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トップ・インタビュー

日本発のコンサルティングファームとして
進むべき道~前編~

2022.11.01
(語り手)株式会社シナ・コーポレーション 代表取締役 遠藤 功
(聞き手)NTTデータ経営研究所 代表取締役社長 山口 重樹
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デジタルテクノロジーが社会や経済・経営に大きな影響を与える時代において、コンサルティングファームへの期待が高まっている。

今回の「NTTデータ経営研究所 対談シリーズ」第1回目では、長年、日本のコンサルティング業界をリードし「現場力」をテーマとした多くのコンサルティング経験をお持ちの遠藤功氏をお迎えし、NTTデータグループにおけるコンサルティング専門会社である当社が進むべき方向性や若手コンサルタントへの期待などについてお話しを頂いた。

テクノロジーが進化し、社会や企業が変革しようとしている中で現在のコンサルティングファームに求められるものとは?

山口

遠藤さんには以前からNTTデータの事業について多くのアドバイスを頂いておりました。そこで本日は、コンサルティングファームのあるべき姿についてお話をいただこうと思います。

NTTデータ経営研究所は社会環境分野や政策提言において、業界内でもそれなりの存在感を持てていると自負しています。しかし、テクノロジーの進展が社会や経済・経営に大きく影響を与えている中、テクノロジーのインパクトを一層理解した上で、政策提言や経営戦略のコンサルティングを強化していく必要があると考えています。

また、NTTデータグループにおけるコンサルティング専門会社というメリットを最大限生かして、テクノロジーの知見とグローバルでのデジタル変革に関するベストプラクティスなどもNTTデータ経営研究所が集約し、情報発信していけるような存在になりたいと思っています。

まずは、デジタル変革により社会や企業が変わろうとしている中、現在のコンサルティング業界についてどのように感じておられるのか。また、従来とはどのように異なる変化が起きているのかについて、お話いただけますでしょうか。

遠藤

山口さんがおっしゃる通り、テクノロジーの進展で社会や経営の在り方が根本から変わりつつあるにもかかわらず、それに上手く適応できてないのが日本という国、そして多くの日本企業の特徴であると思います。

私が約30年前にコンサルタントになった時も、実は「テクノロジー」、今で言うITが重要視されていました。ITの重要性は30年前から変わっていないと思いますが、現在ではさらに進化し、AI、ビッグデータ、メタバースなど、社会や会社の在り方を根幹から揺るがすようなテクノロジーが続々と出きています。しかし、社会や会社の在り方は相変わらず旧態依然としています。もちろん、企業もいろいろと模索してはいますが、この流れの中、経営をどのように変えて行ったら良いのかという答えがないまま大きな波に流されて進んでいるような気がします。

私がコンサルタントへ転職した頃は「コンサルティング業界に入って大丈夫か?」と皆が心配してくれていた程、黎明期の業界でしたが、今では社会的な認知も得られ、コンサルタントの重要性は高まっています。コンサルタントの役割がどんどん大きくなっていく中、「変革のパートナー」になるべきコンサルタントが今まさに必要だと感じています。

しかし、経営者視点で会社の変革を語れるコンサルタントがどれほどいるかというと、そんなにはいないのが現状ではないでしょうか。現在ではコンサルティング業務が細分化され、それぞれの専門性はあるけれども経営全体に大きな視点で語れるコンサルタントは育っていないような気がしています。多くのコンサルティングファームが、クライアント先への人材派遣、つまり高級人貸し業になってしまっている。

コンサルタントは優秀でよく働きますから、クライアントは一旦使うと手放さなくなるケースが多いと思います。しかし、長期間一つのクライアントに常駐し、リサーチや資料作りばかりやっていると、やがてキャリアに不安を持つ若手コンサルタントもいると聞きます。クライアントに頼りにされることは良いことですが、「このような仕事でコンサルタントとしての実力がついているのか?」と不安を感じている若手コンサルタントが私のところによく相談に来ます。

山口

確かに、コンサルタントの役割や仕事の中身が細分化され、昔はコンサルティングと言わなかったような仕事も、コンサルティングと言ってやっているケースもあると思います。

そうは言いながら、やはり社会から求められている真のコンサルタントというのは、「経営目線」で語れる人材であるという話もありました。では、今、コンサルタントには何が本当に求められていると考えればよいでしょうか?

