山口コンサルタントとして求められている価値を提供するには、やらなくてはいけないことが非常に沢山あると思ますが、遠藤さんが若い時から心がけてきたことを教えていただけますか。
遠藤やはり自分ならではの武器がなくてはいけないと思います。私自身は、とにかくクライアントの現場に足繁く通い、社長が絶対知らないようなネタを拾ってくるようにしました。
経営者は現場の一次情報にはすごく興味を示してくれる。私の場合、切れ味鋭い論理展開が得意なわけではなかったので、泥臭く現場に通い、いろんな材料を持ってきて「今、現場がこうなっていますよ。社長、知っていますか?」と言うと「じゃあ、どうしたらいいんだ?」となる。自分なりの経営者に対する付加価値の付け方が必要なのです。単に「社長、何かお話聞かせてください」といった御用聞きではなく、こちらから何か球を投げなくてはいけない。
海外の先進事例を話してお茶を濁すコンサルタントもいますが、そんなのは聞かされても全然面白くないのですよ。そうではなくて、やはりその会社のことを本当にわかった上で、泥臭く食らいついていく。このやり方は日本的かもしれないですが、日本企業のトップには受けます。
以前、とある住宅メーカーのプロジェクトが始まるとき、その会社と競合会社の住宅展示場を合計20カ所ぐらい周って、それを元に社長に話をしました。そうしたら「君、社長の僕よりよく知っているね」って言われました(笑)。「僕が行っても、全部みんなお膳立てしているから、全然実情がわからない」と。でも、「実際はこうなっていますよ」と話をするとやはり喰い付き方はすごく良いですね。そこからは、「じゃあ、そこからどうしていくのか」と、経営目線に引き上げた議論をしていくというスタイルでずっと私はやってきました。
この、事実ベースでエビデンスを元に話をしてくというスタイルは、別に経験値がなくたってできます。泥臭く一次情報を自分で取ってきて話をすると、絶対に経営者は耳を傾けてくれます。それは若い人でも絶対にできることです。自分の足で稼いだ一次情報というのは、コンサルタントにとって最大の武器だと思います。
山口コンサルタントは、現場の一次情報を重視し足で稼いだ上で、論理を組み立てていくことが基本中の基本ということでね。
遠藤もちろん演繹的に世の中の流れを組み立てて俯瞰的に考えることも大事ですが、経営者は皆優秀なので、そんなレベルの話は大体わかっているのです。正直それだけだと、なかなか付加価値にはならない。そのため、演繹的に考えたものに対して帰納的に現場に足繁く通って、現場のリアリズム・リアリティを元に話をすると、経営者の方からはすごく感謝されるし、「では、コンセプトと現場のリアリティというものをどうやって結びつけていくのか」というような議論になってくるので、非常に突っ込んだ議論ができるようになります。
ですから、若い人も逡巡する必要はありません。自分で泥臭く現場へいけばいいのです。それはそれで大変なことではありますが、すごく大事なことだと思っています。
山口そのためにコンサルタントはクライアントを好きになり、好きな相手のことを徹底的に調べるという熱意を持って仕事をすれば、おのずから得るものは膨らんでくるということですかね。
遠藤私がコンサルタントになりたての頃は、今思えばコンサルタントのレベルもそれほど高くはありませんでした。当時はまだ「知識格差」があって、例えばMBAも日本の企業では一般的ではなかったので、MBAを取得して経営の知識を身につけていると、それだけでクライアントは「おお!」と言ってくれた時代です。ある日本の会社で、その会社の事業のポートフォリオを書いた際、それだけでクライアントが「おお、わが社はこうなっているのか!」と驚かれたことがありました。ポートフォリオを書くだけで、すごく感謝される…それはまさに「知識格差」があった時代なのです。
しかし時間が経つとクライアントの方もみんな勉強し始めて、そんな理屈は全部理解してくる。では、次にコンサルタントが何をやったかというと「情報格差」での勝負でした。要は、クライアントが持ってないような情報です。「こういったことは海外の企業ではこうやっていますよ」とか、「ベストプラクティスはこうです」といったような「情報格差」で付加価値を付けていく。
