(「環境新聞」2012年1月25日より)
リサイクルビジネス講座(10)
「静脈メジャー」の意味と意義
成長するアジア市場に照準
NTTデータ経営研究所 社会・環境戦略コンサルティング本部 シニアマネージャー 林 孝昌 |
環境省が政策に掲げる「静脈メジャーの海外展開」は、インフラ輸出促進というわが国全体の成長戦略の一環である。また、「メジャー」というキーワードは、BHPビリトンのような資源メジャー、もしくはスエズやヴェオリアのような水メジャーを模した表現である。前者は鉄鋼や石油などの分野での圧倒的な企業体力とシェアを武器に、資源相場に直接的な影響力を及ぼす巨大企業を指す。後者はいわゆる垂直統合型ビジネスモデルを前提に、設備導入から施設運営までの一貫サービスを提供するインフラ企業のことである。では「静脈メジャー」とは何か? 本稿では、「静脈メジャー」の意味とその実現に向けた手法などの検証を行う。
リサイクル分野で最も「メジャー」の表現がふさわしい企業は、米国最大手のウェイスト・マネジメント社である。積極的な企業の合併・買収(M&A)で事業規模を拡大し、連結売上高1兆円超の巨大企業となった。わが国廃棄物処理業の場合、最大手でも300億円規模であり、同社のスケールには遠く及ばない。ただし、リサイクルビジネスの最先端では、非鉄製錬業のDOWAグループと、プラントメーカーのJFEエンジニアリングが、世界を舞台に活躍している。また、各社の売上高は優に3000億円を超えており、グローバル市場の有力コンテンダーの資格も十分に有している。
DOWAグループは、サプライチェーン川上のいわゆる「都市鉱山」からの調達強化に資する、縦軸の多角化に注力している。JFEエンジニアリングは鉄鋼分野を起点に培った技術力で、横軸の多角化を図ることで幅広い品目のリサイクル事業を展開している。こうして独自の発展を遂げた両社はわが国の「静脈メジャー」に最も近い存在だが、グローバル・リサイクルに挑む企業は他にも存在する。有力企業の海外事業展開を、行政面や資金面での後押しにより支援する「グローバルコンテンダー方式」は、特にアジアの成長を取り込む手法として、重要な政策的意義を持つ。
一方、中小企業中心の廃棄物処理業者による海外展開を後押しする手法としては、「コンソーシアム方式」が考えられる。例えば収集運搬・中間処理・選別・原料化などの各領域で強みを有する国内事業者が連携を図りつつ現地企業との合弁を実現すれば、水メジャーのような垂直統合型の事業展開も可能となる。ただし、多くの中小企業は海外事業の実績やパートナー探しに必要なノウハウを有していない。だからこそ、核となるメンバーとしての「商社」や「コンサルティング会社」などの役割が重要になる。
こうした企業は、国内外の事業者や行政機関との幅広いネットワークを保有しており、現地ニーズの把握と分析を行いつつ事業スキームを具体化し、関係主体のコーディネートを行う。行政機関が中小企業の海外展開促進を後押しするという観点からも、一見遠回りに見えて、核となるコーディネーターとの調整やそのサポートが有効なアプローチとなるのである。
アジア諸国の成長や環境市場拡大が誰の目にも明らかである以上、和製静脈メジャー形成は急務である。国内市場が飽和状態にある今こそ、官民挙げた海外展開が業界全体の成長を実現する必要条件となる。