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経営研レポート

第5回 詰めるべき論点は5つ、残された時間は数年

義務化前に整理すべき制度上の課題
2026.10.05
社会・環境システム戦略コンサルティングユニット
ディレクター 森 一慈
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はじめに

本連載では、これまで4回にわたって、「料金」「系統」「対価」という3つの論点を見てきた。最終回となる今回は、これら3つに共通する構造を整理したうえで、義務化の前に詰めておきたい5つの論点と、それらを議論する場について整理したい。

1.三つの論点に共通する構造

これまで見てきた3つの論点は、表向きはまったく別のものだった。

料金

負荷率2%台という需要に、契約電力に応じた基本料金がそのまま適用される。

系統

1本の配電線では送れない規模の需要が、間欠的に現れる。

対価

日本の港に停泊中の船舶から排出されるCO2が、主要な排出量算定・取引制度の対象外となっている。


だが並べてみると、共通している構造がある。3つとも、陸電という使い方が存在しない時代に設計された制度に、陸電を当てはめようとして生じている論点である。

電力料金メニューは間欠的な大口需要を想定していない。系統の設備形成は、港湾を大口需要地として想定していない。CO2排出量の算定は停泊中の船舶からの排出を想定していない。いずれも、当時の想定からすれば自然な設計だったのだろう。

2.EUが踏んだ義務化の順序

では、制度上の論点が十分に整理されないまま義務化が選考すると何が起きるのか。EUに前例がある。

EU加盟国における燃料や電力への課税の共通ルールを定めた「エネルギー課税指令」では、港で停泊中の船舶内で電力を生産するための燃料を免税とすることが加盟国に義務づけられている。一方、陸から供給する電力には通常の電力税がかかる1。

これを是正する手段は限られていた。指令の本体条項では陸電への軽減税率を設けることができず、欧州連合理事会(Council of the European Union)の全会一致による個別の許可が唯一の経路で、期間は最長6年である2。結果として、それぞれの加盟国が個別に申請し、期限ごとに更新を繰り返している。スウェーデンとドイツが2011年に最初の許可を得て以降、デンマーク、スペイン、オランダ、ベルギーが続いた3。

2021年には陸電への免税を義務化する改正案が示された。しかし2026年の理事会文書は、なお進行中の改正を前提に書かれている4。各措置には国家補助の審査も伴うため、案件ごとの判断が必要になる5。

EUでは、税と料金の扱いが決着しないまま陸電の使用義務が置かれ、現在も個別の許可の更新が続いている。日本で同じ順序をとれば、同じことが起きないとは言えない。

税以外の論点でも、同じことが起きた。

設備が間に合わないとき、義務をどう扱うのか

港側の整備義務と船舶側の使用義務を並べて置いたところ、設備が間に合わなければ船舶の使用義務が免除される構造になった6。設備の整備には年単位の時間がかかる。その後、免除を使える回数に上限が設けられた。2035年以降は、1報告期間における寄港回数の10%または10回のいずれか少ない方までとされた7。

島しょ部や個別の港の事情を、どう処理するのか

島しょ部や個別の港の事情に応じた免除も設けられている。スペインはフォルメンテーラ島のラ・サビナ、イビサ、メノルカなどの港、マルタはゴゾ島のムジャールについて、規則に基づく免除を欧州委員会に通知しており、免除対象となる港やその内容が官報に公表されている8。

EUの制度は、現在も世界で最も進んでいる。ただし、制度の運用を進める中で想定外の論点が一つずつ浮上し、そのたびに個別の対応と最上位の意思決定を要する形になった。


1 Council Directive 2003/96/EC第14条(1)(c)(停泊中の船内発電用燃料の免税義務)および第10条(電力への課税)。

2 Council Directive 2003/96/EC第19条。軽減は理事会の全会一致による個別の許可によることとされ、期間は同条(2)により最長6年。

3 スウェーデン2011/384/EU、ドイツ2011/445/EU、デンマーク2015/993/EU、スペイン2018/1491/EU、ベルギー2026/1776。

4 欧州委員会は2021年7月14日に改正案COM(2021)563を提出。陸電への免税を義務とする内容を含み、2026年の理事会文書も審議中であることを前提としている。

