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『情報未来』

当社の研究、コンサルティング、事例から厳選された、お客様の問題解決に役立つ情報誌です。

No.57(2018年2月号)

特集:成熟社会における処方箋
対談 岡村信悟 × 河本敏夫

スポーツビジネスの成長産業化とSports-Techの役割 ~「横浜スポーツタウン構想」が描くビジネスエコシステムとは?~

スポーツの成長産業化が政府の目標とされているなか、スタジアムアリーナ改革の尖兵として、横浜でスタジアムを核とした街づくりが動き始めています。「横浜スポーツタウン構想」です。今回は、この先進的な取り組みをされている横浜DeNAベイスターズの代表取締役社長・岡村信悟氏と、スポーツビジネスコンサルティングを手がけるNTTデータ経営研究所の河本敏夫が対談しました。

岡村 信悟

岡村 信悟
OKAMURA SHINGO
  • (株)ディー・エヌ・エー 執行役員 スポーツ事業本部長。
  • (株)横浜DeNAベイスターズ 代表取締役社長。
  • (株)横浜スタジアム 代表取締役社長。
  • 昭和45年1月生 東京都出身。
  • 平成7年3月東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。
  • 平成7年4月 郵政省入省。
  • 平成15年8月 総務省情報通信政策局地域通信振興課地方情報化推進室課長補佐。
  • 平成17年5月総務省情報通信政策局地域通信振興課課長補佐。
  • 平成18年10月 総理大臣官邸世耕総理大臣補佐官付参事官補佐。
  • 平成19年9月 総務省情報通信政策局情報通信政策課課長補佐。
  • 平成20年1月 総務省総合通信基盤局電気通信事業部消費者行政課課長補佐。
  • 平成21年7月 総務省情報通信政策局郵政行政部企画課課長補佐。
  • 平成21年7月 総務省情報通信政策局郵政行政部企画課課長補佐。 平成22年7月 総務省大臣官房企画課課長補佐。
  • 平成24年8月 日本ケーブルテレビ連盟審議役。
  • 平成26年8月 総務省情報通信政策局郵政行政部企画課企画官(国際協力担当)。
  • 平成28年4月(株)ディー・エヌ・エー入社。
  • 平成28年4月(株)横浜スタジアム代表取締役社長。
  • 平成28年10月(株)横浜DeNAベイスターズ代表取締役社長

成熟社会におけるスポーツビジネスの課題

まずスポーツビジネスの成長性についてお伺いします。政府は2025年に15・2兆円のビジネスを作っていくという目標を掲げています。現状まだ5兆円にも満たない市場規模で、そこはハードルが高いと感じる部分もありますが、岡村さんはどのようにお考えですか。

政府の数字は、おそらく欧米の数値などを参考にしてはじき出されたものだと思います。日本も高度経済成長期を経て、スポーツというものが国民生活と切り離されないものになってきました。21世紀になってさらに欧米諸国並みに多くの国民生活の中に浸透し、さまざまな産業の裾野を広げていかねばならないような気がします。成熟社会になった日本の大きな課題ではないでしょうか。

乗り越えていかなければいけない課題がまだまだあるということですね。

その課題とは、成熟社会に相応しいスポーツの楽しみ方を提供することではないでしょうか。より価値の高い人生を送りたいというのが人間のこれからの発展する方向だとするならば、その成熟社会に相応しいスポーツの楽しみ方とは多様な余暇の楽しみ方をするということだと思います。

今の時代、皆が一様にジャイアンツを観ます、大鵬を応援しますというような時代ではありません。価値観が多様化しています。

スポーツの概念を広げて、これからの社会のありように沿った形でスポーツの産業文化というものが再編成され拡大される時期に来ていると思います。その趨勢にどのように寄り添って、スポーツ産業文化を拡大していくのかというのがこれからの課題だと思っています。

