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経営研レポート

一人ひとりのwell-beingを実現するデジタル時代のヘルスコミュニケーション

第4回 【インタビュー】医療従事者間のコミュニケーションにおける課題と展望
~医療従事者の働きやすさにつながるヘルスコミュニケーションの実現に向けて~
2022.11.07
ライフ・バリュー・クリエイションユニット
コンサルタント 
荒川 悠佳
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はじめに

ヘルスコミュニケーションでは「医療従事者」から「市民」へと正しい情報を伝えることに主眼が置かれる傾向があるが、近年は様々なバリエーションが派生している。本インタビューでは、数あるバリエーションの中でも「医療従事者」間のコミュニケーションに着目した。

高度化・複雑化・細分化された現在の医療において、患者中心の医療を提供するためには、専門職が連携しあうチーム医療の実践が必要不可欠である。より良いチーム医療の実践には多職種間のコミュニケーションが重要だが、コロナに伴う厳重な感染予防対策により医療従事者間のコミュニケーションの機会が減少し、様々な弊害が生じていると考えられる。そこで、医療従事者間のコミュニケーションの実態を把握すべく「現状と課題」「新型コロナウイルス(以下、コロナ)禍における変化」「今後の在り方」の3観点について、当社のライフ・バリュー・クリエイションユニットに所属するコンサルタントのうち、医療現場において実務経験をもつ3名に話を伺った。

インタビュー概要

  • 日時:2022年9月27日(火)
  • インタビュアー:荒川

インタビュアー

  • シニアコンサルタント 南谷 真理子
    大学病院の周産女性診療科/乳腺外科の外来・病棟で助産師、看護師として業務した後、産科診療所の非常勤当直等を経験。計7年間、助産師・看護師として勤務。
  • コンサルタント 木下 祐志
    脳神経外科の専門病院で3年間、作業療法士として勤務。主に脳血管疾患患者に対する急性期、回復期、維持期のリハビリテーションを中心に従事。
  • コンサルタント 山下 優花
    大学病院で約6年間、看護師として勤務。内科(神経内科/腎臓内科/代謝内分泌内科/リウマチ膠原病内科)と外科(整形外科)の両方に従事。
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(左から)南谷、山下、木下

医療従事者間のコミュニケーションの現状と課題について

―医療現場では、医師や看護師、薬剤師等多職種がお互いの専門性や強みを活かして連携するチーム医療が求められたと思います。普段は、どのような職種の方とコミュニケーションをとる機会が多かったでしょうか。

南谷

院内では、同僚の看護師の次に医師と会話する機会が多かったです。医師・看護職と比べると頻度は落ちるものの、メディカルソーシャルワーカー、薬剤師、栄養士の方たちともコミュニケーションをとる機会はありました。

山下

私も、自分の病棟の看護師や医師との会話が一番多かったですね。南谷さんと違う点でいうと、リハビリテーションを専門領域として活動する作業療法士や理学療法士、言語聴覚士の方々と関わることも多かったです。

木下

作業療法士としても、病棟看護師と関わる機会は多かったです。ただ医師とのコミュニケーションについては、年次が浅くマネジメント業務を担当していなかったこともあり、頻度はあまり高くなかったですね。やはり一緒に患者を担当することの多い、理学療法士、言語聴覚士とのコミュニケーションの方が圧倒的に多かったです。

図表1 チーム医療体制のイメージ

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―そのように多職種との連携が求められる中で、コミュニケーションの課題は主にどのようなところにありましたか。

南谷

先ほど話したように医師との会話が必要となる場面が多かったのですが、基本的に医師は多忙で、常に病棟で患者の診療にあたるわけではなく、外来での診療、手術などもあるため、相談したい時にすぐ相談できないような状況はありました。そのような状況の中、医師とのコミュニケーションは効率的に行うことが求められていると感じていました。

山下

外科では朝から夕方まで医師が手術室に入りっぱなしのことも少なくないため、廊下などで見かけた際に「一瞬だけ時間良いですか?」と小走りに話しかけに行っていました。南谷さんが言うように、医師と会話できるタイミングは限られていたので、短い時間で医師の指示を確認できるように、要点をまとめた【報連相】を意識していました。

