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Insight
経営研レポート

Works, be Playful!
②ニューロテクノロジーによる
新たなジョブクラフティング法の開発

脳科学
2023.09.22
ニューロイノベーションユニット
アソシエイトパートナー 茨木 拓也
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1.ジョブクラフティングの実践
~認知クラフティングと“リフレーミング”

前稿では、プレイフルワークデザインとジョブクラフティングについて、主に経営学的な観点から概説した。本稿ではその実践方法について、我々が開発したニューロテクノロジーを用いた新たなプロトコルも含めて紹介する。これまでに我々が行った検証では、「自分の仕事に対するネガティブなとらえ方を認知的クラフティングにより効果的に変えること」に成功し、さらに、その際の脳活動を再現するニューロフィードバックを行うことにより「効果を増強」できることに成功している。

まず、我々はジョブクラフティングの中でも、仕事の捉え方を変える「認知クラフティング」に注目している。なぜならば、人間関係や仕事内容と比べて、本人の考え方次第で変えられるという点で汎用性が高く、そのスキルの向上についても先行研究から有意義な介入方法が知られているからである。

認知クラフティングの具体的な方策としては、仕事に関わる物事や出来事を、現在の見方や感じ方から変えることで気分や感情を変化させる「リフレーミング(認知的再構成とも)」が重要な取り組みとなる。仕事上の不満な点をリフレーミングする認知クラフティングを行うことで、より肯定的に仕事を捉えられるようになり、ワークエンゲージメントの向上も期待できるのではないかと仮説づけた。

リフレーミングの実践として提案されている方法としては、被験者にとって不愉快かつ未解決である過去の出来事に関して「ポジティブな影響」「感謝できる点」「成長できた点」「得られた強み」などを書かせるライティングを通したリフレーミング方法1がある。このリフレーミングの実験の結果、被験者にとって不愉快かつ未解決である過去の出来事が、よりポジティブかつ解決済の出来事として評価されるようになったと共に、その記憶を思い出す回数や苦痛だと感じる程度が減少した。マイナスな出来事の中で肯定的要素を認識させるリフレーミングが実際に認識そのものを変容させることを示している。 他にもLambert et al.(2012)の実験2では、感謝できる点を探索することがポジティブ・リフレーミングやポジティブな感情を促し、抑うつ症状の低減にも貢献することが報告されている。

2.ニューロテクノロジーによる
“認知的リフレーミング”の可能性

いくつか先行研究を紹介しよう。うつ病になると、健康な人よりも否定的なイメージに注意がいきやすくなったり、否定的な思考から抜け出しにくくなったりする傾向がある。 Mennen et al.(2020)による実験3では、このような傾向のあるうつ病患者に対し、否定的な感情を示す表情への注意を減少させるようなニューロフィードバックを行った。被験者は「風景画像」と「人の恐怖表情」の画像を重ね合わせた画像を見て、人の表情よりも風景画像に注意を向けるよう指示された(例え50%ずつ重ねても、うつだとネガティブな表情しか頭に入らなくなる)。この時の脳活動のデータから、風景画像と顔画像に注意を向けている割合が計算され、次に表示する画像が変化していった。風景に注目できている場合には風景画像がより見やすくなり、顔に注意が向いている場合には風景画像がより見にくくなる。このトレーニングの結果、否定的な感情を表す表情に対する注意の偏りを減少させることができ、さらにうつ症状も改善されたことが報告されている。

「うつ」は認知が歪んでしまう代表的な例だが、他にも恐怖症に対してもニューロフィードバックによって、これまでの治療法(曝露療法と呼ばれる恐怖対象にひたすら曝露し続けることで患者を慣れさせる手法)とは全く異なるアプローチ=意識を伴うことなく脳の情報処理そのものをターゲットにした(リフレーミングというか脳の再配線と言えるような)方法が開発されている4。どのようにやるかというと、例えばゴキブリ恐怖症の人がいたとする。そしてその人にゴキブリを見せることなく、その人がゴキブリをもし見たとしたらどんな脳状態になるかを推定する。そして、本人には一切ゴキブリを見せない状態で、もしゴキブリを見た脳活動に近くなったら金銭的な報酬を与えるというニューロフィードバック訓練を行う。すると、脳状態と恐怖の紐づけが弱まり恐怖の記憶が思い出されなくなった。

