたことが分かる。

政府が緊急事態宣言発令対象を全国に拡大した2020年4月16日~2020年5月6日時点で、「在宅勤務」の割合がピークに達し、以降は減少傾向に転じた。その後、2020年6月12日(東京都が東京アラートを解除した翌日)から調査実施時点においてはピーク時の半分程度に減少している。【図表A-7】

・・・参照P.38 (地域別、業種別、従業員規模別に集計した結果はP.41~P.42に掲載)

  • 政府が緊急事態宣言発令対象を全国に拡大した2020年4月16日~2020年5月6日時点で、「在宅勤務」が55.2%とピークに達し、これ以降は「在宅勤務」の割合が減少している。
  • 2020年6月12日(東京都が東京アラートを解除した翌日)から調査実施時点(2020年6月26日~2020年7月13日)においては、「在宅勤務」の割合が28.4%と2020年4月16日~2020年5月6日のピーク時と比較して、半分程度にまで減少している。
【図表A-7】 BCP策定済みの回答者に対し「2020年2月1日~2020年3月1日」から
「2020年6月12日~調査実施時点」の各期間での基本的な業務形態(n=328)

今回の新型コロナウイルスのパンデミック対応において、BCPを発動した企業は約2割に留まった。【図表A-8】

・・・参照P.43(業種別、従業員規模別に集計した結果はP.44に掲載)

  • BCP策定済みの回答者(n=328)に対し、新型コロナウイルスのパンデミックの対応で、BCPは発動したかを尋ねたところ、「発動した」の回答者が22.9%に留まり、「BCPは発動しなかったが、何らかの緊急時対応が会社から発せられた」の回答者の割合が62.5%と最も高い状況であった。
【図表A-8】 BCP策定済みの回答者に対し、新型コロナウイルスのパンデミックの対応での
BCPの発動有無(n=328)

パンデミック対応における今後のBCP策定の意向

パンデミックに対応したBCPの策定を今後検討するかを尋ねたところ、BCPを策定済みの回答者では、約4割の企業が「既に検討している」と回答し、「既に検討している」と「検討する予定」を合わせると約8割程度となった。【図表A-9】

・・・参照P.50(従業員規模別、業種別、地域別、資本金別、年間売上高別に集計した結果はP.51に掲載)

  • BCPを策定済み/策定中/策定予定ありの回答者(n=613)に対し、パンデミックに対応したBCPの策定を今後検討するかを尋ねたところ、BCPを策定済みの回答者(n=328)では、約4割の企業が「既に検討している」と回答し、「既に検討している」と「検討する予定」を合わせると約8割程度となった。
  • 一方、策定中の回答者(n=187)では「既に検討している」(27.3%)、「検討する予定」(62.0%)で、策定予定ありの回答者(n=98)では「既に検討している」(3.1%)と「検討する予定」(73.5%)と、「検討する予定」の割合の方が多かった。
【図表A-9】 BCPを「策定済み」/「策定中」/「策定予定あり」の回答者に対し、
パンデミックに対応したBCPの策定を今後検討するか(n=613)

パンデミックに対応したBCPを今後策定する上でのポイントとして、特に「初期段階での対策」と「復旧方針」にあてはまる内容を挙げる企業が多く存在する。また、「自社リソース復旧」において、ヒト対策や二次被害を防止する経営資源の配備を検討している企業が比較的多い。【図表A-10】

・・・参照P.52

  • パンデミックに対応したBCPの策定を今後検討するかで「既に検討している」/「検討する予定」の回答者(n=495)に対し、パンデミックに対応したBCPを今後策定する上でのポイントを尋ねたところ、全体的に「初期段階での対策」や「復旧方針」に当てはまる内容の回答割合が高く、「自社リソース復旧」や「外部連携」に関する内容の回答割合が低い結果となった。
  • また、「自社リソース復旧」に関する項目において、「人的リソース(従業員・職員等)についての代替策の用意」と「二次被害・被害拡大防止リソース(防災グッズ・マスク・消毒液等)の用意」の回答割合が高く、企業のヒト対策や二次被害を防止する経営資源の配備を検討している企業が比較的多いことが分かった。
【図表A-10】 パンデミックに対応したBCPの策定を今後検討するかで「既に検討している」/「検討する予定」
の回答者に対し、パンデミックに対応したBCPを今後策定する上でのポイント(n=495)

※1 参照の記載は、調査概要の該当するページを示す。

調査概要

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株式会社NTTデータ経営研究所
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E-mail : webmaster@nttdata-strategy.com

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マネージングイノベーションユニット
森脇 大/白橋 賢太朗
Tel:03-5213-4130

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