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(「環境新聞」2012年9月26日より)

リサイクルビジネス講座(18)
リサイクルによる低炭素化

マーケティングで活用を

NTTデータ経営研究所
社会・環境戦略コンサルティング本部
シニアマネージャー 林 孝昌

原発事故とその後の電力不足という圧倒的リスクを眼前にして、わが国の「低炭素化」への取り組みが転機を迎えている。「温室効果ガス排出量(以下、「GHG」という)6%削減」という数値目標は、ほぼ忘れ去られてしまった。ただし、省エネルギー・省資源化などを徹底する機運はむしろ高まっており、GHGはその結果を示す統一指標との捉え方が広がっている。

また、企業活動におけるGHG算定・報告方法を見直す動きも見られる。従来は生産活動などに伴う「直接排出」などが削減対象であったが、バリューチェーン全体での「間接排出」をそのスコープに入れるという考え方と手法(以下、「スコープ3」という)の導入が進んでいる。スコープ3では、「川上で発生する廃棄物の処理」や「販売後の製品の廃棄物処理」などに伴うGHGも算出量に加算するため、その削減ニーズの顕在化が見込まれる。本稿では、リサイクルによる低炭素化の効果と今後の課題などの考察を行う。

図(リサイクルによる低炭素化)

リサイクルによる低炭素化の効果としては、「省資源化」、「新エネルギー利用」および「メタンガス削減」などの組み合わせが考えられる。まず、循環資源を天然資源に代替する省資源化により、原料採掘時や利用地までの輸送時などのGHG削減効果が期待できる。次に廃棄物や木くずといったバイオマス発電などの新エネルギーの利用は、化石燃料を代替することでGHGを削減する。最後に、リサイクルによる最終処分量削減は、埋め立て地で発生するメタンガスの削減にも寄与する。

一般的に、リサイクルが行われなかった場合のベースラインシナリオは、「混合収集+単純焼却+埋め立て」に設定される。無論、分別収集から広域輸送、再資源化などのプロセスでは化石燃料を利用するため、ベースラインシナリオよりGHGが下回った場合のみ、低炭素化に貢献したとみなす。これをプロジェクト手法と呼ぶ。少なくとも直観的には、省資源化でトータルの輸送距離を短縮し、単純焼却より効率的な廃棄物発電などを行い、CO2の20倍以上の温室効果を持つメタンガスを削減できる以上、リサイクルは低炭素化に貢献するはずである。それでも製造業など大手排出事業者が自社のGHG削減量にリサイクルの効果を計上しない理由は、具体的で確立した指標などがないことに尽きる。

改正省エネ法などの既存規制は、自事業所の電気利用量などの客観指標で計測可能な範囲の対策を求めている。逆にリサイクルの場合、プロセス全体を自社完結するのが困難であり、かつそのバリューチェーンも多種多様であることが指標構築を困難にしている。スコープ3導入は企業のGHG把握範囲拡大のきっかけとなるが、WRIが昨年10月に公表した基準では、「リサイクルで回避された削減量」は算定範囲には含めないとも明記された。プロジェクト手法により、リサイクルの効果を把握するための具体的で公平な指標などの確立は、官民関係者にとっての新たな課題となる。

良くも悪くも、環境負荷の把握と統一指標化がGHG換算で行われる流れは今後も変わらない。ならば「低炭素化」を、リサイクルビジネスのマーケティングツールに位置付ける道筋を見いだすべきである。

リサイクルビジネス講座 目次
(24)他社差別化の方向性
(23)パートナーとしての行政機関
(22)マクロ経済環境の変化踏まえた投資
(21)ソーシャルビジネスとの連携可能性
(20)製品の普及と潜在市場の有望性
(19)バイオマス事業化の可能性と行政支援のあり方
(18)リサイクルによる低炭素化
(17)市場規模と業界構造
(16)リサイクルビジネスの持続可能性
(15)巨大マーケット攻略と持続可能性への投資
(14)海上静脈物流の活性化に向けて
(13)制度の「目的」と「可能性」
(12)「発電燃料」としての循環資源
(11)リユースに求められるセンス
(10)「静脈メジャー」の意味と意義
(9)リサイクル目線から見た街づくり
(8)リサイクルビジネスとトレーサビリティ管理
(7)リサイクルビジネスと地域活性化
(6)資源循環の適正スケール
(5)循環資源の「質」と「量」
(4)リサイクル技術とは
(3)原料利用と燃料利用のベストミックス
(2)利益を生み出す必要条件
(1)リサイクルビジネスとは



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