これは極めて革命的なアプローチである。恐怖症・PTSDなどの治療では、前述の苦痛な記憶そのものに慣れていく曝露療法がとられる。しかしニューロフィードバックトレーニングを用いれば、苦痛の記憶そのものを思い出すことなく緩和することができるという点で優れた介入方法といえる。

さらに、最新の研究では物語の「解釈」をニューロフィードバックによって変えられることも報告されている5。被験者が、米国の作家サリンジャーのPretty Mouth and Green My Eyes(邦題:愛らしき口もと目は緑)”という解釈が二通り取れる(主人公の妻が本当に浮気しているor主人公の被害妄想)ショートストーリーを聞きながら、どちらかランダムにアサインされた解釈に近い脳状態になるようにリアルタイムでニューロフィードバックする。結果、脳からどちらの解釈か精度が高く解読できた被験者に関しては、解釈を指定された方向に変えることができていた。

以上のように、これまでカウンセリングなど定性的に行われてきた「物事の捉え方のゆがみ」を補正する方法として、ニューロフィードバックは革新的な可能性を持っている。

3.ニューロテクノロジーによる
“リフレーミング”技術の開発と実証

以上のような技術的可能性に基づき、当社ではVIE STYLE株式会社と株式会社リコーと共に、仕事に対してネガティブな状況にある人に向けて、ニューロテクノロジーを応用した新たな認知クラフティングスキルのトレーニング法を開発している6

リコーは自社の提供価値を「“はたらく”に歓びを」と定義し、働く人の充足感や達成感を支えることを通して、働きがいと経済成長が両立する持続可能な社会を目指した人的資本経営を行うことを宣言しているが7、我々の取り組みも同様のビジョンに基づいて、その具体的なソリューションとして、クラフティングスキルの向上や、仕事上の困難さ感覚の低減、やる気の向上を提供するサービスにつなげることを目指している。

さて、以下に我々の開発したニューロフィードバックを導入した認知的クラフティングのプロトコルとその効果検証研究を紹介しよう。

3.1.方法

基本となるアイディアは、これまで定性的・属人的・言語的に行われてきた「仕事の捉え方」変える認知的クラフティングをニューロフィードバックによって脳の情報処理レベルで修飾・支援することである。

そのために、本人の「仕事をネガティブに考えている時」と「捉え直しをしている時」脳の状態を定義し、より後者の脳活動を起こせるよう自己訓練を提供する必要がある。

そこでまず重要なステップが、本人が仕事に関連してどんなネガティブな信念を抱いているのかを表出していくことである。その信念を我々は「スタックポイント」と呼び、その信念をとらえ直すことを一度頑張って実践してもらうことで、積極的に物事をとらえ直している脳の状態を観測できるようにする。このネガポジ両方のデータを記録することにより、ニューロフィードバックの力を借りてクラフティング時の脳活動を再現する訓練が可能となる。認知的クラフティングとニューロフィードバックの融合ともいえそうなこのアイディアをプロトコルとしてまとめたのが下図である。

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・Pre評価

この検証の主目的は、開発したプロトコルが本人の認知クラフティングスキルを上げうるか、そしてその実践を通して仕事の苦痛度を下げ、やる気が上がるかを調べることである。そこでまず、事前状態の評価として、前稿でも紹介したクラフティングスキルを測るJCQ(Job Crafting Questionnaire)9(認知クラフティング項目のみ)と仕事に関わるやる気尺度(MWMS) 10を回答してもらった。

また、認知行動療法の一種であり、日本でもトラウマを抱えたPTSD患者に対する臨床効果が実証されている11認知処理療法(CPT)12を参考に、対象者の仕事上のスタックポイント=仕事を楽しいものと捉え直す上で妨げになる仕事に対する現状の不満・信念・思い込み(が反映された短い文章表現 )をあげてもらい、その苦痛度・頻度・未解決度合・解決できないと思う度合を回答してもらった(下図参照)。

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そして負の感情を導入するプロトコル13として、自身が選択したスタックポイントに関わる反芻思考(嫌なことを繰り返し考える)を2分間実施してもらい、その際の脳波をVIE STYLE社製のVIE ZONEを使用して記録した。

・認知的クラフティングの実践

現状の仕事の苦痛な側面に対する信念を明らかにし、それを反芻している苦痛状態の脳状態が一通り取れたら、次は認知的なジョブクラフティングとして。設定したスタックポイントに関するリフレーミング(認知的な再構成、要するに捉え方)を行っていく。

