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経営研レポート

サステナビリティ情報開示の最新動向

法定開示の進展と、環境から社会領域への広がり
サステナビリティ経営
2026.02.04
社会・環境システム戦略コンサルティングユニット
マネージャー  仲地 唯佳
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はじめに

企業のサステナビリティ対応を取り巻く環境は、今、大きな転換点を迎えている。

サステナビリティに関する取り組みは、金融機関主導でTCFD 1 などの情報開示が進展し、単なる「良い取り組み」ではなく、経営戦略やビジネスモデル、リスク・機会と結び付けて説明されるべき対象となっている。一方で、これまではあくまで任意の開示であったことから、不都合な情報を開示する必要はなく、開示すること自体が評価される「加点方式」であった。そのため、他社と横並びの形式的な情報開示も増加した。

一方、投資家は、開示する情報の内容や定義、質の担保などについて統一された基準を定めることで、サステナビリティ情報をより一層投資判断の根拠として使えるような環境を求め、法定開示の進展という形で結実しつつある。そして、こうした動きは、気候変動にとどまらず、自然資本や循環経済といった環境領域に加え、人権や労働といった社会領域までを含め、経営に関わるさまざまな領域に対象が拡大してきている。

本レポートでは、こうした最新動向を整理したうえで、企業が今後どのような視点でサステナビリティ対応を進めていくべきかについて考察する。

1 Task Force on Climate-Related Financial Disclosures(気候関連財務情報開示タスクフォース)の略。企業などが気候変動に関するリスクや機会を評価し、財務的な観点から情報開示を行う国際的な取り組みを指す。

1.法定開示の進展:SSBJ開示がもたらす「比較可能性」と経営への影響

2023年、国際会計基準(IFRS)財団傘下のISSB(国際サステナビリティ基準審議会)がTCFDをベースにしたサステナビリティ情報開示基準(IFRS S1/S2)を策定した。日本においては、同基準をもとにサステナビリティ基準委員会(SSBJ)により、開示基準の開発が行われた。2027年3月期から、時価総額の大きなプライム上場企業から順次、有価証券報告書での開示が義務付けられる見通しである。

こうした法定開示の進展により、幾つかの具体的な影響が予想される。

第一に、これまでの任意開示においては、記載する内容が相当適度、企業の裁量に委ねられていたが、法定開示となると、重要性(マテリアリティ)2 があると判断される情報については、基本的に開示が必須となる。したがって、企業側にとって都合の良い情報のみを開示することはできなくなる。

第二に、開示が求められる項目の詳細化である。IFRSサステナビリティ開示基準やSSBJ基準は、定量指標も含め、TCFDと比べて詳細な開示項目が定められており、これらの開示が広く定着することで、否応なしに企業の取り組み状況の実態をさらすことになる(具体例は後述)。

第三に、開示されるサステナビリティ情報は、将来的に義務的な第三者保証の対象となるため、相応の精度やそれにふさわしい内部統制が必要となる。

まとめると、サステナビリティ情報が、財務情報のように、開示の基準が統一的に適用されることで、逆に企業間の差異が露見し、投資家や金融機関の意思決定に用いられる前提が整うこととなる。

一例を挙げると、気候変動については、移行計画 3 などの開示に加えて、Scope3排出量 4 算定における「1次データを使用した範囲」の開示が求められている 5

1次データは、サプライヤーなどから直接入手した排出量データである 6。1次データを入手・活用することで、サプライヤーなどと連携したScope3排出量削減効果を反映することができる。サプライヤーがSBT(Science Based Targets:科学的根拠に基づく目標)に沿った排出削減目標を立てて達成に向けて努力している場合、Scope3排出量削減の可能性が高まる。サプライヤーが排出削減目標を設定していない場合は、そうした目標の設定や削減努力を促すこともできる。1次データを活用しているかどうかは、「排出削減に向けたアクションが取れる企業かどうか」を判断するうえで、極めて重要な要素である。同時に、将来の規制強化、炭素価格の上昇といった不確実性への耐性も示すことになる。

また、1次データの活用割合が高い企業は、脱炭素対応をその場しのぎの対応ではなく、調達戦略や自社製品の環境性能の向上と結び付けて検討できる状態にある。これは、顧客からの脱炭素要請に対しても、付加価値創出といった機会実現につなげられる可能性が高いことを意味する。

