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「月刊金融ジャーナル」2016年4月号 「総特集 地域銀行の新ビジネスモデル Part III 識者に聞く~変革への処方箋」より)

情報基盤強化で預貸金業務を創る

NTTデータ経営研究所
取締役会長 山本 謙三

 地域銀行の競争力の源泉は、①地元との深いつながり②銀行自身の信用力(預金吸収力)③目利き力(信用評価力)──にある。ビジネスモデル変革の基本線は、これらを新しい手法や技術でどう強化し、どう顧客に届けるかだ。ビジネスモデルとは、顧客価値向上のための“届ける仕組み”にほかならない。

 出発点は情報基盤の強化だろう。内外のECサイト事業者は、顧客や取引先から大量のデータを入手し、情報のプラットフォーム(基盤)を構築する。そのうえで金融事業部門は、売り上げや在庫のデータをもとに出店企業への融資を試みる。そこまで大がかりでないにせよ、地域銀行も類似の機能が期待される。収集するのは、預金、貸し出し、決済のほか、取引先の販売や在庫、顧客の世帯構成(後継者の状況、家族のライフステージ)、観光客の購買動向など、多様で広範なデータだ。そのためには、他業とのアライアンスや外部データベース、会計ソフト、家計簿ソフトとの連携が欠かせない。もちろん、職員が足で稼ぐ情報は貴重だ。統計データは、必ずしも真実を語らない。プロの目を介した情報の付加、精査、解析が基盤の質を高める。

 データの蓄積が進めば、取引先の業況をリアルタイムで把握し、より正確な資金繰りの見通しを立てられるようになる。中間品や製品在庫の現在価値も計算できる。地域銀行は、これを手掛かりに信用評価の精度を高める。顧客の資金過不足に、タイムリーに融資や資金運用手段を提供できるようになる。取引先の経営者と情報を共有したうえで事業戦略を話し合い、M&Aや事業承継など、次の施策をサポートすることが重要だ。

 以上を前提に、本当の勝負はその先にある。地方経済の最大の課題は、「生産性の向上」と「人手不足・後継者難への対応」だ。銀行に求められるのは、課題克服に向けた様々なアイデアを“仕組み”にして届けることである。たとえば、手間のかかる中小企業の帳簿付けや起業時の行政手続き、自治体の事務作業は、銀行が一括してIT管理してはどうか。地域の労働力に関するデータベースをつくり、人手を融通する仕組みはどうか。若手経営者や後継者のチャレンジ精神を集結し、地域固有のプロジェクトを立ち上げてはどうか。県外に住む出身者(相続人)を、ふるさとサポーターとして組織化するのはどうか。新しい預貸金業務もその先に生まれてくるだろう。

 情報基盤は、将来、近隣の銀行と連携して「広域地元経済圏」の基盤へと発展させたり、業界全体の基盤につなげうる。はじめから全体像を意識すれば負担が大きすぎるが、まずはできるところから始めたい。

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