(「環境新聞」2012年11月28日より)
リサイクルビジネス講座(20)
製品の普及と潜在市場の有望性
製造業の将来性見極めを
NTTデータ経営研究所 社会・環境戦略コンサルティング本部 シニアマネージャー 林 孝昌 |
特定製品の急速な普及は、リサイクルビジネスの潜在市場を生み出す。その好例が、メガソーラーを含む太陽光発電システム(以下、「PV」という。)や、リチウムイオン電池・ニッケル水素電池等(以下、「電池等」という。)である。
再生可能エネルギー全量固定価格買取制度導入により、PVの普及が急ピッチで進んでいる。その寿命は30年とも言われるが、技術革新や制度変更等により廃棄時期は前倒しとなる可能性もある。電池等は本年3月から自動車リサイクル法における事前回収物品にも追加され、再資源化が義務付けられた。また、「蓄電池戦略」にも示された通りの有望市場である。
潜在市場が顕在化するための条件は、当該製品の「潜在資源性」「普及と廃棄サイクルの安定性」「制度等による裏付け」の3点になる。本稿では、潜在市場の有望性という観点から、PVと電池等に係る比較検証を行う。
PVには鉄・非鉄金属類やガラス類等の有価物が含まれ、撤去・解体も比較的容易な設計がなされている。また、パネルリユースも可能であり、再資源化が生む付加価値は高い。ただし、その製品としての普及と廃棄サイクルの安定性は疑わしい。42円/kWhという買取価格が担保された今、安全な投資案件として、系統接続可能な適地はメガソーラーの建設用地として奪い合いになっている。少なくとも設置後20年は売電収入が見込める以上、当該適地は物理的に塩漬けとなる。売電収入は電気料金に転嫁されるため、世論を受けて買取価格は確実に下落する。であれば企業の投資は抑制され、同制度の狙いである技術革新や発電価格低下の進展は期待できない。すなわち、普及は目先の数年に限られ、廃棄サイクルは不安定となる。
また、個人所有のPVは効率的な回収が困難であり、安価な海外製品が主流であるため、拡大製造者責任による再資源化義務付けは困難である。したがって、建設リサイクル法のスキーム活用が現実解であろう。
一方の電池等について、例えばリチウムイオン電池の場合、現時点では電極に使われるコバルトが主な再資源化対象だが、マンガン、コバルト、ニッケル等レアメタル類を含有しており、潜在資源性は高い。開発途上の回収技術についても、蓄電池コストに占める材料費比率が高いことからもその進展は確実である。また、車載用のみならず、産業用を含む大型化が進んでおり、電池類については純粋な民需で見ても国内外での普及が確実と見られる。その回収には、小型二次電池や車載用鉛蓄電池を対象とした既存回収システム等も活用可能だ。更に電池類は、我が国が高い世界シェアを占め、且つ品目にもよるがコモディティ化には至っていない。装置産業でもあるため生産設備の国内立地にも合理性があり、製造業主導の再資源化技術導入や制度的裏付けの確立が期待できる。
以上より、潜在市場としてはPVよりも電池等の方が有望である。製造業とリサイクルビジネスは表裏一体であり、製品の普及やその利用形態が廃棄以降のプロセスの選択肢を決定付ける。新規市場の見極めには、製品市場の未来を見据えた冷徹な分析こそが肝要なのである。