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『情報未来』

当社の研究、コンサルティング、事例から厳選された、お客様の問題解決に役立つ情報誌です。

No.43(2014年6月号)

特集レポート

異業種間アライアンスによる成長戦略のススメ

河本 敏夫
河本 敏夫
NTTデータ経営研究所 法人戦略コンサルティング部門 情報戦略コンサルティングユニット ビジネスソリューションコンサルティンググループ マネージャー

かわもと としお
総務省を経て現職。中長期の成長戦略立案、新規事業開発、事業構造改革を得意とする。通信・メディア・エネルギー・教育・ヘルスケアなど幅広い領域が守備範囲。著書に『マイナンバー 社会保障・税番号制度-課題と展望』、『ソーシャルメディア時代の企業戦略と実践』(ともに、金融財政事情研究会)など。

日本企業を取り巻く環境

 「日経平均2万円台を回復!」―そんな日が訪れるのは遠い未来の話になるのだろうか―

 アベノミクス効果で一旦は短期的な景気上昇のトレンドがみてとれる(2014年4月1日の日経平均株価は、前年同日比22%上昇)。また、2020年東京オリンピック開催決定を受けて、関連産業の需要喚起などで更なる成長軌道を期待する経営者も多いのではないだろうか。

 一方で、消費税率アップや国際的緊張の高まりといった事業環境に対するマイナス要素も大きい。

 日本企業は果たして成長路線を続けるのか、衰退していくのか、分岐点に立っていると言えるだろう。環境変化の中から「機会」と「脅威」を適切に捉えて、自社の置かれた現状に対してもっとも有効と考えられる戦略オプションを選択することが重要だ。

日本企業が陥りやすい成長の隘路(あいろ)

 現在日本企業で時価総額が大きい順に並べると、ソフトバンク、ユニクロなどの一部の企業を除いて、ほとんどが高度成長期を経験して大きくなってきた企業である。そのような伝統的企業(特に、技術力を”強み“と捉えている企業)の特徴として、事業戦略を自社のリソースをいかに活用するかという視点で考える向きがある。いわゆる”オーガニック(内発的)“な成長戦略である。

 実際に、日本と欧米の近年のM&A実績を見てみると、米国のそれに比べて著しく規模・件数が少ないことが分かる。(図表1)

図表1:世界のM&A成立実績(2013/1/1~2013/12/31)

世界のM&A成立実績(2013/1/1~2013/12/31)

出所:THOMSON REUTERS「MERGERS & ACQUISITIONS REVIEW」を元にNTTデータ経営研究所にて作成

 もちろん、”オーガニック“戦略を否定するものではない。自社の強みを生かして小さいリスクで着実に成長を成し遂げていくことは重要であり、今後も一定の効果を生むであろう。ただし、次に述べるように、 ”オーガニック“戦略が有効に機能しないケースというものが存在する。これに対応できていないと、成長の「機会」を逃し、あるいは、「脅威」を乗り越えられないことになる。

オーガニックな成長戦略の限界

 ”オーガニック“戦略が有効に機能しないケース―それは、業界全体の成長限界を打破するための「破壊的イノベーション」、すなわち、既存事業モデルを転換する成長戦略である。既存事業モデルを転換する必要がある場合には、現行事業のリソースやノウハウが時に障害となることもあるだろう。私は、 ”本業“で実績のある幹部が「そんなことで今以上に売上がたつのか?」「一生懸命にやっている現場の取り組みを否定するつもりか?」と新しい取り組みを潰してしまうシーンを何度か見てきた。成長限界を打破するには、これらの抵抗を乗り越えることが重要だ。

 富士フイルムの例が特徴的だ。富士フイルムが写真フィルム市場の世界的な縮小という急激な変化に直面して、事業ポートフォリオを大きく組み替えるような構造改革を実現したという話は有名だ。そのとき、大胆なリストラを遂行する一方で、7000億円近くを投じてM&Aを進めてきたことはあまり知られていない。まさに新規事業に対して「時間を買う」戦略をとったのだ。これにより同社は、インクジェットプリンタ事業や医薬品事業、再生医療事業など、新たな領域を開拓し、その後の営業利益のV字回復につなげた。

規制緩和の進展による異業種参入の機会

 ”オーガニック“な成長だけに頼ってはいけないもう1つの理由は、既存事業が戦っている「市場」自体の境界が変わっていくということだ。

 たとえるなら、ボクシングだと思ってパンチ力の強化に取り組んでいたら、ムエタイの選手がやってきてキックで倒されたということが起こりうるということである。コンビニ大手がカフェ市場に参入し、既存の飲料メーカーやファストフードのパイを奪ったケースが記憶に新しい。

 規制緩和がその動きを後押しする。例えば、2013年5月に薬事法が改正され、これまで製品化のハードルが高かった医療機器の開発が民間団体のチェックで容易に行えるようになったため、医療機器市場への新規参入が活発化した。金融においても、2008年の金融商品取引法改正により銀証分離(銀行業務と証券業務を兼ねることを禁じた政策)を中心とした業際規制は緩和された。黙っていても異業種が参入してくるのだから、自らが異業種を取り込んで新しい市場を形成していくという考えに立った方が有利である。

