企業におけるデータ活用の取り組み動向調査
~「データ活用人材やリソースの調達・増強」 その3割が“効果なし”~

株式会社NTTデータ経営研究所

株式会社NTTデータ経営研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:川島祐治、以下 当社)は、NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社(本社:東京都品川区、代表取締役社長:塚本良江)が提供する「NTTコム リサーチ」登録モニターを対象に、「企業におけるデータ活用の取り組み動向調査」(以下 本調査)を実施しました。
昨今、ビジネスにおけるデータ活用が一般化し、多くの企業で試行実施から本格的な展開を含めた取り組みを加速させていると同時に、様々な方法論やツール等に関する情報に触れる機会が増えています。しかし、データ分析・活用の手法や技術的なツール類の情報は氾濫する一方で、既存のビジネス(事業・業務・人材等)とかけ離れた一時的な取り組みに終始し、データ活用が成熟化・定着化まで行きつかない実例も少なくありません。
そのような状況を踏まえ、今回当社では、データ活用に取り組む企業の概況、および直面している課題とそれらへの対応策に関する本調査を実施しました。

 結果として、昨今のデータ活用では、「企画系部門による”攻め”領域を目的」とした取り組みが活発であることがわかりました。また、データ活用の取り組みではその特性上、分析手法やITなどの技術面だけではない、“戦略・計画・管理”、“業務プロセス”、“人材・スキル”、“企業文化”など、複合的な障壁に各企業が直面していることが明らかとなりました。
同様に、それらの課題に対する「対応策」としても、万能的な処方箋と言えるものは無く、一般的に取られがちな「データ活用人材の専任化や、社内外からの調達(異動・採用・外部他委託)」について、回答者の約3割が“効果なし”と回答したことからも伺えます。
本調査を通じ、自社の内部・外部環境やデータ活用の成熟レベルなどに応じた、多面的な打ち手の必要性が見受けられました。

【調査結果サマリー】

1 企業におけるデータ活用の全体概況

1―1 データ活用の目的

本調査では、企業におけるデータ活用を、「社内外のデータを加工・整形・分析し、現状を可視化または未来を予測すること」として定義した。また、データ活用の目的分類として、総務省による調査(*1)を元に、図1の分類を設定した。

図1:データ活用の目的分類

図2:業界分類ごとのデータ活用の取り組みの目的(複数回答)

企業でのデータ活用の取り組みの目的を、全体および業界分類(*2)ごとの回答結果として図2に示す(複数回答)。
全体傾向として、「経営戦略や事業計画の策定(回答率14%)」「顧客や市場の調査・分析(同、16%)」「商品やサービスの検討・改善(同、15%)」など、対外的な競争優位の構築に関連するいわゆる”攻め”の領域が上位を占めた。ビジネスにおける”攻めのデータ活用”がメディア等でのトピックスとなることが増えて久しいが、実態としても”攻め”を目的とした取り組みが活発であることが伺える。
また、業種分類別で見ると、「業務プロセスの効率化・品質向上」の割合が、製造業(同、15%)、物流・卸売業(同、14%)、金融業(同、16%)で高く、製造業では上記に加え、「生産・在庫・物流等の最適化(同、14%)」の割合が他業種に比較して高いなど、これらの業種では、“守り”領域のデータ活用にも注力していると考えられる。

1―2 データ活用の主幹部門

図3:データ活用の主幹部門(データ活用の目的別:複数回答)

企業におけるデータ活用の取り組みの主幹部門(*3)について、目的別の回答結果が図3である(複数回答)。
全体傾向としては、経営企画、事業企画、営業企画などの「企画系部門」が上位を占める結果(回答率28%)となった。ただし、データ活用の目的が、経営管理手法や内部統制、業務プロセス関連などのいわゆる”守り”領域のものにおいては、上記に加えて総務等の「管理系部門」や、「社内情報システム部門」が主幹するという回答割合も高かった。一方、営業、顧客サポート等の「顧客応対系部門」がデータ活用を主幹することは比較的少ない傾向にあることがわかった。

1―3 データ活用に用いるデータの種類

図4:データ活用に用いるデータの種類(業種分類別:単一回答)

続いて図4は、各社のデータ活用において最も活用するデータの種類に関する回答結果である。(単一回答)
全体傾向として、「顧客データ(回答率21%)」「財務・経理データ(同、14%)」を用いる企業が多い結果となった。その他、製造業において「製品データ(研究開発・品質記録等)(同、18%)」、物流・卸売業において「購買データ(同、17%)」、情報通信業において「各種ログデータ(システムログ等)(同、15%)」を用いる傾向が見られるなど、各業種特有のデータ種類を活用する取り組みを進めているものと推察する。