例えば、低炭素な製品を提供できるサプライヤーを採用することで、自社製品のCFP(カーボンフットプリント)や製品使用時の排出量を削減するといった具合である。

このように、サステナビリティ情報を通じて、投資家や金融機関は、その企業が気候変動リスクや機会にどの程度対応できているかを競合他社と比較して判断できるのである。単に「開示しているか、していないか」から、企業がどれだけ経営にサステナビリティを取り込んでいるかを示す情報として、より如実に実態を表すことになる。

2 「重要性がある」とは、サステナビリティ関連財務開示の文脈において、ある情報について、それを省略したり、誤表示したり、不明瞭にしたりした場合に、財務諸表及びサステナビリティ関連財務開示を含む、特定の報告企業に関する財務情報を提供する当該報告書に基づいて財務報告書の主要な利用者が行う意思決定に影響を与えると合理的に見込み得ることをいう(SSBJによる)。

3 「気候関連の移行計画」とは、温室効果ガス排出の削減などの活動を含む、低炭素経済に向けた移行のための企業の目標、活動又は資源を示した企業の全体的な戦略の一側面をいう(SSBJ気候基準)。

4 サプライチェーン排出量(原料調達・製造・物流・販売・使用・廃棄等、一連の流れから発生する排出量)のうち、Scope1(事業者自らによる温室効果ガスの直接排出)とScope2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出)以外の間接排出量を意味する。

5 SSBJ気候基準第70項、72項

6 1次データ活用の重要性については、経営研レポート「企業に求められる気候変動対応の最新動向」も参照。

2.環境領域におけるテーマの拡大(気候変動から自然資本・循環経済へ)

環境領域においては、気候変動に加え、自然資本や生物多様性、資源循環といったテーマが急速に重要性を増している。

TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)は、企業が自然資本や生態系サービスへの依存、影響、リスク、機会を財務的な観点で評価・開示するためのフレームワークを提供しており、これに基づく情報開示を行う企業は増加している。TNFDは現在進行中の技術的作業を2026年第3四半期までに完了した後、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が新たに進める自然関連の開示基準の策定を支援する方針を示している 7

サーキュラーエコノミー(資源循環)の分野でも、気候や自然と同様に、投資家などによる利用を意識した情報開示枠組みの整備が進みつつある。2025年のCOP30のサイドイベント(ジャパン・パビリオン)では、GCP(Global Circularity Protocol for Business)の初版が公表され 8、TCFDやTNFD、IFRS基準などと同様の4本柱に沿った情報開示を打ち出すなど(図表1)、投資家をはじめとしたステークホルダーによる利用を念頭においた情報開示が進展する可能性がある。

【図表1】GCP(グローバル循環プロトコル: Global Circularity Protocol for Business)の概要

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【出典】

環境省「GCP(グローバル循環プロトコル: Global Circularity Protocol for Business)」(2025年11月12日)

3.社会領域での開示枠組み「TISFD」の始動

人権、労働、安全衛生、不平などといった社会課題は、長らく、コンプライアンスや評判(レピュテーション)リスクの観点で考慮される一方、必ずしも事業の根幹に直結する機会やリスクとして認識されてきたわけではなかった。しかし近年、人的資本が企業価値・競争力に直結するという考え方が広まると共に、強制労働や人権侵害、社会的分断や不平などの拡大といった問題が、事業継続リスクや財務リスクとして顕在化している。

強制労働や人権侵害がサプライチェーン上で顕在化した場合、取引停止、顧客離れ、規制当局による制裁などを通じて、企業活動に影響が及ぶリスクがある。また、労働環境や安全衛生上の問題は、生産停止、品質低下、人材流出を招き、事業の持続可能性を損なう要因となり得る。さらに、社会的分断や不平などの拡大は、労働力確保や市場の安定性に影響を与え、中長期的な成長の制約となる可能性がある。

一方、労働環境の改善や人権尊重の取り組みは、供給の安定や品質向上に加え、取引先などとの信頼関係構築につながる可能性がある。また、従業員の働きやすさやスキルの向上は、優秀な人材のリテンションを強化し、イノベーション創出や生産性向上を通じて、競争力強化にも寄与し得る。

このように、社会領域についても、経営にとって重要なリスク・機会として認識し、説明することが求められ始めている。実際、日本では人的資本に関する取り組みについて、2023年3月期から有価証券報告書での開示が義務付けられている。

こうした社会領域における直近の動きとして、TISFD(不平等・社会関連財務情報開示タスクフォース)での検討が挙げられる。2024年9月に発足したTISFDは、不平等や人権といった社会課題を、企業の人々に対する依存、影響、リスク、機会と結びつけて整理することを目的としている(図表2)。気候分野におけるTCFD、自然分野におけるTNFDと同様に、社会領域における共通言語の構築を目指す動きと位置づけられ、2026年末までの基準初版の発行が目指されている。