具体的には①再評価として、スタックポイントに関する根拠と反証をあげ、典型的に落ちりやすい認知バイアスのリストを見せながら、自身がそれらに該当しないかを考えてもらう11

続いて②ポジティブリフレーミングとして、そのスタックポイントに関わるこれまで感じてきたネガティブなものとは別の側面を考えてみる14

そして③アクションプランとして、完全に理想的な状態(少しだけ改善された状態)を想定し、現実的に着地できそうな目標とその実現のための具体策を考えてもらう。

以上の、「再評価~リフレーミング~アクションプラン」までが、我々の認知的クラフティングのプロセスであり、リフレーミングシートに記載した具体例を下に紹介する。この一連の作業を終えた後、あらためてこのリフレーミングシートを見ながら捉えなおしを能動的に行っている際の脳活動を同様に2分間記録した。

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・ニューロフィードバックトレーニング

仕事に対してネガティブな反芻思考中の脳波と仕事へのスタックポイントをリフレーミング中の脳波を記録できたら、ノイズ処理・前処理後、この2つの状態を分類する機械学習モデルを学習させる。これはVIE STYLE社の汎用的なREC-DEC-BACKと呼ばれるパッケージ化されたニューロフィードバックプロトコルに基づく15。こうして学習させたデコーダー(現在の脳の状態がネガティブな状態に近いか、リフレーミング時に近いかを解読する)を利用して2分間のニューロフィードバックを4回実施する。現在の脳波から推定された尤度が毎回リアルタイムにゲージとして表示されるので、ユーザーはそれをあげることを試行錯誤する。終了後は同様にスタックポイントへの苦痛度を回答した。

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・Post評価

Pre評価と同様に、内発的なやる気の状態と認知クラフティングに関する尺度に回答してもらった。

3.2.結果

15名の実験協力者に対し、上記のリフレーミング~ニューロフィードバック訓練までの一連のプロセスを行ってもらった。

結果、実験の前後で、内発的動機付けの得点(項目例:「この仕事が楽しい」)と認知クラフティング(項目:「仕事が人生にどのようにポジティブに影響するか考えている」)の得点(VAS: Visual Analog Scaleで回答。得点は1-100)が有意に上昇した。

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また、Pre評価時・リフレーミング後・ニューロフィードバックの各セッション(2分間/セッション)終了後の、スタックポイントへの苦痛度を評価した結果

①   リフレーミングにより苦痛度を減らすことができた(ネガティブ導入時→リフレーミングの実施)

②   ニューロフィードバックにより、さらに苦痛度を減らしていくことができた(リフレーミング後→ニューロフィードバックの実施)

 

まず①の結果は、自分の仕事に対するネガティブなとらえ方を変える努力をするリフレーミング自体を効果的に行えたことを示す。そして、その際の脳活動を再現するニューロフィードバックによりその効果を増強できることが示された。

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以上のように、我々の開発したリフレーミングとニューロフィードバックを組み合わせた新たな訓練によりジョブクラフティングのスキルを向上することができる可能性が示された。そして一連の訓練により、現状苦しんでいる仕事上のネガティブな事象に関する苦痛度の低減効果があるだけでなく、やる気(内発的動機)もあげることができた。こうした結果から、ユーザーの精神的健康および生産性、また、双方に好影響が期待できる新たなアプローチ法として、研修パッケージ化やアプリなど人事関連サービスとして多くの人の困難さの低減と“プレイフル”なマインド創造に貢献することが期待できる。

なお、比較可能な類似の前例がないこともあり、今回はシングルアームデザインでの検証だったが、今後コントロール条件のデータを取得できれば、リフレーミングの効果、ニューロフィードバックによる増進効果がどの程度のものなかが明らかになっていくだろう。

4.まとめと今後

あなたは仕事が楽しいですか?それともつらいものでそれは当然だと思っていますか?もっと楽しくできるならしたいですか?

