はじめに
2026年に「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(通称:医療的ケア児支援法)が改正され、2027年4月の施行に伴い、法律名が「医療的ケア児等及び重症心身障害者並びにそれらの家族に対する支援に関する法律」に改められる。支援の対象が、成年に達した医療的ケア児や、18歳以上で医療的ケアが不可欠であり、自立した生活を営むことが困難な者、重症心身障害者などへと拡大される 。「こどものための法律」から「生涯にわたる支援の法律」への転換であり、地域で医療的ケアを担う障害児通所支援事業所(児童発達支援・放課後等デイサービス)の役割は、これまで以上に重要となる。
こうした潮流のなか、当社はこども家庭庁 令和7年度「子ども・子育て支援等推進調査研究事業」1において採択された「障害児通所支援事業所における医療的ケア児の受入れに関する調査研究」2[事業所3,041件、家族1,078件の回答](以下、本調査)を実施した。本調査では、受け入れの最大の壁が「看護師の確保」にあること、そして看護師を中心に福祉職やリハビリテーション職などの多職種が協働し、こどもを真ん中に据えた体制づくりが、受け入れの実現につながっていることが明らかになった。
本稿では、本調査報告書「第5章 調査結果の整理・分析」を軸に、受け入れ拡大に向けた示唆を、改正法が描く将来像と重ね合わせて整理する。
1 こども家庭庁「子ども・子育て支援等推進調査研究事業」
2 こども家庭庁 令和7年度こども・子育て支援等推進調査研究事業「障害児通所支援事業所における医療的ケア児の受入れに関する調査研究 報告書」(株式会社NTTデータ経営研究所、令和8年3月)
1. 背景:法・制度が動くいま、地域の「受け皿」が問われている
人工呼吸器の管理やたんの吸引、経管栄養などを日常的に必要とする「医療的ケア児」は、全国で約2万人と推計される3。医療の進歩を背景に在宅で暮らすこどもが増える一方で、その発達や家族の生活を支える地域の受け皿は十分とはいえない。
こうした状況を受け、2021年6月に「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律(医療的ケア児支援法)」が成立し、同年9月に施行された。2024年2月までには全47都道府県に医療的ケア児支援センターが設置された。障害児通所支援事業所は、こどもの発達支援と在宅生活の両面を支える拠点として、その役割への期待が高まっている。
なお、医療的ケア児支援法を改正する「医療的ケア児等及び重症心身障害者並びにそれらの家族に対する支援に関する法律」が国会で全会一致により成立し(2026年7月24日、参議院本会議で可決)、2027年4月1日から施行される予定である。
改正の柱は、(1)支援が途切れがちだった18歳以上への対象拡大、(2)重度の知的障害と重度の肢体不自由が重複した「重症心身障害者」を初めて法律上に規定し、医療的ケア児と同様に支援対象へ加えたこと、(3)支援センターの機能強化(「医療的ケア児等支援センター」への改称)、(4)レスパイト(一時預かり)や訪問看護など、家族の負担軽減策の充実であるといわれている。
重症心身障害者の多くが日常的に医療的ケアを必要としていることが、対象追加の背景にある。就学中は放課後等デイサービスやレスパイト、訪問看護などを利用できても、卒業後には医療的ケアに対応できる事業所や日中活動の場が限られ必要な支援につながりにくくなる、いわゆる「18歳の壁」が課題となっている。今回の法改正により、その解消が制度上の課題として位置づけられることとなった。
裏を返せば、法が支援の裾野を広げるほど、実際にケアを担う地域の事業所が「受け皿」として機能できるのかが問われる。本稿で取り上げる本調査は、こうした地域の受け皿の実態と課題を、事業所・家族の双方から捉えたものである。そこで、以下では、本調査報告書の「第5章 調査結果の整理・分析」を中心に、受け入れ拡大に向けた示唆を読み解いていく。
3 脚注2参照
2. 調査の全体像
本調査は、検討委員会を設置したうえで、事業所・家族を対象としたアンケート調査と、事業所を対象としたヒアリング調査・個別調査を組み合わせて実施された。事業所や家族における定量的な把握(事業所は悉皆調査)と、現場の運営実態に迫る定性把握を重ね合わせている点が特徴である。
【図表1】調査の構成

