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Insight
経営研レポート

第9回 イギリスの社会的養護制度からみるこどもの権利擁護のあり方への考察

こども・少子化対策
2026.02.05
ライフ・バリュー・クリエイションユニット
シニアコンサルタント  山岡 由佳
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はじめに

日本において、社会的養護とは「保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うこと」と定義されている 1

現在、日本の社会的養護におけるこどもの権利擁護のあり方は、大きく転換期を迎えている。従来は施設養育が中心であったが、こども一人ひとりの生活環境や愛着形成を重視する観点から、できる限り安定した家庭的環境での養育へと政策の方向性が転換しつつある。こうした流れの中、2017年8月に公表された「新しい社会的養育ビジョン」2 では、家庭的養護の推進に向けて、里親委託率の向上や施設の小規模化・地域分散化の推進が明言されている。

また、2022年6月に成立した改正児童福祉法 3 では、児童相談所などは入所措置や一時保護などの際に児童の最善の利益を考慮しつつ、児童の意見・意向を勘案して措置を行うため、児童の意見聴取などの措置を講ずることが定められた。あわせて意見表明等支援事業が法定化され、各都道府県に対し、社会的養護下のこどもへの意見聴取のための環境整備が求められることとなった。

国際的に見ると、イギリスは社会的養護下のこどもの権利擁護に関し、特に先進的に取り組んできた国として知られている。筆者は、イギリスの社会的養護制度を学ぶため、King’s College Londonにてこどもの権利に関する研究を行うJenny Driscoll教授、ロンドンで社会的養護下のこどもの受け入れ施設を運営する「Young Futures」、イギリス最大の里親支援団体である「The Fostering Network」のロンドン事務所などを訪問し、同国の社会的養護の取り組みについて視察する機会を得た。本稿では、今回の視察で得られた知見を踏まえ、今後日本で検討されるべき課題について考察する。

1 こども家庭庁Webサイト「社会的養護

2 新たな社会的養育の在り方に関する検討会(厚生労働省)「新しい社会的養育ビジョン」(2017年8月2日)

3 こども家庭庁「児童福祉法等の一部を改正する法律(令和4年法律第66号)の概要

1.イギリスの社会的養護の取り組み実態

イギリスはイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4つの構成国から成り、社会的養護に関する制度は構成国ごとに異なる。本章では、イギリス全体の制度的特徴を概観したうえで、人口規模が大きく、日本でも参考とされることの多いイングランドの制度を中心に取り上げる。

1.1 イギリスにおける社会的養護の制度について

社会的養護におけるイギリスと日本の大きな違いの1つは、養育形態である。社会的養護の養育形態として、主に「施設養育」(児童養護施設などの施設での養育)と「里親養育」(里親による養育)がある。Driscoll教授によると、イギリスでは、親族里親を含めた里親養育が社会的養護全体の約67%を占めている。一方、日本では近年、家庭的養育が推進されているものの、里親養育は社会的養護全体の25%程度にとどまっており、約75%が施設養育となっている 4

日本では100名を超える大規模施設も存在するが、イギリスにはそのような大規模施設はなく、「Children’s Home」と呼ばれる定員最大6名のグループホームのような環境での施設養育が行われている。施設養育が選択されるケースには、障がいのあるこどもや自傷行為などが見られるこどもなど、より専門的なケアを必要とする事例が多い。

■イングランドにおける虐待対応について

イングランドでは、日本と同様にLocal Authority(地方自治体)単位で設置されている「Children’s Social Care」(日本における児童相談所に相当する機関)が、児童虐待などの社会的養護が必要な事例への介入を担っている。Children’s Social Careに通報・相談が寄せられると、アセスメント 5 の結果を踏まえ、児童保護計画の策定や福祉サービスの提供が行われる。

また、児童に対する差し迫った危害の恐れがある場合、警察は最大72時間未満、裁判所の許可なしにこどもを保護することが可能である。Children’s Social Careにより施設・里親への措置が必要と判断された場合は、裁判所から養育命令を取得しなければならない。この際、ソーシャルワーカーが虐待の事実調査、証拠収集、養育計画の準備を担うが、裁判所への申し立ては弁護士が行う。

里親や施設への措置が決まると、養育計画に沿った養育が行われるが、実行状況については「Independent Reviewing Officer」と呼ばれる独立した監督官がレビューを行う。

Independent Reviewing Officerは、里親や施設への措置後4週間以内に初回レビューを実施し、その後は3ヵ月後、以降は6ヵ月ごとに定期レビューを行う。また、必要に応じてLocal Authorityに対して改善を求める権限を有している。

4 こども家庭庁支援局家庭福祉課「社会的養育の推進に向けて」(2025年4月, P71)

