現在ご覧のページは当社の旧webサイトになります。トップページはこちら

(「環境新聞」2014年2月19日より)

リサイクルビジネス進化論(7)
土壌リサイクル」進化の方向性

広域処理に官民の総力結集を

株式会社NTTデータ経営研究所
社会・環境戦略コンサルティング本部
シニアマネージャー 林 孝昌

 本稿では、盛り土材や埋め戻し材など土壌の再利用、セメント原料化などをリサイクルと定義する。循環資源の汚染を制御しつつ、経済性を確保した利活用促進は、リサイクルビジネスの役割に他ならない。土壌リサイクルは、需給マッチングにより、土壌の資源としての本来価値を回復すること自体が目的となる。

東京オリンピックの誘致成功は、今後の施設整備等に伴う大規模建設工事の発生を運命付けた。首都圏で逼迫している建設発生土の処分先確保は、わが国リサイクルビジネスにとっての大命題となっている。「オンサイト措置」が推奨はされているものの、少なくとも8割以上が「掘削・場外搬出」され、首都圏からあふれ出すことになる。さらに2014年度から同時着工が見込まれるリニア中央新幹線と東京外環の工事に伴い、東京・神奈川から約3150万立方メートルの土壌が適正処理の対象になると見られている。

一方、許可を有する汚染土壌処理業は全国に散在しており、その処理能力は不十分と言われる。例えばセメント業界における受け入れ可能量は年間200万トン程度で安定しており、急激な拡大は期待できない。従って、大規模公共事業などが予定されている需要地で、盛り土材や埋め戻し材としての再利用を促進することが、現実的なアプローチとなる。

需要地の有力候補が、被災地の宮城県や福島県である。復興需要に伴う盛土材の必要土量は両県だけで8800万立方メートル、不足分だけでも3300万立方メートルに及ぶ。土取り場からの大量採取に伴う自然破壊も懸念される中、広域に受け入れを行うことにも十分な合理性が認められる。コスト的には、近隣からの採取が一見安価に見えるが、首都圏など供給側の処分コスト負担力と組み合わせれば、運搬費を含めて処理に必要な費用が捻出できる。

それでもコストが合わなければ埋め立てを含む適正処分を急ぐ必要があり、特に注目すべきは海面埋め立ての積極活用である。現行の特定有害物質の基準値は「土壌を直接摂取する」または「地下水に溶出し、地下水を直接摂取する」場合を前提に設定されており、自然土さえも規制対象となる。事実、海洋汚染防止法上の基準値は土壌環境基準の10倍程度であり、自然土を含む土壌の受け入れに伴うリスクは極めて低い。

「土壌リサイクル」進化の方向性

図:「土壌リサイクル」進化の方向性

 ただし、域外から搬入される土壌への受け入れ側関係者の目線は厳しい。条例や港湾での取り扱い規制に加え、慣例レベルのハードルも存在する。その最大の理由は、土壌の処理フローについての情報開示が不十分なことにある。要措置区域等からの土壌搬出にはマニフェスト管理が義務付けられているが、土地取引関係者間の守秘義務契約を背景に開示データは不足しており、処理土の行方等も不透明である。当事者の理解不足や風評対策を乗り越えるためには、排出側・受け入れ側の事業者も積極的な情報開示を行った上で、行政が広域処理に対する明確な指針を示すことが必要となる。

土壌リサイクルや適正処分の明確なめどがなくとも、大規模工事は計画・施工される。処理の出口が滞れば、必然的に工期の停滞や不適正処分のまん延に陥り、マクロ的には経済発展の足かせとなる。コンプライアンスを前提とした適切な広域処理促進に向け、官民関係者が総力を結集すべき時が来ている。



Page Top