logologo
Insight
経営研レポート

第3回 陸電導入で押さえるべき「容量」と「リードタイム」

関係者の連携による容量確保・早期計画の重要性
2026.09.24
社会・環境システム戦略コンサルティングユニット
ディレクター 森 一慈
heading-banner2-image

はじめに

第2回では船舶の陸上電力供給(以下、陸電)における電気料金の構造を見た。今回は、陸電を実際に導入するうえで必要となる物理的条件である「系統の容量」と「設備導入に要するリードタイム」を扱う。

結論を先に書けば、陸電の電力需要は系統全体でみれば特段の影響がない規模である一方、その配電線を受け持つ一般送配電事業者には無視できない規模となる。そして、陸電に必要な設備の導入に向けた意思決定に要するリードタイムが、関係者の立場によって大きく異なる。

1.陸電の電力需要量は系統全体では論じる対象にならない規模

まず、クルーズ船が接岸中にどれだけの電力を必要とするかを押さえたい。DNVは15,000TEU(20フィートコンテナ換算で15,000個分)のコンテナ船について、在港時の最大電力を3.2MWと置いている1。クルーズ船はこれより大きい。クルーズ船の発着拠点である米国のマイアミ港は2024年に陸電の運用を始めたが、クルーズターミナルの変電所は最大16MVAを供給でき、クルーズ船1隻あたりの電力需要は8〜13MWと見込まれている2。さらに陸電に加えて荷役機械の電動化や冷凍コンテナ、電気トラックの充電が重なれば、岸壁とその背後の施設における同時最大電力需要はこれを上回る。


ところが、電力系統レベルから見ると、印象は変わる。東京電力管内の最大電力は5,000万kW規模である3。これに対して、クルーズ船1隻の10MW前後の電力需要はその0.02%にすぎない。

全国の主要港に10バース分、合計100MWを並べても0.2%である。火力発電1ユニットの脱落や太陽光の時間変動と比べれば丸め誤差の範囲で、需給調整や周波数の観点から全国規模で論じる対象にはならない。


この非対称が、陸電の系統側の条件を詰める議論が始まりにくい理由の一つになっている可能性がある。電力の全体最適を論じる場では小さすぎ、港湾の脱炭素を論じる場では専門的すぎるためである。


1 DNV, Shore Power in Shipping(White Paper, 2026)。費用モデルは15,000TEU船の在港時最大電力を3.2MWと置く。

2 Miami-Dade County発表(2024年6月17日)および設計を担当したWSP発表。クルーズターミナルの変電所は最大16MVA。1隻8〜13MWはMiami Herald報道。

3 東京電力パワーグリッドの需給実績による概数。夏季ピークの最大電力は5,000万kW規模。

2.陸電の電力需要量は配電レベルでは、無視できない影響度

同じ10MWを、1本の配電線と1台の変圧器側から見ると、話は変わる。

6.6kVの高圧配電線1回線が送れるのは数MW程度であり、クルーズ船1隻の電力需要はこの容量を単独で超える。つまり高圧受電では物理的に成立せず、22kVまたは66kVでの特別高圧受電が前提になる。

さらに配電用変電所の降圧変圧器1台(1バンク)には、10MVA、20MVA、30MVAといった容量が使われる4。クルーズ船1隻で、20MVAのバンクであれば、その容量の半分前後を占めることになる。


変電所に複数のバンクがあっても、その空き容量を足し合わせることはできない。1台が事故で停止したときに、残るバンクの短時間の過負荷と、他へ切り替えられる負荷とで受けきれる範囲に、平常時の通過電力を収める考え方がとられている5 。


技術的に詰めるべき点も残る。急に立ち上がる大きな負荷が同じ配電線の他の需要家に与える電圧の影響、周波数変換装置から系統へ流れ出す高調波の抑制6 、そして無停電で受電に切り替えるために船舶側の発電機を陸側の系統に一時的に並列させる場合の扱いなどである。この場合は自家用の発電設備を系統に並列することになり、系統連系の技術要件に沿った協議が必要になる7。

