「NTTデータ経営研究所 対談シリーズ」第3回目では、ボストン コンサルティング グループの日本代表も務めた、日本を代表するコンサルタントの一人である杉田浩章氏に、変革が求められる時代におけるコンサルタントのあり方を聞いた。
10年の時間軸で企業の成長戦略を考える
今日は、ボストン コンサルティング グループ、シニア・アドバイザーの杉田浩章さんをお招きしてお話をお伺いしたいと思います。
杉田さんは1994年、ボストン コンサルティング グループに入社され、以来28年間、消費財、メディア、ハイテク、通信、産業材、自動車、運輸など、さまざまな業界の経営課題解決を実行されてきました。
2006年~2013年にかけてはBCGジャパンのオフィスヘッド、そして2016年から2020年にかけては同社の日本代表も務められました。現在は同社のシニア・アドバイザーのほか、早稲田大学大学院経営管理研究科の教授、ユニ・チャームの社外取締役、Kaizen Platformの社外取締役などを務めておられます。
著書に『10年変革シナリオ 時間軸のトランスフォーメーション戦略』(日経BP・2023年)、『プロフェッショナル経営参謀』(日本経済新聞出版・2020年)、『リクルートのすごい構“創”力』(日経BP・2007年)、『BCG流 戦略営業』(日本経済新聞出版・2016年)、『思考する営業』(ダイヤモンド・2009年)などがあります。
この10年ぐらい、経営環境の変化が激しく、日本企業の国際的な競争力の低下も指摘されています。杉田さんは30年にわたって経営コンサルタントとして活躍されてきましたが、今、日本企業や日本社会に求められていることは何でしょうか。また従来とはどのようなことが違ってきているのでしょうか。
これまで日本企業は、過去の市場成長の波に乗りながら、その間に培ってきたビジネスモデルやオペレーションを磨きこむ持続的なイノベーションにより日々改善を積み重ねながら事業を成長させ収益を上げてきました。
しかし現在は、既存事業がその先の成長が見込めず、今までの勝ちパターンがすでに金属疲労を起こしているという状況です。そうなると、最低でも10年ぐらいの時間軸の中で、自分たちの目指す姿を決めながら、そこに向けてどう抜本的な変革のシナリオを作っていくのかという形にアジェンダを置き直す必要があります。
中期経営計画のような3年のフレームの中で企業を変えていこうと思っても、3年後をゴールにしたら、もうその先の将来がないということになりかねないところに来ていると思うのです。
戦略とパーパスをつなぎ、企業のカルチャーも変える
杉田さんは最近、『10年変革シナリオ』という本を発行されました。
私も読ませていただきましたが、大変感銘を受けました。この本の中で杉田さんは、10年間という長期的視点で、コア事業のディフェンス、次の周辺事業の構築、将来の持続的成長基盤の創出という3つのウェイブを回し続けることが必要だとされています。
単なる両利きの経営ではなく、真ん中の自社の事業から少し幅出ししたところで事業を考えていくことが大切だということですが、3つのウェイブを回し続けるためには、経営者はどのようなことを考えるべきでしょうか。
大切なのは、短中期の時間軸で変革プランを描かないということです。そうなると、企業としてまずは構造改革に取り組んで、それを終えてから、次の成長をどう描くのか、どう道筋をどう作っていくのかと考えがちになります。長期に変革を成し遂げていく際、構造改革が終わった段階から成長に向けた仕込みを始めていては時間軸的に間に合いません。構造改革やビジネスモデルの変革によって今の既存事業からどのように収益を生み出し続けるのかというプランと長期的な新たな領域を築く成長プランを一緒に描いていくことが必要になってきます。
ただし、10年後を支える領域について、今の時点で確実にこれが正解だと見つけられるわけではありません。それまでの間もつなぎながら、今の事業の周辺のところを含めて、キャッシュを生み出し続けることを意識し回していって10年の時間軸で成長領域の探索、獲得にキャッシュを回し続けていくシナリオを考える必要があります。
