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Insight
経営研レポート

第3回 データ連携でこどもの声を見つける

~行政と学校の協力でこどもたちのSOSを見逃さない~
こどもが希望を持って活躍できる社会づくりの支援
2024.01.25
ライフ・バリュー・クリエイションユニット
マネージャー
桜花 和也
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1.はじめに

こどもを取り巻く環境は、貧困・虐待などますます厳しさを増している一方、困難を抱えるこどもや家庭ほどSOSを発することが難しいことから、現在プッシュ型支援の重要性が高まっている。

NTTグループと石川県加賀市では、同市内の中学校を対象として、学校が保有する情報および行政が保有する情報を組み合わせ、従来は把握できなかった支援ニーズをキャッチするための仕組みを構築し、令和4年度にかけてその効果を検証した。

本稿では、その実施内容と主に実施結果からみえる今後のデータ連携の理想形について述べる。

2.データ連携事業の実施内容

①実施概要

中学校の学習支援システム、校務支援システムから得られる情報、およびマイナポータルを通して得られる情報(自己情報取得APIを活用)を連携させ、支援が必要となり得る生徒を予め設定した判定ロジックにより判定し、支援が必要な家庭環境・学習状態の生徒を抽出できる機能を構築した。

また、システムでの抽出結果と担任の申し送り事項などの定性情報に基づいて職員会議にて支援対象を決定し、スクールカウンセラーなどとも相談しながら個別の支援策の検討を行う業務プロセスとした。

なお、システムによる判定ロジックとしては、不登校やいじめなどの直接の困難想起事象、およびその要因となり得る事項(例えばひとり親や所得など)を設定し、連携データから対象となり得る生徒を抽出した。

【データ連携事業の実施概要】

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②連携データ

本事業のデータ項目は、行政情報と学校情報のシステムより取得可能で今回の事業目的に必要なもの(目的合致性:困難想起事象とその要因)であり、かつ保護者や生徒本人の理解を得られるもの(同意可能性)、さらに学術的見地からも有用なもの(学術的有用性)を限定的に取得することとした。

データ項目は大きく分けて「困難想起事象」と「想定要因」の二つに分類される。前者は、従来から学校が把握してきた事象について漏れなくチェックすることを目的としている。後者は、従来必ずしも把握しきれなかった事項について把握する、または支援方法の手がかりとすることを目的としている。

データ項目の選定に当たっては、令和3年度の内閣府事業(貧困を抱える⼦供を支援するためのデータ連携に関する研究会)の調査報告※1を先行事例とし、また有識者の助言を参考にして、リスク判定に必要なデータおよびその判定基準を設定した。

【連携データの概要】

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3.データ連携事業の結果

①参加者数

データを取得する対象者は、フィールドとなる中学校の生徒のうち、マイナンバーカードを保有し、かつ本人および保護者の同意を得た方のみとした。同意取得の過程においては、保護者向けの説明会や生徒向けにマイナンバーカードを使ってマイナポータルの「わたしの情報」を見る体験授業を行ったり、アンケート回答を呼び掛けたりするなど、同意取得の促進策を講じた。

最終的には在校生339名中、保護者の同意を得た235名が本事業に参加し、参加率は69.3%であった。不同意者は少数であったが、その理由としては事業目的に対する反対や、個人情報の扱いに対する懸念などが挙げられた。

参加同意は得られた一方、実際のデータ連携実施数は、同意した保護者235人中64名(27.2%)、在籍生徒339名中106名(31.3%)と概ね3割に留まった。その理由として、世帯主、世帯主以外の親、生徒自らがマイナンバーカードを使用し、実証環境を通じてマイナポータルにアクセスして自己情報を取得する必要があるなど、複雑なデータ連携プロセスが影響したなどが考えられる。マイナポータルへのアクセスのしやすさや、操作手順の簡便化などが今後の参加者数拡大に向けた課題と考えられる。