【図表2】不平等や社会に関連した依存、影響、リスク、機会

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【出典】

TISFD “Conceptual Foundations – Understanding relationships between business, finance, people and inequality”(2025年10月、P18)

また、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)では、気候基準に続くテーマとして、上述の自然関連に加え、人的資本を含む社会領域の扱いについて検討が始まっている。これは、TISFDなどで整理されつつある社会領域における依存、影響、リスク、機会の考え方が、将来的に法定開示の枠組みに取り込まれる可能性を示唆している。

以上のように、気候変動以外の環境課題や、社会といった領域についても、さまざまなフレームワークづくりが進行しており、TCFDと同様に、将来的には義務的開示の基準に取り込まれていく可能性が極めて高い。なぜなら、投資家は企業の持続性を評価するための新たな指標を常に求め続けているからである。

おわりに ―真のサステナビリティ経営を目指すために今すべきこと

法定開示の時代においては、サステナビリティ情報は有価証券報告書への記載が義務化され、企業は投資家の評価に晒されることとなる。その結果、競合他社と比べて開示内容やコミットメントの達成状況が不十分であれば、経営層が説明を求められることとなる。その際、サステナビリティを経営戦略と一体化させた説明ができなければ、投資家は決して納得することはない。

では、真のサステナビリティ経営を目指すために、今何をすべきだろうか。以下にそのポイントを3つ挙げておきたい。

(1)サステナビリティが経営・事業のアジェンダとなっているか

サステナビリティ担当の役員が任命され、サステナビリティが自社のミッションやパーパスといった上位概念と結びついていること、また、サステナビリティに関する議論に経営企画部門や事業部門が関与し、サステナビリティに関するマテリアリティやKPIが自社のビジネスと密接に結びついていることが挙げられる。さらには、シナリオ分析が1.5度・4度シナリオといった気候変動に特化した定型的な分析にとどまらず、自社の事業に深く関わる社会や経済的な要素(人口動態、技術の発達や地政学的要因など)も組み込まれた重層的な分析になっていることも重要な観点である。

(2)サステナビリティ課題に向けた具体的なアクションが取られているか

サステナビリティをめぐる新たな課題(法規制や制度、社会の意識など)を踏まえたリスクマネジメントや機会創出といった事業戦略の立案にとどまらず、具体的アクションが取られていることが重要である。例えば、2026年度から本格始動するGX-ETS(排出量取引制度)などの新たなルールの下で事業を成長させる戦略を描くことや、排出量の1次データ収集や削減支援をはじめとするサプライヤー・エンゲージメント、環境・社会面における取り組みを顧客に対して価値訴求するための取り組み(脱炭素・低炭素製品などに対する認証取得など)などがこれにあたる。

(3)戦略立案・実行・情報開示のサイクルが回っているか

上記1および2を満たした上で開示するサステナビリティ情報が投資家などのステークホルダーとの対話のツールとして機能しているか、フィードバックを基に戦略に見直しができているかが重要である。SSBJなどの法定開示への対応は不可欠であるが、それだけでは必ずしも十分とはいえない。例えば、近年はサプライチェーンのリスク対応として、取引先(サプライヤー)に対してサステナビリティ情報の開示や認証の取得などを求めるバイヤー側の企業が増えている。サステナビリティ対応は「この企業と取引を続けられるか」「将来にわたってパートナーであり続けられるか」という取引における判断と結び付くようになっていく。上述したような法廷開示の範囲を超えた新たな環境・社会分野の情報開示に取り組んでいくことが、先進サステナビリティ経営企業を目指す上で重要となる。

以上のポイントを満たさない限り、サステナビリティ部門がいかに情報開示に孤軍奮闘したとしても、経営との距離は乖離したままとなってしまい、どれほど素晴らしいサステナビリティ戦略を描こうとも、単なる「絵に描いたかいた餅」となってしまう。

制度や前提条件が大きく変化する中で、過去の開示内容を前提に時点修正を続けるようなやり方は将来的に大きなリスクになり得る。環境・社会に関する多様なサステナビリティ課題と、自社のビジネスとの関係を、改めて理解し直す作業に早期に着手することが必要である。まずは、今の体制、取り組みや情報開示のままで十分なのか、一度立ち止まって棚卸しを行ってはどうか。

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