その点では、企業によっては3ウェイブのところもあれば4ウェイブのところもあるでしょう。うまくいく企業では2ウェイブで行ってしまうこともあるかもしれません。いずれにしても、そういうシナリオを持ちながら、どこで今のキャッシュを生み出し、それをどこに投資し、それでまたキャッシュを生み出し、もう一つ先のどこに投資するかといった、儲けどころと新しい将来を作るためのキャッシュを投入していくところ、これをずっと描き回し続けていくのです。そうすることで、時間も経過してくると、少しづつ視界がよくなるので、そこを見定めながら、必要に応じて方向転換をし、ウェイブを回し続けることが大事です。
この本の中で、過去の経験に基づき特に共感を得たのは、10年の時間軸で考える時には、パーパスと戦略をつなげ、カルチャーまで変えていかなければいけないということです。単なる事業のポートフォリオだけではなく、それができるカルチャーをどう作っていくかも重要だと指摘されていますね。
企業を変えていく戦略的な構想とは、長期的な投資への資源配分をどう最大化するかということです。自社が揺らいでしまう博打に走らずに、どこまでは許容可能なリスクを取ってストレッチして長期的に投資できるのか。また、投資するのは将来のどのような領域なのか。それは市場創造であり、ブルーオーシャン戦略そのものです。
一方で、それを動かし実行するのは従業員ですし、場合によっては投資家も含め外部の人たちの支持が必要になってきます。その人たちに一体自分たちはどこに向かっていくのか、それをやったらどういう産業や社会の変革につながり、どのような素晴らしい世界が待っているのか、を像としてイメージさせられるように何らかの形で明確に言語化し、組織の中に浸透できるようなレベルに落としていかないと自分事化して回っていかないのです。
特に大きく長い時間軸の変革の場合、トップダウンでやるぞと言うだけでは企業は変わりませんし動きません。それを言語化し、社員一人一人が自律的に行動するようなところまでパーパスをつないでいくとことが必要です。それにより、今、どのような行動が組織に求められているのかがお互いに見えてきて、それが新しい行動規範、価値観になり、そのこと自体が新しいカルチャーを作っていくことにつながるのではないかと思っています。
私も企業経営者の一人として理解できます。社員のモチベーションを上げて、新しい方向に行動してもらうことが重要です。言語化してカルチャーにして個人の行動にまで落とし込んでいくことができないと、いくらいい絵ができても駄目だというのはおっしゃる通りだと思います。
もう一点、この本に書かれていたことで、一般的にはあまり言われてないと思ったのは、将来の成長価値への期待と信頼を生み出す投資家マネジメントです。投資家は短期的には配当が多ければいいということだと思いますが、長期的にはやはり企業が成長して株価が上がる、企業価値が上がるということが望ましいわけです。投資家を応援団にするというような発想は、なかなか他の経営戦略本には書かれていないと思いますが、杉田さんがそういう発想に至った経緯はどのようなものだったのでしょうか。
本の中では企業が陥りがちな「5つの罠」も挙げました。最も出てくる言い訳の一つは、「自分たちは長期的に会社を変えていきたいし、そこに投資をしたいのだけれど、株主が短期志向で許してくれない」というものです。実はこれは言い訳に過ぎず、正しく課題をセットすれば解決できる、あるいは解決するための努力はできるものです。
しかし、逆の言い方をすると、そういう投資家にサポートしてもらう、あるいはサポートしてくれるように投資家そのものを入れ替えていく必要があります。投資家の支持を得られない限り、絵に描いた餅です。従業員への内なるアラインメントと同じように、投資家など影響力のあるステークホルダーに対して外なるアラインメントを作っていかなければ動きません。その重要性とともに、そこはマネージできるものであるということを伝えたかったのです。
経営参謀としての外部のコンサルタントの存在意義
本の中で、杉田さんがリクルートHD、ユニ・チャーム、ヤマトHDなど、日本を代表する企業の変革を支援されたことが紹介されていました。
経営者は変革を進めていかなければなりませんが、経営者一人ではできないということで、経営参謀的な存在が大変重要であると書いておられます。経営参謀というのはどういう役割でどういうことが求められるのでしょうか。