地域に根付かせる、ビジネスを生み出す、拡げる

地域密着型で独自のスポーツ産業を展開するとき、課題は3つあると思います。1つめはスポーツを根付かせること。2つめは新たなスポーツ産業を生み出すこと。3つめはスポーツ産業を広げることです。広げるというのは、スポーツに隣接するいろいろな業界、例えば観光業界だとか食品業界だとか、他の業界に広げていく必要があると思います。

まさにその通りです。スポーツ産業の裾野を広げ、より深く生活の中に根付かせることです。企業努力によって横浜DeNAベイスターズの観客動員数は年々増加しています。2011年に約110万人だったのが、2017年は約198万人になっています。ファンクラブ会員数も8万人を突破しました。さらには、販売対象となるすべての試合でスポンサー協賛が決定しています。

横浜市と協定を結ばれていますね。

協定の愛称は「I☆YOKOHAMA協定」です。これまでの地域密着活動をさらに幅広く深みを増していきます。たとえば若手選手寮の「青星寮カレー」のレシピを提供し、横浜の学校給食で約20万人の子どもたちに食べていただきました。ラミレス監督などが小学校を訪問し児童と一緒にカレーを食べたりしました。

新たなスポーツ産業を生み出し、広げるということはいかがでしょうか。

「横浜スポーツタウン構想」を打ち出していますが、この構想を実現させるためには、パートナー企業が不可欠です。私たちは様々な企業と一緒に、スポーツ産業を生み出す、ということにもチャレンジしたいと考えています。

「エコシステム」を構築するためには、新しい産業を生み出すエンジンと、コンテンツの魅力を起点として生活に密着した商品・サービスにおけるマネタイズの2つが必要と考えます。前者に関しては、複合施設「THE BAYS」をオープンされましたね。

スポーツとクリエイティブをテーマにしたカフェやショップ、フィットネススタジオなどを盛り込みました。2階に「CREATIVE SPORTS LAB」を開設しました。ここでは、新たなスポーツ産業を創出することを目的としています。

コミュニティのベースとなる ”場 “を設けることで、企業同士の関係構築やナレッジの共有化を図る試みですね。弊社でもコミュニティ運営による新規事業創出を行っています。

横浜やスポーツにまつわる多彩な個人や企業に入会していただき、横浜DeNAベイスターズとともに、新たなスポーツ産業を生み出していきたいですね。

裾野もどんどん広がっていますね。

今後は、ランニングであったり陸上であったり、もしかしたらバスケットボールやサッカーであったり、さまざまなスポーツコンテンツでも同じような取り組みができるだろうと考えています。

河本 敏夫
KAWAMOTO TOSHIO
  • NTTデータ経営研究所
    情報戦略コンサルティングユニット
    ビジネストランスフォーメーショングループ
    シニアマネージャー

河本 敏夫

総務省を経て、NTTデータ経営研究所に参画。中長期の成長戦略立案、新規事業開発、事業構造改革を得意とする。スポーツだけでなく、通信・メディア・コンテンツ・不動産・教育・エレクトロニクスなど幅広い領域が守備範囲。業界を問わず、世の中にない新しいテーマの発掘・解決に挑戦し、異業種間アライアンスによる成長戦略と次世代テクノロジーによるイノベーション創出を多く手掛ける。著書に『マイナンバー 社会保障・税番号制度-課題と展望』、『ソーシャルメディア時代の企業戦略と実践』(ともに、金融財政事情研究会)など。

CSRや広告宣伝ではない、収益事業としてのスポーツ産業

球団運営という側面からみてみると、広告宣伝的な要素が強かった伝統的な他の球団と異なり、収益事業として球団運営を行っている点が、御社の特徴と捉えています。

20世紀のころにプロ野球の球団を持つということは、どちらかといえば、企業のブランド価値を高めるという、広告宣伝的な要素が強かったと思います。

たしかに、宣伝効果を得るということが主体でしたね。

もちろんDeNAにとっても計り知れないブランド価値をこの球団はもたらしてくれています。でも、その一方で、球団としてはプロスポーツというもの自体を新しい産業分野もしくは文化の領域として捉えています。収益をきちんと上げて黒字の経営ができることがまず基本ですし、その基本の上に乗ってさらに大きく発展させようと考えています。

