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Insight
経営研レポート

第1回 こどもを取り巻く環境とこどもチームの取り組み

こども・少子化対策
2023.12.13
ライフ・バリュー・クリエイションユニット
パートナー
米澤 麻子
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1.こどもを取り巻く環境

こどもを取り巻く環境は、少子化、核家族化、デジタル化、グローバル化、価値観の多様化など、昨今の社会的背景によって大きく変化してきている。近年はこどもの不登校や自殺、虐待、さらにはこどもの貧困についても増加傾向にある。そのため、複雑化する問題に対し、社会全体として包括的にこどもを支える取り組みが必要である。

このような問題に対応するため、内閣府や厚生労働省などで従来またがっていた施策を統合的に担うことを目指し、2023年4月に「こども家庭庁」が発足した。こども政策においては、「こどもまんなか」社会の実現が掲げられ、こどもの権利の尊重、福祉の向上といった基本的な方針が示されている。

しかし、こどもに関わる課題は多岐にわたり、かついまだ山積しているのが実情である。結婚・妊娠期前から乳幼児、学生など、世代に応じて、教育、福祉、医療にまたがる様々な課題があり、複雑に絡み合っているからである(図参照)。例えば、こどもが虐待を受ける背景のひとつには、産後うつや子育て世帯の孤立により保護者が精神的に追い詰められている状況がある。またこどもの貧困が教育格差を生み、成長機会を逸することにつながり、そして将来の経済格差がそのこどもの貧困を生むといった貧困の連鎖をもたらすこともある。

したがって、こどもに関わる課題に対しては、こどもが大人になるまでの18歳や20歳などの年齢において切れ目なく、かつ社会・教育・福祉・健康・医療の各領域が一体となって解決を目指す仕組みづくりが不可欠である。こども基本法では年齢で必要な支援がとぎれないよう、心と身体の発達過程にある人を「こども」としている。こどもの成長過程に合わせて、状況に応じた支援ができる体制が求められているのだ。

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図 こどもを取り巻く環境

2.こども施策への高齢者施策のノウハウ活用の可能性

高齢者福祉の歴史を振り返ると、1990年代に将来の高齢化を見据え高齢者の自立と尊厳の確保、介護の社会化を目指した検討が進められ、2000年には介護保険制度が開始された。2008年頃からは高齢者を中心に医療・介護・予防・住まいの観点から一体的に支える地域包括ケアの必要性が謳われ、全国に地域包括支援センターが展開された。高齢者福祉施策は一定の成果を見せてきたといえよう。

高齢者施策とこども施策には類似する部分が多くある。高齢者の自立と尊厳の確保や「介護の社会化」は、こどもの権利尊重や意見反映、「子育ての社会化」とも共通する。また、高齢者の地域包括ケアでは、地域の各主体の連携が大きな課題であり顔の見える関係づくりから有機的な連携に向けた取り組みがなされてきた。この取り組みは、こども領域において縦割りとなってきた取り組みを横断的なものにするために参考になるであろう。高齢者向けの地域包括支援センターと、困難を抱えるこどもの支援組織であるこども家庭センターの機能には重なる部分も多い。

今後も少子化が予想されるなか、高齢者施策において検討された過程はいまのこども施策にも活かされていくべきであると考える。高齢者施策が検討された当時と比較し、人口構造は大きく変化している。1990年の65歳以上の高齢者の割合は12.1%、15歳未満のこどもの割合は18.2%であったものが、2022年には、65歳以上は29.1%、15歳未満は11.5%となっており、高齢者とこどもの割合は大きく逆転している。もちろん、こども施策には児童福祉や母子保健等における歴史があり、医療・福祉だけでなく教育が関わる等、高齢者施策と異なる点は多数存在する。しかし高齢者施策におけるノウハウはこども施策にも生かすことができるであろう。

3.弊社の取り組み

弊社では「誰一人取り残さない社会」の実現を目指し、「こどもが希望を持って活躍できる社会」実現を目指して「こどもチーム」を2022年に立ち上げた。この背景には、これまで高齢者福祉や健康・医療、地域づくり、データ活用に関する様々な取り組みにおいて培ってきた多様な手法を活かしながら、次世代に向けた支援をしていきたいという思いがある。特に、高齢者福祉における調査研究をこれまで多数実施してきており、こども支援においても役立つと考えている。

 

こどもチームでは、

 

①こどもから直接意見を聞き、

②特に困難を抱えるこどもに対しては環境を整えること、

③地域全体でこどもと親を支えること


を目指した取り組みをしており、具体的には以下3点が挙げられる。

①こどもの意見の政策への反映においては、こどもの意見を直接聞き、国や自治体の政策に活かしていくための手法を研究している。これまで日本では、こどもは親の配下にあるとの考え方が根強く、こどもの権利への意識が薄いため、意見を直接聞く機会が乏しかった。このため、こどもの意見を引き出し、政策において対応をすることが重要である。しかし、こどもに対し、単に「意見をください」といっても本音は引き出せない。意見を引き出すには、こどもならではの対応が必要である。このため、弊社ではこどもが安心して意見を言える環境についての研究を重ねてきている。

②困難を抱えるこどもについては、家族関係や経済状況など、複雑な背景を抱えていることが多い。「社会的養護」は、保護者のない児童や家庭での養育が難しい児童を支えるための、里親制度や児童養護施設といった取り組みである。これらの取り組みは熱心に進められているものの、里親や施設における支援人材の確保や質の向上、地域連携による包括的な支援が求められている。このため、こどもの自立的な人生の実現に向け、社会的養護の実態や今後の方策について研究を続けている。

③地域単位でみると、少子化は喫緊の課題である。少子化対策の範囲は、こどもだけでなく、若年世代の雇用や住まいの支援などが必要である。またひきこもり、孤独・孤立などは、共生する社会とも密接な関係がある。地方自治体の人材や予算が限られる中では、地域課題に応じて優先順位をつけた施策が不可欠である。そのため、地域課題の検討の在り方について、検討を進めている。またこどもに関する各種データを連携することにより、効果的なサポートをする仕組みについても実証をしてきた。

また、上記の他、こどもの健康・医療の観点から、こどもの心の健康やこどもホスピスに関する調査研究も進めているところである。

そのため、今後のこのシリーズでは、こどもチームが取り組んできている研究について紹介をしていきたい。

内容に関するお問い合わせ先

株式会社NTTデータ経営研究所

ライフ・バリュークリエイションユニット

パートナー 米澤 麻子

E-mail:yonezawaa@nttdata-strategy.com

Tel:03-5213-4110

報道関係のお問い合わせ先

株式会社NTTデータ経営研究所

コーポレート統括本部 業務基盤部

広報担当

E-mail:webmaster@nttdata-strategy.com

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