これもまたインターネットが普及してくると何でも自分たちで調べられるので「情報格差」は無くなっていきます。では、「知識格差」も「情報格差」も無くなった中で、どうやって付加価値を付けていくかとなったとき、私は「熱量格差」でいくしかないと行き当たりました。コンサルタントが情熱的に語り、その熱量で泥臭く動き、そこで集めてきた情報と論理で対峙していく。そういうコンサルタントでないと、もはや付加価値がつかないと思います。でも、現実を見ると、綺麗にまとめようとするコンサルタントが増えているため、クライアントにはなかなか刺さらない。今や桁違いの熱量がないと刺さらないのです。コンサルティングも簡単な仕事ではなくなって来ているので、知識や情報の格差だけのコンサルタントはクライアントから求められません。やはり今こそ「コンサルタントの付加価値ってなんだろう」と考えるタイミングだと思います。
山口熱量を持ってファクトやエビデンスを押さえつつ、その中から独自のものを作っていくということが、今真に求められていることなのですね。
遠藤それは今までも普遍的に大事だったのかもしれませんが、より一層求められていと言えます。答えというのは簡単に導き出せるものではありません。本質的に大事なことは何かということを、クライアントよりも深く真剣に考える姿勢が求められていると思います。
山口以前、クライアントのことを一生懸命知るだけではなく、「クライアントの先の顧客がどうクライアントを評価したり、継続的に利用したりしているのか」や、「まだ顧客になってない人がクライアント企業どう見ているか」の情報を提供すればクライアントには喜ばれると思ったことがあります。
遠藤それはまさに一次情報ですね、おそらくクライアントの顧客などはクライアントに対して本音を言わないですよね。逆に客観的なコンサルタントだからこそ本音が導き出せる。それを深めるにはやはり情熱が必要だし、インターネットから二次情報を取ってきても意味はない。「自分の足で稼ぐ」という泥臭さが必要ですが、相当の熱量がないと付加価値はつけられないと思います。今はコンサルタントもだんだんデスクワークになってしまっていますが、基本的にコンサルタントは足で稼がないとダメだな、と思います。
山口若いコンサルタントが遠藤さんのような、本当の経営を語れるコンサルタントを目指すとすると、例えば30代、40代ではそれぞれ何をやるべきか、というアドバイスはありますか。
遠藤基本は全部一緒です。マネジャーになったら何か変えたか、パートナーになったから何か変えたかということはありませんでした。結局パートナーになっても現場に行きますし、やっていることは一緒なのです。やはり現場に行って一次情報を集め、そこから見えた景色から本質を考え、直接社長に伝えるとか、基本的にやることは一緒だと思います。理屈で考えるだけではなく、現場のリアリズムを理解した上で、本当に機能する戦略を考えることが大事だと思っています。
山口遠藤さんのお話を聞くと、現場での一次情報の積み重ねをしている人と、机の上の論理だけを考えている人では、長い目で見ると圧倒的にコンサルタントとしてのレベルが違ってくるように思います。
遠藤それはあると思います。クライアントへの提案が刺さる瞬間というのがあるのですが、それはだいたい一次情報をもとにした論理です。クライアントが真剣に聞いてくれているのは、クライアントの生の声とか、現場で泥臭く集めたデータや一次情報を元にした分析結果であり、これはもう本当に刺さります。だから如何にリアリズムあるアウトプットを出せるかというのが醍醐味のような気がします。しかも刺さる瞬間って気持ちが良いのですよ(笑)。クライアントの心の中で何かが変わったな、と感じる瞬間や「この事業をやろうよ!」と言って頂けた時の快感というのがあります。
そういう意味でいうと、たった1枚のキースライドでクライアントに付加価値をつけることができます。いくら100枚のスライドを書いても、クライアントが喰いつくのはたった一枚のキラーチャートです。キラーチャートを書けるかどうかというのは、コンサルタントの妙味であり、たった一枚でお客さんに刺さるというのはコンサルタントにとっての醍醐味です。
クライアントがどうやったらビジネスで勝てるのか、真の強みは何なのか、弱みは何なのかという本質を見抜き、それを凝縮させたたった一枚のスライドがクライアントの運命を決める。これはコンサルタントをやっていて本当に面白い。もちろんやっているときは悶々とするのですけどね。