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経営研レポート

第4回 地域における少子化対策の意義と取り組み方

こども・少子化対策
2024.02.05
ライフ・バリュー・クリエイションユニット
シニアマネージャー 大野 孝司
シニアコンサルタント 井上 裕章
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1.はじめに

令和5年12月22日に閣議決定された「こども大綱」1 では、こども施策に関する基本的な方針の5番目の柱として「若い世代の生活の基盤の安定を図るとともに、多様な価値観・考え方を大前提として若い世代の視点に立って結婚、子育てに関する希望の形成と実現を阻む隘路(あいろ)2 の打破に取り組む」とされている。

少子化対策の観点においても「若い世代が、自らの主体的な選択により、結婚し、こどもを産み、育てたいと望んだ場合に、それぞれの希望に応じて社会全体で若い世代を支えていく」ことが重要となる。

本稿では、当社が内閣官房の委託事業 3 を通じて実施した地域における少子化対策関連事業の成果の一部を抜粋し、地域の実情に応じた少子化対策の必要性と考え方、デジタル技術を活用した少子化対策の可能性、地方自治体におけるデジタル技術を活用した少子化対策の考え方、国に求められる機能・役割を述べる。

1 令和5年度 こども家庭庁「こども大綱

2 物事を進める上での障害や困難

3 令和4年度 少子化対策地域評価ツールの活用促進に向けた自治体の交流機会の拡充や環境整備に係るモデル事業

2.地域の実情に応じた少子化対策の必要性と考え方

少子化の主な原因は、未婚化と晩婚化(若い世代での未婚率の上昇や、初婚年齢の上昇)、有配偶出生率の低下であり、若い世代が結婚や子育てに対する将来の展望を描けないことや、希望や理想が叶わない現状があるとされている。

出生率・有配偶率などの出生に関する指標、出生に影響を及ぼすさまざまな要素に関する状況(図1 参照)は、同じ都道府県内であっても地域によって異なるため、各地方公共団体が「地域アプローチ」による取り組みを進めていくことが有効であると考えられている。

図1 出生率に影響を及ぼす諸要因

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出典:少子化対策地域評価ツール(2023年3月改訂・第4版)

当社では、11市町村の少子化対策の検討プロセスに伴走し、「地域アプローチ」による少子化対策の取り組みプロセスを構築した。

地域アプローチによる少子化対策の取り組み例として、三重県名張市は働く母親のサポートに焦点を当て、具体的な対策として「保育園のお迎え前後の買い物ストレスの軽減」を実施し、具体的な成果に結びつけることができた。(図2 参照)

図2 三重県名張市での実証事例(2022年度)

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出典:少子化対策地域評価ツール(2023年3月改訂・第4版)

本取り組みプロセスは、「少子化対策地域評価ツール」(2023年3月改訂・第4版)4 として6つのSTEPに整理されている。

4 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局「少子化対策地域評価ツール」(改訂・第4版)2023年3月

STEP1:部局横断的な検討体制の構築

少子化にはさまざまな要因が絡み合っていることを踏まえ、さまざまな分野のメンバーによるプロジェクト推進体制をつくり、現状把握を行った上で目標や実施計画を策定し、今後の取り組みの進め方についての共通認識を醸成する。

STEP2:客観的指標の分析による地域特性の見える化

出生に関連する地域のさまざまな指標のデータを収集して、地域の特徴についてデータをもとに話し合い、少子化の要因に関してライフステージに沿ったさまざまな観点から仮説を立てる。

STEP3:主観調査による地域特性の把握

データをもとに設定した仮説の検証を行うために、目的に沿った効果的な調査の内容・方法を検討し、実施した調査の結果を今後の取り組みに活用する。

STEP4:地域の強み・課題の分析

調査から得た結果に基づいてライフステージごとの少子化の要因に関する仮説の検証を行い、地域住民の実態や理想像をまとめて、地域の課題や、活用できる資源・強みを整理する。

STEP5:対応策の検討

検討したライフステージごとの課題への対応策について、地域内・外の既存事業の積極的な活用も視野に入れながら、取り組みのアイデアを出し、案をまとめる。

STEP6:対応策の実行

対応策のアイデアをライフステージごとにとりまとめて関係者へのヒアリングを通じて優先順位を付け、関係者と協働して実効性の高い事業として実施し、実施後の効果検証によってさらなる改善を行う。

以上のSTEP1~6の具体的な取り組み方や事例、ワークシートは、内閣官房のウェブサイトに「少子化対策地域評価ツール」として掲載されている。

ウェブサイト内で掲載されている取り組みモデルは、地域によって結婚・出産・子育てに関する価値観や環境、資源が異なる中で、地域課題の優先順位をつけて施策を検討・実施するEBPM(Evidence Based Policy Making)の実践手法である。

3.デジタル技術活用を活用した少子化対策の可能性

地域の実情に応じた少子化対策をさらに進める際には、デジタル技術が有効な可能性がある。当社が事務局としてまとめた「地域におけるデジタル技術を活用した少子化対策の推進に向けた提言」5(以下「提言」という。)では、具体的な事例を元に地域における少子化対策へのデジタル技術活用の意義を以下の3点としてとりまとめた。