5 Commission Regulation 651/2014/EU(一般ブロック免除規則)第44条。環境税の軽減が国家補助の届出義務を免除される条件を定める。

6 Regulation (EU) 2023/1805第6条(5)。陸電が利用できない場合や系統安定性が損なわれる場合を免除事由に含む。港側の整備義務は2023/1804第9条。

7 Regulation (EU) 2023/1805第6条。2035年以降、利用可能性と互換性による免除は寄港回数の10%か10回のいずれか少ない方まで。

8 欧州委員会告示C/2025/356およびC/2025/3449(スペイン)、C/2024/7472(マルタ)。島や港ごとの免除が官報に公表されている。

3.日本がいま詰めるべき、5つの論点

日本はまだ陸電の使用義務化の前段階にある。これは2つの意味で有利である。

第一に、順番を選べる。細部を先に詰め、そのうえで義務の水準と時期を決めることができる。第二に、どこでつまずくかが分かっている。税と料金、系統の遅延、個別事情の処理など、EUが順に直面した論点が、先例として手元にある。

上記を踏まえ、日本には、現在、詰めるべき論点が5つある。

第一 … 託送供給等約款における陸電の位置づけ

負荷率2%台という需要に、契約電力に応じた基本料金をそのまま適用するのか。用途に応じた扱いを設けるのか。再生可能エネルギー発電促進賦課金(以下、賦課金という)の取り扱いも同じ論点に含まれる。日本の減免は電力多消費事業者を対象とする枠だけだが、賦課金の減免に用途に着目した類型を置くという選択肢もある。EUには先例がある9。

第二 … 電気事業法上の小売供給該当性

船舶への電力供給が小売供給に当たるのか。岸壁や施設の利用料に含める形なら該当しないのか。解釈の整理で足りるのか、条文の手当てが必要なのか。ここが決まらないと、他の4点を決めても事業の形が確定しない。

第三 … 系統連系のリードタイムと義務の時期の整合

設備が間に合わない場合をどう扱うか。無条件の免除にすれば義務は形だけになり、厳格にすれば実行できない。EUは後から免除回数に上限を設けた。

第四 … CO2削減量の算定と帰属

陸電で削減したCO2排出量を、誰の削減として数えるのか。同じ1トンが、船舶側の燃費実績の改善、港湾のインベントリの減少、荷主のサプライチェーン排出の減少として、それぞれの枠組みに現れる。一方で港湾側の購入電力は増えるため、購入電力に由来する排出では増加として現れる。国際的な算定の枠組みも策定途上で、FuelEUが採用している陸電をゼロ排出とする扱いも暫定的である。方法論が固まる前に議論に参加できるかどうかは、後から取り返しにくい10。

第五 … 費用の帰属

工事費負担金と運転費を、港湾料金、施設利用料、電気料金のいずれで受け止めるのか。第一の論点と一体で決める必要がある。


9 日本の賦課金の減免は電力多消費事業者を対象とする。ドイツはエネルギー財政法(EnFG)第39条で陸電設備を軽減の類型に置く。

10 DNV, Shore Power in Shipping(White Paper, 2026)。IMOの算定枠組みは策定途上。FuelEUは陸電をゼロ排出として扱う。

4.論点を突き合わせる場

5つの論点を並べてみると、一つの制度や一つの主体の中だけでは決めきれないものが並んでいることが分かる。第一と第二は電気事業の制度、第三は電気事業と港湾の双方、第四は国際的な枠組みと国内の算定制度、第五は港湾と電気の両方にまたがる。

陸電で問われているのは、技術だけではなく、どの論点を先に決め、どこで突き合わせるかという順番と、関係する主体が議論する場である。

既存の枠組みとしては、港湾法第50条の3に基づく港湾脱炭素化推進協議会がある。ただし港ごとに設置され、法律が定める所掌は、港湾脱炭素化推進計画の作成と実施に関して必要な協議である11。系統の実績潮流や工事費負担金、料金の設計を詰めることは、その所掌の外にある。第3回で見た三者(一般送配電事業者、港湾管理者、船社)の時間軸を突き合わせる場としては、設計されていない。

 

