(「環境新聞」2013年7月24日より)
リサイクルビジネス進化論(2)
「古紙リサイクル」進化の方向性
電力制度改革の行方に左右
社会・環境戦略コンサルティング本部
シニアマネージャー 林 孝昌
古紙リサイクルの起源は平安時代にさかのぼり、その基本原理は今も変わらない。洗濯機の「お化け」である巨大なパルパーで古紙を離解して、異物を除去し洗浄・漂白したパルプを重ねて乾かせば紙に戻る。
古紙とは本来、市中で製紙原料向けに回収された紙類を指すが、そのリサイクル対象には産業古紙や紙くずも含まれる。利用用途は「製紙原料化」が大半を占めるが、「燃料利用」を含む新規用途にこそ、リサイクルビジネス進化の可能性が見出せる。
国内で2千万トン強が回収される古紙のうち、500万トンが輸出され、その8割の400万トンは中国で製紙原料となる。紙や板紙の生産量は経済成長とともに増加するため、森林資源が不足する中国には世界中から古紙が流れ込んでいる。ただし、中国でも国内の古紙回収システムが急ピッチで整備されており、経済成長率も鈍化しつつある。結果、余剰古紙の捌け口となる輸出量が急減し、国内需給が緩む可能性が高まっている。
紙・板紙生産原料の約3分の2は古紙であり、残りは木材チップから製造するパルプである。ただし、古紙の多くは板紙に利用され、品質的にも単純に製紙用パルプの代替にはできない。また、パルプ生産時の副産物である黒液は、紙の製造に必要な電力を賄う貴重なカーボンニュートラル燃料であり、製紙メーカーはパルプ生産水準も維持する必要がある。すなわち、製紙原料化のみを受け皿に、余剰古紙対策を進めるには無理がある。
ここにリサイクルビジネスのチャンスがある。国内で製紙原料化される古紙は、全て直納問屋経由の伝統的なルートを辿る。一方、産廃業者がオフィスなどから回収した古紙は、直納問屋への転売のみならず、輸出を含むさまざまなルートで再生される。中国向け輸出量が急減するなら、今後の選択肢は2つしかない。中国に代わる輸出先を探すか、燃料化を含む新規用途に活路を見出すか、である。
「古紙リサイクル」進化の方向性
新たな輸出先の候補は東南アジアである。例えばベトナム向け輸出量は過去10年で5倍に増えている。段ボールを中心とした板紙生産は輸出立国型の国で国内消費の伸び以上に増加する。産廃業者を含む古紙回収業者は、中国に代わる輸出先を探すことで、市況の安定化を図る必要がある。それでも需給が緩むなら、古紙価格は下落する。
古紙価格下落は産廃業者などにとっての追い風となる。逆有償やそれに近い価格で古紙が取引されれば、RPFなどの競争力が高まる。ごみ処理費用分のかさ上げにより、発電燃料である石炭、さらには木くずや廃タイヤなどに対するコスト優位性が高まる。現状約78万トンに過ぎないRPF市場は、確実に拡大する。また、形を変えたごみ処理に過ぎないRDFとセメントの組み合わせにもチャンスが生じる。
パルプモールドやセルローズファイバーなど、材料利用を目的とした新規用途にはコスト競争力がない。新たな可能性を見出せるのは、むしろバイオエタノール化など、燃料利用の新形態であろう。
そもそも製紙と発電は密接な関連があり、RPF販売先の8割強は製紙メーカーである。すなわち、古紙リサイクルの進化は、電気料金やその燃料費の高騰、FITによるバイオマスボイラー利用拡大を含む電力制度改革の行方にも左右されるのだ。