① 若者が結婚・出産・子育てに希望を見出し、それぞれのライフステージの選択を後押しできる環境の創出

② 結婚・出産・子育てにまつわる各種サービスのユーザー(地域住民等)の利便性向上

③ 行政職員の負担軽減(及びそれを通じた必要なサービスへのさらなる注力)

5 少子化対策地域評価ツールの活用促進に向けた自治体の交流機会の拡充や環境整備に係るモデル事業 研究会「地域におけるデジタル技術を活用した少子化対策の推進に向けた提言」令和5年3月

なお、① から ③ に関する具体的な事例は以下の通り。

① 若者が結婚・出産・子育てに希望を見出し、それぞれのライフステージの選択を後押しできる環境の創出

北海道岩見沢市では、データに基づくヘルスリテラシーを学べる機会を創出し、デジタル技術を活用したプレコンセプションケア 6 の取り組みを進めており、こどもを産み育てる若者が幸せに生きるためのライフデザインを自分らしく選択できるような環境が整えられている。また愛媛県では、蓄積した登録者のお見合い行動履歴などをビッグデータとして活用し、登録者が好み好まれる相手をリコメンドする機能を構築することで、結婚願望を持った若者に対する効果的なマッチング機会の提供を行っている。さらに長野県伊那市では、オンライン相談や保育園・小学校などを紹介するオンラインセミナー・体験ツアーのほか、XR技術・AIなどを活用した戦略的なシティプロモーションを展開しており、地域外にいても伊那市の子育て環境をバーチャルで体験できる機会が創出されている。

6 将来の妊娠を考えながら女性やカップルが自分たちの生活や健康に向き合うこと

② 結婚・出産・子育てにまつわる各種サービスのユーザー(地域住民等)の利便性向上

母子モ株式会社が企画・運営している地方自治体向け母子健康手帳アプリ「母子モ」により、妊娠から子育て期に係るさまざまな手続き・行政サービスがデジタル化され、多くの子育て世代の不安や負担の解消に繋がっている。また奈良県三宅町では、株式会社AsMamaと連携し、子育てに関する課題を抱える人と地域で空き時間を利用して支援を提供したい人をマッチングさせるシステムを活用している。これにより、地域住民の共助による子育て支援サービスを構築され、子育てしやすい環境整備が進められている。

③ 行政職員の負担軽減(及びそれを通じた必要なサービスへのさらなる注力)

「母子モ」を活用している地方自治体では、子育てに関するさまざまな情報はアプリ(母子モ)を通じて配信することができる。また複数の地方自治体では、行政の窓口業務のDX化(書かないワンストップ窓口)が進められているため、業務の効率化にも寄与している。

4.地方自治体におけるデジタル技術を活用した少子化対策の考え方

前述の通り、少子化対策におけるデジタル技術の活用には一定の意義があり、実際にデジタル技術を活用した少子化対策を検討している地方自治体もある。しかしながら、知識やノウハウの不足から、事業を具体的にどのように進めるべきかわからないという地方自治体も多いのが現状である。

このような課題に対し、提言ではデジタル技術を活用した少子化対策において地方自治体が取り組むべき事項を、(1)課題整理・ビジョン策定、(2)体制構築(庁内連携、産学官民連携、人材確保)、(3)企画・開発、(4)実践・評価に分けてそれぞれ示している。(図3 参照)

図3 デジタル技術を活用した少子化対策に当たり自治体が取り組むべき事項

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出典:地域におけるデジタル技術を活用した少子化対策の推進に向けた提言(概要版)

より多くの地方自治体がデジタル技術の活用も含めた少子化対策を効果的に実施するためには、取り組みモデルの構築や展開など、国による支援が必要となる。

5.おわりに

地方自治体が地域の実情に応じた少子化対策を自ら進めるためのツールとして「少子化対策地域評価ツール」が整備され、またデジタル技術を活用した少子化対策の考え方も示された。

しかし地域の実情は多岐にわたり、これらの標準的なツールや考え方を手本としても、どの地方自治体でも簡単に取り組むことができるわけではない。より効果的な取り組みを広げていくためには、地方自治体の自助努力だけでなく、国や都道府県が伴走支援などのサポート体制を整備することが求められる。

またデジタル技術を活用した少子化対策の全国的な展開にあたっては、提言で整理された「地方自治体が取り組むべき事項」については、実際に取り組んだ場合に生じる課題と対策などをもとに、より実践的な取り組み手法を整理し、広く全国に展開することも重要である。

当社では、これまでの「地域アプローチ」による地方自治体への伴走支援などの経験を生かしながら、デジタル技術の活用も踏まえた地域の実情に応じた少子化対策が全国的に展開されるよう、引き続き国や地方自治体による少子化対策に関する取り組みを支援していく。

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シニアマネージャー 大野 孝司

E-mail:onok@nttdata-strategy.com

シニアコンサルタント 井上 裕章

E-mail:inoueh@nttdata-strategy.com

Tel:03-5213-4110

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