はじめに -社会的養護とは その現状と課題-
社会的養護とは、保護者のない児童や保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護すること、そして養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うことである。
現在、社会的養護の下に置かれているこどもは約4.2万人(令和4年3月時点)1 にのぼる。かつては、親のないこどもや親に育てられないこどもが多かったが、現在では、虐待によって心に傷を負ったこども、障害のあるこども、DV被害を受けた母子などが増えている。
社会的養護に至る基本的な流れは、図1の通りである。虐待をはじめとした、不適切な養育環境が疑われる家庭について、通告・相談を受けた児童相談所が状況を調査し、必要に応じて一時保護を行う。その後、支援方針が検討され、必要と判断されたこどもは、児童養護施設などの施設への入所や里親家庭への委託などの措置がとられる。
社会的養護は、今後さらなる展開を必要とされる時期に差し掛かっている。令和4年2月10日に公表された社会的養育専門委員会の報告書では、里親、ファミリーホーム、施設の今後の在り方や、施設の小規模化、地域分散化の推進に向けた検討を開始することが提言された。
本稿では、近年の社会的養護の政策動向を踏まえ、現状と課題、そしてその課題を解決するために必要な方策について述べる。
1. 社会的養護におけるケアニーズの実態・一時保護制度の現状
1-1. 社会的養護下にあるこどものケアニーズについて
当社では、社会的養護分野における調査研究の一環として、「里親・ファミリーホーム・施設のあり方の検討に関する調査研究 2」、「児童養護施設や乳児院の小規模化・地域分散化における本体施設のバックアップ体制に関する調査研究 3」、「社会的養護関係施設等の経営実態及び施設等職員の勤務実態に関する調査研究 4」などを実施している。
これらの調査においては、里親・ファミリーホーム・施設における「ケアニーズ」5 の実態を把握することを目指している。また同調査では、社会的養護におけるケアニーズを「特別な配慮を伴うケア」(例:トラウマを抱えているこどもへの個別対応)と「日常的なケア」(例:日常の見守り・食事の準備など)の2つに分類している 。本稿では主に特別な配慮を伴うケア について述べる。
上記の調査の結果、虐待、非行などの要因で入所・委託しているケースが多く、複数の要因が重複しているケースも散見され、社会的養護下にあるこどもたちが、逆境的な状況に置かれていることが改めて確認された。また、入所・委託中に特別な配慮を要するケースとしては、発達障害やトラウマに起因する行動、家族との関係に対する葛藤、面会頻度の不足、そして愛着形成における密な関与などが主に挙げられる。これらは単独で発生するのではなく、虐待などによるトラウマ起因の行動やPTSDに伴う多様な課題が連動して発生していた。
これらを踏まえ、全体の課題とケアニーズを図表2に整理した。①入所・委託直後、②関係構築期、③関係の深まり期、④思春期・青年期の4段階に分け、それぞれの時期・関係性に応じて主たるケアが変化することが確認された(※これは全体的な傾向であり、全てのケースに当てはまるものではない点に留意)。これら4つの段階に対し、施設・里親などの養育者は、医療・心理職、他の関係機関などとも連携しながら、日常的なケアに加えて、こどもの反応やその要因を踏まえた対応を行い、こどもの自立に向けたサポートを行っている。
これらのケアニーズに対応するため、施設職員や里親は従来よりも個別的な対応を行う必要があり、個々の職員・養育者にとって業務時間の増加や精神的な負荷の増大が課題となっている(例:夜間に一人で特別な配慮が必要なこどもへの対応をする必要があるなど)。また施設全体としては、十分な人員体制の確保や複雑化するケアニーズに対応できる職員の確保・育成、多職種が連携してこどもにケアを提供する体制の構築が課題であり、適切な職員確保に向けた財政面での支援の在り方も含めた検討が必要である。
さらに、こどものケアと並行して発生している記録作成や関係機関との連絡調整などの事務的負担の軽減も今後の課題であり、ICT化やAI活用による職員の負担軽減も望まれる(記録作成は紙・電話などのアナログの方式が主流であり、ICT化されている範囲はまだ限られている)。
1-2. 一時保護制度の現状と課題
児童相談所による一時保護の在り方も、社会的養護の課題として挙げられており、一時保護施設の環境改善や、一時保護中の児童の権利擁護に対する取り組みが必要とされている。例えば児童福祉法では、一時保護期間は原則2カ月間と定められている。しかし、一時保護期間が2カ月を超える事例が15%以上に上るとの調査結果があり 6、一時保護期間の長期化も問題となっている。さらに、一時保護施設の年間平均入所率が100%を超える施設が全体の約20%を占めるという調査結果や 7、一時保護施設において通学、外出、通信などが制限される事例も報告されている 8。
またケアニーズの面では、一時保護時のアセスメントだけではこどもの本来の課題が特定できず、施設や里親での養育が開始されてから対応が必要になることがある。また、一時保護施設のみでの対応が難しく、社会的養護関係施設 ・里親などに一時的に保護が委託され、職員・養育者に負担がかかるケースも課題となっている。
2. 社会的養護の課題を解決するための方策
上述のように複雑化するケアニーズへの対応には、個別的ケアの推進や多職種連携によってケアの質を高めるための制度検討、組織化による職員の負担軽減、そしてICTやAIの活用による負担軽減が必要となる。具体的には、以下の2-1から2-3の通りである。
2-1. 個別的ケア・多職種連携を推進するための制度検討
複雑化するこどものケアニーズに適切に対応するため、職員・養育者が個別的な対応を行い、施設や家庭内外で多職種の専門職と連携しながらチームでこどものケアを行っている。しかし、これらのケアに必要な人員が不足している課題も生じている。そのため、ケアの質を適切に評価し、職員確保や施策実施のための財政面でのバックアップが可能となる制度の在り方を議論していく必要がある。
2-2. 職員の負担軽減に向けた組織体制の強化
こどものケアニーズが多様化していること、里親や職員においても経験・スキルに個人差があること、少人数で対応することによる負担の増大が指摘されていることなど踏まえ、直接的なケアを担う職員 をバックアップする体制の強化が必要である。施設においては、チーム制の導入や統括担当職員を配置などにより、こどもや職員の状況をこまめに把握し、必要時のサポートを組織的に行うための体制を構築することが重要である。また、職員間で相談や支え合いを行う横のつながりを確保することも求められる。
2-3. ICT・AIの活用による負担軽減の実現
施設内でのケアの質向上や業務効率化の観点から、社会的養護分野においてICTやAIのさらなる導入が期待されている。例えば、従来は電話や紙のフォーマットで連携・管理されている児童記録などについて、図表3に示すように児童相談所と各施設がリアルタイムで情報を共有し連携できるシステムの導入やAI活用などが望まれる。
おわりに
既に医療・介護福祉分野においてはこのようなICTによる情報連携やAI活用がより進んでおり、社会的養護分野においても他分野の経験を参考に導入が求められる。民間企業による積極的な提案や、国・自治体などによる補助制度等の活用も効果的である。
上記のように、社会的養護においてはこどもの複雑なケアニーズに対して、養育者が一丸となって対応をしている現状がある。本質的なケア自体は職員のマンパワーに頼らざるを得ない状況であるが、周辺業務や情報連携の負担を組織化・ICT・DXの力で改善できる余地は十分にある。医療・福祉分野でのICT化・DX推進を支援するコンサルタントとして、全国の社会的養護施設・里親などをサポートするための制度やDX推進がより一層推進されることを期待する。