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Insight
経営研レポート

思想の極性化と社会分断が連鎖する時代をどう生きるか

柔軟な思考を取り戻す「心」と「脳」の科学
Neuro Science
2026.02.02
ニューロ・コグニティブ・イノベーションユニット ディレクター 茨木 拓也
トロント大学 音島ボルジャー莉愛
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はじめに ~「分断」と「対立」が進む時代に私たちの心はどう動くか~

最近、世界中で分断と対立が加速している。そのような気がしないだろうか?

私たちは毎日のようにニュースやSNSを通じて、極端に不安になる情報にさらされ続けている(そもそもそういう情報でないとニュースにはならないが)。COVID-19、ウクライナとロシアの戦争、中東での絶え間ない衝突、〇月×日に大地震が起きる?トランプ大統領がまた何かしでかしそうなど、不安と混乱にさらされ続ける。その中で私たちの心は「未来はもう良くならないのかもしれない」という無力感や絶望感と共に、誰が敵か味方か、被害者か加害者か、陰謀論者か情報強者か、愛国者なのか売国奴なのか、排斥主義者なのか包摂主義者なのかといった分断的ラベル。そしてその対立構造を過激に煽る情報を渇望し始めているように感じる。

異なる意見を持つのは人間社会として自然なことであるが、分断は容易に感情的対立へと発展しうる。その中で有害に見えるのはその意見の過激化と、対立の固定化(=異なる意見への寛容性の低下)である。不確実で不安定な環境下では、極端な意見や感情的な発言が共感を集め、「過激な意見への偏り」が加速しやすくなるように感じる。本当に社会は以前より分断されているのか?それとも「分断されている」と思わされているのか?生成AIやSNSなどデジタルテクノロジーの影響はあるのか?本稿では、現代に生きる我々の心の極性化について脳の科学から読み解くことを試みたい。

分断と対立を深めやすい “脳の思考回路の歪みを増長する” ループとは?

まずこの色は何色に見えるかを考えてほしい。

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多くの人は「黒」と答えるであろうが、実際のRGB値は(41,47,37)である 。つまり、わずかに緑がかった黒なのである。通常は連続的なRGB値をあてることは難しく、少し緑がかった黒だといわれても良く分からなくても仕方がない。なぜなら「白か黒か」と単純に判断することは、人間の脳にとって最もエネルギーを使わないシンプルで思考法であるからだ。

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実際のRBG値上の色

白黒思考はストレス・不安にさらされさらに歪んでいく

社会が不安定になると、人間の心は自然と「ハッキリした答え」を求めたがる。それは不安であいまいなことに頭を悩ませるより、「白」か「黒」とはっきりとさせた方が楽であり、思考するためのエネルギーが節約できるかもしれない。だからこそ、「世界は間違っている」「自分は正しい」「政府は腐っている」といったシンプルだが極端な考えに惹かれてしまいやすくなる。こうした考え方は、ストレスから心を守るための「脳の防御反応」の一種であると考えられている。

実際、コロナ禍では、特に女性を中心に不安や孤独が高まり、それが「白か黒か」という極端な思考と深く結びついた [1]。また、ロックダウン中に強いストレスを感じた学生ほど、「オール・オア・ナッシング(全部かゼロか)」という思考傾向が強く、そのせいで精神疾患を引き起こしやすかったという研究も報告されている [2]。ストレスや不安にさらされた脳は「過激」で歪んだ思考回路(白黒思考など)に変化しやすいようだ。

これは「認知の歪み(コグニティブ・ディストーション)」と呼ばれ、うつ病をはじめとした多くの心の病の基盤にある。特に極端さや否定的な解釈に焦点を当てる特定の認知の歪みパターン(たとえば「白黒思考」「拡大解釈」「過小評価」など)が、情動のコントロールを困難にしたり(感情調整の失調)、メンタルヘルスの問題と密接に関連していることが示されている [3]。 実はこうした歪みは、対人関係の認知を偏らせる原因ともなり、敵意・攻撃性・破壊的行動を助長することがある [4] [5]

認知の歪みを持ちやすい特性を持つ人々がいるのも分かっている。不安障害や自閉スペクトラム症(ASD)、あるいは逆境的小児期体験(ACEs)やトラウマを持つ人は、こうした思考様式が頻繁に見られることが知られている [4]。この件は後ほど深堀する。

より重要なのは、こうした歪みは臨床的な診断がない人々の間でも見られるという点である [5]。つまり、このような認知の歪みは、私たちすべての脳をストレスや不安から守るための防衛メカニズムとして機能しているという側面もある。たとえば、被害を避けるため、あるいは混沌とした状況の中でコントロール感や意味づけを得るため、あえて白黒をつけるという歪んだ思考パターンを無意識のうちに作り出すことがある。何か不条理で不当な経験をした場合「全部自分のせい」「全部あいつのせい」と極端な自責/他責と考えることで、偽りの合理化で刹那の安寧を得られる場合もある [6]