IT企業として ”リアル“のビジネスに挑戦するという意味で、DeNAグループ全体にとっても重要な意味を持つのではないでしょうか。

2025年までのDeNAグループの大きな事業の柱を2つ考えています。ゲーム以外の大きな事業の柱にスポーツを育てるというミッションを持っています。ですからDeNAはIT企業ですけれども、永久ベンチャーという理念、そして「delight(喜び)」を与えるということをスポーツにおいて実現するものと考えています。

スポーツの分野で新しい喜びを与えていくということですね。

横浜という地域に根差して「スポーツを通じて人と街を元気にする」ことを事業本部のミッションに掲げて活動しています。

球団の社長でもあり、スタジアムの社長でもあり、DeNAのスポーツ事業本部長でもあることは、重要な意義がありますね。

そうですね。スマート・ベニューという新しい考え方があります。スポーツ施設は「多機能複合型」・「民間活力導入」・「収益力向上」などの力が求められていて、これらの要素を備えた施設を「スマート・ベニュー」と呼びます。「スマート・ベニュー」を実現するには、球団とスタジアムの経営が別会社だとやりづらい面があると思いますが、私たちにはそれを同時に運営できるという強みがあります。

横浜スタジアムに野球シーズンだけでなく、年間を通して賑わいを呼ぶ交流人口をつくっていくわけですね。

日本が成熟社会に踏み込んでいくなかでスポーツ産業を牽引するプレイヤーとしてDeNAおよびその球団・球場、グループ全体で展開していきたいと思っています。

街づくりと一体となった事業開発で、横浜の賑わいを生み出す

横浜という街がスポーツの変革起点としてなぜ相応しいのかということについてお聞かせいただけますでしょうか。

私たちがこの横浜という地に根を下ろし始めるということはある意味、偶然の産物であったかもしれません。それは、最初にプロ野球球団を持つという話があり、そこのホームタウンがたまたま横浜であったわけです。

2011年でした。球団の名称が「横浜ベイスターズ」から「横浜DeNAベイスターズ」になりました。

横浜という地域に支えられ、横浜の誇りになる球団でなければ持続的発展はできないということにすぐ気が付きました。この横浜は非常に恵まれていて、日本でも都市の規模、人口の面でいうと一番の政令都市です。そのど真ん中に横浜スタジアムがあります。近代発祥の地としてさまざまな外国文化の入り口として歴史的にも意義深い土地です。

横浜市の先には、約910万人の神奈川県民が関心を示しています。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックで野球、ソフトボールの会場に横浜スタジアムが選定され、主要会場として世界に発信する機会も与えられました。さらに、横浜自体が大きな転換点に入っていて、横浜スタジアムがある関内も市役所の移転など、実は再開発が進んでいます。

市役所には、約8千人の職員がいらっしゃいます。人の流れが大きく変わるかもしれませんね。

市庁舎の跡地の再開発ということでこの街が大きく様変わりする契機が次々とやってくることが予想されますね。私たちも横浜スタジアムを2020年に向けて再整備、増改築を進めています。横浜スタジアムは、私たちがもともと掲げているコミュニティボールパークを具体化するスタジアムに生まれ変わるわけです。

365日賑わいを呼ぶための拠点施設として機能することが期待されているわけですね。

いろんな諸施設の再整備や街づくりが一通り完成する2025年ごろをめどに、これから10年に満たないなかで大きな変革を成し遂げ得るだろうと見込んでいます。日本のどこの地域よりも恵まれた形でスポーツ産業文化の新しい形というものを示すことができる、またとないチャンスだと思います。