遠藤

やはり、今はテクノロジーだけでなく戦略や組織、業務も分かる…様々な要素を複合的に語れるようなコンサルタントが必要なのだろうなと思います。

正直、これだけ社会環境の変化が激しく、しかも新しいテクノロジーがどんどん生まれてくる中では経営の在り方というのはそんな簡単には描けないと思います。そのため、経営のグランドデザインを一緒に考えてくれる、新しい経営のあり方を一緒に考え、描いてくれるような人が求められていると思います。

もちろん、グランドデザインをいかにブレイクダウンして実行していくかというところにもサポートは必要ですが、そもそも最上流のところから議論ができるようなコンサルタントが必要なのだと思います。今は残念ながら、その役割を一部の外資系コンサルティングファームが担っていますが、本当にそれで良いのだろうかという問題意識を私もずっと持っています。

やはり日本企業の価値観を理解し、日本企業に合った提言ができるような国産のコンサルティングファームが必要だと思います。

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日本企業を理解し、日本企業の強みを生かしたコンサルティングとは?

山口

私も日本の習慣や日本の経営を理解しているコンサルタントが必要だと思っています。ちなみに遠藤さんは「現場力」に関する著書の中で、日本の強みをどう活かし経営のレベルを上げていくべきかという話をされています。

日本の企業は、従来から利益の最大化だけではなく、従業員、取引先、パーパス等の重要性を言ってきましたが、グローバル経営においてはそれが日本独特のもので良くないように言われた時期がありました。しかし、米国の財界団体であるビジネス・ラウンドテーブルでは2019年に「株主資本主義」から「ステークホルダー資本主義」への転換を宣言しており、かつての日本企業と同じようなことを言っています。そう考えると、グローバルを知った上で更に日本企業の良いところを活かすという考えで良いのでしょうか。

遠藤

おそらく普遍的なものはあると思います。この失われた30年とも言える期間、日本企業は自信を失い、盲目的に欧米的な考え方を導入してきました。もちろんグローバル競争に勝つためには、欧米の考え方も入れなくてはならないのですが、結局、経営そのものが同質化してしまったということはあると思います。

しかし、だからこそ日本企業ならではの戦い方や日本企業が持つ強みというものをどのように認識するのかが肝要であり、やはりグローバルを知った上で、また知っているからこそ、日本的な良さに気が付かなければいけないのだと思います。世界を知らずに「これは日本の強みだ」と言ってもどうしようもないのです。

私は長年のコンサルティング経験の中で外資系の企業とも多く付き合ってきましたが、結局行き着いた結論は「現場の力しか日本企業が勝つ道はない」ということです。

欧米の企業と比べて何が本当に優位性なのかと考えた際、もの作りだけでなくてサービス業においても現場が持っている底力は絶対負けない、そしてそこに競争優位があるはずだ、と私はずっと言い続けて来ました。それは単に日本企業だけを見て考えた訳ではなく、グローバル企業にどう勝てるかということを考えたときに行き着いた結論だったのです。

「現場力」という日本企業の良さが分かっていないと結局同質化するばかりです。「米国の企業はこういうことをやっているから真似しなさい」と言うのは、それはそれで必要な一面もありますが、結局は米国のやり方に近づいていくだけで「相手の土俵」で戦うこととなり、結果としてグローバルの中では決して勝つことができません。

では、「彼らが真似できないものって何だろう」「日本独自の模倣困難性って何なのか」ということを一緒に議論できるようなパートナーを経営者は求めているのではないかと思います。

山口

その点は痛感します。日本の固有なものに単にこだわるのではなく、グローバルで見た中での日本の強みがグローバルでも戦える普遍性があるということです。その普遍性をしっかり捉え、それとグローバルで良いものを組み合わせていくということを、経営者は求めていると思います。

遠藤

経営をグローバル化し、日本的な考え方や価値観を捨ててグローバル企業になろうと舵を切っている企業もありますが、それではなにか面白みがないな、という気がします。

世間ではまたインバウンドが始まり、海外からどんどん人が押し寄せています。円安の影響もありますが、それ以外の理由でなぜ日本にこんなに外国人が引き寄せられるのかと考えると、やはり彼らには日本独自の価値というのがすごく魅力に感じているのだと思います。

それはサービス業における「おもてなし」だったり、職人技であったり、繊細なことにこだわるところであったり、多分海外では体験できないものなのではないでしょうか。そこを求めて来ているということを考えると、やはり日本の底力もまんざら捨てたものじゃないと思います。企業はそうした日本の底力が生きるような事業や戦略を立てなくてはいけないと思いますし、それに対してきちんとアドバイスができる人、すなわちコンサルタントが必要なのだろうなと思います。