経営者はリーダーシップをとりながら、先ほど申し上げたような短期的な収益最大化と長期的な目線での成長基盤の獲得を同時に果たしていかなければなりません。時にはトレードオフも発生します。判断力、意思決定力により、リーダーそのものがそのトレードオフを乗り越えて前に進める決断をすることはもちろん重要なのですけれども、現実的には現場とつなぎ、最前線の現場が一体となって同じ方向に向かって動くことを自分事としてモチベーションを持ってやってもらうようにしなければならないわけです。
10年、あるいは10年を超えるありたい姿のアスピレーション(aspiration:大志・野心)と、現場の今には大きなギャップがあります。このギャップを埋めながら回していくシナリオを作っていくことになります。その時に、トップと現場のギャップを埋めつなぐプランニングをしていくのが経営参謀です。
そのプロセスにおいては当然、うまくいかないことがたくさん出てきます。その理由を察知するとともに、それに対して機敏に、「やり方を変えてみましょう」「ここはいったん諦めてもこちらを取りに行きましょう」とトップに対して提言し、ある部分はサポートしながら一緒に回していく人材です。
本の中では、経営参謀はどちらかと言えば社内の経営企画担当の役員などが実施されているように理解しました。しかし、内部の経営参謀は視野も限られがちです。そこで、経営コンサルタントが、役員などの経営参謀を支えたり、あるいは自らが経営参謀の役割そのものを担ったりすることもあると思います。そのためには、コンサルタントに、そのような参謀的な発想や仕事の仕方や、課題を設定し解く力が求められるように思います。
長期的な変革に取り組んだ経験がある企業は多くありません。そのため、これを支援する外部のプロフェッショナルな経営参謀は重要だと思います。
私はよくコンサルタントに、クライアント、特にトップに火をつけるのが大きな役割だと言っています。火が付くとは、コンサルタントが「こういう形でやっていけば、将来のプラン実行に向けてのボトルネックが解消できるのではないでしょうか」と、寄り添いながらダイアログ(dialog:対話)することで「じゃあやってみようか」となることです。それが火をつける役割です。
もう一つは、動かしていけば必ずうまくいかないことが出てきます。うまくいかないときに、どのように解決していくのか。このヒントは内部にはなくて、外部の同じようなことを先にやった、先につまずいた、成功したといった知見が役に立ちます。コンサルタントがそのような経験をこの企業における意味合いに解釈し直して伝えるのです。それにより、一つつまずいたから止めてしまうのではなく、二の矢、三の矢を打ち出し続けられる。これを支援する外部の視点や外部の知恵がすごく重要だと思います。
あるべき論を伝えるだけでなく、二人三脚で経営者に伴走する
ともすれば、経営コンサルタントは経営戦略のあるべき論の報告書を書いて、「この通りにやったらうまくいきます」で終わりがちです。もちろん、その報告書にも知恵が詰まっているのでしょうが、今の杉田さんのお話では、経営者に気付きを与え、またそれを実行していく過程での支援をしていくという、一方通行ではなく、二人三脚のようなことが経営コンサルタントに求められているということですね。
その通りです。それは、戦略と実行は一体であって、行ったり来たりするような形で回していかないと課題が解けないような難しい時代になっているからです。
コンサルタントの経営参謀は経営者に寄り添ってその都度その都度、最適な解をアドバイスし、一緒に実行していくとのことですが、具体的にはどのようなことを行うのでしょうか。
何かを進めようとしたときに経営者が逡巡するケースが必ずあると思います。それは恐らく、見ている視座、視界が広いからです。いろいろなことのトレードオフや、これをやることでこっちにいる社員はデモチ(モチベーションを失う)してしまわないだろうかと、いろいろなことを考えているわけです。