対談

余暇消費を生み出すための「多義性」のある街づくり

横浜のファンが観戦するだけではなく、ツーリズムの一環で、国内外から訪れた人たちもそこで楽しみが見いだせるような観戦が提供できればと考えています。都市の中に人が集まる空間があって、そこにたくさんの交流人口が増えていき、その中で余暇消費というものをいろいろな形でしていただくわけです。その消費の仕方は、スポーツを観戦するでもいいし、自分が体験するのでもいい。もっと違う形のエンターテインメントでもいい。飲食でもいいし、グッズ購入でもいい。そうなると、エンターテインメント空間だけにとどまらず、スポーツ産業文化のシリコンバレーのような存在になるでしょう。そこに企業も集まって来るかもしれません。

いろいろな拡大が考えられますね。

例えばカープファンの方がベイスターズ対カープ戦を楽しむだけでなく、そこを基盤にして横浜という街を楽しんでいただく。もしくは鎌倉まで足を延ばす。もしかしたら神奈川県全域で箱根までも含めてツーリズムの拠点になるかもしれません。

空間が多義性をおびてきますね。

単なるエンタメ空間ではなくなります。今までのようにクローズドな、東京ドームなら東京ドームのエンタメ空間、ディズニーランドならディズニーランドのエンタメ空間ではなく、外へオープンに広がりを持っていく、そういう磁力がある場所にしていきたいと思っています。

似たような事例として、伊勢神宮があります。伊勢神宮も一大観光都市で成功したモデルです。神宮という魅力的なコンテンツがあって、さらに、旅行を案内するエージェントとして「御師(おんし)」という人がいて、伊勢山田で発行された「山田羽書(やまだはがき)」という日本最古の紙幣があります。御幸道路を作ってより多くの人が参拝に訪れるようにしたり、あるいは遊興の場として古市というのを作ったり、まさに多義性を持った都市として成長することで、いろいろな交流人口が増えていきました。

阪急電鉄の小林一三氏もそうです。デパート、鉄道、住宅地、箕面の動物園、それから宝塚の歌劇場。小林氏は何を作ったのかというと、次世代にバトンタッチしたくなるような新たな空間、人がそこに生まれ育って生活できるような場を作ったということだと思います。

成熟社会における事業開発において、そのような複合的なビジネスモデルを考えることが必要だと考えています。

スポーツは成熟社会に相応しいコンテンツだと思います。スポーツには娯楽という側面と、人間しかできない公正なルールに基づいて争いを昇華するという側面があります。争いを昇華したことによって敵に対するリスペクトも出てきます。でもそれは自分のいる地域に対する愛情でもあり、健全な意味での愛郷心とか、健全なナショナリティでもあります。さらに、そこには連帯感や共感する力といった、いかにも人間らしい営みがあります。その視点で考えていけば、新しい生活や新しい価値を創造できるのではないでしょうか。

仕組みや文化を海外に輸出し、独自のビジネスをそこに根付かせる

海外にそれを展開するということも視野に入っているのでしょうか。

たとえば、東南アジア、ミャンマーやタイの方が横浜に観光に来て、素晴らしいスタジアムの新しい価値を体験し、自分たちの国にも作りたい、となるかもしれません。

それは野球を中心としたものでなくてもいいわけですよね。

ミャンマーはサッカーが中心でもいいかもしれません。アリーナや別のスタジアムが中心でもいいでしょう。いずれにしても、スポーツというものを切り口として、人間の営みを豊かにするような仕掛けや、磁力を生み出す仕掛けを作るとき、日本としてお手伝いができると思います。

新しいビジネスが拡大していきますね。

プロだけじゃなくて老若男女、障害を持った人も、民族を超えて、みんなで共感したり、感動したり、一体感を持ったりできます。そういう仕組みです。

日本のビジネスを輸出するというときに、いわゆる「インフラ輸出」はハードの側面が強く、「クールジャパン」はソフトの側面が強い。スポーツビジネスの輸出は、そのどちらでもない点に魅力を感じます。

