(「環境新聞」2012年7月25日より)
リサイクルビジネス講座(16)
リサイクルビジネスの持続可能性
関係者の対等な関係構築を
NTTデータ経営研究所 社会・環境戦略コンサルティング本部 シニアマネージャー 林 孝昌 |
ウィキペディアによると「CSR(Corporate Social Responsibility)」とは、「企業が利益を追求するだけでなく、組織活動が社会へ与える影響に責任をもち、あらゆるステークホルダーからの要求に対して適切な意思決定をすること」だそうである。一方、普通のビジネスマンにとってのCSRは、収益に直結しないが、社会的に価値があると認識される活動を実施または支援することで、当該企業のブランドを高める行為を指す。従って、CSRを冠に置いた活動は、景気が悪化すると真っ先に削減される。健全な営利活動さえおぼつかない企業のCSRには何の意味もない。
本稿では、リサイクルビジネスに関わる各種コンセプトの整理を通じて、その持続的な発展に向けた課題の検討を行う。
一般にCSRとセットで語られるのは、企業の不祥事を引き合いにした情報開示の必要性である。ただし、企業が公害や不正経理問題を起こすことと、善意のNPO活動を支援することに係る逆相関性を語るには無理がある。また、いわゆるCSR活動に積極的な企業の株価水準が安定して高いのは、十分な収益を背景にしたブランド強化への投資によることは論を待たない。いわゆるCSR活動はイメージ戦略にほかならず、そこに持続可能性につながるリアリズムは存在しない。リサイクルビジネスは、素材市場と相対しながら経済活動を通じて循環資源を動脈物流に還元するリアリズムの中にこそ、その存在意義がある。グローバルサプライチェーンの一翼を担う以上、通常の事業活動以上に景気変動の影響を受けるCSR活動との親和性は低い。
逆にリサイクルと親和性が高いがコンセプトとしてPPP(汚染者負担原則)やEPR(拡大生産者責任)が挙げられる。前者は外部不経済を排出者側コストに内部化させること、後者は生産者に対して回収・リサイクルの金銭的・物理的な責務を課すことを指す。PPPには不法投棄などの抑止効果、EPRには生産者側と処理側の連携による環境適合設計(DfE)の促進が期待され、その制度化は今も成果を生んでいる。ただし、制度で「誰が見た目の費用を支払うか」を規定できても、「誰が実質的な費用を負担するか」を規定することはできない。破綻した企業は原状回復責務を果たせないし、製品の価格と売り上げは固定できないからである。支払者が誰であれ、適正処理にコストが必要であり、その実質的な削減はむしろ川下のリサイクルビジネスの役割となる。
すでに制度的義務を果たしている排出事業者や生産者の次の課題は、廃棄物処理やリサイクルに必要な情報開示(Waste Management Transparency)の徹底に尽きる。処理先に求める適正処理の条件や自社製品の設計・属性などに係る十分な情報開示を行えば、自ら回収・処理を行う合理性はなくなる。逆に処理事業者側は、独自の処理手法やビジネスモデルで川上の事業者の期待に応えることで、初めて対等な関係を構築できる。
業界全体が、競争を通じてトータルコストを削減しつつ、持続的に発展するためのヒントはここにある。