ですからコンサルタント、特にシニアのコンサルタントは、経営者が一体どこにどういう悩みを抱えているのかを正しく理解することがとても重要だと思います。その悩み、課題が見えてきたら、それがまさに今解くべきセントラルクエスチョンです。それを最初に解かない限りは次に進めません。あるいは、今それを悩んでいても仕方がなくて、「それよりもこっちをまずやって、それによってどういう反応なのかを見て、そこから考えたほうがいいですよね」というように、新たなオプションや視点を提示することが大切なこともあります。
このあたりの今解くべき課題をどのようにセットするか。まさに対話、ダイアログしながら、これを実現するのがコンサルタントの役割です。そこで絶対に押し込んでは駄目です。「世の中ではこういうものなのだ」「これをやったら答えが出るのだ」という押し込みでは駄目なのです。企業固有の悩みのポイントや、歴史などいろいろなものがある中で生まれている課題なので。そこの本質を深く理解した上で寄り添いながら、ただし時にはあえて反論も含めて視点を提示する。最後に決めるのは経営者ですけれど、それを支援することが重要です。
杉田さんのもう1つの書籍、『プロフェッショナル経営参謀』を読ませていただいた時に、すごいなと思ったのは、お客さま側の意志意思決定のプロセスとかメカニズムを組み立てて、どうやって意思決定してもらえば上手く行くか、といったところまでコンサルタントが考えるというところでした。
組織における意思決定のメカニズムは、必ずしも明示的に定義された組織図で表される責任権限やレポーティングラインで決まるものではありません。意思決定をする時に重要なステークホルダーは、実はインフォーマルな中で存在していると思います。大きな意思決定をしようと思ったら、例えば工場や営業の人たちが動くか動かないかが非常にクリティカルであり、労働組合など違う考え方を持っている人たちがいます。この人たちを、「その方向に向かって行くことが自分たちにとってもいいことなのだ」という、同じ船に一緒に乗せることが大切です。組織図やレポーティングラインの上から順番に落としていけばいいという話ではありません。
私も組織の人間です。まさに組織図に書いてある一番上の人だけで物事は進みません。説明不足などによって、思わぬところで反論が出たり止まったりすることもあります。置かれた人の関心事で説得しないと、一方通行的にあるべき論だけでは納得してもらえないというのもよく分かります。
変革を支援するコンサルタントに求められる能力
私たちNTTデータ経営研究所として、コンサルタントとして、どんな能力を身につけていけばいいのか、または日々どういうことを心掛けていけばいいのかを教えてください。
もちろん、一般に言うインサイト、洞察力、これが極めて重要です。ここで洞察力と言った時に、不確実な時代に将来を見通すことや、何が重要なメガトレンドかといった、ある種のインテレクチュアル(intellectual:知性・知的)なインサイトを磨いていくことは大事です。
しかし、以前のこの対談で一橋大学の名和高司さんが「EQ(Emotional Intelligence Quotient:心の知能指数)」の重要性を指摘されていたように、人が何によって動機付けられるのか、どういうボトルネックにより動かないのかを見極めるのもある種のインサイトなのです。そのソフトなインサイトを読み解かないと、組織の大きな変革は実行につながらず、成果も出ません。
コンサルタントはどうしても、戦略的なハードな側面やものの見立てに意識が行きがちになりますが、もう一方の、組織を動かすためのレバーというインサイトも鍛えていくことが重要だと思います。
そのような組織を動かす時に皆さんをどう説得し、同意を得て進めていくかというEQは勉強だけでは得られないものだと思います。杉田さんは書籍の中で、「多彩な視点を持つ人に直接会って話を聞き、そこから想像力を膨らませて仮説を作りサイクルを回す」ということを書かれていていました。
『プロフェッショナル経営参謀』の中でも書きましたが、人はどうしても自分の経験に基づいたあるバウンダリー(boundary:境界・限界)を決めていて、この領域の中で、今言っていることの意味合は何かとか、未来において重要なポイントは何かと見がちになるのです。いろいろなことを質問しに行ったり、ヒアリングしたり、学んだりする時にも、自分のバウンダリーの中で分からないことを聞きに行くとか、穴を埋めるということをやるのです。しかし、本質的な解に近いヒントは、自分が経験したことのない、自分のバウンダリーの外にあるのです。