最後は自分たちの国で作ってもらうわけです。

仕組みとか文化とか、そういうものを輸出して、ビジネス自体がその地域で根付いていくという構想ですね。

地域の独自の価値、あるいは、ドメスティックな、ローカルなものを突き詰めると逆に普遍性を帯びてきます。だからメジャーリーグのヤンキースはニューヨークとは切り離せないし、サッカーチームのバルセロナは、バルセロナという街と切り離せない。

そういうところに政府も積極的に関わっていくような流れができるといいですね。

スマート・スタジアムだけではない、Sports-Techの担う役割

スポーツにおけるテクノロジーの活用という観点から、お聞きしたいのですが、最新技術に何を期待されますか。

例えば、メジャーリーグなどをみてみますと、データの活用に積極的に取り組んでいます。そこにAIやITをうまく活用して、効率的に選手を育成したり効果的な戦術を発見したりするのは十分可能だと思っています。まずはチームを強くするために、最新技術を活用できると思います。

チームを強くすること以外では、どのような目的でITを武器として活用しますか。

米国では、スタジアムをIT武装する「スマート・スタジアム化」が進んでいます。スタジアムに来場するファンの方々に異次元の体験を提供しようというものです。例えば、シリコンバレーにある「リーバイス・スタジアム」には、総延長約644キロのデータケーブルがあり、1200基のWi-Fiアクセスポイントが実装されています。こうしたネットワークを利用してスタジアム専用アプリを使ったサービスを提供しています。自分がスタジアムのどこにいて、座席までどう行けばいいのかという経路案内や、飲食物やグッズをオーダーして座席までデリバリーしてもらえるというサービスなどです。

観戦のスタイルも大きく変わりそうですね。

ITを活用してより豊かな観戦体験ができるようにしたいですね。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などを組み合わせることも考えられます。例えば、VR技術を使って、あらかじめ何種類かの映像を用意しておいてスタジアムのさまざまな場所とリンクした映像をゴーグル上に映し出すということも考えられます。AR技術を使えば、観戦中の試合にスマホをかざすと選手の情報がみられるというサービスを提供することもできます。

スタジアムだけでなく、街全体でそのような観戦体験ができるといいですよね。

そうですね。スタジアムから街に出たとき、ITというものがサービスとしては連続性を持っていて、もしかすると連続性を持つだけでなく、家に帰った後も引き続き、常にこの地域にこの場所にそれぞれの方が結び付けられるような仕掛けというものが必要になってくるでしょう。街全体をエンタメ空間化するということになると、その基盤としてITをどのように総合的に活用していくのかというのも大きな課題になってきます。

日本が世界に先駆けて取り組み、先進事例としたいですね。

これから2025年までに段階的に進めていきます。要は、ファンの方が喜んでいただけることは何かを考え、そこに必要なものとしてITを積極的に活用していこうと考えています。

野球だけではなく、他のスポーツにも波及していきそうですね。

そうです。もしかするとバスケットボールという切り口もあるだろうし卓球かもしれません。この街を訪れる楽しみを拡大するためにITをもっと活用できると思います。

スタジアム写真

スポーツ×イノベーションのための産業集積プラットフォーム作り

ITの活用シーンとして新しいスポーツを生み出していくということもあると思いますが、いかがでしょうか。

さきほどお話しした「CREATIVE SPORTS LAB」の第一弾として「超☆野球」開発プロジェクトが始動しました。これは、一般の人たちでもプロ野球選手のようなプレイを体感できるような、今までの野球を超えた新しいスポーツとしての野球を作り出すことを目指しています。自由な発想を持ち寄りチームごとにアイデアを出し合い議論するというイベントです。