5 虐待が疑われる事例があると、こどもや保護者へのヒアリングなどを踏まえ、どのように支援していくかを検討することを指す

【図表1】イングランドの虐待対応の流れ

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制度全体を通じて裁判所が最優先に考慮する事項は「こどもの最善の利益」である。裁判手続きにおいて、こどもは法的当事者として扱われる。里親・施設への措置を申し立てる側の弁護士とは別に、こどもを代理する弁護士と訴訟代理人(独立したソーシャルワーカー)が選任され、こどもの意向および最善の利益に基づく主張を行う。

また、里親・施設への措置決定後の養育計画の策定には、こども自身も関与できるようになっており、里親・施設とこどもの間で問題が発生した場合は、Independent Reviewing Officerが必要に応じてLocal Authorityに対して改善を求めることができる。もっとも、養育に関する事項はソーシャルワーカーが検討し、Local Authorityが最終決定を下す形がとられているため、常にこどもの意向がそのまま採用されるわけではない。

しかし、Independent Reviewing OfficerというLocal Authorityから独立した監督官が配置されていることで、養育計画がこどもの最善の利益に沿って実施されているかが継続的にチェックされ、社会的養護下のこどもの権利擁護が制度的に担保されやすい仕組みとなっている。

1.2 イギリスの施設養育について

Young Futuresが運営する施設のひとつ「Yvonne House」では、里親・施設の配置転換を繰り返した末に辿り着いた13歳から17歳の女子を受け入れている。深刻な事情を抱えるこどもが多く、受け入れにあたっては、施設職員のみならず、Local Authority、ソーシャルワーカー、Independent Reviewing Officer、学校・現在の措置先など、そのこどもに関わる多様な関係者がこどもの過去から現在までの経緯を細かく確認した上で、慎重な判断により受け入れが決定されている。

定員6名に対し、医療・心理などの専門職を含めた19人の職員が日夜手厚い支援を行っている。人員体制だけでなく、設備も非常に充実している。こどもにはそれぞれトイレ・浴室付きの機能的な個室が割り当てられ、プライバシーが確保されているほか、部屋は壁紙を含め、自分の好きなようにカスタマイズすることが可能となっている。施設内には清潔なキッチンが設けられており、外食と同等の衛生基準で作られた食事が提供されている。さらに、敷地内の別棟には家族との面会用の部屋があり、家族がいないこどもにも配慮した形で面会できるようになっている。

施設が所在するLocal Authorityの方針もあり、セラピーに力を入れている点も特徴的である。セラピールームには、マインドスターと呼ばれる大きな星の絵が掲げられている。星を中心に「自己肯定感」「健康的な生活」「人間関係」といったテーマで区分されており、それぞれのテーマごとに専門職とディスカッションしながらセラピーを進めていくといった形が採られている。

1.3 イギリスの里親支援について

「The Fostering Network」は、イギリス国内で最大規模の里親支援団体であり、イギリス全土の里親への支援を行っている。

同団体が実施している特徴的な里親支援プログラムのひとつに、「The Fostering Network’s Mockingbird programme」6 がある。本プログラムでは、6~10の里親家族からなる「星座」と呼ばれるコミュニティを形成し、社交活動や宿泊などを通じて交流を深め、コミュニティ内の家庭同士が支え合う仕組みを構築している。これにより、里親とこどもの関係悪化などの問題を予防することが可能となっている。

加えて同団体は、イギリスにおける里親制度の課題を解決するための取り組みも実施している。イギリスでは、里親に対して、Allowance(養育費)とFee(人件費)が支給されているが、里親全体の約66%がそのAllowanceについて不十分であると感じており、約75%がFeeは不十分であると感じている 7。一方で、イギリスでは営利目的で行う里親も増えていることから、営利を追求するような形にならないような仕組みづくりが求められている。

また、里親全体の34%が里親としての権利が十分に認められていないと回答しており、里親の社会的地位向上も課題となっている。同団体は、里親に対するAllowanceおよびFeeの増額や税制優遇、里親向けの年金制度の設立、里親の委任権限の強化など、経済的支援や社会的地位向上の両面から制度改善を進めている。

6 英国におけるMockingbird programmeのライセンスはThe Fostering Networkが保持している

7 The Fostering Network “State of the Nations’ Foster Care Full Report 2024”(p36-37)

2.今後日本で検討されるべき課題

今回の視察を踏まえ、日本の社会的養護下のこどもの権利擁護を推進する上では、「さらなるこどもの意見聴取に向けた仕組みづくり」「さらなる里親・施設に対する支援体制の強化」「日本社会における社会的養護に対する理解の醸成」の3点が必要と考える。

2.1 さらなるこどもの意見聴取に向けた仕組みづくり

今回の視察を通じて、イギリスでは、里親・施設措置への手続きにおいて弁護士・訴訟代理人がこどもの意向および最善の利益を考慮する仕組みが整備されていることや、養育計画の策定においてこども自身が関与できるなど、こどもの意見聴取の仕組みが社会的養護の制度に組み込まれていることが確認された。