グローバル経済において重要なスピード感

 言うまでもなく企業はグローバルな競争環境に置かれており、世界中のどこかで生まれたアイデアが瞬く間に全世界に広がるようになっている。グローバルレベルでの企業連合・提携が日常茶飯事のように行われ、島国日本でもその当事者になったり、影響を受けたりする可能性は小さくない。

 その競争に勝つために必要なのは ”スピード感 “だ。良いアイデアであっても、その実現に時間がかかっているようでは、競合に先を越されてしまう。そのためにも外部の経営資源をうまく活用して、迅速に事業を立ち上げることが重要だ。(図表2)

図表2:異業種間アライアンスに取り組むべき3つの理由

異業種間アライアンスに取り組むべき3つの理由

出所:NTTデータ経営研究所にて作成

ビジネスモデルの構造的な成長限界(リアル/バーチャル)

 異業種間のアライアンスが最も効果を発揮しやすいのは「リアル」と「バーチャル」の連携である。巷でも「医療×IT」、「教育×IT」というようにITを絡ませて新規ビジネス/新市場を開拓しようという取り組みが注目されているが、これは、単なる流行の問題ではない。

 「リアル」のビジネスというのは、物理的な場所や人をサービス提供手段として用いるため、必然的に「費用面」「エリア展開」「対応可能な顧客数」「ユーザに対する利便性」に制約が発生する。フィットネスクラブが良い例で、施設のキャパシティが制約となって一定数以上の顧客は獲得できない一方で、料金は高止まりし、通う時間のない人たちは入会してもすぐ退会してしまうというジレンマを抱えている。フィットネスクラブの市場規模は、これを証明するかのように一定の数字で頭打ちとなっている。このような構造的な成長限界を打破するのが、バーチャル(IT)の役割だ。「低コスト」「場所を選ばない」「無制限に拡大可能な顧客接点」「時間を選ばない」というバーチャルの特徴を生かし、リアルの既存ビジネスの業界構造を変革していくことが今後のアライアンスモデルの主流となるだろう。

アライアンスに向けたアプローチ

 企業買収(M&A)や出資によるアライアンスは、自社のコントロール下で事業を推進できるためメリットがあるが、いきなりそこまで ”腹をくくる “のは難しい、あるいは、そのための資金力を持ち合わせていないといった場合には、業務提携レベルでのアライアンスを推奨する。

 企業の置かれた状況にもよるが、業務提携レベルのアライアンスにおいて基本となるのは、次の6ステップだ。

(1)自社の”強み“を発揮しうる新事業領域を特定する

(2)自社の”弱み“を補完しうるアライアンス候補企業を抽出する

(3)自社の”強み“を軸に、アライアンス先企業にとって魅力的なアライアンスプランを提案する

(4)事業モデルの大枠とマイルストンを共有する

(5)推進体制を構築する

(6)事業モデルを具体化する

 最も重要なことは、両者にとってWin-Winの関係を構築することであり、自社の都合だけで考えても結局うまくいかない。また、タイミングも重要で、相手の企業が何を目指していて現在はどのステータスにいるのかを見極めなければ、魅力的なアライアンスプランを提案することはできない。

アライアンスにおいて陥りやすい罠

 アライアンス戦略は、リスクのある戦略オプションである。相手企業の事業戦略や経営状態の影響を受けるからだ。

 例えば、次のようなリスクが考えられる。

【統合化リスク】

相手企業が、自社が提供する機能を含めて、相手企業の事業の一部として統合しようとするリスク

【経済性悪化リスク】

相手企業が、対抗勢力がいないのをいいことに、収益配分を自社に有利なように変更しようとするリスク

【顧客関係弱体化リスク】

相手企業が、直接顧客チャネルを持つことで、顧客情報を活用して自らが前面に出て事業全体の支配力を持ってしまうリスク

 アライアンスを推進するに当たって、このようなリスクを未然に防ぐためにも、少なくとも次の点を定義することが必要である。

【進出先の業界構造とKFS※1】

新規事業の対象市場はどのような競争原理で動いているのか?どこを押さえれば勝てるのか?

【自社のコアコンピタンス】

相手企業に対して何を”強み“として訴求するか?将来的に収益の柱になりうるか?

【既存事業との関係性】

既存事業で抱えるリソースや事業モデルをどう位置付け、どう整合させるのか?

※1 KFS: Key Factor for Successの略。目標達成のために決定的に重要となる要因のこと。

 事業計画の数字を埋めることだけを考えるのではなく、戦略的なプランニングと対外交渉が欠かせない。(図表3)

図表3:アライアンス推進における主なリスクと検討すべき論点

アライアンス推進における主なリスクと検討すべき論点

出所:NTTデータ経営研究所にて作成

虎穴に入らずんば虎子を得ず

 事業戦略において、いわゆる「ウォーターフォール型」で全体の歩調を合わせながら徐々に徐々に前進させていくスタイルは、当事者にとっては安心感があり心地良いやり方である。なにしろ、リスクが抑えられる。しかし、忘れてはいけないのは、自分たちが議論・検討している間にも、市場や競合といった外部環境は常に変化しているということだ。社内で議論を尽くすまえに、外を見ること・現場を知ることが大切だ。座して待つよりも、自ら異業種に参入して市場を開拓していく姿勢が、生き馬の目を抜く21世紀の競争市場において求められる戦い方ではないだろうか。「虎穴に入らずんば虎子を得ず」―是非この機会に異業種間アライアンスを検討してみていただきたい。