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(「環境新聞」2013年1月30日より)

リサイクルビジネス講座(22)
マクロ経済環境の変化踏まえた投資

業界底上げのチャンス到来

「三本の矢」と呼ばれる安倍政権の経済政策が、「公共事業の拡大」、「円安の進行」、「投資への税制優遇」をもたらすことはほぼ確実と見られる。いずれもリサイクルビジネスにとっての追い風だが、その影響は静脈産業全体を形成する個別事業者の収益構造に応じて異なる。マクロ経済環境の変化を踏まえた課題の把握は、追い風をビジネスチャンスに変えるための必要条件となる。

本稿では、経済環境の変化がリサイクルビジネスに与える影響と課題についての検証を行う。

図(マクロ経済環境の変化を踏まえた投資拡大)

まず、「公共事業の拡大」に伴う全国的な解体・修復工事などの増加により、産業廃棄物処理量は増大する。加えて建設資材などの需要の逼迫も見込まれており、鉄骨・セメント・土砂代替材などの利用量増加が、産業副産物を含む循環資源受け入れの間口を拡げる。結果、入り口・出口ともに「仕事が増える」のである。一方、収集・運搬・処理に必要な人材、車両、重機、土地の不足はすでに顕在化しており、短期間の消化が求められる補正予算などへの対応は難しくなっている。この傾向が加速することは必至であり、「ソフト面・ハード面のリソース確保」が喫緊の課題となっている。

次に「円安の進行」は、国際市況品である鉄スクラップ・古紙・廃プラスチックなどを取り扱う流通系の事業者にとっての輸出メリットを高める。資源矮小国でありつつも、循環資源の輸出超過国である日本では、国内消費と輸出の間で熾烈な競争が行われている。こうした中、円安は輸出側を支える一方的で強烈な後押しとなる。さらに、円安は原油を含む輸入資源の買い入れ価格上昇を通じて、直接的・間接的(電気料金など)に、オペレーションコストの上昇をもたらす。例えば電炉のようにエネルギー多消費型の素材製造業は国内競争力を失い、競合の韓国や中国の電炉メーカがより高い買い値を付ける。コンプライアンス対応が前提とはなるが、流通事業者にとっては、「輸出販売チャネルの開拓・拡充」こそが、最大の課題となる。

最後に成長戦略を背景とした「投資への税制優遇」である。リサイクルビジネスが技術力で他社との差別化を図ることは一般的に困難だが、売り上げ拡大局面での税制優遇措置は有効に機能する。例えばメーカなどの子会社として、制度的な回収・再資源化を担う解体業者等などにとっては、先進的なクローズドリサイクルに係る技術開発などの好機となる。また、素材製造業が副産物系資源の無害化や高付加価値化を図る上での技術開発も有効となろう。さらに、業態を問わず、海外市場への進出は、少子高齢化を踏まえたオーソドックスな事業拡大のアプローチに他ならない。目先の市況が好転する今こそ、「未来への投資」が事業継続性確保の定石で、戦略的な課題に位置付けられる。

外部環境の変化が短期的・直接的に波及するという点で、リサイクルビジネスに対する期待は大きい。売り上げと雇用を増大し、取引量を拡大しながら投資を加速させることは、競争と淘汰を生き抜く条件にもなる。業界全体の底上げにもつながる今の好機を、逃してはならない。

リサイクルビジネス講座 目次
(24)他社差別化の方向性
(23)パートナーとしての行政機関
(22)マクロ経済環境の変化踏まえた投資
(21)ソーシャルビジネスとの連携可能性
(20)製品の普及と潜在市場の有望性
(19)バイオマス事業化の可能性と行政支援のあり方
(18)リサイクルによる低炭素化
(17)市場規模と業界構造
(16)リサイクルビジネスの持続可能性
(15)巨大マーケット攻略と持続可能性への投資
(14)海上静脈物流の活性化に向けて
(13)制度の「目的」と「可能性」
(12)「発電燃料」としての循環資源
(11)リユースに求められるセンス
(10)「静脈メジャー」の意味と意義
(9)リサイクル目線から見た街づくり
(8)リサイクルビジネスとトレーサビリティ管理
(7)リサイクルビジネスと地域活性化
(6)資源循環の適正スケール
(5)循環資源の「質」と「量」
(4)リサイクル技術とは
(3)原料利用と燃料利用のベストミックス
(2)利益を生み出す必要条件
(1)リサイクルビジネスとは



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