つまり、認知の歪みは生まれつき誰かが持っているものではない。ストレスフルで不確実な世界にさらされることが、認知の歪みを引き起こす原因となり得る。その結果としてうつ病などの精神障害の増加をもたらすと共に、社会的分断や対立も加速している可能性がある。

その仮説的構造を示したのが下図である。

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認知の歪みが加速していく背後にある脳の科学

ストレスと認知の歪みについては、個人の主観に基づいた心理学的観察によるものだけでなく、近年の神経科学研究からも示されている。

ストレスを受けた脳は、柔軟な思考を維持するための神経可塑性が低下し、「あえて新しい情報に基づき更新せず、現状の回路を長期的に保ち続ける方向」へと偏りがちになる。これは脳がエネルギーを節約しようとする「省エネモード」に入るからである。特にストレス時に分泌されるコルチゾール(ストレスホルモンの一種)は、もともと危険に備えるために心と体を緊張させる働きがあるが、長く分泌され続けると、記憶や学習を司る「海馬」の働きを弱め、思考の柔軟性を下げてしまう [7] [8]。その結果、「物事はいろいろな見方がある」という考える力よりも「今の考えを守る」ことが優先され、白黒思考になりやすくなる可能性が指摘されている。

さらに、脳内の神経伝達物質(たとえばグルタミン酸やGABAなど)のバランスも、ストレスによって崩れてしまう [9]。これらは、脳の情報処理や気分の安定に関わる大切な化学物質で、バランスが崩れることで上記の可塑性に影響を与え、考えが偏ったまま凝り固まったり、視野が狭くなったりする可能性がある。また、私たちの脳には「状況に応じて思考を切り替える」仕組みがあるが、それを担うのが青斑核(せいはんかく)という脳の一部である [10]。強いストレスが続くと、この部分もうまく働かなくなり、「柔軟に考える」ことが難しくなってしまう。結果として、複雑な現実を整理しきれず、「敵か味方か」「正しいか間違っているか」といった単純な考えにとらわれやすくなるのである。

不安定な環境は、不安やうつなどのメンタルヘルスのリスクを高める。そして、これらは認知の歪みと深く関連しており、その歪みがさらにメンタルヘルス症状を悪化させることで、悪循環が生まれる [11][12] 。世界の分断や対立を加速させ、それが新たなストレス源になり続けるこのループは、一度陥ると抜け出すのは非常に困難だろう。要約すると、この一連のプロセスは以下のような流れになる。

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分断と対立を深める背後にあるデジタル・AIテクノロジー

過激思考を加速させるデジタル社会~分断と対立を加速させる「温床」としてのデジタル環境

現代に生きる我々が世界に関する情報を取得・発信する手段や、不安やストレスにさらされた時に行う行為は何だろうか。思い浮かぶのは、SNSの閲覧やAIへの相談である。先ほどの図にデジタル環境を加えると、それがいかに「分断と対立の温床」となり得るかが見えてくる。人々はストレスを感じたとき、不安を和らげるために「明確さ」や「確実さ」を求めてデジタル空間に頼りがちである。しかし、デジタル環境には危険も潜んでいる。たとえば、偏った情報を通じて認知的柔軟性の低下を加速させるだけでなく、誰もが簡単に分断や対立を拡散できるプラットフォームとしても機能してしまうからである。

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デジタル・エコーチェンバーと認知的柔軟性の低下

現代の私たちは、SNSやYouTubeなどのデジタル環境に浸りながら生活している。そして、多くの場合、自分と似た意見に囲まれた空間で過ごしている。これらのプラットフォームは一見、多様な意見にアクセスできるように見えるが、実際にはレコメンドアルゴリズムが、ユーザーの賛同しやすい内容を優先的に提示する [13] 。その結果、気づかないうちに、デジタルの世界で自分と似た考えや意見だけとつながり、その意見が反響・増幅される「デジタル・エコーチェンバー」に閉じ込められてしまう。 X(旧Twitter)やTikTok,インスタグラム、YouTube、Facebookなどのプラットフォームは、刺激的で扇情的なコンテンツを拡散しやすい設計になっており、その結果、過激な意見の拡散を無意識に後押しする構造になっている [14]。特に、不安定な立場や孤立した人々にとっては、このような環境が過激化リスクを高める要因となる[15]

さらに、AIの台頭により、人々がデジタル・エコーチェンバーに陥るのがさらに容易になっている。たとえば、GPTのようなAIエージェントをエコーチェンバー的な環境に配置する実験では、人間の入力がなくとも時間の経過とともに意見が偏っていくことが観察された [13]。これは、AIが人間の偏った思考パターンを模倣し、再現する可能性があることを示している。このような意見の極性/極端化(ポラリゼーション)は、思考の枠組みを硬直化させ、新しい情報や異なる視点に柔軟に対応する力=認知的柔軟性を低下させてしまう恐れがある [16]