ですから、今のこの課題にとってヒントとなることが何かないだろうかという目線で外に探しに行き、これってもしかするとこういう意味合いで使えるかもしれないというアナロジー(analogy:類似点)を持った上でもう一度自分の中に戻すのです。自分のバウンダリーの中には答えは見つかりません。新しい知がどんどん外に生まれています。それを常にアップデートし、あるいは自分自身のバウンダリー、視野の境界線を広げていくとことが重要だと思います。
積極的に人に会いに行き、自らの視野を広げる
杉田さんがコンサルタントをされていた時にはそういう人的なネットワークのようなものを作って、直接会いに行っていたのですか。
コンサルタントは、プロジェクトなどで直接的にクライアントと接しているかどうかにかかわらず、さまざまな業界のさまざまな方に比較的容易に会うことができます。経営トップだけではなくてミドルにも会えますし、様々な領域のエキスパートや研究者や大学の先生など深い知見を持たれている方などにも会えます。コンサルタントは、一般的な企業の中にいるよりも、異なる業界にいるさまざまなファンクション、レイヤーにいる男性、女性など多様な方々と接点が作りやすい立場にあるはずです。それを最大限生かすことをずっとやってきました。
会っていただくためには、相手の方も杉田さんと会って何かためになるようなことを提供しないと続かないと思うのですけれども、そのあたりはどのような工夫をされたのですか。
そこは結構、面白いポイントですね。若いコンサルタントは、そういったことがあるので、人に会うのをヘジテイト(hesitate:ためらう)するのです。それは全く間違っていて、こちらから何かを提供するというよりも、的確な質問をしながら、「おっしゃっているのはこういうことなのですね」と、その人の言いたいことをちゃんと理解して引き出す、その能力のほうがよほど重要です。
もう一つは、そうやっていろいろな人と会う機会が増えるほど、会話の幅も広がることです。あるコンサルタントの先輩に「我々の商売は、わらしべ長者のようなものだ。すごい人に話を聞きに行って感銘を受けたら、別のところで、こういう話を聞きましたと言うと、それで話が弾んでもっと面白い話をしてくれて、どんどん知恵がたまっていく」と言っていましたが、まさにその通りだと思います。
若いコンサルタントも自分が何を提供できるか心配せず行っていいのですね。ただし、聞きながら論理的に整理し、課題解決をいつも考えていくのですね。
大切なのはそこで相手をリスペクトすることです。リスペクトとはその人の言っていることを深く理解することです。例えば、一見すると、何か変なことを言っていたり、イロジカル(illogical:非論理的)だったり、自分の知っている常識と違い、それは違うのではないかと思うところに大きなヒントがある。それを「おかしい、間違っている」と言うのは、その人に対してのリスペクトがない。むしろ、なぜこの人は今、こういうことを言うのだろうと、もう一つ二つ根っこのところに降りていったところに本質があると思います。
分析に頼りすぎず、メガトレンドの中でのシナリオをプランニングする
杉田さんは書籍の中で、「分析に頼りすぎない、過去の分析から未来は見えない」と指摘されています。だからシナリオプランニング的発想が必要なのだと。シナリオプランニングとは、一定の状況の時にどうすればいいかと考えていくことだと思うのですけれど、そういう発想を学ぶはどうすればいいのでしょうか。ともすれば、分析して、ここが問題ですよ、こうしたらどうですかとやりがちだと思うのですが、そこはどうやったら発想を変えていけるのでしょうか。
将来を作るとは、ブルーオーシャンを作ることにほかなりません。今は明確には見えないけれどもそこが市場になるかもしれないというところを誰よりも先に見つけ出し、それに対していろいろテストしてみた結果、このタイミングで行けそうだったらぽんと張る。それが将来を作っていくという話だと思うのです。
それに対して分析とは、このマーケットは大きいとか、過去5年間のトレンドで見てみたら成長率がこれぐらいであと5年はこれぐらい伸びそうだとか。これは誰もが分析的に同じように見られるマーケットなので、市場が大きければ大きいほどレッドオーシャンになるのです。
