「デジタル人材定着に向けたアンケート調査」デジタル人材の定着には、上司の選定とワークライフバランスの推進が重要~多様化するデジタル人材の活用に向けて~

株式会社NTTデータ経営研究所

株式会社NTTデータ経営研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:川島祐治、以下 当社) は、NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社(本社:東京都品川区、代表取締役社長:塚本良江)が提供する「NTTコム リサーチ」登録モニターを対象に、「デジタル人材定着に向けたアンケート調査」(以下、本調査) を実施しました。
昨今、日本企業は、デジタルテクノロジーを活用し、事業の業績やドメインを抜本的に変革する取り組み「デジタルトランスフォーメーション(DX)」に注力しています。DXの取組のなかで、企業は、DXを推進できる「デジタル人材」の確保に向け、様々な育成施策・採用施策を講じています。しかし、デジタル人材はマーケットにおいて比較的少数である一方、転職流動性が高いため、企業が育成・採用へ投資しても、意図に反して流出することが課題となっています。
上記状況を踏まえ、リテンションの観点で、国内の「デジタル人材」を対象に意識調査を実施しました。
調査の結果、デジタル人材の転職流動性の高さは確認されたものの、デジタル人材の中には転職意向がなく企業への定着を志向する層も40%程度存在することが判明しました。転職意向のない層を分析した結果、育成したデジタル人材の定着には、評価をはじめとする人事制度の整備や、オフィスや通信環境といったハード面の環境整備に加え、デジタル人材の上司となる人材の選定が重要であることが確認されました。また、採用したデジタル人材においては、その志向に関わらず、ワークライフバランスの充実化がデジタル人材の定着に繋がることが確認されました。
今回の調査から、デジタル人材の定着に必要な要素が明らかとなり、企業にとって時間とパワーがかかることも明らかになりました。本調査の結果は、DX推進に向けた人材戦略策定において、興味深い示唆を与えるものと考えております。

本調査におけるデジタル人材の定義

本調査では、一般的なDXに関連する技術・サービス・手法へのかかわりを、デジタル人材の判定項目として設定。
いずれか一つでも、社内もしくは社外から認められているレベルと回答した対象者を『デジタル人材』と定義した。
※ 経済産業省が定める『IT人材』(=IT企業及びユーザ企業情報システム部門に所属する人材)とは異なる(注)

(注)出典:経済産業省「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果を取りまとめました」
https://www.meti.go.jp/press/2016/06/20160610002/20160610002.html

調査結果サマリー

近年、テクノロジーの進化に伴い、グローバル全体でデジタル化が急速に進んでいる。とくに、日本企業はデジタルテクノロジーを活用し、事業の業績やドメインを抜本的に変革する取り組み「デジタルトランスフォーメーション(DX)」に注力している。
企業のDXの推進において、デジタルテクノロジーの知見と経験を持った「デジタル人材」が必要となる。
しかし、「デジタル人材」は人材マーケット全体で不足しており、人材不足よってDX推進が阻害されている企業も見受けられる。
本調査の結果から、デジタル人材は、デジタルテクノロジーに親和性が高いといわれる20代~40代の社会人でも、「デジタル人材」の存在は10%程度であることが分かった。(図1)
デジタル人材が不足する状況の中、日本企業は、デジタル人材を確保するために様々な対策を講じている。例えば、デジタル人材のための高額な報酬体系を用意し、採用強化を図ったり、独自の教育プログラムを作成し、育成強化を図ったりしている(※1)
これまで、様々なレポート・研究では、デジタル人材転職流動性の高さが指摘されている(※2)。DXが中長期に及ぶ取組になることを考慮すると、デジタル人材の定着性の低さにより、企業としてDX推進が困難な状況になっている。
上記状況を踏まえ、企業がデジタル人材を定着させ、DX推進に彼らを活用するために何が必要となるのだろうか。