分断・対立の急速増幅装置としてのデジタル環境

自分が元々好んでいる情報だけに囲まれるデジタル・エコーチェンバーに加えて、デジタル環境は誤情報やフェイクニュースの拡散といった有害な情報拡散に利用されており、社会内の分断を生み出し、さらにそれを増幅させる要因となっている。 こうした「情報の病(インフォデミック)」は、心理的な仕組みを利用して疑念や偽の論争を作り出し、世論を一層分極化させ、民主的なプロセスを弱体化させてしまう [17]。さらに、AI環境や推薦アルゴリズムは意図せずして、集団内の思想的な同質性を高め、集団間の分断を強化してしまうことがある [18]

このように、デジタルテクノロジーによって対立の扇動はかつてないほど容易になり、極端な意見や攻撃的な行動がさらに加速されている。とある研究では、攻撃的・扇動的な投稿はSNS上で拡散されやすく、ユーザーが「所属感」「優越感」「感情的な安心感」を得る手段として機能していることが示されている [19]。匿名性もまた、敵意ある行動を正当化しやすくし、「キャンセルカルチャー」や「オンライン炎上」を助長している [20]。これらのパターンは、SNSが対立行動を「当たり前」のものとして正当化してしまう様子を示している。

一方で、我々自身がSNS=悪意に満ちたデジタル環境の漸次的広まりが極性化の諸悪の根源だという画一的・偏った印象を持ちがちなことにも留意は必要そうである。例えば、デジタル環境内の対立の進展は徐々に進むのではなく急激に進むこと、そして人々が一部のユーザーによる影響を過大評価していること、SNSを使わない高齢者の極性が進むなどデジタル環境だけが分断を助長するものでもないことがわかっている [21]。極右系フォーラム「Stormfront」を14年間にわたって分析した研究では、過激なレトリックの拡大は徐々に起こるのではなく、突発的に急増する傾向があることが明らかにされた。このような急激な高まりは、投稿者のうちわずか10~20%を占める「スーパーユーザー」と呼ばれる少数のメンバーによって主導されている。言い換えれば、過激な思想の拡散は、声の大きい少数派によって推進されており、それが社会の多数派の意見とは限らないのである。“有害な声” は人数比のわりに露出が巨大であり、人間の直感は露出を「人数の多さ」と誤変換しやすい(= “多いから目立つ” ではなく “目立つから多く見えてしまう”)。

初めに上げた “本当に社会は以前より分断されているのか?それとも「分断されている」と思わされているのか?” という問いについてはどうやら両方とも答えはYESであり、そこには人間の脳のバイアスとデジタル空間の密接な相互作用が存在する。

デジタル・エコーチェンバーに対抗するためのツールとしてのAI

もちろん、AIは過激思想の拡散を防ぐ役割も果たすことが期待されている。たとえば、AIはヘイトスピーチや暴力的コンテンツを自動検出し、削除することができる。また、過激化の初期兆候を見抜き、カウンターメッセージを届ける取り組みも行われている。しかし、それらの機能にはプライバシーや表現の自由とのトレードオフや、学習データの偏りによる差別的判断などの課題も残る [22] [23]。 このようにAIは、私たちの思考を助ける存在にも、偏らせる存在にもなり得る。ゆえに、私たち自身が「AIに思考を委ねすぎていないか」「本当に多様な情報に触れているか」を意識的に点検することが、これからの情報社会ではますます重要になっていくであろう。

分断と対立を深める背後にある極端な思考になりやすい特性や生い立ち

分断と対立を助長しやすい心理的・発達的特性

これまで分断が増長するメカニズムやデジタルテクノロジーの影響を見てきたが、そもそも極端な思考に陥りやすい特性はあるのだろうか。実際、一部の心理的・発達的特性は、極端かつ白黒的な思考に陥りやすいことが知られている。たとえば、自閉スペクトラム症(ASD)の人々は、予測不能な状況や不確実性への耐性が低く、秩序や明確さを強く求める傾向がある。その結果、世界を硬直した二分法で捉えやすくなる [24]。最近の研究では、ASDの人々はあいまいさへの耐性が著しく低く、認知的一貫性を強く求める傾向があり、白黒思考を助長していることが示されている [24]。このような「あいまいさへの耐性の低さ」はASDに限らず、境界性パーソナリティ障害(BPD)、強迫性障害(OCD)、うつ病、摂食障害などにも見られる [25] [26] [27]。これらの状態は、認知の硬直性や白黒思考と強く関連していることが多い。

