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(「環境新聞」2013年6月26日より)

リサイクルビジネス進化論(1)
「リサイクルビジネス」の進化

自社の強み伸ばし差別化を

株式会社NTTデータ経営研究所
社会・環境戦略コンサルティング本部
シニアマネージャー 林 孝昌

 リサイクルビジネスには、産業としての成熟に伴う「進化」が求められている。

過去20年間にわたり、「リサイクル関連制度整備」、「素材・セットメーカーの参入」、「広域循環利用の定着」、「マーケットの国際化」など外部環境の変化が、業界構造の転換を迫り続けてきた。その結果、一廃・産廃の区分で業態や品目ごとの許認可を受けた事業者が地域の限られたパイを分け合うという平和な枠組みは、今や形ばかりとなってしまった。一方で、廃棄物処理業と素材製造業の複合体であるリサイクルビジネスは、世界経済の急成長に伴う素材需要の高騰という追い風を受けて、グローバルな社会経済システムに組み込まれ、その重要性は飛躍的に高まり、マーケットも急速に拡大してきた。マーケットの拡大は参入者の増加をもたらし、競争と淘汰が本格化する。このプロセスこそが産業としての成熟であり、今後リサイクルビジネスが乗り越えるべき課題と考えられる。

成熟期を迎えた産業の将来シナリオは2パターンに分類される。一つ目は「価格競争の徹底」というシナリオである。この場合、提供する「サービス」や「製品」の品質は据え置きつつ、経営を合理化しつつ利益を削って我慢した企業のみが、シェアを拡大して生き残る。その先には寡占化が待っており、クライアント側の選択肢も限定されるため、新たな付加価値ニーズも生まれない。現に米国ではこのシナリオが進展しており、M&Aで規模を拡大したウェイストマネジメント社を中心に「シングルストリーム(混合収集)」、「循環資源輸出」、「最終処分」の組み合わせという、最も安易で低品質なシステムが定着しつつある。

ちなみに同社の景況は国際市況次第であり、例えば資源価格が下落した昨年第2四半期の利益は20%以上低下し、直後に700人規模のリストラが行われた。規模頼みで新たな付加価値を創出できない産業は当然ながら活力を失い、その進化は止まる。

もう一つは、「マーケット細分化と付加価値追及」というシナリオであり、幸運にもわが国のリサイクルビジネスはこちらを選択しつつある。リサイクルビジネスが廃棄物処理業である以上、取り扱い品目の性状や形態は多様であり、素材製造業である以上、動脈産業に還元するリサイクルチェーンが画一的なはずはない。それでも大企業による寡占構造ならば、品目ごとの特性などに目配りよりも、規模のメリット追求が優先される。今も中小零細企業が主体のわが国リサイクルビジネスは、得意な取り扱い品目やクライアントごとに細分化されたマーケットで系列を形成しつつ、各社がユニークな手法で生き残りを図っている。

リサイクルビジネス進化の方向性

図:リサイクルビジネス進化の方向性

 この際の付加価値追求において大切なことは、利幅の大きさよりも「真似されないこと」自体にある。一見瑣末に見えても、「信頼」、「人脈」、「目利き力」、「処理技術」、「地域特性」などに強みがあれば、その追求を通じてニッチトップを狙うことが可能であり、新たなサービスや製品などが生まれる余地も残る。

外部環境の変化に対応しつつ、製造業の技術による裏打ちを得て、世界一厳しい消費者の要求水準を満たしてきたわが国のリサイクルビジネスは、ビジネスモデルや処理手法の多様性といった観点で見れば、世界最高水準にあることは間違いない。ただし、価格と規模の競争に陥れば、製造業と同様に産業としての競争力を失うことになりかねない。

すなわち、リサイクルビジネスが進化するためには、細分化されたマーケットの動向を読み取り、グローバル化にも対応しつつ、他社との差別化を図る必要がある。「神は細部に宿る」と信じて、自社の強みを磨き続けてこそ、希望は見出せる。さらに、その前提条件は、各マーケットの進化の方向性を正しく見極めて、正しい努力を行うことにある。

本連載では、まずは検討ターゲットを素材に据えて、わが国リサイクルビジネスの進化の方向性を探りたい。



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