1―4 データ活用に用いる分析手法

図5:データ活用に用いる手法(業種分類別:単一回答)

同様に図5として、各社のデータ活用において、最も活用する手法について尋ねた。(単一回答)
全体傾向として、「Excel等の表計算ソフト」を用いたデータ活用の割合が最も高い結果(回答率25%)となった。統計分析やプログラミング・機械学習などの高度な手法や、BA(Business Analytics)やBI(Business Intelligence)をはじめとした分析ツールの活用は、未だ一部の先進的な企業や施策に限られており、全体としては簡易的な手法でのデータ活用を試行錯誤している傾向が伺える。
一方、業種分類別に相対比較すると、製造業と金融業において「高度な統計分析」と「機械学習等」が、情報通信業において「プログラミング言語」が手法として用いられる傾向があり、これらの業種は他業種よりも分析の高度化が進んでいるものと思われる。また、物流・卸売業では「外部業者への業務委託」と「社内データベースやCRMツール」を活用する傾向が他業種より強いことがわかった。

ここまで、企業におけるデータ活用の全体概況を見てきた。ここからは、それらの企業がデータ活用の取り組みの中で、具体的にどのような課題に直面しており、どのような対応策を取っているのかを見ていきたい。

2 課題と対応策

2-1 データ活用における課題

企業がデータ活用の取り組みで抱える課題について、“戦略・計画・管理”、“業務プロセス”、“人材・スキル”、“システム・データ”、“企業文化”の5つのカテゴリごとに回答を得たところ、目的別・業種別での大きな傾向差は見られなかった。大局的には、各社とも同様の課題感を抱えている傾向が強いものと推察する。

図6:データ活用における「課題」 回答率上位15項目(全38項目中:複数回答)

上記図6(複数回答)がデータ活用における課題として、回答率上位15項目の一覧である。全体傾向として、「データ活用が業務として定着しない(1位)」・「スキル・経験の属人化(4位)」・「本業の多忙(5位)」などの業務プロセスや、「ビジネス面・データサイエンスのスキル不足(2,3位)」など人材・スキルに関する現場レベルの課題が上位を占めた。一方、6位以降は「取り組みの評価手法、目標指標、目的が不明確(6,7,9位)」などの戦略・計画・管理や、「上層部や現場がデータ活用の意義を理解しない(10,14位)」など企業文化に関する、部門全体や全社レベルの課題も複数含まれる。
一般的に“データ活用”のテーマでは、分析手法・ツールやデータの取得・管理・加工などに焦点が当たることが多いが、上記の回答結果を見ても、データ活用における障壁は技術的な観点以外の複合的な要素が絡む傾向にあると言える。

例えば、小売業における営業企画部門が、店舗の販売傾向に基づく顧客戦略立案のためにデータ活用に取り組むようなケースでは、初期のトライアルにおいて、どのような販売結果や数値で検証を成立させるべきかや、限られたリソースの中で既存業務とデータ活用に関わる業務をどう両立させるかといった点で苦心することが多いだろう。また、実施後の社内関係部署・上層部への説明や、本格展開に向けた承認プロセスでは、既存の顧客戦略・店舗運営計画との整合性の確保や、上層部・現場にデータ活用の必要性・重要性を理解してもらうことが障壁となるかもしれない。同様に、本格展開の着手までこぎ着けたとしても、既存の店舗オペレーションやシステムにデータの抽出・連携をどう組み込むべきか、データ活用の企画や分析を恒常的に回すためにはどう人材・スキルを確保するかなど、担当者の頭を悩ませる要素は無数に存在する。本来の目的である、顧客戦略や販売戦略の高度化のためのデータ活用の定着には、ビジネスにおける複合的な障壁を理解したうえで取り組んでいく必要がある。

2-2 課題に対する対応策

図7:課題に対する「対応策」 “効果あり”の回答率上位20項目(全41項目中:複数回答)

課題に対する対応策として、「実施しており、効果がある」の回答率上位20項目を1位から降順で集計した(図7:複数回答)。併せて、各対応策の「効果あり」、「効果なし」、「実施しているが効果は不明」の回答割合をグラフ化している。