特定の心理特性も極端思考や攻撃的な行動への傾向を強めることが知られている。たとえば、「ダーク・トライアド」と呼ばれる性格特性(ナルシシズム、マキャベリズム、サイコパシー)を持つ人々は、認知的柔軟性が低く、物事を二元的に判断しやすい傾向がある [28]。特に、マキャベリストやナルシシストは、「被害者意識」と「美徳のシグナル」を組み合わせたメッセージを使って他者を操作し、自分に助けを引き出そうとする傾向がある(例:戦後にグリーンランドをデンマークに返還してあげたのに返してもらえない不利益を被っているのが米国)。また、こうした人物は、不正行為、偽造品の推奨、不満の誇張など、非合理的・反社会的な行動に出る可能性が高いとする研究もある [29]。このように、白黒思考のパターンと攻撃性の高い行動傾向を併せ持つ「ダーク・トライアド」的特性のある人々は、特に分断や対立を引き起こしやすい集団といえる。

逆境的小児期体験(ACE)が分断と対立に与える影響

極端な思考におけるリスク要因の中でも、虐待、貧困、家庭の機能不全、いじめなどの「逆境的小児期体験(Adverse Childhood Experiences: ACE)」は、特に強い影響を持つことで知られている。安全性の低い、または混沌とした環境で育った人々は、不安や警戒心が高まりやすく、大人になってから複雑な現実を過度に単純化して捉える傾向がある。ある研究では、極左過激派の約50%、極右過激派の約70%が、4つ以上のACEを経験していたことが報告されている[30]。さらに、元白人至上主義者の63%が4つ以上のACEを経験していたのに対し、一般人口ではわずか16%にすぎないこともわかっている [31]。このような背景は、「敵を作って自分を守らなければならない」といった極端な世界観を強化し、怒りや自己嫌悪といった感情状態を生み出す。

そして、このような極端な思考は、特にACEを経験した人において攻撃的な行動にもつながりやすくなる。ACEと攻撃行動(対面・オンライン)との関連を調査した研究では、ACEを持つ人のうち、その51%が対面での攻撃行動を、16%が対面とサイバーの両方での攻撃行動に関与していたことが明らかになった [32]

さらに、インターネットはこうした脆弱な人々に、極端なコンテンツを拡散し、「誤ったつながり感覚」や「アイデンティティ」を与える力を持っている [33]。たとえば、逆境のある子どもたちは、情緒の安定を得るためにデジタル環境に頼る傾向があり、これが依存・社会的孤立・オンラインでの対立のリスクを高めることになる [34]。ある研究では、里親・養子環境で育った子どもたちのうち、約半数が4つ以上のACEを経験しており、デジタル機器への過剰依存(問題的メディア使用=PMU)の傾向が顕著だという報告がある [35]

また、分断や攻撃性のリスクが高まるだけでなく、SNSや動画プラットフォームのようなデジタル環境への過度な依存は、脳の可塑性(柔軟性)を低下させ、認知的柔軟性の喪失にもつながることが示されている。発達段階におけるデジタル機器の過剰使用は、記憶力、注意力、実行機能の低下を引き起こすとされており、自分の信念を正当化するような思考パターン(確証バイアス)を助長する。これにより、極端なイデオロギーが形成されやすくなる。この現象は「デジタル認知症(digital dementia)」とも呼ばれ、硬直的思考や過激な信念が維持・強化される環境を生み出す [36]。その結果、さらに極端で硬直した思考傾向が強まってしまうリスクが高まっていると考えられる。

認知の歪みの最悪の帰結 ~政治・社会レベルの過激化・対立

今まで、不安やストレスフルな環境、そういった生い立ちが思考を歪ませ、固定化していく過程を見てきた。ここでは、その歪みが極致に達する過激化という現象に向き合ってみたい。

危機が生む「強いリーダー」待望論 ~Rally Around the Flag効果とは

過激化は、政治的な行動・現象に深く関わる。トランプやプーチンのような強権的なリーダーが支持されるようになる前段の現象として 「不安」と「対立」が隠れている。COVID-19や戦争、経済不安など、社会が大きな不安に包まれると、多くの人々は「強くて明確な判断を下すリーダー」を求めるようになる [37] [38]。このときによく起こるのが、「ラリー・アラウンド・ザ・フラッグ(Rally Around the Flag)」効果と呼ばれるものである [39]

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「旗の周りに集まれ、もっと男が必要だ」

この効果は、国や社会が危機に直面したとき、国民が一致団結し、現職の指導者への支持が一時的に高まる現象を指す [40]。これは「とにかく今はまとまるべきだ」「強い決断力が必要だ」という集団心理に基づくものである。この効果は、しばしば負のループを生み出す。つまり、不安感が高まることで指導者への支持が強まり、その結果として権力が集中し、さらに支持者の分断や極端化が進み、さらに人心が荒廃していくのである [40]

たとえば、2001年のアメリカ同時多発テロ(9.11)後、当時の大統領ジョージ・W・ブッシュへの支持率は59%から89%まで上昇した [40]。ブッシュは「テロとの戦い」という明快なメッセージを掲げ、軍事的・報復的な行動に踏み出した。この「分かりやすい強さ」が不安な社会において評価され、国民の結束と支持につながったのである。