ここで一つ、議題の立て方について書いておきたい。陸電を、地域の脱炭素目標のなかの港湾の課題として持ち込むと、規模が小さいため優先順位が下がる。全国の主要港に10バース分を並べても100MW程度である。

しかし電力側から見れば、これは配電系統に新しく現れた大口需要をどう扱うかという問いの一例である。電力系統では、常に最大の発電量に対応できる容量を確保するのではなく、系統が混雑する場合には発電側の出力を制御することを前提に接続する考え方がある。こうした仕組みは、発電側では電圧階級を問わず原則として適用されるようになり、現在は需要側への適用が検討されている12。陸電は、船舶の入港・停泊時に電力需要が発生するため、間欠的で負荷率が低く、さらに入港の予定から電力需要が発生する時間帯をある程度事前に把握できる。こうした特性から、制御を前提とした接続の検討対象になり得る。

同じ対象を、地域と港湾の課題として持ち込むか、配電の議論の先行事例として持ち込むか。どちらの入口を使うかで、議題になるかどうかが変わる。個別の港をまたぐ全国的な議論の場に、次の関係主体を集めておくほうが早い。

制度を設計する立場

電気事業の制度、港湾の制度、補助と税制の枠組みをそれぞれ担う主体。

電気を送る立場

一般送配電事業者の系統計画の担当者、および小売電気事業者。

岸壁を運用する立場

港湾管理者、港湾運営会社、ターミナル事業者、および現場の作業を担う港湾運送事業者。

船舶を運航する立場

船社の工務・技術部門、船級協会。


議題は、前章で示した5つの論点に絞る。


11 港湾法第50条の2(港湾脱炭素化推進計画)および第50条の3。協議会は計画の作成と実施に関し必要な協議を行うとされる。

12 電力広域的運営推進機関の資料。ノンファーム型接続は2021年1月に基幹系統へ導入され、2023年4月から電圧階級を問わず原則適用。

5.なぜ、いま5つの論点に関する議論を始めるのか

陸電の導入に必要な時間軸を確認しておきたい。系統連系の検討は受付から3ヵ月以内に回答することとされているが、増強が必要になれば連系までに年単位の時間がかかる13。周波数変換装置は50Hz地域では必ず陸側に置くことになり、製作にも時間を要する。船舶側の改造はドック入りの機会に合わせるため、2〜5年に一度の機会をとらえることになる14。

仮に国内の陸電の使用義務化が2030年代の前半に行われるとすれば15、陸側の投資判断は2020年代の後半には必要になる。検討に数年をかければ、その分だけ判断の時期は後ろへ動く。

そして日本には、EUという先例がある。どこで課題が生じ得るのかを先例から学び、あらかじめ議論できることは、日本にとっての利点である。


13 資源エネルギー庁 次世代電力系統ワーキンググループ「系統用蓄電池をはじめとする発電等設備の迅速な系統連系に向けた対応について」(2026年2月9日)。接続検討は受付から3ヵ月以内に回答することとされる。

14 脚注10参照。船側への陸電設備の後付け費用は1隻100万ユーロ程度とされる。

15 筆者の想定。EUは2030年から使用義務を課すため、国内でも同時期以降に議題になり得ると置いた。国内の義務化の時期は決まっていない。

おわりに

最後に、第1回の冒頭に書いたことをもう一度書いておきたい。陸電は、海運にとっても、港湾にとっても、電力にとっても、本業の周辺にあるテーマである。だからこそ、一者が抱え込むのではなく、それぞれの立場が持つ情報と論点を持ち寄って検討を進めるほうが早い。

日本において停泊中の船舶によるCO2排出削減に向けた陸電の使用義務化が議題になるかどうかは分からない。それでも、議題になったときに細部が詰まっていれば、実行可能な仕組みとして機能する。詰まっていなければ、免除の条項が積み上がることになる。

詰めるべき論点は5つ、残された時間は数年である。どの論点を先に置き、どこで突き合わせるか。まずは4章で示した関係する主体が各自の情報と論点を持ち寄って話すところから始めたらどうか。

本稿の数値は公開情報および本文・脚注に記した仮定に基づく試算である。制度は改正され得るため、最新の一次情報を確認されたい。

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