3. 調査結果の総括
本調査報告書の第5章では、上記4つの調査から得られた知見を総括している。ここでは、それぞれの調査が映し出した「現状」を、キーとなる図表とともに確認する。
3.1 事業所アンケート:最大の壁は「看護師の確保」
医療的ケア児を「受け入れている」事業所は、全体の23.6%にとどまる。受け入れていない事業所のうち、利用希望があったにもかかわらず受け入れに至らなかった理由を尋ねると、「看護師の確保が難しいため」が77.0%と突出して高く、「医療的ケア児に対応するためのノウハウが十分ではないため」(54.3%)、「設備が不充分であるため」(50.2%)、「安全面に不安があるため」(49.4%)が続いた(図表2)。
【図表2】医療的ケア児の受け入れに至らなかった理由(上位)

参考を基にNTTデータ経営研究所が作成
(参考)
こども家庭庁「令和7年度調査研究事業 障害児通所支援事業所における医療的ケア児の受け入れに関する調査研究 報告書」(n=269、複数回答、P23、図4-30)
すでに医療的ケア児を受け入れている事業所においても、事情は同じ方向を向く。受け入れにあたって「大変だったこと」の第1位は「看護職員の確保」(57.2%)であり、「必要な医療的ケアに関する情報の収集・共有」(38.4%)や「職員への研修や指導」(37.8%)を大きく上回った(図表3)。医療的ケアの実施は看護師が中心的に担うため、看護師の配置状況が受け入れの可否と規模を直接左右している構図が浮かび上がる。
【図表3】医療的ケア児受け入れで大変だったこと(上位)

参考を基にNTTデータ経営研究所が作成
(参考)
こども家庭庁「令和7年度調査研究事業 障害児通所支援事業所における医療的ケア児の受け入れに関する調査研究 報告書」(n=717, 複数回答、P74、図4-118)
こうした看護職員の確保をはじめとする課題に対し、受け入れている事業所では、職員体制や配置の工夫で応えている。「看護職員の配置を増やした」(52.3%)を筆頭に、「人数を増やして対応できるようにした」(29.7%)、「職員間で役割分担を明確にし、責任範囲を共有した」(29.3%)、「経験や資格の異なる職員をバランスよく配置した」(25.0%)などが挙がり、看護師を軸としつつ組織全体で支える体制づくりが進められている(図表4)。
【図表4】医療的ケア児受け入れに向けた職員体制・配置の工夫(上位)

参考を基にNTTデータ経営研究所が作成
(参考)
こども家庭庁「令和7年度調査研究事業 障害児通所支援事業所における医療的ケア児の受け入れに関する調査研究 報告書」(n=717、複数回答、P68、図4-111)
注目すべきは、喀痰吸引等研修(基本研修+実地研修)を修了した職員の有無が、今後の受け入れ意向を大きく分けている点である。研修修了者がいる事業所では、今後「積極的に受け入れを増やしたい」「同程度受け入れ、支援内容を充実させたい」とする割合が合わせて53.6%である一方、修了者がいない事業所では「受け入れをやめたい」が36.3%にのぼる(図表5)。福祉職が医療的ケアの一部を担える体制を整えることが、受け入れに対する前向きな意向に繋がっている可能性が示唆される。
【図表5】喀痰吸引等研修修了者の有無別 今後の受け入れ意向

参考を基にNTTデータ経営研究所が作成
(参考)
こども家庭庁「令和7年度調査研究事業 障害児通所支援事業所における医療的ケア児の受け入れに関する調査研究 報告書」(n=3,041、複数回答、P76、図4-121)
3.2 家族アンケート:安心して託せる「伴走者」への期待
家族は事業所をどのような視点で選んでいるのか。最も多かったのは「家族や本人に寄り添った支援が期待できた」(62.0%)、次いで「こども達が楽しそうに過ごしている」(61.3%)であった(図表6)。医療的ケアへの対応力はもちろん、こどもと家族に寄り添う姿勢といった「安心して託せる」総合力が重視されていることがうかがえる。
【図表6】家族が事業所を選ぶ際に重視したこと(上位)

