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コラム・オピニオン 2014年03月03日

「長生きになって、むしろ働かなくなった高齢層
~~平均寿命と労働力人口比率」

取締役会長 兼 金融システム研究所所長
山本 謙三


群を抜く日本の長寿化スピード

 もしヒトが普通の動物ならば、長生きすれば、その分長く働くだろう。自分で餌を探さなければならないからだ。もし今日神様から、「あなたは予定より10 年長く生きることになる」と宣告されれば、同時に「10年長く働いてもらう」と言われても納得するだろう。勤労は長生きの対価だ。では、実際はどうか。

 まず平均寿命の推移をみてみよう。世界各国とも寿命の伸びが著しいが、なかでもわが国の長寿化は際立つ。1965年から2012年にかけて、男性で67.7歳から79.9歳へ、女性で72.9歳から86.4歳へと長寿化した。男女あわせてみれば、先進国のなかでも群を抜くスピードだ(参考1)。

参考1:平均寿命の年次推移:国際比較

参考1:平均寿命の年次推移:国際比較

出典:厚生労働省「平成24年簡易生命表の概況」

 一つの理由は、経済が豊かになり、栄養・生活環境がよくなったことだろう。しかし、それだけでは、他国よりも急速かつトップクラスとなったことを説明できない。やはり、国民皆保険をはじめとする医療制度の充実が寄与したことは間違いあるまい。国民皆保険でない米国が、先進国のなかでも長寿化スピードが遅いこととも平仄があう。

 長生きすれば、その分生活費や医療費がかかる。なかでも日本は、高齢者の医療サービス利用頻度が他に比べ高い国だ(内閣府「平成25年版高齢社会白書」)。「長寿になった分働いて、みずからコストを負担する」というのは自然な考え方だろう。

高齢層の労働力人口比率は大きく低下した

 では、実際の高齢層の労働参加はどうか。以下、高齢者全体に占める労働力人口の比率をみてみよう。労働力人口とは、就業者数と完全失業者数の合計であり、失業中でも労働意欲があり求職活動を行った者はこれに含まれる。

 データが遡れる1968年時点をみると、65歳以上の労働力人口比率は33.5%だった。これが2013年には20.5%まで低下している(参考2)。このうち男性だけをとってみると、52.1 %から29.4%への大幅な低下だ。65歳時点の平均余命は、この間に6~8年伸長している。つまり、平均余命が延びたにもかかわらず、働こうとした人の割合はむしろ大きく低下したことになる。

 農林水産業や自営業では、「身体の動くかぎり働く」とする人々が少なくない。そうした企業や産業の割合が日本経済全体のなかで低下したことが、高齢層の労働人口比率を押し下げたとみられる。定年制も、長い目でみれば、無期限に働くことを制約する要因として働いてきたようにみえる。

参考2:65歳以上労働力人口比率の推移

参考2:65歳以上労働力人口比率の推移

(注)労働力人口比率とは、当該年齢層の全人口に占める、労働力人口(就業者と完全失業者の合計)の割合。完全失業者とは、仕事についておらず、仕事があればすぐつくことができる者で 、仕事を探す活動をしていた者。

出典:総務省「労働力調査」を基にNTTデータ経営研究所が作成


長く働いて、将来世代の負担を軽減するしかない

 こうした変化にもかかわらず、これまで高齢者の生活費や医療費は国全体として賄われてきた。その背景には、以前であれば、若者の数が増え、経済成長が実現し、そのパイを分かち合えたことがあった。

 しかし、1990年代半ばを境に、現役世代の人口は減少に転じ、高齢者比率が急ピッチで上昇してきた。にもかかわらず、高齢者の生活に支障が生じなかったのは、社会保障制度の充実のもとで、後世代から高齢層へ所得移転する仕組みが定着したことが大きい。保険料だけでは費用を賄えなくなったにもかかわらず、公費が投入され、その一部には国債発行があてられてきた。

 もちろん、このような仕組みは、今後高齢化が一段と進むもとでは続けられない。国債発行への依存は、現役世代だけでなく、将来世代にも負担を転嫁していることにほかならない。放置すれば、将来世代の負担が増すばかりだ。消費税率の引上げ等いくつかの対策はとられてきたが、根本的な解決にはほど遠い。現役・将来世代の負担増加に依存して高齢層の生活を成り立たせる仕組みは、早く見直さなければならない。

 結局、本則にもどるしかあるまい。「退職後の余生を楽しむ」のは、余生が短い時だけに通用した話だ。長生きになった以上、その分長く働き、コストをできるかぎり自らの世代で負担する仕組みとすることが重要である。それが長生きするようになった世代の、将来世代に対する責任のように思われる(注)。

(注)現役世代人口の総人口に対する比率(=生産年齢人口比率)を一定に維持するには、現役世代の年齢上限(定義)を随時引き上げていくことが考えられる。試算結果は、2013年9月「70歳まで働いて帳尻を合わせよう」 を参照。

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