2018.06.05 
          リアルタイム心理計測と機械学習による個人のワーク・エンゲイジメント向上要因を推定する技術を開発~「成長機会」や「裁量」など、一人ひとりのやる気向上要因を推定。組織の生産性向上に貢献~ 
          株式会社NTTデータ経営研究所
         
        
          株式会社NTTデータ経営研究所(以下:NTTデータ経営研究所)は、ワーク・エンゲイジメント向上要因を評価するプロトコル開発の実証実験に取り組み、働く意欲を上下する一人ひとりの要因推定に成功しました。※ といった実感や、「職場の温湿度環境」といった外部要因により変化することが示されました。
          ※仕事の資源に関する先行研究における「成長機会(Growth Opportunities)」成分の中で寄与の高い「上司からの評価」項目を実験で使用。
         
        
          背景・活動の経緯 
          いまや人口の3人に1人が高齢者という時代になり、少子高齢化が深刻化しています。それにともなって労働力人口も減少の一途をたどっています。こういった人口構造の変化を受け、企業には従業員の離職を防ぎ、労働力を確保することが求められています。※1,2 。※3 。これは、長期雇用によって従業員の作業効果が上昇し(=経験曲線効果)、ほかの企業に対して優位性を高めることが期待できたからです。しかし、離職率が上がり雇用の流動性が高くなると経験曲線効果を期待することができず、結果として企業の収益性を下げる可能性があります※4 。また、企業には、従業員の離職にともなって新たな人材確保費用と人材教育費用がかかる等、コスト面のデメリットも大きいことが指摘されます。※5 。
          
            ワーク・エンゲイジメントの定義※6,7  
            「活力」「熱意」「没頭」によって特徴付けられる、仕事に関連するポジティブで充実した精神状態のことである。
            
               
           
          
            ワーク・エンゲイジメントを高めることの効果※8,9,10  
            個人、企業ともにパフォーマンスに相関があることが明らかになっている。
            
               
            ※上図の収益性当のデータは、エンゲイジメントの高い上位25%と下位25%の企業の2グループの平均を比較し、算出している。
           
          
            こうしたワーク・エンゲイジメントへの注目が高まる一方で、これまで調べられてきたのは単一時点かつ個人間で共通の要因についてであり、日々のエンゲイジメントの変化要因やその個人差については明らかにされていませんでした。これらの課題は、実際の職場で日々の変容や個人差に対応した適切な介入などを目指していく上で大きな障壁になると考えられます。また、直接的に「あなたはどのような理由で仕事へのエンゲイジメントが上がると思いますか?」と聞く様な手法では、そもそも回答が難しく、本人の無自覚的な要因については評価できないという問題があります。
           
         
        
          実証実験における役割 
          
            
              
                企画・実験・解析 
                NTTデータ経営研究所 
               
              
                研究助言 
                島津 明人教授(北里大学 一般教育部人間科学教育センター) 
               
             
          
         
        
          概要(特長) 
          
          
            参加者 
            35名(大手サービス業とNTTデータ経営研究所の従業員)
           
          
            内容 
            実験期間中、平日の出勤時、昼休憩、退勤時(さらに月曜日のみ朝)に、実験参加者のスマートフォン経由で、リアルタイム心理質問尺度(現在のワーク・エンゲイジメントの強度と、仕事の状況、対人関係、プライベートの状況等)に回答してもらいました。また、ワーク・エンゲイジメントが変化したタイミングでも回答させました。
            
              図1:心理状態取得方法 
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            取得情報 
            ワーク・エンゲイジメントの指標として、以下の3項目を取得し、それらの加算得点で評価しました。
            
              
                
                  活力 
                  仕事で活力があふれるように感じている 
                 
                
                  熱意 
                  仕事に熱心に取り組んでいる 
                 
                
                  没頭 
                  つい夢中になって仕事をしている 
                 
               
            
            同時に、仕事の資源(成長機会等)、仕事の要求(量・質)、環境(音や温度)、組織の人間関係、プライベートの人間関係、気分状態 等の17項目を取得しました。
           
          
            解析方法 
            ワーク・エンゲイジメント3指標の総合得点を目的変数に、その他17指標を予測子として(全変数を実験参加者内で標準化)、機械学習の一手法であるスパースモデリング※ を実施し、一人ひとりの「ワーク・エンゲイジメントモデル」の重み係数(ワーク・エンゲイジメントの変化を予測する強さ)。
            ※スパースモデリング:予測子の量が観測数より多い場合(ワイドデータ)に、目的変数を予測する予測子以外を排除する(スパースにする)回帰分析の一種
           
         
        
