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(「環境新聞」2013年4月24日より)

リサイクルビジネス講座(24)
他社差別化の方向性

価格競争に陥らない付加価値追求

NTTデータ経営研究所
社会・環境戦略コンサルティング本部
シニアマネージャー 林 孝昌

第3次循環型社会形成推進基本計画(案)では、「質にも注目した循環型社会の形成」が基本的方向として示された。制度と補助金のパッケージで成長してきた国内リサイクルビジネスは成熟期を迎えており、「質」に着目した競争はこれから本格化する。循環資源マーケットの透明化と国際化は急速に進展しており、情報の非対称性を利用して高い利益を生む手法は通用しない。競争と淘汰が進む中で生き残るための活路は、処理手法やビジネスモデルの高度化にこそ見出せる。自ら強みを有する品目の特性等を踏まえ、地味でも違いを生むことが中長期的に見た他社差別化要素となる。

本稿では、処理対象となる循環資源を「希少素材」、「一般素材」、「バルク系素材」に分類した上で、それぞれの特徴と他社差別化の方向性に関する検証を行う。

図(他社差別化の方向性)

まず、「希少素材」について、金、銀、パラジウム等製錬会社が品位に応じて買い取る貴金属含有品目が主要ターゲットとなる。具体的には、廃プリント基板やASR等から高品位の2次原料を抽出する「濃縮・回収」技術は明確な差別化手段となり得る。一方、いわゆるレアメタル回収は、タングステンやコバルト等高品位製品の回収システムが存在する品目を除き、ビジネスにはなり得ない。国家の資源戦略を個別企業がリスクをとって担う必然性はない。

次に紙やプラスチック、ベースメタル等の「一般素材」の場合、「クローズドリサイクル」が究極の高度化手法である。製品ごとの要求水準を満たすために混合する添加剤等は、リサイクル目線では不純物であり、高機能素材ほど扱いにくい。ただし、セットメーカ等との連携による水平リサイクル実現は、ものづくりへの主体的な参画を意味するため、安定したビジネスモデル構築をもたらす。もう一つの方向性が、「燃料化」である。円安を背景に燃料価格や電力価格は高騰している。品質が安定してかつ発熱量の大きい循環資源の受け入れ需要は拡大しており、低品質な原料化より「燃料化」の合理性が高くなる。すなわち、一般素材の取り扱いは高度化と燃料化に二極化する見込みであり、どちらかを徹底して追求することが差別化への近道となる。

最後にスラグや建設発生土等の「バルク系素材」は、現政権による公共事業拡大に伴い、建設資材として注目が高まる。ただし、その発生場所と需要地には偏りがあり、広域輸送が有効利用実現のカギを握る。原発事故以降、汚染拡散への不安は高まっており、廃棄物や副産物由来素材の受け入れに対する市民の抵抗感は強い。「有害物質削減」は、風評レベルも含めた問題発生を防ぎ、広域処理の自由度を高めるための重要な手段となる。最後に「用途開発」だが、その目的は、既存用途の需要が途絶えた際のリスク対応力強化にある。例えば路盤材利用等への依存度が高い廃コンクリートは、需給変動により廃棄物化して、最終処分に廻るリスクがある。排出者目線で見れば、処理先による複数用途確保は信頼性に直結する業者選定基準と位置付けられるのである。

価格競争は成熟産業の宿命であり、避けることはできない。それでも、目線を変えて差別化を図る意識を保ち続ける企業だけが勝ち残る。

リサイクルビジネス講座 目次
(24)他社差別化の方向性
(23)パートナーとしての行政機関
(22)マクロ経済環境の変化踏まえた投資
(21)ソーシャルビジネスとの連携可能性
(20)製品の普及と潜在市場の有望性
(19)バイオマス事業化の可能性と行政支援のあり方
(18)リサイクルによる低炭素化
(17)市場規模と業界構造
(16)リサイクルビジネスの持続可能性
(15)巨大マーケット攻略と持続可能性への投資
(14)海上静脈物流の活性化に向けて
(13)制度の「目的」と「可能性」
(12)「発電燃料」としての循環資源
(11)リユースに求められるセンス
(10)「静脈メジャー」の意味と意義
(9)リサイクル目線から見た街づくり
(8)リサイクルビジネスとトレーサビリティ管理
(7)リサイクルビジネスと地域活性化
(6)資源循環の適正スケール
(5)循環資源の「質」と「量」
(4)リサイクル技術とは
(3)原料利用と燃料利用のベストミックス
(2)利益を生み出す必要条件
(1)リサイクルビジネスとは



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