要点は個々の技術ではない。必要な受電容量や設備構成、系統への影響などを岸壁ごとに設計して確認する事項であり、そのための時間が要るということである。


なお周波数変換装置は陸側の設備である。60Hz地域では開閉装置と絶縁変圧器だけで供給できるが、船舶側が60Hz標準であるため、50Hz地域では陸側に変換装置を置く必要がある8。そのため、京浜港はこの投資から逃げられず、名古屋・阪神・九州が相対的に有利になる理由はここにある。港ごとに条件が異なるということは、港ごとに設計を組み立てる必要があり、その分だけ時間もかかるということである。


第1回で触れた横浜港本牧ふ頭A-4岸壁の設備は、50Hz地域における実装例である。負荷の形としては、一定の電力を継続して使用するデータセンターより、列車の加速に応じて電力需要が階段状に上下する鉄道の変電所に近い。


4 配電用変圧器は10・20・30MVAから電圧変動を考慮して選定するとされる(北陸電力送配電「設備形成ルール(特高編)」)。

5 東京電力パワーグリッド「流通設備計画ルール」(2025年4月1日)。主変圧器1台の事故停止時に、残るバンクの短時間過負荷容量と切替可能な負荷量の合計を超えないことを原則とする。

6 九州電力送配電「電気の品質を低下させる『高調波』について」。高調波流出電流計算書の提出と、上限値を超える場合の抑制対策を求めている。

7 資源エネルギー庁「電力品質確保に係る系統連系技術要件ガイドライン」(2024年12月1日)。発電等設備を系統に並列する場合の技術要件を定める。

8 脚注1参照。60Hz地域は開閉装置と絶縁変圧器で足りるが、船側が60Hz標準のため50Hz地域は変換装置が必要。

3.陸電の系統の容量に関わる三者の計画を突き合わせる機会の必要性

そして本題である。陸電の導入に関わる「一般送配電事業者」「港湾管理者」「船社」は、それぞれ合理的な時間軸で設備の導入や投資の検討を進めている。問題は時間の長さではなく、三者が互いの前提を待つ関係にあるため、順番に進めると年単位の期間が積み上がることである。動き出す起点も、それぞれ異なる。

一般送配電事業者

接続検討は受付から3ヵ月以内に回答することとされているが、系統の増強が必要になる場合は、許認可と工事を含めて連系までに年単位の時間がかかる。設備形成の計画は需要の申込みを起点に動く9。

港湾管理者

港湾脱炭素化推進計画は数年ごとに改定され、協議会は年数回、決定は年度末となる。予算は単年度であり、こうした計画や予算のサイクルに沿って設備の導入を検討することになる10。

船社

陸電対応設備を船舶に後付けする際の費用は1隻あたり100万ユーロ程度である11。改造はドック入りの機会に合わせることになり、その間隔は船級と旗国の検査の周期に沿って2〜5年に一度である。


ここで一つ補足しておきたい。国内にはすでに約300基の陸電設備がある。ただしその多くは小型船向けで、既存の受電容量の中に収まるため系統の増強を伴わない12。年単位の時間がかかるのは、特別高圧の新規引込みが必要な場合、あるいは変電所や上位系統の容量が足りない場合である。つまり同じ「陸電の導入」でも、規模によって必要な時間は大きく異なる。クルーズ船や岸壁の周辺まで含めた電化を前提にすると、前者の実績はそのまま参考にできない。


需要の申込みがなければ、一般送配電事業者による系統の検討は始まらない。系統の見通しが立たなければ、港湾管理者は設備投資を決められない。港の設備がなければ船社は船舶の改造時期を決められない。

だからこそ、一般送配電事業者、港湾管理者、船社が同じ場で、それぞれの計画の前提条件と時期を突き合わせる機会が要る。三者の時期が並べば、どの順序で何を決めればよいかが見えてくる。


最後に、臨海部にだけある妙味を書いておきたい。京浜や阪神の臨海部には、過去の大規模な工場向けに整備された特別高圧の系統がある。工場の撤退や縮小によって契約容量が空いている変電所を活用できれば、系統増強に必要な費用は大きく変わる可能性がある。ただし高圧の配電設備の数が多いため、その状況は公表されておらず、事前相談を通じて確認することとされている13。


