はじめに
第1回では、技術も規格も整備されており、規制の外圧も働き始めているのに、陸上電力供給(以下、陸電)を備えた港が世界で3%にとどまっていること、そしてこの状況の論点が制度の隙間に落ちていることを見た。今回は、事業化に向けて最も重要な数字の一つである、電気料金の構造を分解する。それにより、現場の工夫では動かせない領域がどこから始まるかが明らかになる。
1.契約電力1万kW、年間2,000MWh
DNVが2026年に公表した白書では、費用モデルの前提として15,000TEU(20フィートコンテナ換算で15,000個分)のコンテナ船の在港時の最大電力を3.2MWと置いている1。一方、クルーズ船は客室などで多くの電力を使用するため、これより大きい2。
ここでは大型クルーズ船が寄港する港を想定する。1隻当たりの受電電力が8MW、10時間受電する大型クルーズ船が年25回寄港するとすれば、年間の販売電力量は2,000MWhである。契約した容量を1年間フルに使い切った場合に対する実際の使用量の比を示す負荷率を計算すると、受電容量に変換損失と余裕を見た契約電力を1万kWとした場合に、2.3%となる3。2.3%とは、1年8,760時間のうち、契約容量をフルに使っている時間が延べ200時間分しかないという意味になる。
問題は、この数字が電気料金に直接跳ね返ることだ。基本料金はkWhではなく契約kWに対して課される。仮に単価を1,200円/kW/月と低めに置いても年額は1.44億円になり、これを2,000MWhで割ると、基本料金だけで1kWhあたり72円になる。これは基本料金だけの水準であり、実際の請求にはこれに使用量に応じた電力量料金と託送料金の従量部分が加わる4。
比較のために船側を見ると、船内で発電した場合の燃料費は1kWhあたり20円台である5。潤滑油と保守を含めればもう少し上がるが、それでも基本料金だけで72円という水準は、その3倍前後に当たる。
この電力料金の負担の重さは、現場でも課題として挙げられている。横浜港でLNGバンカリング船への陸電供給を検討した2021年の資料では、課題の先頭に初期投資と電力料金、とくに基本料金が置かれている6。内航船に450Vで送る規模でも、最初に挙がるのは基本料金である。
1 DNV, Shore Power in Shipping(White Paper, 2026)。費用モデルは15,000TEU船の在港時最大電力を3.2MW、電力を0.3ユーロ/kWhと置く。
2 脚注1参照。クルーズ船は客室負荷等により大きな電力と高い信頼性を要し、コンテナ船の電力は大きいが変動は小さいとされる。
3 筆者仮定。8MW×10時間×年25寄港=2,000MWh。2,000,000kWh÷(10,000kW×8,760時間)=2.3%。年60寄港なら4,800MWhで4.6%。
4 筆者試算。基本料金単価を1,200円/kW/月と仮定。単価はエリアと料金メニューにより異なり、特別高圧で1,700円台の例もある。
5 筆者試算。補機の燃料消費200〜230g/kWh、MGO1トン700〜800ドル、1ドル150円として21〜28円/kWh。
6 国土交通省関東地方整備局「横浜港・川崎港CNP形成に向けて」(2021年10月7日)。LNGバンカリング船への陸電供給の課題に基本料金を挙げる。
2.船舶の契約電力は、1年間で最も電力を使った30分で決まる
なぜこうなるのか。船舶は間欠的にしか寄港しないのに、契約電力は年間を通じたピークの値で決まるからである。
契約電力の基礎になるのは、30分単位で計測した平均電力の最大値である。陸電のように数千kWの規模では、契約電力は電力会社との協議で決まるが、その協議も実績の最大値を基礎とする7。
つまり繁忙期に複数の船舶が同時に接続した1日が、その後の基本料金の水準を決めてしまう。使わなかった残りの日にも、その容量の対価を払い続けることになる。
これは陸電に固有の問題ではない。電気自動車の急速充電でも、利用率に対して設備と受電の負担が重いことが課題とされ、国の指針は社会全体の負担の低減を三つの原則の一つに掲げた。充電した電力量に応じた課金への移行も、その流れの中にある。ただし急速充電の場合、同じ構造の問題は料金の組み立てではなく、設備費の補助と事業者の負担によって処理された8。陸電はその規模が数十倍大きいだけである。
7 契約電力500kW未満は実量制で、当月を含む過去1年間の最大需要電力による。500kW以上と特別高圧は協議制。各社の決定方法による。
8 経済産業省「充電インフラ整備促進に向けた指針」(令和5年10月)。三原則の一つが社会全体の負担の低減。設備費は補助金で支援され、基本料金は事業者に残る。
3.需要は、寄港の増やし方で負荷率が変わる
前章で述べたとおり、陸電の電気料金では、実際に使用した電力量だけでなく、最大需要電力を基礎とする契約電力が基本料金に影響する。そのため、陸電の利用が増えても、契約電力も同時に増えれば、必ずしも電気料金が下がるとは限らない。「利用が増えれば単価は下がる」という直感は、増やし方によって当たりも外れもする。