留意すべき点としては、図7は「効果あり」の上位であるものの、一部、「効果なし」の回答割合が高い項目も含まれる点である(図7内、太字部分)。
戦略・計画・管理では、「上層部(トップマネジメントレベル)による方針決定(2位)」で、「効果なし」の回答割合が高い。同様に、業務プロセスでは「データ活用担当者の専任化(3位)」や「データ活用での外部リソース活用(7位)」において、人材・スキルでは「社内外からのデータ活用人材の異動・採用・アサイン比率見直し(9,10,20位)」において、システム・データでは「データ項目の再定義・入力や管理のルール整備(8位)」や「取得範囲拡大によるデータ量増大(12位)」において、「効果なし」の回答割合が高かった。
上記の項目は、“一見、効果が高そうに思えるが、実施した場合に躓きやすい対応策”とも言える。特に着目すべきは、データ活用業務におけるスキル・リソースの補完を狙って多くの企業で実施されているであろう、「データ活用人材の専任化や、社内外からの調達(異動・採用・外部他委託)」について、回答者の3割前後が「効果なし」と回答している点である。

前節の「データ活用における課題」で、データ活用における障壁は複合的な要素が絡む傾向にある点に触れた。それらの課題への対応策として、「効果あり」の回答率が過半数を超えるいわゆる“万能処方箋”と言えるようなものは無い回答結果となった(「効果あり」回答率1位の項目でも30%に過ぎない)。

なお、図7に示す通り、「現場の主幹/コンプライアンス/情報システム部門による方針決定や調整・整備」や、「社内外の研修等を用いたデータ活用スキルの強化」、「データ活用の定常業務化を狙った、業務プロセス設計」等の対応策は、比較的にではあるが、実施時の効果が出やすいものと推察する。

3 全体考察

今回の調査結果として、「全体概況」の面で、企業における昨今のデータ活用では、「企画系部門による”攻め”領域を目的」とした取り組みが活発であることが明らかになった。データ種類として主に「顧客・財務・経理データ」を対象に、「Excel等での基礎的なデータ分析・活用手法」が用いられる傾向が強い。
一方、上記に加えて、製造業、物流・卸売業、金融業等の一部業種では、業務プロセスの効率化や生産・在庫・物流の最適化などの“守り”の目的も含めて、各業種特有のデータ(製造業での製品データ、物流業での購買データ等)を、統計分析・機械学習・ツール類などの比較的高度な手法で活用する傾向にあることがわかった。

「データ活用における課題」としては、分析手法やITなどの技術面だけではない、“戦略・計画・管理”、“業務プロセス”、“人材・スキル”、“システム・データ”、“企業文化”など、障壁として複合要素が絡む傾向にあることが見えた。
また、それらの課題に対する「対応策」としても同様に、万能的な処方箋と言えるものは無く、自社の内部・外部環境やデータ活用の成熟レベルなどに応じた、多面的な打ち手が必要となる。それは、一般的に取られがちな打ち手のひとつである、「データ活用人材の専任化や、社内外からの調達(異動・採用・外部他委託)」について、回答者の約3割が「効果なし」と回答していることからも伺える。

具体的な打ち手としては、取り組みの目的・活用するデータ・手法や、企業の規模・組織構造・文化・データ活用の成熟度などによって、留意すべき障壁とその解消策は異なってくることが想定できる。今回の調査ではそれらパターン分類ごとの課題解決策(ソリューション)までは踏み込まなかったが、今後の調査分析レポートやコンサルティング実務において、各企業でのデータ活用の進化に寄与する考察を深めていきたい。

  • 参考:総務省「ビッグデータの流通量の推計及びビッグデータの活用実態に関する調査研究」(平成27年)
    https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/linkdata/h27_03_houkoku.pdf
  • 「サービス業」には、「商業(小売)」「宿泊・旅行」「娯楽」「飲食サービス」「医療・福祉」「教育・学習支援」
    「人材派遣・紹介」が含まれる。
    その他のサービス業は「その他サービス業」として回答・集計。
  • 「企画系部門」… 経営企画、事業企画、営業企画、マーケティング・商品サービス企画 等
    「顧客応対系部門」… 営業(外販)、販売(店舗・事業所内)、顧客サポート 等
    「管理系部門」… 総務、人事、法務、経理・財務、購買・調達、広報・IR 等
    「製造・研究開発部門」… R&D、生産・製造、工事・施工 等
調査概要

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株式会社NTTデータ経営研究所
コーポレート統括本部 業務基盤部
広報担当
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