図1:デジタル人材のボリューム

前述の通り、デジタル人材の転職流動性や志向性に着目したリサーチデータは少なくなく、「デジタル人材は転職が当たり前で、スキルアップと報酬を志向する」(※3)とされてきた。
本調査では、転職流動性や志向性をより詳細に確認するため、デジタル人材の特徴と併せて、仕事やスキル、キャリアに対する志向性を調査した。
調査の結果、デジタル人材の多くは転職を経験しており、加えて、今後の転職意向も高いことが確認できた。とくに、デジタル人材の約1/3は、直近1年以内の転職を考えていることが判明した。(図2) また、仕事に求める条件として、高額な報酬と、企業のブランド力、自由な働き方を重視する傾向にあった。
上記事実から、デジタル人材の転職流動性の高さが原因となり、採用によるデジタル人材の確保を狙う企業は、自転車操業的に新たなデジタル人材を採用し続けなければならない。さらに、採用を目的としてデジタル人材を惹きつけるには、通常の採用よりも多くの投資が必要になると推測される。
一方、デジタル人材には、転職意向がなく、就業中の企業に定着したいと考えている層が4割弱存在していることが確認された。この層は、デジタル人材としての要件は満たしながらも、現在の企業に定着しようと考えている。
そこで、転職意向のないデジタル人材の、仕事に対する志向性や就業環境を確認することにより、企業が自社で育成したデジタル人材と、採用したデジタル人材、それぞれの観点で、デジタル人材の定着に必要な要素を分析した。

図2:デジタル人材と非デジタル人材における、転職経験と転職意向

育成の観点

育成されたデジタル人材(転職経験のないデジタル人材)のうち、転職意向あり層の割合は42%(1年以内転職意向率は20%)で、非デジタル人材の26%(1年以内転職意向率は8%)と比較すると格段に高い。(図3)
デジタル人材の転職流動性の高さから、デジタル人材育成の重要性は説かれることが多いが(※4)、育成した人材も同様に転職流動性が高く、企業に定着させることが難しい。企業が、育成したデジタル人材を定着させるためには何が必要になるだろうか。

図3:育成したデジタル人材/非デジタル人材における転職意向比較

本調査で、育成したデジタル人材における転職意向あり層/なし層を比較した結果、年齢や業種などの属性情報には大きな差が確認できなかった。一方、年収面では、転職意向なし層の方が、あり層と比較して、1.3倍もの年収を得ていることが確認された。(図4)
加えて、転職意向あり層/なし層の「満足度」に大きな差異が確認された。「満足」のスコアには大差が見られないものの、「不満」に大きな差があり、一部の項目には倍以上乖離していた。(図5) 特に、転職意向あり層は、現職の「人材」と「評価」に大きな不満を抱えており、具体的には、人材面では「尊敬できる上司」を、評価面では「能力の高い社員の昇進」と「頻繁なフィードバック」を求めていることが確認できた。

図4:育成したデジタル人材における、転職意向あり層/なし層の属性比較

図5:育成したデジタル人材における、転職意向あり層/なし層の、現職への不満度

以上の結果より、育成したデジタル人材の定着には、DX推進役となるデジタル人材の登用だけに目を向けるのではなく、彼らを束ねる側の人選にも配慮し、優秀なマネージャー・リーダーを配置する必要があることが分かった。
一方で、育成したデジタル人材のうち、転職意向あり層は、なし層と比較して、年収が低いことから、定着させるためには少し先を見据えた評価が効果的と考えられる。具体的には、企業が必要なデジタル人材だと感じた場合、結果の有無にかかわらず、昇格・昇給ができるような制度・措置を施行したほうがよい。昇進・昇格や給与額の増加が、デジタル人材にとって評価を感じ取れる指標になり、定着へと結びつくからである。
しかし、人事制度に関する施策には、施行までに時間がかかる可能性がある。そこで、育成したデジタル人材の転職意向を抑える短期的な打ち手として、「職場環境」にも着目したい。育成したデジタル人材の転職意向あり層は、「職場環境」にも不満を抱いている。彼らは「職場環境」に対し、「休暇取得奨励」と並び、「ハイスペックPCの配布」や「会社の所有するコンピュータリソースへの自由なアクセス」を求めている。転職意向を緩和するための打ち手として、インフラ面で実働上ストレスを感じさせない配慮を行うことで、デジタル人材の転職を、“延命”できる可能性がある。

