(「環境新聞」2012年6月27日より)
リサイクルビジネス講座(15)
巨大マーケット攻略と持続可能性への投資
巨大マーケット攻略と将来投資の両立を
NTTデータ経営研究所 社会・環境戦略コンサルティング本部 シニアマネージャー 林 孝昌 |
「BOP(Base of Pyramid)ビジネス」とは、開発途上国等に暮らす所得水準の低い層をマーケットに据えた事業である。低所得者向けである以上、価格を抑えて大量に販売する必要があるため、最先端の技術力よりも、市場分析及び最適な製品投入がその成否を左右する。
我が国製造業はこの分野で出遅れており、その背景には「品質至上主義」と呼ぶべき悪循環がある。メーカがオーバースペックの製品を開発・販売することで、消費者の要求水準が高まり、規制までも強化される。この悪循環からの脱却は、製造業によるBOP市場攻略に向けた大命題であり、リサイクルビジネスもその当事者と言える。
本稿では「廃プラスチック」を例に取り、リサイクル目線で見た巨大市場攻略と開発投資等の関係性等に係る整理を行う。
百円ショップで販売されるプラスチック製日用品の生産地は、ほぼ確実に中国である。その原料には世界中から輸入された廃プラスチックが、破砕・洗浄・選別・ペレット化等のプロセスを経て利用されている。日用品の機能に必要な品質確保には、バージン原料が必須だが、「ドライブレンド」と呼ばれる原料調合のプロセス等で、「増量材」としてリサイクル材も投入される。リサイクル材はバージン材よりも安価だが、その純度には限界がある。当該製品を凝視すれば、外見的にまだらな箇所や黒点等が見つかることもある。また、再資源化のプロセスで必ずしもRoHS分析等が行われる訳ではないため、微量な有害物等が混入する可能性も否定できない。それでも、「植木鉢」や「ごみ箱」等を大量に食べることは不可能であり、日常生活でのリスクはほぼ皆無である。
こうした製品を中国で安価に製造するメーカの多くは中国国内・台湾・韓国等の企業であり、日系メーカの影は薄い。「世界一厳しい」国内の品質基準に応え続ける中、品質を犠牲にしたコスト低減へのアレルギーがあるためである。ただし、その国内消費者でさえ、品目次第で「品質が若干劣っても安価であれば」という購買行動が拡大している上に、巨大なBOP市場との親和性は更に高い。「増量材」としての廃プラスチック活用状況における彼我の違いは、「技術で勝って事業で負ける」とのジレンマの要因を象徴しており、その克服こそが求められている。

利用用途をダウングレードしつつ、素材のライフサイクルを延命する手法は、「カスケードリサイクル」と呼ばれる。一方、究極のリサイクル手法は、ペットボトルをペットボトルに、電機製品等の鋼板を鋼板に再活用する「クローズドリサイクル」であることに間違いはない。BOP市場もいずれ成熟し、人件費が先進国並みになり、資源制約を背景にバージン材の需要と価格は世界的に高まる。我が国ではその時代を見据えた技術も実用化されている。グローバルな回収システム構築等が前提になるものの、こうした持続可能性への投資は欠かせない。
目先の巨大マーケット攻略と将来投資の両立は、我が国製造業の存続を左右する課題であり、リサイクルビジネスもその例外ではない。