「第3回 再生医療に関する社会意識調査」
移植医療・闘病エピソードの想起で、細胞提供(ドナー)への協力意識が30%の大幅増加
~提供促進のためには再生医療に関連するストーリー発信がカギ~

株式会社NTTデータ経営研究所

株式会社NTTデータ経営研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:川島祐治 以下当社) はNTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社(本社:東京都品川区、代表取締役社長:塚本良江)が提供する「NTTコム リサーチ」登録モニターを対象に、例年と同様に「再生医療への細胞提供に関する社会意識調査」を実施しました。
2013年の再生医療関連諸法の公布以降、新たに再生医療等製品が薬事承認を取得するなど産業化に向けた動きは加速しています。再生医療は、自らの細胞を治療に用いる自家細胞を用いた治療と、自分以外の方の細胞を治療に用いる他家細胞を用いた治療に大きく分類されます。患者自身の細胞を使う自家細胞製品に比較し、あらかじめ準備可能な他人の細胞を用いた他家細胞製品が産業化の観点からは有利であると言われています。海外では他家細胞製品の研究開発が進んでいる一方で、わが国では他家細胞製品の承認件数は未だ1件にとどまっており、今後の他家細胞製品の実用化が課題となります。他家細胞製品の実現には、原料となるヒト細胞の国内における安定的な供給体制が必須となり、安定的なヒト細胞供給を実現するための細胞提供者(ドナー)をいかに確保するのかについて、下記の論点についての調査を実施しました。

  • 再生医療や細胞の提供に関する個人の意識はどうか(細胞を提供したいと思うかどうか)
  • 細胞提供の意識が高い個人はどのような特徴をもっているのか(細胞の提供に協力的なのはどのような層か)
  • 個人が細胞を提供する上での条件および細胞の提供を促進していくための課題は何か

本調査では、再生医療を用いた治療に60%程度の回答者が自身の細胞を提供しても良いと答え、例年と同程度の好意的な回答が得られました。今回の調査では、細胞提供に好意的な層の特徴について詳細を分析した結果、移植医療について思い当たるエピソードがある層、再生医療の用語への知識が深い層では、より細胞提供に協力的であることが新たに判明しました。エピソードとしては、小説やドラマでも細胞提供の協力度と相関があり、有名人の闘病、治療費の寄付、ボランティアではさらに強い相関が見られました。最近、有名人に関するニュースを契機として骨髄バンク登録が急激に増える現象や、COVID-19拡大防止のための自粛意識が急速に高まる事象が見られており、本調査でも類似の意識付けが示唆されました。
また、細胞の提供に消極的となる大きな理由として、「個人情報の漏洩に対する不安」があることが確認され、個人情報に対する不安を払拭することが、細胞の提供を促進するために重要であることが分かりました。
細胞提供の協力をさらに促すためには、有名人、寄付、ボランティア、ドラマ、小説による具体的なストーリー発信、および、個人情報の適切な取り扱いを啓発することで、一般市民の再生医療に対する理解と協力を向上させることができることが示唆されました。
 
国が取り組む再生医療の研究開発の推進に加えて、再生医療とその原料となる細胞提供についての社会的受容性を高める取り組みが必要となり、当社では本調査の結果を踏まえた議論を続けていきます。

【背景と調査の視点】

再生医療においては、2013年に再生医療推進基本法や再生医療安全性確保法などが国会で成立し、また薬事法の改正によって条件付きの早期承認制度などが設けられるなど、再生医療の早期の治療応用に向けた環境整備が進められています。実際に新制度を活用した製品が5製品(うち1製品は遺伝子治療用製品)上市されたほか、治験や臨床研究の実施件数も増加傾向にありますが、一方で産業全体への波及効果が期待される他家細胞製品の承認数は1件であり、研究段階のパイプラインを見ても限定的です。このため、現状では他家細胞製品の実用化に取り組む個々の企業が海外から細胞を調達するか個別に協力者を探索している状態で、公的にアクセス可能な産業用細胞バンクや臓器や骨髄ドナーのように協力者をプールし、細胞を安定的に提供する仕組みなどは実現していません。

 

他家細胞製品については、特に製造段階で安定的にヒト細胞が供給されることが必要ですが、細胞の採取方法や活用方法に対する情報不足から来る不安感、倫理的な取り扱いの難しさ、個人情報保護上の課題、適切な費用構造構築の困難さといった観点において国民の理解が得られにくいと考えられていました。

 

国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の2013年度戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発センター)プロジェクト調査によると、細胞提供者(ドナー)へのアプローチについて詳細な調査が実施され、リビングドナーへの侵襲的組織採取、通常は廃棄される組織の有効活用、デッドドナーの献体組織の活用について実施機関とその役割の可能性が示されています。この調査結果を受け、研究・産業の両面において公的にアクセス可能な仕組み作りに着目し、実務的な課題について経済産業省や国立研究開発法人日本医療研究開発機構を中心に複数の調査・検討が実施されてきました。