そこでシナリオプランニングという話になるわけです。メガトレンドについても、その企業にとって重要なメガトレンドは一体何なのか。例えば、非常に分かりやすく、かなり確実に読めるものに「人口動態」があります。単に人数がどう増えるかという話だけではなく、中間所得層の人たちがどれぐらい増えていくのか。あるいは、ある経済状態になったら女性の社会進出が一般的に起きるというような場合に、働く女性というのがどこのマーケットでどれぐらい増えるのか。あるいは高齢化により、一定の所得水準を持ったシニアがどれぐらい生まれてくるのか。このように自分たちの事業や強みを持っているものにフィットする形でメガトレンドを読み解いていくと、誰もが同じように見るメガトレンドではない見立てになって意味のあるものになるのです。
もう一点、これは難しいのですが、ティッピングポイントの読み方です。ティッピングポイントとは、ずっとフラットに見えていたマーケットがある時から幾何級数的に急に伸びていくことです。このポイントをどう見定めるのか。これの二つを組み合わせるのがシナリオプランニングです。
『10年変革シナリオ』の中に、ユニ・チャームがアジアのマーケットに進出した事例が紹介されていました。人口動態と女性の社会進出とをうまく見て成功したと。
ユニ・チャームの高原(豪久)社長自身も人口動態などの読めるメガトレンドをどうつかむかが重要だとよく言っておられますね。
若手のコンサルタントに求められる経営者視点とは
シニアのコンサルタントは、そのようなことを心がけ、そういう能力を付けることが求められそうです。そのために若手のコンサルタントは、何に注力し、何に気をつけるといいのでしょうか。
シニアコンサルタントは経営層といろいろなダイアログをするという話をしました。若手のうちからやっておいたほうがいいのは、相手の企業の中の若手の問題意識がある人たちとダイアログすることです。彼らは彼らで会社を変えたいと、自分たちの目線でこの会社における課題を考え、どう解くべきかと日々悩んでいるわけです。特にプロジェクトを共にする皆さんは問題意識も高く、後に会社の中で昇進していきます。自分が上に上がったら何をどうやろうかということを日ごろから考えているのです。そういう人たちの壁打ち相手になることは、コンサルタントにとっても刺激を含めた知見にもなりますし、そこででき上がったリレーションは、少しずつ一緒にポジションが上がっていきます。
企業だけでなくても、外でもいいのですけれど、いろいろな面白い視点を持っている価値があると思う人と接点を持ち、そういう人たちと壁打ちをやりながら、自分のバウンダリーを広げていく、知見を広げていくことが重要だと思います。
経営者的な視点をできるだけ若い時に身に付ければいいとよく言います。杉田さんが考える経営者的視点とは何でしょうか。
プロジェクトメンバーとしてのコンサルタントはモジュールとして、あるいは一般の社員の方にとっては自分が関わっている部署の視界でものを見がちです。経営的に見るというのは自分のやることが会社全体にどのような影響を与えるのか、視座を上げることです。自分のところでやるのは小さなことだけれど、上の目線で見てみると、ここに好影響が出て、他の部署を巻き込んだらもっと大きな意味合いになるかもしれないという視点で物を見ることです。
トップにいる人たちは一体どういうアングル、スペクトラムで物事を見ているのかを理解することが大切です。コンサルタント自身がこうしたいと思っているのに「違う」と否定されたり、途中で豹変されたりするのは、トップは見ているアングルが広く、これをやったらリスクがあるという気付きがあったからだと思うのです。それが何なのかを自分なりに理解する、分からなかったら聞くということを含めて、そういう間接学習を早くからやるとことが重要だと思います。
そこが経営を考えるということなのですね。ありがとうございます。
コンサルタントとして大切なのは、自分が何者なのかを見つめること
