現在ご覧のページは当社の旧webサイトになります。トップページはこちら

「環境新聞」2015年2月25日より

リサイクルビジネス進化論(18)
~勝者のコアコンピタンス~
廃棄物処理業とリサイクルビジネスの違い/意識改革こそが勝者のコアコンピタンス

株式会社NTTデータ経営研究所
資源循環ネットワーク代表理事
シニアマネージャー 林 孝昌

 これまで検証してきたリサイクルビジネスの基礎的ツールは、伝統的な廃棄物処理業でも利用されている。また、必要な許認可の範囲や実務的な作業手順にも大差はない。では、そもそもリサイクルビジネスは、廃棄物処理業と何が違うのか?本稿では、改めてその違いについての整理を行う。

 まず「事業目的」が異なる。廃棄物処理業の目的は衛生処理だが、リサイクルビジネスの目的は原燃料製造を通じた動脈ビジネスへの素材還元である。衛生処理のクライテリアはコンプライアンス対応が全てだが、素材還元を目的に据えると「売却費等の最大化」という命題が生じる。売却費等は排出者に提示する価格の削減に直結するため、そのまま競争力強化の源泉となる。ただし、収集から中間処理を経て、素材売却に至るまでのコストは上昇する。ベースラインとなる価格決定権は単純な衛生処理側にあり、リサイクルにはそれ以下の費用を提示するビジネスモデルの構築が求められる。

 次に「川上の取引先」が異なる。ひと山なんぼの廃棄物処理は排出先を問わず処理量と売上が概ね比例するため、原則として顧客類型を問わない。一方、リサイクルの場合、排出物の組成に応じて処理工程が異なり、有価物等の歩留りも異なる。したがって、自社の強みを踏まえた上で、原料となる廃棄物等の効率的な集荷が可能な顧客を選定する必要がある。集荷対象の広域化は、その結果としての必然である。

 「川下の取引先」も異なる。廃棄物処理業は収集運搬業なら中間処理施設、中間処理業なら最終処分施設に搬出先が決まっており、地理的制約によりほぼ施設までが特定される。したがって、川下でのコスト削減余地はなく、排出者に提示する価格を下げるとそのまま自社利益の低下を招く。リサイクルの場合、原燃料取引先として全国に素材製造業が存在する。搬出先に選択肢があれば、売却費の拡大や処理費の低減等を促すことも可能である。だからこそ取引先の幅を広げつつ、川下側の品質ニーズを踏まえた原燃料を製造する力量も問われる。

 マーケットでの「シェアの捉え方」も異なる。廃棄物処理では自らの許認可圏域内で発生する廃棄物等の総量と自社の取り扱い量の比率がシェアである。リサイクルの場合、川上では品目としての発生量に対する取り扱い量の比率がシェアであり、地理的制約より排出者の業種・業態が重要となる。川下では素材産業の循環資源受け入れ量に対する自社原燃料の搬入量もシェアと言える。結果、新たな顧客開拓の余地は大きく、その目線も全国にまで及ぶ。

廃棄物処理業とリサイクルビジネスの違い

 最後に「収益構造」が全く異なる。有価買い取りを行えば、当然売上原価が発生する。原燃料としての売却益との差分から各種経費を差し引いた分が営業利益となるが、伝統的な廃棄物処理業者の多くはこの発想を持てずにいる。「排出者から受け取る処分費が売上高」という思い込みから脱却しなければ、リサイクルビジネスが機会損失を免れることはできない。

 少子高齢化が前提となる今後、伝統的な廃棄物処理業に成長余地はない。ジリ貧の価格競争を避けて、リサイクルビジネスへの転換を図る意識改革こそが、「勝者のコアコンピタンス」なのである。

 *「勝者のコアコンピタンス」は本稿で終了。



Page Top