傷を負った過激なリーダーの発信する「単純なメッセージ」が分断を進める

経済が不安定で、社会の分断や格差が広がるとき、人々は不安を感じ、複雑で多面的な説明よりも、「敵か味方か」「正しいか間違っているか」といった単純で過激な主張を好む傾向が強くなる。これはこれまで説明した白黒思考とも強く関連している。このとき台頭するのが、トランプ大統領やプーチン大統領のような、ポピュリズム的で支配的なリーダーである。彼らは「強さ」や「決断力」を前面に出し、白黒表現「私だけが国を救える」「外国人やエリートがこの国をダメにした」といった、分かりやすく敵を設定する巧みな言葉で支持を集める [41] [42]

心理学的には、不確実な状況でアイデンティティが揺らぐと、人は 「自分はどこに属しているのか」 という問いに対して安心感を与えてくれる、排他的な思想やリーダーに引き寄せられると言われている(不確実性-アイデンティティ理論)[43] [44]

こうした過激なリーダーの単純なメッセージの背景には、彼らの自身の生い立ちや心の傷が影を落としている場合も少なくない。これまで見てきたように人は心に傷を負って育つと、認知の歪みを抱えやすくなる。ロシアのプーチン大統領はKGB出身であり、若いころからスパイ活動や情報工作に従事してきた。モスクワ生まれのジャーナリスト・ゲッセンによる人物伝によると、常に敵の動きを探り、偽情報を操作し、相手を信用しない訓練を積むなかで、不信感や疑心暗鬼の性格を形成していったとされる。こうした背景は、彼が国家運営において「裏切り者を許さない」「外敵に包囲されている」という白黒思考的な世界観を繰り返し訴える姿勢に色濃く表れている。実際、国内の反体制派を「敵」と断じて排除し、国際社会に対しても「ロシアは常に被害者だ」という構図を打ち出すことで支持を固めてきた。同じく、トランプ政権で台頭したJ.D.ヴァンス上院議員の経歴も、「心の傷」と社会的分断の連鎖を象徴している。彼はオハイオ州ミドルタウンに生まれ、母親は薬物依存症に苦しんだ。逆境的小児期体験(ACE)が重なりやすい家庭環境で育った彼は、自伝『ヒルビリー・エレジー』でその体験を描き、のちに映画化もされた。その作品の中で母親が「You’ve always got a reason! It’s always someone else’s fault. At some point, you’re going to have to take responsibility.」(あなたいつも言い訳ばかりでいつも他人のせいにしている。いつかはその責任取らないといけないわよ。)」と指摘される他責的な性格として描かれる場面がある。この「被害者意識を根拠にした極端な他責志向」は、まさに「エリートが決めたウクライナ支援や自由貿易のコストを国内の “忘れられた被害アメリカ人” が負担させられている」といった彼のレトリックと重なる。

個人の心の傷や認知の歪みが、リーダーの言葉や政策に組み込まれると、それが集団全体の被害者意識や敵対心を強化し、社会の分断を加速させる。我々は、分断と心の傷が次の世代にまで受け継がれるという連鎖に永遠と縛られなければならないのだろうか。

情報操作と「見せかけの支持率」が社会を動かす

そしてここでもデジタルテクノロジーが大きな役割を果たす。現代のリーダーたちは、メディアやSNSを戦略的に活用し、世論を操作することで自らの人気を保っている。たとえば、トランプ大統領はXを使って、自身の支持者を煽り、敵対勢力を攻撃することで社会を二極化させた [44] [45]。ロシアではプーチン大統領がメディア報道を厳しく管理し、自らの人気や正当性を強調している。実験では、「プーチンが高い支持を得ている」と報道された人々ほど、実際に彼への支持を示す傾向が強くなることが示されている。人々は「周囲も支持しているから自分も」と感じ、見せかけの支持が本物の支持に変わっていくのである [46]

白黒思考が国全体に広がる「負のループ」

こうした過激なメッセージが広がると、社会全体が「白か黒か」の思考(白黒思考)にますます染まりやすくなる。「あの国の人は信用できない」「政府は腐敗している」「〇〇派の意見はすべて間違いだ」。そうすると中間的な立場や多様な意見が切り捨てられ、複雑な現実が単純な二項対立へと還元されてしまう。アメリカでは「赤い州」と「青い州」の対立が家族や友人の間にまで持ち込まれ、相手を「愛国者」か「売国奴」とラベル付けしあう言説が飛び交っているという。同じような構図はSNS上でも強化され、穏健な声ほど沈黙に追いやられていく。