【同意者数とデータ連携実施者数】

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②事業の効果

データ連携実施者のうち、システムによる判定で抽出された生徒は38名、抽出率は35.8%(38名/106名)であった。小学校入学時の申し送りや前年度担任からの申し送りにより、従来から学校が見守り対象としている割合21.5%(339名中73名)よりも広めにリスクを抽出することができた。

38名のうち、従来の方法で学校が要支援可能性生徒と想定し見守り対象をしていた生徒とは異なる生徒(新規の要支援可能性生徒)は13名であった。また教師アンケートでは、データ連携により新規に把握した要支援可能性生徒数は教師一人当たり平均2.6名であった。

さらに従来の方法で見守り対象としていたものの、見守り理由として想定していた課題以外の課題が見いだされた生徒(重層的課題を抱える生徒)は38名(抽出者全員)であった。なお、教師アンケートでは、データ連携により把握した重層的課題を抱える生徒数は教師一人当たり平均6.1名であった。

データ連携は在校生の3割弱に留まったにもかかわらず、一定数の新規要支援可能性生徒および重層的課題を抱える生徒が発見されたことは、教育委員会や学校が期待していた成果が得られたといえる。また学校情報に基づく判定結果については学校側で既に把握できている状況がほとんどであるが、教員が個別に把握している情報が一覧化されたり、グラフで表示されることにより情報が見やすくなり、支援対象を検討する打ち合わせがしやすくなるなどといった間接的な効果も挙げられた。

通常、相談・面談・スクールカウンセラーへの問い合わせなどで情報取得までに1週間から2週間程度を要するが(回答への待ち時間を含む)、本事業のデータ連携により情報取得の時間を短縮できるため、より迅速な支援の実施および支援側の時間・コスト削減にも寄与できると考えられる。

4.今後の課題と展開

今回のデータ連携事業を社会実装するにあたり、以下の点に留意する必要がある。

①データ連携およびシステム上の課題

転入・転出時のデータ連携や、マイナポータルの情報連携については副本登録の保管義務が5年であり、自治体によっては過去のデータがないといった事象が発生しうる。またマイナポータルを通してデータを連携する場合、データが欠損していると何もデータが返ってこないため、本当に非該当なのか(例えば、本当に予防接種を受けていないのか)、それとも自治体がデータを登録していないだけなのかといった、判別できるシステムを構築する必要がある。

また全国の自治体・学校では、利用しているシステムやデータの形式がそれぞれ異なると想定されるため、情報の標準化が必要となる。医療分野などにおける標準化の取り組みも参考に、最低限必要な情報について標準化を推進する必要があると考える。

②利用主体について

本事業においては加賀市内の中学校が主な利用主体となったが本来は学校で知り得ない情報についても連携されることになるため、学校の一教員がどこまでの情報にアクセスをすべきなのかは慎重に検討する必要がある。また、学校内の情報に限らず、家庭や行政が保有する情報も統合するとなると、例えば教育委員会が一元的に情報を管理し、必要に応じて学校の教員などと連携して支援を検討する方が望ましいと考える。

③保護者からの同意取得について

本事業では本人・保護者からのオプトイン同意に基づいてデータ連携を実施したが、データ連携の実施率が低いことや、潜在的に支援が必要となりそうな家庭からの同意が得られないというケースがあったことも大きな課題であった。今後、オプトイン同意以外での方法(例えば行政目的での活用など)でのデータ連携のあり方を検討していく必要があると考える。

5.おわりに

上記のような課題はあるものの、データ連携により客観的かつ潜在的な支援ニーズとして「こどもの声を見つける」ことが今後期待される。また将来的には、教育分野に限らず他分野(例えば医療・介護分野など)のデータベースとも連携し、自治体全体でのデータ連携に基づいたニーズの抽出やプッシュ型支援が可能となることや、データベースに蓄積されたデータの二次活用による自走型が運営体制構築などにより、全国でこのような仕組みが広がっていくことを期待する。

お問い合わせ先

内容に関するお問い合わせ先

株式会社NTTデータ経営研究所

ライフ・バリュー・クリエイションユニット

マネージャー 桜花 和也

E-mail:sakurabanak@nttdata-strategy.com

Tel:03-5213-4110

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