          実験結果 
          
            結果1:ワーク・エンゲイジメント経時変動の観察 
            ワーク・エンゲイジメントは一定ではなく変動がみられ、変動の大きさにも個人差が見受けられました。(図2参照)
            
              図2:ワーク・エンゲイジメント経時変動 
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            結果2:ワーク・エンゲイジメント変動要因の個人差 
            多くの実験参加者にとって自分自身が「成長機会(上司に評価されていると感じていること)」、「量(仕事の要求量が多いと感じること)」がワーク・エンゲイジメントを高める要因と推定されました(図3 ワーク・エンゲイジメントと正の相関が強いものほど赤~茶色で図示)、逆に「イライラした気持ち」はワーク・エンゲイジメントを下げることが認められました(図3 ワーク・エンゲイジメントと負の相関が強いものほど青く図示)。一方でワーク・エンゲイジメント変化の要因については個人差があることも分かりました(図3全体)。
            
              図3:ワーク・エンゲイジメントモデルの被験者ごとの係数 
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            ※WEmean:ワーク・エンゲイジメントの平均値
           
          
            結果3:ワーク・エンゲイジメントタイプ(クラスタ)の確認 
            個人ごとに異なる「ワーク・エンゲイジメントの変化に影響を与える要因」についてそのパターンの類似性でいくつかのまとまりを見出すことができ(クラスタ分析)、およそ5クラスタでの存在が明らかになりました。(図4)
            
              図4:ワーク・エンゲイジメントクラスタごとの係数 
                拡大 
             
            各クラスタについて便宜的にタイプ名をつけて特徴を解説すると以下のような形となります。
            
              クラスタ1(気分屋ハイパフォーマー): 
              クラスタ2(ハイパーハイパフォーマー): 
              クラスタ3(流されやすい低空飛行タイプ): 
              クラスタ4(プライベート優先低空飛行): 
              クラスタ5(環境依存のハイパフォーマー): 
             
           
         
        
          実験成果 
          今回の実験で8割程度の実験参加者で有効モデルが構築できた(残り2割の被験者についてはモデルが収束せず説明できない)ため、手法自体の有効性が確認できました。さらに、モデルに個人のワーク・エンゲイジメントのベースライン(ワーク・エンゲイジメント総合得点×標準偏差)を加味することで、ワーク・エンゲイジメントの変動要因とその絶対値についてある程度の共通性をもったクラスタに分割できることが確認できました。これにより、現実的な場面におけるワーク・エンゲイジメントの評価・介入に必要となる情報(クラスタや、ワーク・エンゲイジメントに効く変数)を提供することが可能と考えられます。実際に、これらを参考として、異なるタイプの従業員に対し、それぞれ効果的と考えられるアプローチを取ることも可能になると推察されます。
         
        
          今後について 
          NTTデータ経営研究所では、こうしたワーク・エンゲイジメント向上にニーズのある企業を対象に実フィールドを用いた実時間・経時的なデータ収集プロトコルを用いて、企業の生産性向上と、従業員の自己実現に繋がる職場環境の構築を支援するコンサルティングサービスを実施していきます。
          
            
              厚生労働省 平成28年雇用動向調査結果の概況 1.入職と転職の推移 3頁 厚生労働省 新規学卒者の離職状況 大学版 中小企業庁 中小企業白書 2005年版 第3部 第2章 第1節 4.終身雇用制と年功賃金制の変化 R.A.Lloyd. ‘Experience curve’ analysis, Applied Economics 11. (1979) 三木. “人材獲得優位の企業と市場価値のある人材”の研究, 文教大学国際学部紀要. (2008) Schaufeli, W.B., Salanova, M., Gonzalez-Romá, V.et al. The measurement of engagement and burnout: A two sample confirmative analytic approach. Journal of Happiness Studies 3. (2002) 島津, 江口. ワーク・エンゲイジメントに関する研究の現状と今後の展望, 産業医学レビュー 8. (2012) Shimazu, A., Schaufeli, W. B., Kubota, K. & Kawakami, N. Do Workaholism and Work Engagement Predict Employee Well-being and Performance in Opposite Directions? Ind. Health 50, 316–321 (2012). Halbesleben, J. R. B. A meta-analysis of work engagement: Relationships with burnout, demands, resources, and consequences. In A. B. Bakker (Ed.) & M. P. Leiter, Work engagement: A handbook of essential theory and research (pp. 102-117). New York, NY, US: Psychology Press (2010). Harter, J., Schmidt, F., Agrawal, S, Plowman, S. & Blue, A. The Relationship Between Engagement at Work and Organizational Outcomes, Gallup (2016),  
            ※文中に記載する商品名、会社名、団体名は、各社の商標または登録商標です。
           
         
        
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            共同実験に関するお問い合わせ先 
            株式会社NTTデータ経営研究所