木下

お二人に挙げていただいた課題は、医師と看護師間以外でも生じていると思います。やはり自分と違う職種の業務内容や繁忙具合を完璧に把握できているわけではないので、コミュニケーションが難渋する場面が多々ありました。医療従事者であれば、どの職種であっても「患者の立場に立ち、患者が安心できる医療を提供する」といった大きな視点での目的や理念は共通していますが、それぞれの専門性や視点が異なることで意見が衝突してしまうことは課題かと思います。例えば同じリハビリテーション職であっても、一緒に担当している患者のリハビリテーションや退院後の生活に関して、作業療法士、理学療法士、言語聴覚士がそれぞれ異なる視点で考え、意見が割れてしまうこともありましたね。

山下

そうですね、それぞれの職種が信念を持って働いているからこそ、意見の対立が起こることはあったと思います。

―お互いの意見が対立してしまった際には、どのように解決へと繋げていましたか。

南谷

コミュニケーションを適切にとって、お互いの意見や認識を擦り合わせる作業が基本ですね。患者を一番近くで見ている看護師としての意見はしっかりと医師にも共有しますし、各職種がそれぞれの専門分野を踏まえた意見を述べつつ協力・調整し合って解決の糸口を模索していました。

山下

そうですね、各職種が専門的な立場から意見を交換するためにカンファレンスを開いて議論することもありました。

木下

私が勤めていた病院は、病床数が70床程度と、比較的規模が小さいということもあり、全ての職種が集まる全体回診で入院している全患者について今後の治療やケアの方針を検討したり、一部職種のカンファレンスで個々の患者について検討したりといった場を定期的に設けることができました。このように、多職種が集まることで医療従事者間のコミュニケーションの強化に繋がっていたと考えています。

―挙げていただいたようなコミュニケーション上の課題を解決するためには、カンファレンスを実施する他に、デジタルツールの活用も考えられるかと思います。医療従事者間のコミュニケーションにおいては、どのようなツールがあると良いと考えますか。

山下

小さなことではありますが、医師・看護師間のコミュニケーションでいうと、チャットの既読機能のように医師が看護師からの連絡を確認したのかどうかが分かる機能があると良いと思います。既読であれば話しかけるタイミングを待つ、未読であれば電話をかけてみるなど、より医師に配慮できるようになるかもしれません。

南谷

確かに既読機能があって、既読と分かっていれば「先生(医師)もご存じかと思うのですが…」といった形で会話を始めることができるので、効率的にコミュニケーションをとることができそうですね。

木下

私が勤務していた病院では、電子カルテ上でチャットすることができたのですが、既読機能があって便利でした。ただ、チャットは一対一のコミュニケーションというよりは、組織全体に向けた業務連絡の際に活用されることが多かったですね。

山下

なるほど。看護師としては些細な確認はチャットで連絡したい気持ちはありますが、大量にチャットが来ると医師の負担が増えることや、患者の名前を見間違えた状態で指示を出してしまうリスクに繋がるかもしれません。

木下

そう思います。私は、他職種の予定が把握できるツールがあると良いと思います。例えば、ある患者の情報について看護師に相談したい際、その患者を担当している看護師の名前と居場所を病棟まで聞きに行かなくてはならず、居場所が分からないときは病院中を探し回ることもありました。各職種の予定表に、その日担当する患者の名前や、どの時間帯はどこに居るのかが登録され、他職種に対しても共有されれば、効率的に動くことができると思いました。

山下

そうですね。病棟をマネジメントするリーダー看護師を務めていると、同じ病棟の看護師の予定は把握できますが、他の職種の予定は分かりませんでした。手術に入っている先生の名前が分かりやすく表示されていたり、リハビリテーションのスタッフが大体何時ごろ患者を訪問する予定なのかを電話をせずに把握できたりすれば、看護師の業務が組み立てやすくなるかもしれません。

