(「環境新聞」2013年11月27日より)
リサイクルビジネス進化論(6)
「食品リサイクル」進化の方向性
「引き算」で他素材を有効利用
社会・環境戦略コンサルティング本部
シニアマネージャー 林 孝昌
リサイクルの本質は廃棄物などの付加価値を高め、一般市場に還元することにある。結果、有価取引が可能な原燃料の製造が成否の判断基準となるが、食品リサイクルに限ってその考え方は当てはまらない。飼料、肥料、燃料など、リサイクル手法を問わず、競合する一般製品自体の市場価格が余りにも安価だからである。技術的な課題も多く、処理後製品の品質安定には多大な投資コストが必要となる。特に一般廃棄物として発生する食品廃棄物の場合、市場原理に任せたリサイクルシステム構築は不可能と言えよう。
ただし、廃棄物処理の全体コストの低減という観点で見れば、十分に進化の余地が見られる。食品廃棄物さえなくなれば、その他の廃棄物は原料または燃料としての有効利用が容易になるからである。それでも残る廃棄物の発熱量も高まり、ごみ発電の効率も改善できる。食品リサイクルは廃棄物処理全体の最適化に必要なコストであり、逆有償でも焼却・処分のフローから外すこと自体に意義がある。
製造業から発生する食品廃棄物は、全体の約82%を占めている。その再生利用等は、2010年度実績で94%に及んでおり、法定目標を超えた高い水準にある。加工前に工場で大量に発生する残渣などが主体であるためで、いわゆる食品リサイクル・ループも構築されている。問題は食品小売業や外食産業、さらには家庭から発生する一般廃棄物である。家庭系は食品リサイクル法の対象外だが、事業系と課題は同根であり、食べ残しや期限切れを含め、塩分や脂分を含有した加工度の高い食品廃棄物から良質な製品を安定製造することはできない。
一廃である以上、その処理責務は自治体にあるが、食品リサイクルは焼却・処分先にありきのアプローチを転換する契機となり得る。古紙類や飲料容器のように、有価売却はできずとも、一般市場に還元する手法はあるからである。
最も安直だが効果的なアプローチは、「希釈」である。例えば堆肥や液肥は窒素分等の含有率を安定化しなければ農家では使えない。ただし、大量に発生して流通する産廃由来のリサイクル・ループに吸収されれば、一廃由来の成分は希釈され、利用可能となる。メタン発酵の場合、家畜ふん尿やし尿による希釈にも成功例が見られている。また、スケールメリットが求められるという点でバイオエタノール化も産廃との混合再生が有効であろう。一方で、高品位化とブランド化が進む飼料への一廃混入は、畜産製品自体への悪影響も否定できない。一廃由来の食品廃棄物で、再生後製品の品質リスクを取ることは不可能であり、飼料化での再生は避けるべきである。
「食品リサイクル」進化の方向性
いずれの手法でも、食品リサイクルに取り組む民間処理事業者との連携や処理委託こそが成功の最短ルートになる。さらに、廃食用油など単一品目の回収やそのための普及啓発にはNPOとの連携も有効となろう。その場合、仮に行政が負担するコストが現状の一廃処理単価を上回っても、その他廃棄物の資源化促進により、十分に採算を確保できる可能性はある。
行政担当者は、収集区分ごとの収支で採算性の検証を行いがちだが、そもそも食品廃棄物を他素材同様の資源だと言い張るには無理がある。「引き算」のリサイクルへ、という発想の転換が新たな可能性を押し広げてくれる。