本稿で紹介したように我々は、仕事はもっと楽しくできるものだと考えて、仕事をもっと楽しいものに変える手伝いをする技術開発を進めている。紹介したジョブクラフティング=『自分で仕事を楽しいものに変える』スキルは、それを持っている人は高い生産性と幸福度があることは知られていたが、これまでの介入方法は言語・カウンセリング的であり、ソリューション化が困難だった。そこで、ニューロテクノロジーの力を借りることで定型化し、その効果も強力であることが期待される結果を得ることができた。

「今日の仕事は、楽しみですか。」という広告が炎上し、「ディストピアだ」「つらくても仕事を頑張っている人を傷つける」と批判を浴びて広告を取り下げる事例が日本で起きたことがあるが、「仕事は楽しくないものだ」という先入観・ステレオタイプも背景にあるはずだ。確かにつらい仕事を無理やり楽しく感じさせるのは洗脳に近いディストピア感を感じてしまうかもしれない。

我々が目指しているのは「無理やり仕事を楽しくする」ではなく、「今の自分の仕事への態度・マインドセットを自己理解し、それを変えたいと思うなら変えることもできうる」ことを支えることである。もしくは、こういった心理的スキルを従業員に持つチャンスを与えたいと、人的資本投資の文脈で考えている経営層に具体的なソリューションを提供することである。

ニューロテクノロジーを利用してこのスキルを伸ばす今回の研究開発成果は、脳科学を使った未来の人的資本投資の一種の形かもしれない。それは仕事を楽しくすることと生産性の向上を両立させ、そうした希望を持つ人々を後押しするような、そんなサービスになるはずだ。我々はその提供に向け開発を進めていく。

 

※本稿の執筆にあたりNTTデータ経営研究所の高瀬未菜氏の協力を得たことをここに謝す。

株式会社リコーHP:

Playful Workに関する技術・ソリューション紹介ページ

https://jp.ricoh.com/technology/tech/128_playfulwork

¹ Lambert, N. M., Fincham, F. D., & Stillman, T. F. (2012). Gratitude and depressive symptoms: The role of positive reframing and positive emotion. Cognition & emotion, 26(4), 615-633.
² Mennen, A. C., Turk-Browne, N. B., Wallace, G., Seok, D., Jaganjac, A., Stock, J., ... & Sheline, Y. I. (2021). Cloud-based functional magnetic resonance imaging neurofeedback to reduce the negative attentional bias in depression: a proof-of-concept study. Biological Psychiatry: Cognitive Neuroscience and Neuroimaging, 6(4), 490-497.
³ Taschereau-Dumouchel, V., Cortese, A., Chiba, T., Knotts, J. D., Kawato, M., & Lau, H. (2018). Towards an unconscious neural reinforcement intervention for common fears. Proceedings of the National Academy of Sciences, 115(13), 3470-3475.
⁴ Mennen, A. C., Nastase, S. A., Yeshurun, Y., Hasson, U., & Norman, K. A. (2022). Real-time neurofeedback to alter interpretations of a naturalistic narrative. Neuroimage: Reports, 2(3), 100111.
⁵ https://jp.ricoh.com/release/2023/0213_1
⁶ https://jp.ricoh.com/news/stories/articles/external-nikkei-sdgs
⁷ Slemp, G. R., & Vella-Brodrick, D. A. (2013). The Job Crafting Questionnaire: A new scale to measure the extent to which employees engage in job crafting. International Journal of Wellbeing, 3(2).
⁸ Trépanier, S. G., Peterson, C., Gagné, M., Fernet, C., Levesque-Côté, J., & Howard, J. L. (2023). Revisiting the Multidimensional Work Motivation Scale (MWMS). European Journal of Work and Organizational Psychology, 32(2), 157-172.
⁹ Takagishi, Y., Ito, M., Kanie, A., Morita, N., Makino, M., Katayanagi, A., ... & Horikoshi, M. (2023). Feasibility, acceptability, and preliminary efficacy of cognitive processing therapy in Japanese patients with posttraumatic stress disorder. Journal of Traumatic Stress, 36(1), 205-217.
¹⁰ Resick, P. A., Monson, C. M., & Chard, K. M. (2016). Cognitive processing therapy for PTSD: A comprehensive manual. Guilford Publications.
¹¹ Roberts, H., Watkins, E. R., & Wills, A. J. (2013). Cueing an unresolved personal goal causes persistent ruminative self-focus: An experimental evaluation of control theories of rumination. Journal of Behavior Therapy and Experimental Psychiatry, 44(4), 449-455.
¹² Watkins, P. C., Cruz, L., Holben, H., & Kolts, R. L. (2008). Taking care of business? Grateful processing of unpleasant memories. The Journal of Positive Psychology, 3(2), 87-99.
¹³ Chang, M., Ibaraki, T., Naruse, Y., & Imamura, Y. (2023). Neural characterization of the “totonou” state associated with sauna use. bioRxiv, 2023-01.
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