南谷

他の業務で忙しい中でスケジュールをきちんと登録してくれるのかといったことが懸念されますが、毎月の勤務シフト表と予定表をシステム上で連携させれば、ある程度は自分で入力しなくても済むかもしれないですね。

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コロナ禍におけるヘルスコミュニケーションの変化について

―木下さんと山下さんは、コロナ禍の医療現場においても従事されていたかと思いますが、コロナまん延以前と比較すると、医療従事者間のコミュニケーションはどう変化しましたか。また、主な課題はどのようなところにありましたか。

木下

一番大きな変化としては、コミュニケーションの絶対量が減ったことですね。感染防止のためにゾーニングされたことで、リハビリテーション職間でも会話が十分にできないような状況になっていました。徐々にWeb会議システムなどのオンラインツールでコミュニケーションをとる機会が増えましたが、コロナまん延以前と比べると圧倒的にコミュニケーション量は減ったと感じます。

山下

そうですね。ローテーションで他病棟の看護師をコロナ病棟に短期間だけ配属されたり、病棟閉鎖の関係で他の診療科から看護師が派遣されたりしていました。ただ派遣されてきた側の看護師は、慣れない診療科で関わりの少ない看護師とコミュニケーションをとりながら業務を遂行しなくてはならないというストレスがありました。一方で、受け入れ側としても、別の診療科から派遣されてきた看護師がどの程度のスキルや知識を持っているのかを把握できていない状況下で業務の指示をしなくてはならなかったため、コミュニケーションエラーも起こりやすくなっていたと感じますね。

木下

コミュニケーションの絶対量が減ったことで、スキルシェアも難しくなったと思います。症例検討などの機会がなくなってしまったため、経験年数のあるセラピストからのフィードバックを自身の臨床に反映しづらくなりました。業務を遂行するために必要最低限のスキル取得のみに留まり、プラスアルファの勉強があまりできなかったと思います。

山下

そうですね。感染予防対策の観点でお見舞いが禁止となり、患者のご家族と対面で話す機会が基本的には無くなりました。患者の状態によってはご家族に来院いただくのですが、できるだけ同席者の人数を制限する必要があったので、職歴が浅い看護師が話し合いの場に参加する機会がほとんど無くなってしまいました。そのためご家族への声かけや気遣い、沈黙への寄り添いなどについて上司が実践する姿を横で見て、感じて、学ぶ機会が減ってしまいました。看護師の仕事は暗黙知も多いため、見て、感じて、学ぶ機会が得られない状況をとても残念に感じていました。

―コロナ禍でコミュニケーションのニーズが高まっている今こそ見直すべき点はどのようなところでしょうか。

木下

コロナ禍により、コミュニケーションの絶対量は、業務上だけでなくて、業務外においても大きく減っていました。業務外で会話をする機会があまり無かったことで、同僚の人となりをしっかりと知ることができなくなり、業務に支障をきたすこともあったと感じています。そのため、業務外のコミュニケーションのとり方についてこそ見直すべきではないかと考えるようになりましたね。

山下

急変時の対応においては、1分1秒を争うのでスタッフ間の阿吽の呼吸が大事になってきます。急変対応に慣れた看護師や病棟ばかりではないからこそ、普段からコミュニケーションをとり、相手の人となりを知ることは、急変時の初動に関わってくると思います。

南谷

業務内だけでなく業務外においても医療従事者同士が円滑にコミュニケーションをとれていると、それがゆくゆくは患者のために繋がってくるので、普段のコミュニケーションを大事にする必要がありますね。

木下

アフターコロナを見据えて、医療従事者のコミュニケーションの在り方についても見直す必要があるのではないかと思います。スキルシェアの観点だと、従来の対面でのスキルシェアだけでなく、コロナ禍によりウェブ会議が浸透したことにより、遠方の病院など所在地に縛られないスキルシェアなど、コミュニケーション方法のアップデートを図ることも可能ではないでしょうか。

