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(「環境新聞」2013年8月28日より)

リサイクルビジネス進化論(3)
「鉄リサイクル」進化の方向性

電炉核に国内循環網を構築へ

株式会社NTTデータ経営研究所
社会・環境戦略コンサルティング本部
シニアマネージャー 林 孝昌

 鉄リサイクルの主役は電炉メーカーである。工場由来の端材や市中スクラップなどの廃材を溶解し、精錬、鋳造、圧延などのプロセスで再生する。今も国内粗鋼生産量の約4分の1は電炉メーカーが担っているが、米国の6割、EUや韓国の4割と比較すると、わが国ではまだ十分な成長余地がある。電気料金高騰を契機に電炉業の危機も叫ばれるが、海外展開の必然性はむしろ高炉メーカーの側にあり、電炉材の国内利用量はこれからも拡大する。高炉材の供給が減れば国内需給は逼迫し、輸出が減って価格は高止まりする。

鉄鉱石から最終製品までの一貫製造を行う高炉メーカーに対して、電炉メーカーの強みは価格競争力とフットワークにある。鉄スクラップを原料に夜間電力を活用して需給動向を見据えた生産を行い、主に建材分野の製品を供給している。その弱みは品質にあり、鉄スクラップに混入する非鉄金属類など不純物の除去が、加工性を高めて品質向上を図る上での課題である。鉄リサイクルビジネス進化の入り口は、高炉材が主力の自動車部品など、高機能材市場への参入にある。

例えば「新断」と呼ばれる工場由来の高品位端材のみを活用すれば不純物混入は極小化できる。ただし、品質が上がっても、仕入れコストが上がれば高炉材と競合できない。市中スクラップとのベストミックスにより、「加工性が高くて価格が安い」鉄製品の供給を実現して初めて、高炉材市場での存在感を確立できる。

電炉メーカーに原料供給を行うスクラップ業は、卸売業と加工業の機能を併せ持つ。加工業としては電炉投入前の選別や、プレス、ギロチン、シュレッダーなどによる原料化機能を担っている。ただし、仕入れ値と売値の値差が固定化した現状での利益創出はほぼ不可能であり、卸売業としての競争力強化が必須である。ならば規模集約と寡占化により、仕入れ・供給能力を高めて電炉メーカーと対峙することが現実解となる。卸売業の競争力が規模に左右されることは品目を問わない。再生資源取引で最も透明性が高い鉄スクラップ市場でも、取引量などに見合った裏値は存在するからである。

電炉材の高機能化は、自動車や家電製品のセットメーカーとの連携拡大のきっかけにもなる。鉄を含め原料 価格の相場変動を嫌うセットメーカーが、自社廃製品を原料に新製品を製造する「クローズドリサイクル」実現を目指す動きが顕在化しつつある。原料仕入れ価格の低減とリサイクル材利用率向上の両立は、メーカーにと って明らかなメリットであり、技術開発は間違いなく加速していく。ただし、鉄に特化して考えると個社レベルの排出量は余りに小さいことから、今後、例えば業界単位で電炉メーカーと連携していく体制の整備が求められていく。

「鉄リサイクル」進化の方向性

図:「鉄リサイクル」進化の方向性

 新興国などでの所得拡大を受けて世界的に急増中の鉄需要は、中国など需要地に集積が進む高炉に支えられており、わが国高炉メーカーはこれからもその一翼を担っていく。一方、電炉メーカーを核とした鉄リサイクルの進化は、高効率で安定的な国内資源循環システム整備を目指す方向に向かうはずである。



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