なお電力側から見ると、陸電は港湾固有の困りごとではなく、配電系統に新しく現れた大口需要の一例になる。契約電力は大きく、負荷率は低く、出現は間欠的である。しかも入港の予定という形で、いつ現れるかがある程度は事前に分かる。混雑時の制御を前提に、容量を確保せずに接続する「ノンファーム型接続」の考え方が上位の系統から下位へ降りてきていることもあり、制度の動きはむしろそちらに関わる。


9 資源エネルギー庁「系統用蓄電池をはじめとする発電等設備の迅速な系統連系に向けた対応について」(2026年2月9日)。接続検討は受付から3ヵ月以内に回答。

10 国土交通省港湾局「カーボンニュートラルポート(CNP)の形成」(2026年8月時点)。協議会と港湾脱炭素化推進計画の運用による。

11 脚注1参照。船舶側への陸電設備の後付け費用を1隻100万ユーロと想定している。

12 国土交通省港湾局海洋・環境課「陸上電力供給設備の導入促進」(「港湾」2022年7月号)。令和3年5月時点で小型船等が中心。

13 資源エネルギー庁「系統情報の公表の考え方」(2024年12月9日)。高圧の配電設備は数が膨大なため、事前相談の際に回答するとされている。

4.EUにおける系統のリードタイムが陸電義務化に与えた影響

系統のリードタイムは、EUでは義務の設計そのものに影響した。FuelEU Maritimeの免除事由には、不可抗力や予定外の寄港と並んで、船舶の在港中の電力需要に対して陸電の供給能力が足りず系統の安定性が損なわれる場合が挙げられている14。系統レベルで見れば丸め誤差の規模でも、配電レベルの制約は義務が成り立つかどうかを左右する。EUはそれを規則の条文に書き込んだ。


そして港側の設備が間に合わなければ、船舶側の陸電使用義務は免除される。設備の整備には年単位の時間がかかるため、その遅れがそのまま免除に流れ込む。その後、2035年以降は、この免除を適用できる回数に上限が設けられた。1報告期間における寄港回数の10%または10回の、いずれか少ない方までとされている15。


さらに、島しょ部や個別の港が抱える事情に応じた免除も設けられている。スペインではフォルメンテーラ島のラ・サビナ、イビサ、メノルカなどの港について、マルタではゴゾ島のムジャールについて、規則に基づく免除を欧州委員会に通知し、免除対象となる港やその内容が官報に公表されている16。


14 Regulation (EU) 2023/1805(FuelEU Maritime)第6条(5)。陸電が船の在港需要に足りず系統安定性が損なわれる場合を含む。

15 Regulation (EU) 2023/1805(FuelEU Maritime)第6条。2035年以降、免除は寄港回数の10%か10回のいずれか少ない方まで。

16 欧州委員会告示C/2025/356およびC/2025/3449(スペイン)、C/2024/7472(マルタ)。島や港ごとの免除が官報に公表されている。

おわりに

今回見たのは、陸電にかかわる系統容量の規模と時間である。規模は見る位置によって姿が変わり、時間は関係者それぞれの周期に沿って順番に積み上がる。

国内で参考にすべきは、順序である。系統レベルから見れば0.02%の需要でも、それを受け入れる1本の配電線と1台の変圧器側では、容量の確保が大きな課題になる。その条件と、確認に要する時間を先に見ておけば、義務化されたときに動く仕組みになる。先に義務化してから条件を確認すると、EUのように免除の条項が積み上がる。その前に、配電レベルの条件を議論しておく余地があるのではないか。

系統の容量も電気料金も、要するに費用の話である。ではその費用を、誰が払うのか。第4回では、同じ1トンのCO2の排出が、立場によって重要度を桁で変える理由から始めたい。

本稿の数値は公開情報および本文・脚注に記した仮定に基づく試算である。制度は改正され得るため、最新の一次情報を確認されたい。

お問い合わせ先

株式会社NTTデータ経営研究所

社会・環境システム戦略コンサルティングユニット

ディレクター 森 一慈

お問い合わせフォームはこちら

連載一覧

TOPInsight経営研レポート第3回 陸電導入で押さえるべき「容量」と「リードタイム」