日本では、2022年6月に成立した改正児童福祉法により、入所措置や一時保護などの際に、児童の意見聴取などの措置を講ずることが定められた。2024年度に当社が実施した「一時保護の実態と在り方に関する調査研究」8 での調査においても、一時保護の開始時・解除時それぞれにおいて、90%以上の児童相談所が、こどもに対する意見聴取を実施していると回答している。

しかしながら、一時保護中のこどもの支援方針を議論する場に、こども・保護者の両方、あるいはこどものみが参加できると回答した児童相談所は26%にとどまっており、こども自身が支援方針を議論する場に参加できる機会はいまだ限定的である。また同法により、意見表明等支援事業が法定化され、社会的養護下のこどもが自身の意見を表明できる機会の確保は進みつつあるものの、ケースごとにこどもの最善の利益を最大限尊重しつつ、独立した立場で調整する役割の担い手が制度に組み込まれていない。

今後、こども本人が支援方針を議論する場に参加可能とすることや、アドボケイトなど、こどもの声を代弁する立場からケース進行に関与できる仕組みの整備、さらにはイギリスのOfstead 9 のように、施設・里親に対する監督を行う第三者機関を設置すること 10 など、社会的養護下のこどもの権利が最大限に尊重されるような仕組みづくりの検討が必要ではないか。

8 株式会社NTTデータ経営研究所「令和6年子ども・子育て支援など推進調査研究事業 一時保護の実態と在り方に関する調査研究 報告書」(2025年3月)

9 The Office for Standards in Education, Children's Services and Skillsの略。イギリス全土の教育機関(保育園から大学まで)や児童サービスの監査・評価・規制する第三者機関

10 Ofstead Webサイト「About us

2.2 さらなる里親・施設に対する支援体制の強化

Yvonne Houseでは、社会的養護下のこどもに対し、人員体制・設備両面で非常に手厚いケアが提供されていることが確認された。また、The Fostering Networkへの訪問を通じて、イギリスでは、同団体を中心に里親の相互援助や経済的支援、里親の社会的地位向上に向けたさまざまな取り組みが進められていることが確認された。

日本の社会的養護下のこどもに対するケアの実態については、当社が2024年度に実施した「里親・ファミリーホーム・施設の支援のあり方に関する調査研究」11 にて調査が行われている。その結果、里親・施設に措置されているこどもの多くが、発達障害、愛着形成上の課題、トラウマ起因の行動や症状など、多様かつ複雑化した課題を有することが明らかとなった。

このようなケアニーズが高いこどもたちへの対応に多くの時間を要しており、また養育にあたり高度な専門性が求められている実態も確認された。そのため、外部機関との連携や、養育者を支援する間接職員を支援するための職員配置、措置費のあり方の見直しなど、里親・施設への支援体制のさらなる強化が求められている。

今後、里親・施設が求める支援内容や、児童相談所、里親支援センター、児童家庭センターをはじめとする関係機関による支援の実態および課題を把握し、どのように支援体制を構築していくべきか、検討が必要である。

2.3 日本社会における社会的養護に対する理解の醸成

Yvonne Houseへの視察で確認された手厚いケアや充実したセラピーの提供は、Local Authorityの方針に基づくものであり、その背景には、社会的養護が必要なこどもに対する市民の理解度・関心度の強さがあるように感じられた。

今後、日本において、社会的養護下にあるこどもの権利擁護を推進し、手厚いケアを提供していく上で、市民の社会的養護に対する理解の醸成も必要と考える。

例えば、2019年に日本財団が実施した調査 12 では、約6割が養育里親について「全く知らない」「名前を聞いたことがある程度」と回答している。

政府によるキャンペーンの実施や、インターネットを含むメディアでの発信、学校教育への組み込みなどを通じて、社会的養護が必要とされる背景や制度内容、意義などを、事実に基づく正しい情報をわかりやすく市民に情報発信し、日本社会全体で社会的養護下にあるこどもへの理解の促進や支援に対する気運向上を行うことが必要ではないだろうか。

12 日本財団「『里親』に関する意識・実態調査 報告書」(2019年3月)

おわりに

日本とイギリスは家族観や国家の仕組みも異なるため、イギリスの取り組みをそのまま取り入れることは難しいが、イギリスの社会的養護におけるこどもの権利擁護の取り組みから参考となる点は多い。

今後、諸外国の事例も参考にしながら、日本の社会的養護制度におけるこどもの権利擁護がより一層推進されることを期待したい。

本レポートの執筆にあたり、多大なるご協力を賜りました以下の皆さまに深く御礼申し上げます。なお、本レポートの見解は筆者に属します。

  • Professor Jenny Driscoll(King’s College London)
  • Young Futures
  • The Fostering Network
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