参考を基にNTTデータ経営研究所が作成
(参考)
こども家庭庁「令和7年度調査研究事業 障害児通所支援事業所における医療的ケア児の受け入れに関する調査研究 報告書」(n=1,073、複数回答、P104、図4-154)
利用してよかったこととしては「お子様が楽しそうである」(80.1%)、「お子様の居場所ができた」(68.0%)に加え、「家族に余裕ができた」(61.6%)が挙がる4。悩みや不安の相談先としても、「配偶者」(73.9%)に次いで「利用している障害児通所支援事業所」(43.7%)が挙げられている5。このことから、事業所が単なるサービス提供の場にとどまらず、家族に寄り添い伴走する相談拠点として機能している実態がうかがえる。
ここで、改正法との接点が見えてくる。回答した家族において、こどもが重症心身障害児者の認定を「受けている」と答えた割合は67.3%にのぼる(図表7)。医療的ケア児支援の現場では、実際には重症心身障害のあるこどもと大きく重なり合っている。改正法により重症心身障害者が支援対象に加えられ、成人期まで支援が広がることは、こうした現場の実態にも対応するものといえる。今日の障害児通所支援における支援体制の充実は、将来の「18歳の壁」への対応を考えるうえでも重要となる。
【図表7】利用児の重症心身障害児者認定の状況

参考を基にNTTデータ経営研究所が作成
(参考)
こども家庭庁「令和7年度調査研究事業 障害児通所支援事業所における医療的ケア児の受け入れに関する調査研究 報告書」(n=1,073、複数回答、P93、図4-139)
3.3 事業所ヒアリング調査:看護師を「孤立させない」多職種協働
15事業所へのヒアリングからは、受け入れを継続する事業所に共通する運営の要諦が見えてきた。第一に、医療的ケアの実施は看護師が中心に担うため、看護師を含む専門職の確保が受け入れ継続の生命線であること。第二に、その看護師を孤立させない体制を整えることである。
多くの事業所では、看護師を最低2名配置する、医療職と福祉職がペアで動く、緊急時対応マニュアルを整備して判断を一人に集中させない、といった工夫が行われていた。
さらに、喀痰吸引等研修を修了した福祉職が一部の医療的ケアを担い、「看護師を呼ばないとできない」という特定の職員に依存する体制を避ける事業所も見られた。医療機関・訪問看護・相談支援専門員・医療的ケア児等コーディネーターとの地域連携、退院前からの伴走支援、ICTやアプリを活用した家庭との情報共有なども、安定した運営を支えている。人材の「確保」と「育成」の双方が重要であることがヒアリングでも示された。
3.4 事業所個別調査:ケアは「特定の時間帯」に集中する
22事業所への個別調査では、医療的ケアが一日の中でどのように発生しているかを時間帯別に可視化した。図表8はある事業所の最多利用日の例である。医療的ケアは登所直後の午前(9時・11時台)や食事・活動に伴う時間帯に集中する一方、回数が少ない時間帯や発生しない時間帯もみられた。
【図表8】医療的ケアが発生する時間帯の例(個別調査・最多利用日)

NTTデータ経営研究所が作成
このように、医療的ケアの「集中する時間帯」と「発生しない時間帯」の併存は、看護職の配置を一律に考えるのではなく、必要な時間帯と役割に即して柔軟に組み立てる余地があることが示唆している。限られた看護人材をどのように配置し、訪問看護などと組み合わせるか――個別調査は、受け入れ拡大に向けた具体的な検討材料を提供している。
4 こども家庭庁「令和7年度調査研究事業 障害児通所支援事業所における医療的ケア児の受け入れに関する調査研究 報告書」(n=1,073、複数回答、P107、図4-157)
5 こども家庭庁「令和7年度調査研究事業 障害児通所支援事業所における医療的ケア児の受け入れに関する調査研究 報告書」(n=1,073、複数回答、P109、図4-159)
4. 今後の医療的ケア児受け入れ拡大に向けた示唆
本調査報告書の第5章後半では、以上の総括を踏まえ、検討委員会の議論を含めた示唆が整理されている。その核心は、医療的ケア児の受け入れを「特別な医療対応」として切り離すのではなく、こどもの生活と発達を支える営みの一部として、地域全体で組み立てていくという視点である。
4.1 看護師だけでなく、福祉職を含む全体で「支える」
医療的ケア児の受け入れは、特定の職種の専門知識・技術だけで完結するものではない。看護師が中心となって医療的ケアを担いながらも、福祉職やリハビリテーション職を含む職員全体で支え、関わりを重ねていくことで、より安定した運用につながる。福祉職員が医療的ケアの基本的な意味や観察のポイントを理解し、看護職員が発達支援や日中活動のねらいを理解する。こうした職種間の相互理解を土台にした協働が求められる。
相互理解が進めば、日々こどもに関わる職員が顔色などの小さな変化に気づき、必要に応じて看護職員につなぐ見守りが可能になる。結果として、医療的ケアを「特別な対応」として切り離すのではなく、こどもの生活や発達を支える関わりの一部として捉えやすくなる。喀痰吸引等研修の修了者を増やすことは、こうした協働を制度的に後押しする鍵であり、図表5で見た受け入れ意向の差とも符合する。
4.2 こどもをまんなかに、地域全体で支える
こどもをまんなかに据え、多様な職種がそれぞれの専門性を活かして関わり、地域全体でその子の生活を支えていく――この視点が、受け入れを前向きに進める力になる。事業所単独で抱え込むのではなく、医療機関・訪問看護・相談支援専門員・医療的ケア児等支援センター・コーディネーターと役割を分担し、面で支える体制づくりが要となる。
事業所が「受け入れを進めるために必要」と考える支援も、この方向と一致する。「看護師など医療職の人材確保・配置への支援」(63.0%)が最も多く、次いで「医療機関・行政・他事業所との連携を円滑にする仕組みの整備」(42.1%)、「医療的ケア児受け入れに体する報酬や加算の拡充」(41.9%)、「医療的ケアの基礎知識や実技を学べる研修機会の拡充」(38.1%)が続いた(図表9)。人材・連携・財政面・育成など、受け入れを支える地域の基盤を構成する支援が求められている。
【図表9】 医療的ケア児の受け入れを進めるために必要な支援・取り組み(上位)