山口

それができるコンサルタントというのは、遠藤さんのようにグローバルの経験・知見を持ちながら、日本の経営者の立場で物事を考えることができるというグローカルな視点を持ったコンサルタントということになりますね。

遠藤

一時、海外の受け売りコンサルタントが多かった時期がありましたよね。「米国でこれが流行っているから、これをやるべきだ」という。しかし、そういう受け売りでやっても、その企業が良くなった試しは殆どありませんでした。そういう流行に流されず、この会社には何が本当に必要で、何が強みなのかという物事の本質を冷徹に見極められるコンサルタントが必要だと思います。社内で気が付いていない課題や長所、強みというものは結構あるので、そういう意味ではコンサルタントという客観的な外の目というのは、益々大事になってくると思います。

山口

遠藤さんは海外でMBAを取られ、外資のコンサルティングファームで仕事をされているため、グローバルのことを理解された上で、発信をされていますよね。「現場力」などの著書を読ませていただいくと、それらを感じる独自の見解を発信されており、そこが素晴らしい所だと思います。

遠藤

私はコンサルタントをやっていて、基本的に横文字は使わないようにしています。日本語で言えることは日本語で言おう、要は横文字でごまかさないようにしようと。

横文字を使うと、さも格好よく最先端みたいに思うじゃないですか。過去に、某製造業の役員の方とサプライチェーンの話をしたときに「サプライチェーン、サプライチェーンって言うけど、結局それって何なの?」と質問を受けたので意味を解説したら、「それはウチでは需給調整っていうんだよ。何か偉そうにサプライチェーンって言うから、すごく新しい考え方なのかと思ったら、ウチはそんなことずっと前からやっているよ。そうやって全部横文字でごまかすんだよね。」と、言われたことがあります。

実際、日本語に置き換えて話をするようにしないと現場には浸透しません。経営者等の上の方はまだいいですが、現場で話をした際、横文字を使った段階で全く理解してもらえない。

そういうこともあって基本的には「横文字でごまかすな」ということを、若いコンサルタント達にずっと言ってきました。

山口

遠藤さんの著書には「ねばちっこい経営」というキーワードがよく登場しますね。諦めずにきっちりやり遂げる、やり切ることが本当の競争優位を作っている、ということかと解釈していますが、これも経営の本質というか的確な言葉だと思っております。

遠藤

「ねばちっこい」は茨城弁ですね。某納豆製造業の経営者の方から教えていただいた言葉ですが、「他の会社はすぐ諦めるが、うちは諦めずに粘って粘って粘ってやってきた」と。普段忘れられがちではありますが、諦めないことも、ビジネスの本質の一つのような気がします。

最近は、やってみて駄目だったら他に行けばいいじゃないか、といった風潮がありますよね。グローバルではそれが当たり前なのかもしれないけれど、日本の現場力を活かす際には、粘って深く考え、普通なら諦めてしまうところを諦めないような執念深さのようなもの、これが大事だと思います。しかし、今はそういうものがすごく軽く扱われているような、もしくは否定されているような気がします。世の中の流れは、こだわらない経営の方に行くのかもしれませんが、逆にこだわる方が日本的なんじゃないのかと思ったりしています。

山口

遠藤さんは企業の文化が大切だということを著書に書かれています。私も最近、海外のビジネススクールの先生が注目されている米国企業の資料を読む機会があったのですが、米国のサウスウエスト航空やSASのように、企業文化や人材など、今まで日本企業が大切にしてきたものを大事にしている企業が伸びている傾向にあると思いました。これについてはどうお考えでしょうか。

遠藤

そうですね。米国企業とか日本企業とか関係なく、世界の優良企業が何を大事にしているかを考えると、共通するのは、独自の企業文化をすごく大事にしているということが挙げられます。3MしかりP&Gしかり、自分達ならではの独自文化というものが、競争力の根源にあるということが共通点だと思います。

例えばトヨタは「カイゼン文化」にこだわっています。他の会社でもカイゼンをやっているかもしれないけれど、それを企業文化にまで高めているのはトヨタだけだと思います。自分たちがこだわっているものを組織文化として持っているのは、最大の模倣困難性となります。

日本企業の中で、本当に組織文化を意識して経営している経営者がどれほどいるかは正直分かりませんが、「人」は大事にしてきたけれど「文化」については、暗黙的なものにとどまっていたのだと思います。しかし、その企業文化も今や消えつつあると危機感を覚えています。

NTTデータ経営研究所でも、言語化はできないけれど、やはり独自の文化がありますよね。それこそ、誠実性だったり信頼性だったりというところで、お金には変えられない皆さんの価値観や個性があるような気がします。しかしそれらは意識的に伝承しないとどんどん消えていくものなのです。やはり日本企業も一度自分たちの「らしさ」のようなものをきちんと言語化して、社員に伝える努力をしなくてはいけないと思います。

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経営者から信頼されるコンサルタントとは?