 

国民の受容性や協力の在り方についても同様に現状を確認しつつ、状況に応じて協力可能性を高めるための方策を検討する必要があり、本調査においては細胞提供者(ドナー)側の受容性について調査しました。

 

本調査は2016年より当社にて継続実施している「再生医療に関する社会意識調査」1の第3回です。

【主な調査結果】

  1. 例年と同様、再生医療に対して概ね好意的な反応が確認された
    • 再生医療の単語としての認知度は84.0%であり、2017年度の調査の82.1%よりわずかに増加していた。
    • 再生医療治療を選択する可能性は70%程度であり、2017年度の調査と同様の傾向であった。
    • 再生医療を実施するための細胞を提供できる人は全体の60%程度であった。ただし、研究目的で細胞を使用する場合、提供できる人は全体の60%を下回っており、2017年度の調査と比べて減少傾向にあった。
  2. 再生医療治療を受けることに対して好意的な層の特徴は、献血経験があること、重病の経験があること、乳歯や抜歯した歯など身体の一部を保管していることであり、その傾向は2017年度の調査と同様であった
    • 複数回献血した経験がある場合、献血した経験が無い回答者に比べ20%程度多くの回答者が再生医療治療を受けたいという回答が得られ、2017年度の調査と同様の傾向であった。
    • 自分や家族が重病にかかった経験がある場合、無い場合に比べて20%程度多くの回答者が再生医療治療を受けたいという回答が得られ、2017年度の調査と同様の傾向であった。
    • 身体の一部を保管している場合、保管していない場合に比べて20%程度多くの回答者が再生医療治療を受けたいという回答が得られ、2017年度の調査と同様の傾向であった。
  3. 再生医療実施のための細胞提供に対して協力的な層の特徴として、移植医療に関連するエピソードがある、再生医療の用語知識がある、ということが新たに明らかになった。また、これらの特徴は、献血経験、重病の経験、身体の一部の保管と比べ、細胞提供の協力度に強い親和性を示すことが示唆された
    • 細胞を提供してもよい理由として、治療目的では「病気で困っている人を助けたい」という回答が最も多く、研究目的では「日本の再生医療に期待している」という回答が最も多かった。
    • 移植医療のエピソードが思い当たる場合、思い当たらない場合に比べて30%多くの回答者が細胞を提供可能という回答が得られた。自身にとって具体性の強いエピソードであるほど、細胞提供に協力的であった。
    • 「再生医療」の用語への知識が深い場合、知識が浅い場合に比べて30%多くの回答者が細胞を提供可能という回答が得られた。細胞提供が治療目的の場合も、研究目的の場合も傾向は変わらなかった。
    • 複数回の献血経験がある場合、献血経験が無い場合に比べて20%程度多くの回答者が治療目的で細胞を提供可能という回答が得られた。研究目的の場合、30%程度多くの回答者が提供に協力的であった。
    • 重病にかかった経験がある場合、重病にかかった経験が無い場合に比べて20%程度多くの回答者が細胞を提供可能という回答が得られた。治療目的の場合も、研究目的の場合も傾向は変わらなかった。
    • 身体の一部を保管している場合、全く保管していない場合に比べて10%程度多くの回答者が細胞を提供可能という回答が得られた。治療目的の場合も、研究目的の場合も傾向は変わらなかった。
    • 移植医療に関するエピソードおよび再生医療に関する用語への知識は、献血の経験、重病の経験、身体の一部の保管と比べ、細胞提供の協力度に強い親和性を示す可能性が示唆された。
  4. 細胞提供に協力できない大きな理由として、「個人情報の漏洩が不安」があることが確認された。また、「提供時の訪問の煩わしさ」、「侵襲性」、「提供した細胞の他人利用」が意思決定に影響を及ぼすことが改めて確認された
    • 細胞を提供したくない理由として、治療目的では「積極的に提供する理由やメリットが無いから」という回答が最も多く、研究目的では「個人情報が漏洩してしまわないか不安に感じるから」という回答が最も多かった。
    • 細胞を提供する際の条件として、1)わざわざ医療機関などを訪問する必要があること、2)細胞を採取する際に侵襲性を伴うこと、3)採取した細胞が全て他人が使用してしまうことがどの程度細胞提供の意思決定に影響を及ぼすのか尋ねたところ、採取にあたって1)わざわざ訪問をする必要があることが最も影響を及ぼすという回答が得られ、2017年度の調査と同様の傾向であった。
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