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今後のヘルスコミュニケーションの在り方について

―本連載のテーマにもなっている「一人ひとりのwell-beingを実現する」ヘルスコミュニケーションを実現するためには、どのようなことが重要でしょうか。

南谷

医療従事者は、それぞれ異なる専門性や役割があり、時には専門性ゆえに患者の治療やケアの方針の考え方に違いが生じることもありますが、患者の方の命を預かるという立場においては共通しています。DXが推進されている世の中ですが、連携する医療従事者間でコミュニケーションがしっかりとれていて、信頼関係が築けていないと、円滑な診療・ケアは行いにくくなってしまいます。そして、より良いコミュニケーションを実現するためには、デジタルツールを導入するだけでは不十分で、対面のコミュニケーションを通じてお互いの人となりなどを知りながら、デジタルツールを活用していくことが重要と考えます。

木下

多職種間でのコミュニケーションにおいて、同僚の人となりなどを把握することは重要ですが、それに加えて、各職種の理念や目的などを互いに理解し合うことも重要ではないかと考えます。他職種の視点を共通言語として認識していれば、専門性の違いによる衝突も減り、スムーズなコミュニケーションに繋がるのではないでしょうか。

南谷

現状でも、基礎教育の中で、他の職種の専門性を学ぶ機会はありますが、教科書の文言として頭で覚えていることと、現場で実際に働きながらその知識が実患者に応用できるかということは少し違ってきますよね。

木下

はい、国家資格を取得するにあたって必要な知識以上に、もう一段階深堀した内容を卒後教育として学べるようなシステムも解決策の1つとして考えられますね。

山下

看護研究を実施した際に、自分の受け持っている症例を通じて、様々な職種の方と視点を共有し合う機会があり、とても勉強になりました。実際の業務と関連させながら、多職種と議論したことで他職種の理解が深まりました。

南谷

事例ベースで各職種の考え方や役割を多職種間で共有し合えるようなワークショップがあると、専門職種間の連携スキルやそれに必要なコミュニケーションが学べて面白いかもしれないですね。

山下

医療従事者の「患者のために何かしたい」という思いは共通していると思うので、その思いを共有し合いながらコミュニケーションをとれると良いですよね。今後は、高齢化が進み病床数が限られてくる中で、早期の退院支援を求められるようなケースも増えてくると思われます。医療従事者だけではなく、介護福祉士の方たちとも関わる機会が必要となってくるのではないでしょうか。そのためには、医療従事者間に閉じるのではなくて、地域全体でコミュニケーションをとれるような仕組みがあると良いなと思います。あとは、医療従事者の方々がもっと幸せに働けるような環境になることも期待したいですね。電子健康記録(EHR)、電子医療記録(EMR)、個人健康記録(PHR)といった健康情報サービスを通じて、日々の業務負担やコミュニケーションエラーを軽減するといった工夫は今後更に求められるようになると思います。ヘルスコミュニケーションを専門とする職種の存在が普及しても面白いですよね。

木下

自分らしく働けることはとても大事ですよね。「チーム医療」という表現はよく使われていますが、医療従事者は職種・専門性が異なるだけでなく、一人一人が異なる「人間」ですので、否定をせず寄り添いながらコミュニケーションをとることが求められますね。

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最後に

3名へのインタビューを通じて、実際に医療現場に従事されていたからこそのリアルな声を伺うことができた。医療従事者間のコミュニケーションは、患者の円滑な診療・ケアを行う上で必須のものである。今後、病院の機能分化が進む中で、同じ施設だけでなく地域の他の施設の多職種との連携もいっそう重要になるが、デジタルツール等を有効に活用することで、多職種との円滑なコミュニケーションを支援することができる。他方、DXの推進が図られる中においても日々の対面でのコミュニケーションによって信頼関係を培う・顔が見える関係性を築くなど、アナログ面におけるコミュニケーションは前提として重要である。今後は、医療従事者間のみならず、介護職、行政機関等、地域全体を巻き込みながらコミュニケーションの在り方を検討することで、患者やご家族によりよいケアが提供できるのではないかと考える。

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お問い合わせ先

ライフ・バリュー・クリエイションユニット

コンサルタント 荒川 悠佳

Email:arakaway@nttdata-strategy.com

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