私たちNTTデータ経営研究所は、NTTデータグループのシンクタンク機能やコンサルティング機能を担っています。特に最近注力しているのは、日本の社会や企業をグローバルの視点で見たときに、いいところ悪いところをきちんと把握して、課題を解決するお手伝いをすることだと思っています。また、先ほど人口動態という話もありましたが、やはり生活者がどういうことを求めてきているのか、生活者の課題は何であり、それをどうやって解決していくかが企業にも社会も求められていくと考えており、そこに注力していきたいと思っています。
またもう一点は、いろいろな事象の根本の構造をきちんと理解し、全体をシステマチックに意思決定のメカニズムを捉えて解決策を打っていくことが必要だと思っています。
杉田さんはBCGでは日本代表も務めてこられたわけですが、私たちNTTデータ経営研究所にどのような期待をされていますか。
NTTデータ経営研究所は、今おっしゃったようにシンクタンク的な機能と、実際にソリューションインを提供してインパクトを出していくコンサルティング機能を持っている。これは非常にユニークですばらしいですね。普通の経営コンサルティング会社とはちょっと立ち位置が異なる、メタというかマクロの視点があると思います。
今日は10年を超えるような時間軸で企業が変わっていかなければならないという話をしましたが、その背景にあるのは、産業構造の変化です。産業構造がディスラプト(disrupt:破壊)され組み替わっていくわけですから、企業は守りに入るのではなく、自社の成長機会がどこかに生まれるのかを見定め、産業の構造変化の中で、自ら市場を創造をリードする側に回り、成長機会をどうつかむかという話だと思うのです。
NTTデータ経営研究所はその時に、産業や社会という目線で物を見る、あるいはそこにおける社会課題とは何なのかという目線を、他の一般的なコンサルティングファームより持ちやすいし、それが一つの持ち味になるという気がします。
重要なのはそこです。企業が変革しようとする時に、産業構造や社会全体、さらには生活者の視点の中における自分たちという位置付けで物事を考えないと、長い時間軸の中で、自分たちの機会を捕まえにいく大きな変革もできません。
その際にもう一つの重要なレバーがテクノロジーです。NTTデータ経営研究所はまさに、ITや情報の要素を持っている。この掛け合わせのところに非常に大きな可能性を感じます。そこを実際の最後のインパクトにどうやって結びつけるのか、このあたり非常に面白い領域だと思います。
ありがとうございます。最後に、コンサル業界で働いているコンサルタントや、今後コンサル業界で働きたいと思っている若い人に、杉田さんからメッセージをいただければと思います。
コンサルティングという業界に来てあなたは何を得たいのかということをクリアにしてもらう、その上で、ここでそれを得るために徹底して学んでもらう。もちろん、それは価値を出すために学ぶということなので、自分の学びだけではなく、それを価値創造につなげて、お客さま、クライアントに返していくという前提なのですけれども。何のためにここにいるのか、来るのかというのはまさに自分自身の存在意義を問うとか自分の価値を問うとかという話だと思います。
最近はコンサルティング業界の人気が高まっていますが、人気があるからなんとなくというレベル感で来る人がいるなら、それは止めたほうがいい。実際は厳しい世界です。成果が求められます。クライアントが真正面にいてやる仕事なので。バーバルハラスメント(verbal harassment:言葉のハラスメント)のような当たりの強さはありませんが、それでも心理的なプレッシャーは強い。でもそれは何かを自分がここで得たい、成し遂げたいと思うからそのプレッシャーを楽しめるのだと思うのです。その何か成し遂げたい、あるいは何かを得たいというものがクリアにある人ほど、コンサルティングという場の中で学べることが濃密で深いと思うのです。
コンサルティングの経験は自分の将来にとってとても大きな価値になるはずです。コンサルティングの機会を通じて、自分自身の個としての確立を追い求めながら、もっと大きく羽ばたいていくことができる。そのベースとして使うためにも自分自身が何者なのか、なぜここに来るのか、何を得たいのかを突き詰めてほしいと思います。
本当に、貴重なお話をお伺いしました。ありがとうございました。
対談動画はこちらからご覧いただけます。