シリコンバレーのように産業集積として新しいスポーツとテクノロジーを使ったものが出てくるというお考えがおありなのでしょうか。

そうです。スポーツ・産業・文化のシリコンバレーという形でしょうか。私たちがある意味核になったり牽引役になったりするけれども、私たちだけではなく、そういう思いを持った人たちが集えるような磁力を発揮したいと思います。横浜スタジアムを中心に、大さん橋から横浜公園、横浜スタジアム、文化体育館、大通り公園までの一本の軸の中にそういうエネルギーをどんどん生み出していって、そこにいろいろな人や会社が集まってくる。そして新たな価値を創造する、そしてまた新たに世界に発信していくという場になり得るだろうということです。さらに、2017年12月から「BAYSTARS Sports Accelerator」を開始しました。これは、横浜DeNAベイスターズが保有するデータやネットワークを提供することで、ベンチャー企業との連携をより強固なものとし、スポーツ産業を生み出し、拡げていく新事業です。本事業を通じて、ベンチャー企業と連携し、横浜に新たな賑わいを創出することを目指しています。

新たなビジネスを作っていくうえで、必要な資源といえば何でしょうか。

ヒト・モノ・カネ・情報そして文化とかそういうものがより多く集まる場にしていくといくこと、つまり、新たなプラットフォームを作るということではないでしょうか。

他の企業と一緒に組んで複合的な価値を作っていくということでしょうか。

そうですね。DeNAはその一つのプレイヤーに過ぎませんから。ただ、DeNAがイニシアティブを取ることを求められている時期が来ているのだろうと思います。

異なるものを結びつけることがビジネスエコシステムの本質

新しいビジネスを作っていくとき、自社の中だけでオーガニックな成長をするというのはなかなか難しいものです。マーケットの多様性を踏まえると、いろいろなものを取りこんで複合的なビジネスを作っていかなければいけません。そのためには、いろいろなところと組むアライアンス型の新規事業という流れがあると思います。

もちろんです。裾野を広げていけば、健康の領域だったり教育の領域だったり観光の領域だったり新規産業の領域だったりします。それはとても私たちの持っているリソースだけで通用するものではありません。むしろいろいろな仲間と組む必要があると思います。いろいろなものはバラバラだと対立しますが、結びつけると新たな価値やより豊かなものを生み出します。

人と人を結びつけるコーディネーター役が必要ですね。

この「横浜スポーツタウン構想」もDeNAが持っているリソースを惜しみなくつぎ込みながら、いろいろな方々がつながっていくことによって、ある一つの方向が出てくるだろうと思います。それがより豊かなもの、より価値のあるものになるだろうということが重要だと思います。

ただ、実際に実現しようと思うと、難しいところもあるかと思いますが、いかがでしょうか。

おそらく、理念を持って、十年先、二十年先に次世代にどういうバトンタッチができるのかということだと思います。一歩でも前に進んで、よりスピード感溢れる姿で次の走者にバトンタッチすることです。それを考えてさえいれば、日々走っている時は疲れて痛いところもあるかもしれませんが、必ずより高いステージに行くはずです。むしろその痛いこととか疲れることがある前提で将来へつながっていくのだと個人的には思っています。

困難と労苦があるのは当然なんだということですね。

それが輪廻のようにぐるぐる回るのではなく、回りながら実はこの輪が大きくなっているのだと思います。

直面する課題とか困難にぶち当たっただけで挫けてしまったり、このまま行ってもその先につながるのかという不安になって止めてしまったりという会社が結構多いと思います。そこをいかに持続的に続けることができるのかということですね。

自分たちだけということにならないことが重要かもしれません。だから人と人、会社と会社とが結びつく必要があると思います。

最後にスポーツ産業の成長ということに関して、コンサルティング会社である、NTTデータ経営研究所にどのようなことを期待されますでしょうか。

スポーツビジネスを含めてコンサルティング実績のある御社が、今後もいろいろなクライアントに新しい価値を生み出していくように刺激したり導いたりすることは、一層重要になっていくと思っています。これからもそういう形で新しい価値の方向性の舵取り役になれるように健闘していただきたいと思っています。

そういっていただけると大変うれしく思います。理念やビジョンなど、成し遂げたいことを忘れずに、いろいろな社会のために貢献して行きたいと思っています。今後ともよろしくお願いします。

よろしくお願いします。