歴史を振り返れば、この白黒思考はしばしば破滅的な帰結を招いてきた。第一次世界大戦は、たった一人の民族主義者による暗殺事件(サラエボ事件)が引き金とし、「味方」か「敵」という硬直した二分法のもとで同盟関係が連鎖し、世界規模の戦争に発展した。かつて一つの国だった人々でも「資本主義か社会主義か」といった単純な二項対立に引き裂かれ、例えば南北朝鮮や中台対立など、同じ言語を話す隣人や家族までもが「敵」として銃を向け合うことになっている。武力衝突だけでなく経済の領域においても対立を先鋭化させる。たとえばトランプ政権下で起きている貿易戦争では、アメリカは「自国は長年不公正な貿易で搾取されてきた被害者だ」という物語を掲げ、他国を一方的な加害者として非難した。そのうえで関税を「報復」の手段として正当化し、まるで関税の応酬こそが「正義の戦い」であるかのように演出している。こうした単純な被害者・加害者の枠組みは、実際には複雑に絡み合う貿易構造や相互依存の現実を覆い隠し、対立をいっそう深める結果となっているように見える。単純化された物語の動員は私たちの脆弱な脳に浸透し、感情と行動を戦争へと駆り立てている。

このように、白黒思考が社会に蔓延すると、「沈黙の螺旋」によって多様な声は表に出にくくなり、極端な主張だけが目立つようになる。その結果、相互理解や妥協の可能性は失われ、個人の不信や敵意が、やがて社会全体を分断し、国家間の対立や戦争へと結晶化していく。

極性化された世界から私達ははいだせるのか?

答えは「YES」である。思考は固定化されておらず、常に柔軟に変動している。視野がどんどん狭くなっていくのは簡単だが、努力で視野を広げることもできる。ただし、単に情報を遮断したり、デジタル空間を無視したりするだけでは不十分である。求められているのは、人々が認知的柔軟性・情緒的安定性・開かれた心を取り戻すための心理的ツールとテクノロジーの組み合わせである。災害なども含め、世界のすべての不安定さと不安をなくすことはできないが、その中でも人々が「白か黒か」の思考に引きずられずに済むような「セーフティーネット」を社会全体で構築していくことは可能であるはずである。このパートでは現在の対立の悪循環を抜け出すための介入の糸口を探していく。

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介入①:不安軽減― 不安な環境でも過激化を防ぐ力を育む

まず、一つめの方法は不安定な社会の中でどれぐらい「不安」を軽減できるかに関わるものである。例えば過去に逆境的な体験(ACE)を持つ人に対しては、「コミュニティ関連の子ども期の肯定的体験(Community-related Positive Childhood Experiences: CPCE)」の考え方が注目されている。これは、信頼できる大人との関係、安全で肯定的な環境、安心して話せる場など、過去の傷を「打ち消す」ような新たな体験を提供することで、トラウマの長期的影響を和らげようというアプローチである [48]。これは、逆境的環境に育っていない人でも、ポジティブな経験とそれへのフォーカスで不安感を軽減できるはずだ。そしてポジティブなことが多くなくても、わずかな良いことに目を向けることができるようにすることが不安を和らげることにつながる。

介入②:脳(認知・思考)の柔軟性を育てるトレーニング

二つ目の方法は自分の脳のスキル、まず気づく力、それを修正する柔らかさ、さらに自分と異なる意見を持つ他者を受け入れる強さを鍛えることである。これらのスキルは過激な思想や極端な反応を防ぐうえでの認知的な免疫と言ってもいいかもしれない。これらを養うのに重要なのは、「メタ認知(=自分の思考や感情を客観視する力)」や「認知的柔軟性(=複数の視点を持ち、思い込みを見直す力)」を高める取り組みである。これを実現するには色々な方法があり、臨床心理学的アプローチや、ビジネスシーンで受講するような研修、そしてニューロテクノロジーを用いた方法など様々である。

◆ ステージ1:メタ認知アウェアネス ― 自分の思考と向き合う力

まず、ちょっとしたセルフチェックをしてみていただきたい。以下の状況を読んで、最初に頭に浮かんだ考えや、普段自分がどのように考えているかを振り返ってみて、その反応が「極端な思考パターン」になっていないかを確認していこう。

① 友達が突然約束をキャンセルしてきた。どう思う?

❌「この人は私のことなんてどうでもいいんだ。もう信用できない。」

✅「何か急用があったのかも。あとで理由を聞いてみよう。」

👉 すぐに “もう無理” と感じたなら、白黒思考の傾向がある可能性が高い。

 

② 仕事で一度ミスをした。自分にどう声をかける?

❌「私はいつもダメ。やっぱり無能なんだ…」

✅「今回はうまくいかなかったけど、今までにもできたことはある。次に活かそう。」

👉 「いつも」「絶対に」など、極端な自己評価は白黒思考のサインである。

 

③ SNSで自分と違う意見を見かけた。どう感じる?