条件を整理する。一つの岸壁にコンテナ船が年200回接岸し、1回あたり2.5MWを18時間受電するとしよう。年間9,000MWh、契約2,500kWとすると負荷率は41%になる9。ここから陸電の利用を増やす2つのケースを比較する。
A・・・岸壁を2つに増やし、同時着岸を受け入れる
販売電力量は18,000MWhに倍増する。しかし契約電力も5,000kWに倍増するため、負荷率は41%のまま動かない。規模が2倍になっただけで、kWhあたりのコストは1円も下がらない。
B・・・同じ岸壁の空き時間を、別の船舶で埋める
販売電力量は同じく18,000MWhだが、契約電力は2,500kWのまま。負荷率は82%になる。
【図表1】寄港タイミングと負荷率の関係

NTTデータ経営研究所が作成
販売電力量と契約電力が同時に増えるだけでは負荷率は改善しない。負荷率改善に有効なのは、すでに払っている契約容量の範囲内で、空き時間帯の利用を増やすことだけである。
したがって「陸電を利用してくれる船舶を増やせば電気料金の単価が下がる」という説明は、どのように利用を増やすか考慮しなければ正確ではない。ピーク時間の重なる需要をいくら集めても、単価は下がらない。
9 筆者試算。2.5MW×18時間×年200回=9,000MWh。契約2,500kWに対する負荷率は9,000,000÷(2,500×8,760)=41%。
4.船舶の電気料金低減に向けて現場の運用と設備で工夫可能なこと
この構造から、現場で打てる手の優先順位が決まる。以下3つは費用対効果の順である。
第一・・・契約電力を運用で抑える
2隻を同時に満負荷受電させないインターロックを契約と設備に組み込めば、ほぼ追加費用なしで契約kWを半減できる。最も費用対効果の高い手段である。
第二・・・性質の異なる負荷を同一の受電点に束ねる
陸電を目的とした受電に加え、例えば、24時間動く冷凍コンテナ、日中の荷役機械、夜間に寄せられる電気トラックの充電、冷蔵倉庫のような負荷を加えることも考えられる。目的は販売電力量を増やすことではなく、同じ分母をより多くのkWhで割ることにある。
第二の点は、補助の枠組みともかみ合う。2026年5月に公募が始まった補助事業では、荷役機械の電動化と陸電設備が同一の事業の中で支援対象とされている 。受電点を分けて別々に整備するより、一つの受電点にまとめて一体で設計したほうが、負荷率と補助の両方で有利になる。
第三・・・蓄電池でピークの上澄みを削る
接岸中の受電の一部を蓄電池から供給すれば、系統から見た最大値が下がり、契約電力も下がる。ただし削れる量は蓄電池の容量で決まる。先ほどの仮定では、クルーズ船は接岸中ほぼ一定の8MWを10時間受電するため、上澄みが薄い。契約電力を2MW下げるには10時間分の20MWhが要り、受電のすべてを蓄電池でまかなうなら80MWhになる11。系統用蓄電池のシステム価格は工事費を含めて1kWhあたり7万円弱なので、前者で14億円、後者で50億円規模である12。ピークが短時間だけ立つ負荷には効くが、クルーズの負荷率は蓄電池では救えない。
10 環境省「『港湾における脱炭素化促進事業』の公募について」(二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金の一部)。公募は2026年5月21日から10月30日まで。
11 筆者試算。8MWを10時間受電する場合、2MW分を蓄電池から供給するには20MWh、全量なら80MWhが必要。
12 経済産業省「2024年度 定置用蓄電システム普及拡大検討会の結果とりまとめ」(2025年3月7日)。系統用はシステム価格5.4万円/kWh、工事費1.4万円/kWh。
5.船舶の電気料金低減に向けた料金そのものの見直しの方向性
ここからが本題である。上記の3つはいずれも設備と運用の工夫であって、料金そのものには触れていない。
負荷率が問題になるのは、従量料金だけで固定費を回収しようとするからである。逆に言えば、固定費を固定費として回収する形にすれば、負荷率が低いままでも事業は成立し得る。
ただし、この形が海外で確立しているわけではない。EUの規制は使用を義務づけるが、料金の決め方には触れていないため、港ごとに料金設計は異なる。ロッテルダム港の公共バースは1kWhあたり38セントの従量のみで、固定費は港の側が抱えている13。料金の組み立て方としては、大きく以下の4つが考えられる14。
(1)接続1回あたりの定額料金
固定費を寄港回数で割って回収する。使用量ではなく接続という行為に値付けするので、停泊が短い船舶でも固定費の一部を負担する。寄港予定が事前に分かる陸電では、回収の見通しが立てやすい。
(2)年間の最低利用保証
船社が年間の最低受電量または最低額を約束し、下回った分も支払う。陸側は契約容量と設備の投資判断ができる。ここでの交渉点は、配船変更や欠航のリスクを誰が負うかである。
(3)ターミナル利用料への織り込み