山口

遠藤さんは外資系コンサルティングファームで長く活躍されてきましたが、経営者の方と本気で多くの改革を進めてこられたと思います。それには経営者の方からの信頼が必須ですが、どのようなことを心がけてきたのでしょうか。

遠藤

私は最初、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)に入社したのですが、そこには堀紘一さんという偉大なコンサルタントがいました。やはりお手本というのはすごく大事だと思います。私は、異次元レベルでの仕事をされるお手本と共に仕事をすることで「すごい人がいるのだな」と衝撃をうけました。

堀さんのすごいところは、経営者の懐に飛び込んで、経営者と丁々発止やり合うところです。時には喧嘩みたいな議論まで、すべて真剣勝負なのです。経営者が悩んでいる時、社内には高い次元で議論をできる人材はそうそういないので、腹を割って議論ができるコンサルタントの価値は高いですよね。

最上流のところで経営者と向き合い、腹を割って話す相手という役割を得たコンサルタントはその会社の方向性を決めるわけですから、すごく価値が高いと思います。そして方向性を決めた後の実行系は、色々な専門性に富んだコンサルタントがサポートして行けばいいのです。

ちなみに、私の周りの若手コンサルタントに「君は社長とどれくらい会っている?」と聞くと、「プロジェクトが始まったときの最初のインタビューと報告会だけです」と言うので、「そんなことで社長の想いが分かるのか?」「社長が本当に何したいかが分かるのか?」と発破をかけます。もっと社長との時間を取れ、もっと濃密な時間を数多く作れと言っているのですが、実際には経営者と直接接する時間は限定的で、それで本当に経営者の想いが分かるのだろうかと、日々懸念しています。

本当に結果を出せるコンサルタントは経営者の懐に飛び込んでいきます。「大事なことですから、時間をください。30分でいいです。朝7時や8時でも伺います」と。プロフェッショナルとしてクライアントに対して結果を出す責任を持っている場合、直接向き合う気概と努力はすごく大事なことのような気がしますが、若い人たちはちょっと遠慮してしまっているように感じます。もっとプロとしての心構えが必要かな、という気がします。

山口

確かにコンサルタントの立場から経営者と対峙しようとすると、かなりの知識と熱意と論理力がないと、ただ経営者の話を聞くだけになってしまいますし、経営者から見ると「このコンサルタントからは得るものがない」と思われてしまいますよね。

遠藤

そうなのです。経営者と直接キャッチボールする自信が無い。だから会いたくないのです。でも、それでは力がつきません。

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遠藤 功 氏 プロフィール

Profile
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Endo Isao
遠藤 功
株式会社シナ・コーポレーション 代表取締役

早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)

三菱電機、複数の外資系戦略コンサルティング会社(ボストン・コンサルティング・グループ、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)、ブーズ・アレン・ハミルトン(現PwCコンサルティング)、ローランド・ベルガー)を経て、現職。2006年から2016年まで早稲田大学ビジネススクール教授を務めた。2020年6月末にローランド・ベルガー会長を退任、同年7月より「無所属」の独立コンサルタントとして活動している。多くの企業で社外取締役、経営顧問を務め、次世代リーダー育成の企業研修にも携わっている。

株式会社良品計画社外取締役。SOMPOホールディングス株式会社社外取締役。株式会社ネクステージ社外取締役。株式会社Epsilon Molecular Engineering社外取締役。株式会社ドリーム・アーツ社外取締役。株式会社マザーハウス社外取締役。株式会社ガラパゴス顧問。Unipos株式会社顧問。静岡県ラグビーフットボール協会理事。

15万部を超えるロングセラーである『現場力を鍛える』、『見える化』(いずれも東洋経済新報社)をはじめ、『生きている会社 死んでいる会社』、『現場論』(いずれも東洋経済新報社)、『新幹線お掃除の天使たち』(あさ出版)、『ガリガリ君の秘密』(日本経済新聞出版社)など、ベストセラー書籍多数。7月に『「カルチャー」を経営のど真ん中に据える』(東洋経済新報社)を出版。

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