❌「こんな意見を言う人はバカか悪意があるに違いない。」

✅「なるほど、こういう見方もあるんだな。背景が気になる。」

👉 「敵か味方か」で判断してしまうのも、柔軟性のない思考の特徴である。

上記のチェックは「正解・不正解」を測るものではない。こうした過激的思考パターンを断ち切る第一歩は、「自分がいま何を考えているか」「どんな感情に飲まれているか」に気づく力=自己認識力を高めることである。この自己認識力は、精神的な安定の土台であり、極端な思考や攻撃的な行動から自分を守る「心のクッション」の役割も果たす [49]。まず、自分の思考や感じたことを自分で振り返る、こうした自省的なプロセス自体が気づきを促す良い訓練となる。

◆ ステージ2:認知的柔軟性 ― 思い込みを修正する力

次は認知柔軟性について紹介しよう。下の図は、キリンの絵である。視点を変えると、別の動物が隠れている。さて、あなたにはその動物が見えるだろうか。

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引用:Leo Burnett, “See whatever you want to see” . Available:

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自分の思考のクセに気づくことができるようになったら、次はそれを再構成する力が求められる。たとえば、「〇〇な人はみんなこうだ」といった白黒思考を、「いろんな背景があるかもしれない」と捉え直すスキルを訓練可能である。

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引用:Leo Burnett, “See whatever you want to see” . Available:

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さて、答えはペンギンであったが、ここでお伝えしたかったのは、視点を切り替えられるようになることで世界の見方は変えられるということである。これは、他者との対話を円滑にし、怒りや偏見を抑えるうえでも極めて重要なスキルである。実際、認知的に柔軟な人は感情のコントロールが上手で、被害妄想や過激主義に陥る傾向が低いことが示されている [52] [53]

極端な思考や白黒の決めつけに傾きやすいのは、「どうせ傷を負った自分はもう変わらない」という固定的な見方や「曖昧な状況に耐えられない」不寛容で強迫的な心の状態であり、その反対は、傷を負っても柔軟に復元する力(レジリエンス)と、不確実なものに耐える力(トレランス・寛容性)である [54] [55]。これは認知的柔軟性と深く関係しており、「違う見方もあるんだ。次はペンギンにもすぐ気づけるかもしれない」と前向きに捉えるレジリエンス(心理的回復力)や、「少しモヤモヤするけれど、そんな見方もあるんだな」と受け入れられる寛容性が、白黒思考に対抗する脳のスキルの一つとなる。

◆ ステージ3:共感力と対話 ― 他者を理解し、つながる力

もう一つの大切な力が共感力である。これは、他者の立場や気持ちを想像し、理解しようとする力である。共感があれば、たとえ意見が違っても、「この人にも背景があるかもしれない」と思うことができる。それは、怒りや憎しみを静め、分断や攻撃的な態度を和らげる土台になる [56]

では共感力はトレーニングで伸ばせるのだろうか?ここでは、哲学者ジョン・ロールズが提唱した 「無知のヴェール」という思考実験をしていただく。これは、いったん自分の立場や属性(年齢、性別、国籍、経済状況など)を忘れて、「誰にとっても公平な状況とは何か?」を考えることを通して、他者の視点を取り入れる力を養う一つの訓練法である。

● 例①:移民や外国人への対応

「明日から自分が、言葉も文化も異なる国で生活することになったとしたら──そのとき、どんな制度や社会の対応が望ましいと思いますか?」

どのようなことが思い浮かんだだろうか? たとえば、「役所の手続きが簡素でわかりやすい」「学校や職場に通訳や支援者がいる」「地域に受け入れてくれる雰囲気がある」などが考えられるかもしれない。

● 例②:生活困窮や貧困状態に陥ったとき

「もし自分が突然の病気や失業で生活に困窮し、支援が必要な立場になったとしたら、どのような社会制度や人々のまなざしがあってほしいと感じますか?」

あなたは何を思い浮かべただろうか? たとえば、「恥ずかしさを感じずに相談できる窓口」「生活保護を受けることへの偏見のなさ」「一度失敗しても立ち直れる環境」などがあるかもしれない。

このような問いかけと想定は、特定の誰かを批判したり断定したりする思考から離れ、「自分ごと」として考える感覚を育てるのである。

また、共感と同じぐらい重要なのは対話である。信頼できる人との対話、共感的なコミュニケーションは、人に「居場所」や「つながり」の感覚を与える。こうしたつながりが希薄な人ほど、過激派グループや陰謀論の世界に惹かれやすくなるため、日常の中に「聞いてくれる誰か」がいることは、強力な予防因子になる [55]

◆ ステージ4:最新テクノロジーの可能性~ニューロフィードバックによる思考の柔軟化

近年注目されているニューロテクノロジーの一つに、ニューロフィードバック(Neurofeedback 以下、NFB)がある。NFBは、脳活動をリアルタイムで可視化し、本人がその情報を手がかりに脳の状態を調整していくトレーニングである。従来はうつ症状や不安症への治療応用が主に研究されてきたが、近年では「思考の硬直化を柔らげ、柔軟に視点を切り替える力を鍛える」介入としての可能性が示されつつある [57]