岸壁使用料やターミナルサービス料の中に含める。電気の売買として切り出さないため、小売供給への該当性という論点を避けやすい。ただし料金の内訳が見えなくなるので、削減量の帰属を証明しにくくなる。
(4)港湾料金のインセンティブ
陸電に接続した船舶の入港料や岸壁使用料を減免する。使う側の動機を作る手当てで、コンテナターミナルの認証制度でも評価項目に含まれている。
これら4つは、いずれも当事者間の契約で決められることである。一方、当事者間の工夫だけでは変更できない費用もある。代表的なものが、「基本料金」と「再生可能エネルギー発電促進賦課金」である。
基本料金は契約電力に比例
運用でピークを抑えれば圧縮できるが、託送供給等約款の基本料金の考え方そのものは動かせない。
再生可能エネルギー発電促進賦課金(以下、賦課金という)は使用電力量に比例する
2026年度の単価は1kWhあたり4.18円である15 。先の例の年間2,000MWhなら年間836万円、寄港1回あたり33万円になる。船内で燃料を焚けば発生しない負担であり、陸電に切り替えた瞬間に生じる。電力多消費事業者の減免制度はあるが、売上高に対する電力の原単位を要件とするため、ターミナルが対象になるかは自明でない16。
低負荷率は陸電の物理的な性質であって、努力で消える欠陥ではない。賦課金も、電化を進めるほど増える構造になっている。決めるべきは、そのコストを制度としてどこで受け止めるかである。
この論点は、電気事業の制度と港湾の制度の、ちょうど境界に落ちている。公表されている資料を見るかぎり、料金制度の検討に港湾の需要特性が現れることは少なく、港湾脱炭素化推進計画に料金制度の記載が置かれることも少ない。どちらの目的に照らしても自然な範囲の分担である。
13 Port of Rotterdam「Shore power at public berths」。公共バースの陸電は1kWhあたり38セント(付加価値税込、2026年1月時点)。
14 脚注1参照。規模の拡大には公的な共同資金、長期の利用契約、整合的な料金体系が必要とされる。
15 経済産業省「2026年度の賦課金単価を設定します」(2026年3月)。単価は1kWhあたり4.18円で、2026年5月検針分から適用。
16 賦課金の減免制度。売上高千円あたりの使用電力量が製造業平均の8倍等を超え、年間使用量100万kWh以上の事業所が対象。認定が必要。
6.EUにおける陸電の低負荷率という論点への手当て
EUでも同じ論点が生じている。ただし料金の組み立てそのものには手が入らず、税制の部分だけが手当てされた。停泊中の船内で発電するための燃料は免税とすることが加盟国に義務づけられ、陸から送る電力には通常の電力税がかかる。ドイツは陸電向けに1MWhあたり0.50ユーロという軽減税率を置いているが、標準税率は20.50ユーロである17。
なお賦課金についても、ドイツは陸電を軽減の対象類型として置いている。外航船に供給する陸電設備は、残る賦課金を20%に軽減でき、電力多消費産業向けの軽減にある自己負担部分の適用もない18。
ただし、軽減効果の規模を見ておきたい。標準と軽減の差は1kWhあたり2セントで、船内で発電する場合の燃料費と陸電の電力価格の差に比べれば1割程度にとどまる。EUで船側の投資を動かしているインセンティブは、税の軽減ではなく、使用義務に付いた罰金である19。この点は第4回で扱う。
17 Council Directive 2003/96/EC第14条(1)(c)。ドイツの電力税は標準20.50、陸電向けは0.50ユーロ/MWh(Stromsteuergesetz第9条第3項)。
18 Energiefinanzierungsgesetz(EnFG)第39条。外航船に供給する陸電設備は、残るKWKG賦課金と洋上系統賦課金を20%に軽減できる。
19 脚注1参照。不遵守時の累計費用のうち罰金が91%、排出量取引が3%。罰金単価1.50ユーロ/kWh。
おわりに
陸電の電気料金の重さは、負荷率という一つの数字に表れる。運用と設備の工夫で下げられる範囲と、料金の組み立てを決めなければ動かない範囲は、はっきり分かれている。
日本にとっての示唆は、税の中身よりも順序である。EUは料金と税の扱いを決めないまま義務を課したため、軽減を続けるには欧州連合理事会の全会一致による個別の許可を、期限ごとに取り直すことになった20。恒久措置を待ちながら暫定措置を更新し続ける状態が、いまも続いている。
料金の設計を工夫しても越えられない制約が、もう一つ残る。系統の容量である。第3回では、クルーズ船1隻で変電所の変圧器1台の容量の半分を占めるという話から始めたい。
本稿の数値は公開情報および本文・脚注に記した仮定に基づく試算である。制度は改正され得るため、最新の一次情報を確認されたい。
20 Council Directive 2003/96/EC第19条。許可は理事会の全会一致を要し、期間は同条(2)により最長6年。直近の例はベルギー(2026/1776)。