参考を基にNTTデータ経営研究所が作成
(参考)
こども家庭庁「令和7年度調査研究事業 障害児通所支援事業所における医療的ケア児の受け入れに関する調査研究 報告書」(n=3,041、複数回答、P80、図4-125)
4.3 時間帯と役割に即した配置・連携を
医療的ケアが特定の時間帯に集中する一方、発生しない時間帯も確認されている(図表8)。そのため、こどもの安全確保を大前提としつつ、必要な時間帯と役割に即した看護職や福祉職、リハビリテーション職の配置や、訪問看護などとの連携の在り方を今後検討していくことが望まれる。看護師の総数を増やすことだけでなく、限られた人材を「いつ・どこで・どの役割で」活かすかという運用面の最適化が、受け入れ拡大を検討するうえで重要となる。
4.4 改正法を見据えて――生涯にわたる支援への橋渡し
最後に、本調査の示唆を改正法の将来像と重ねて考えたい。改正医療的ケア児支援法は、対象を18歳以上と重症心身障害者へと広げ、支援を「こどもの時期」で終わらせない方向を明確に打ち出した。就学中の放課後等デイサービスなどから卒業後の生活介護などへと、切れ目なくつなぐことが同制度の目標とされている。
本調査で示しされた「多職種が協働し、地域全体でこどもをまんなかに支える」という受け入れの型は、そのまま成人期支援にも通じる普遍的な設計思想である。今日、障害児通所支援の現場で積み上げられている人材育成・多職種協働・地域連携のノウハウは、2027年4月の施行に向けて、重症心身障害者を含む生涯にわたる支援体制を構築していくうえでの礎となる。制度上の支援対象が広がるいまこそ、現場の実態に即した受け皿づくりを、人材と財源の両面から支えることが求められている。
おわりに
医療的ケア児とその家族が、住み慣れた地域で安心して暮らし、育ち、そして大人になっていく――改正法が掲げるこの理念を実現するためには、地域の受け皿をどのように整えていくかが重要となる。本調査が明らかにしたのは、その受け皿が「看護師の確保」という共通の壁に直面していること、そして同時に、多くの事業所がさまざまな工夫を重ねながらその課題に対応しているという実態である。
看護師を孤立させず、福祉職やリハビリテーション職を含む全員で支え、地域と連携する。人を中心とした実践の積み重ねが、やがて「18歳の壁」への対応にもつながっていくと考えられる。法・制度の転換点に立ついま、本稿が、事業所・行政・地域の関係者が受け入れ拡大に向けて対話を深める一助となれば幸いである。
※ 本文中の図表・数値は、こども家庭庁 令和7年度こども・子育て支援等推進調査研究事業「障害児通所支援事業所における医療的ケア児の受入れに関する調査研究 報告書」(株式会社NTTデータ経営研究所、令和8年3月)に基づき作成した。
※ 改正法に関する記述は、「医療的ケア児等及び重症心身障害者並びにそれらの家族に対する支援に関する法律」(2026年7月24日成立、2027年4月1日施行予定)に関する国会資料および各種報道に基づく。