たとえば、反芻思考傾向の強い被験者を対象にNFBを実施したところ、デフォルトモードネットワークと実行制御ネットワークの切り替えを改善させることに成功した。数日間の訓練の後、被験者はネガティブな思考にとらわれにくくなり、抑うつ症状の改善が確認されたのだ。この研究は、NFBが「白か黒か」という二分法的思考を緩和し、中道的で柔軟な思考へ導く可能性を示している。他にも、過酷な訓練環境にある新兵にNFBを行った結果、感情調整力やストレス対処力が改善し、レジリエンスが向上したことが報告されている。これは極度のストレスや不安に直面しても、心をしなやかに保ち、過激な反応に流されにくくする「こころの可塑性」を強化できることを意味している。

このように、NFBは硬直した極性化された思考をほぐし、認知的柔軟性を高めることで、中道的な判断や他者理解を促す実践的ツールとして活用できる可能性を秘めている。今後は心理療法や社会的介入と組み合わせながら、ニューロテクノロジーを活用した「認知的免疫」の強化が、分断社会を和らげる新しい道筋となり得ることが期待される。

介入③:デジタル・オンライン介入

AIなどのデジタルテクノロジーを活用した介入では、まずどれだけ「過激化の予兆」に早く気づけるか、そしてどれぐらい偏っていない情報を提供できるかが鍵となる。近年では、AIによるコンテンツモデレーション(オンライン上の有害表現の監視)に加え、SNS投稿や言語パターンから過激な傾向の兆しを検出し、早期に専門家や支援につなげる仕組みが開発されている [56]。また、AIチャットボットや感情分析を通じて、自身の認知の歪みに「気づく」ための対話型ツールも登場しており、単なる監視技術ではなく、「立ち止まり」や「内省」を促す補助的な役割として期待されている [58]。デジタル社会は、利用者が気づかないうちに思考を偏らせ、また対立を生みやすい環境をつくってしまう危険性をはらんでいる。だからこそ、そうした偏りのリスクをきちんと発信し、不要な対立が起きないようにするためのルールやレギュレーションの整備が求められる [13] [59]

介入④:分断を生みやすいグループ向け介入

先ほど述べたACE(逆境的小児期体験)やトラウマを抱える人に対しては、CPCU(補償的ポジティブな子ども時代の体験)のような支援的介入が有効であることが指摘されているが、白黒思考になりやすいグループに視点をあてるのも一つの介入方法である。

ダーク・トライアドや境界性パーソナリティ傾向、ASD特性など、白黒思考に陥りやすい性格傾向をもつ人には、それぞれの特徴に合った個別の介入が有効かもしれない。たとえば、攻撃的なファンタジー傾向やパーソナリティリスクの高いユーザーを早期に識別することで、オンライン上での攻撃行動を未然に防ぐことが可能になる [56]。また、SNSなどのプラットフォームにおいても、個人の特性に応じたパーソナリティ対応型のモデレーションや介入設計を行うことで、分断や対立を煽る投稿への効果的な対応が期待されている [58]。このように、極端な思考や感情に陥りやすい「分断を生みやすいグループ」に焦点を当てた介入も、分断の連鎖を断ち切るための鍵となるだろう。

おわりに ~分断の連鎖から脱出したいと思ったら

本稿を通じて見てきたように、分断や過激化が広がる現代社会において、私たちは「白黒思考」に陥りやすい環境の中で生きている。しかし、過激な言説や排他的な態度の背景には、個人のトラウマや不安、そして情報環境の偏りといった複雑な要因が絡み合っていることが分かってきた。

しかし、思考とは固定されたものではなく、訓練や環境によって柔軟に変化し得る。心理的な支援や教育に加え、ニューロフィードバックなどの新しいテクノロジーは、過激な思考を緩和し、中道的で多面的な視点を取り戻すための実践的なツールとなり得るだろう。

分断の連鎖を断ち切るためには、一人ひとりが自らの認知のクセや情報環境を自覚し、社会全体で「認知的免疫」を育てる取り組みを進める必要がある。過激な声に押し流されるのではなく、共感や柔軟性を養うことが、持続可能な共存への第一歩となるのではないだろうか。

だからこそ「正しさ」を押し付け合うのではなく、その言説の背景や認知のクセに目を向け、それに応じた介入を実践し、支援を設計していくことが必要である。AIなどの技術も、人間の気づきや対話を支える「補助輪」として活用しながら、柔軟な思考、共感、そして曖昧さを受け入れる力を社会全体で育てていくような環境づくりこそが、分断の連鎖を断ち切り、多様な価値観が共存できる社会への第一歩になるのではないか。

注釈

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