採用の観点

採用したデジタル人材(転職経験のあるデジタル人材)は、直近の転職動機により、自身のスキルアップや目標達成といった上昇志向を持って転職した層(上昇志向型)と、スキルアップや大きな目標達成を転職目的に置きつつも、ワークライフバランスを求めて転職した層(ワークライフバランス型)の2パターンに分類できる。
後者のうち、現在転職意向がない層(なくなった層)は、ワークライフバランスの満足度が高いという結果が確認できた。現職場のワークライフバランスに満足していれば、今後の転職意向が低下し、不満があれば、引き続き転職を志向する、という構造が推察できる。(図6)
続いて、上昇志向型のデジタル人材の定着について考察する。
スキルアップを志向する上昇志向型のデジタル人材を惹き続けるために、企業側は、常に彼らのスキルを育成・成長させられる機会・仕事を提供し続ける必要があるように思える。しかし、企業が常に最先端のデジタルテクノロジー動向を追い、彼らに業務機会を与え続けることは困難である。本調査の結果から、上昇志向型のデジタル人材のうち、転職意向がない(なくなった)層は、仕事内容には満足しているものの、自身の評価やキャリア開発にはそこまで満足していないことが確認された。転職意向がない(なくなった)層が最も満足しているものは、ワークライフバランスと職場環境であり、企業側は、彼らに対してスキル成長の機会提供を検討し続ける必要はないと推測される。(図7)

図6:ワークライフバランスを求めて転職したデジタル人材における、
転職意向あり層/なし層の、現職への満足度

図7:ワークライフバランスを求めずに転職したデジタル人材における、
転職意向あり層/なし層の、現職への満足度

これまでの結果から、採用されたデジタル人材の志向に関わらず、ワークライフバランスが重要であることが分かる。デジタル人材に対して、これまでの既成概念にとらわれ、「上昇志向だろうし、彼らのスキルアップの名目で、大量の仕事をやってもらおう」と考えていては、人材定着に結び付かないことが示唆されている。
採用後のデジタル人材の定着は、企業の施策次第であることを述べてきたが、本調査の結果から、デジタル人材の採用プロセスにおいて、定着可能性を判別できる可能性のある要素を確認できた。一部に採用プロセス段階では検知が難しい特徴も存在するが、採用前のコミュニケーションで検知できる可能性も示唆されている。(図8) 例えば、「外国語の活用」「海外に居住する」などを志向する人材は、定着可能性が低い。一方、仕事に対して知的好奇心を求め、団体保険や財形制度、家賃補助制度など福利厚生に興味を示す人材は、定着する可能性が高い。

図8:採用するデジタル人材のうち、定着可能性の低い人材とおける、
定着可能性の高い人材の差異(仕事に対する志向性比較)

DX推進に向けた人材戦略

デジタル人材全体の市場ボリュームが小さい中で選り好みしていては、人材を確保できずDXの推進開始段階から躓きかねない。そのため、立ち上げにパワーがかかるDX開始のフェーズでは、スポットでもデジタル人材を採用・投入することで、よりスピーディなDX立ち上げに踏み出すことも検討したほうがよい。(図9)
例えば、DXの立ち上げフェーズでは工数確保を優先し、定着可能性の低いデジタル人材の採用も検討する。ただし、後任人材の採用と併せて業務内容が属人化しない仕組みの構築を進める必要がある。一方、デジタル人材を抱える外部企業に業務を委託する、もしくは、外部企業と協業することも考えられる。それにより、自社で流動的なデジタル人材の採用にかけるパワーを抑えつつ、DXの早期実現に注力することも可能になる。しかし、継続的なDXに取り組む場合、外部企業頼りにするのではなく、自社内に知見を残す工夫が必要となる。
DXの立ち上げ後は、安定的かつ計画的な運用・管理が重要になるため、運用段階に入るまでに、転職流動性の低いデジタル人材を育成・採用することを薦める。ただし、育成・採用にあたり、流動性の低いデジタル人材が要望する制度や職場環境の整備が必要となる。
DX推進初期には、DXの立ち上げばかりに意識を取られることなく、様々な部門と連携しながら、一歩先の運用段階を見据えた環境整備を進めることが肝要である。それにより、DXが進んだ段階では、一部のデジタル人材が流出しても、流動性の低いデジタル人材を中心に、自社のDX推進・運用体制が築けるであろう。
このように、企業のDXの段階に合わせて、デジタル人材の特性を捉えた適切な体制を組むことが、DX成功の秘訣と考えられる。

図9:DX成熟度別のデジタル人材の確保戦略(※5)

デジタル人材リリースについて(pdf)

本件に関するお問い合わせ先

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株式会社NTTデータ経営研究所
コーポレート統括本部 業務基盤部
広報担当
Tel:03-5213-4016
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株式会社NTTデータ経営研究所
企業戦略事業本部
ストラテジー&トランスフォーメーションユニット
髙橋 昌太郎、大石 智史、加藤 知
Tel:03-5213-4130

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