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コラム・オピニオン 2017年6月1日

福岡、大阪から転出する外国人~~東京周辺へ、あるいは地方へ

取締役会長
山本 謙三

1年間に在留外国人の2割弱が住居を変える

 総務省が2014年から、人口移動の統計として、「外国人を含む移動者」と「日本人移動者」を公表している。おかげで、その差分から「外国人」の移動状況を推しはかることができる。

 この統計は、海外からの転入や海外への転出は含まず、国内移動のみを計上している。また、在留外国人を対象としており、原則として旅行者や短期滞在者は含まない。

 統計によれば、在留外国人の国内移動は年々拡大を続けており、2016年には約37万人に達した。これは在留者全体の2割弱と、日本人(4%程度)に比べかなり高い。県内・県外別にみると、同一県内での移動と他県への移動がほぼ拮抗している。

福岡、大阪、千葉から転出する在留外国人

 在留外国人の人口移動には、日本人と異なる傾向が窺われる。

 第1に、福岡、大阪、千葉からの転出超が目立つ(参考1参照)。

 以前コラムでもとりあげたように、わが国全体の人口移動(総数)は、――東京一極集中ではなく、――中核4域7都府県(東京圏4都県、愛知、大阪、福岡)への凝縮に特徴がある。その背後には、高齢層を含めた大都市中心部への移動がある(2016年9月「なぜ東京一極集中はミスリーディングなのか」参照)。

 一方、在留外国人の場合は、同じ大都市圏でも福岡、大阪、千葉は転出超にあり、その数も年々拡大している。

 これら3府県の場合、一方で海外からの留学生や実務研修性の受け入れが活発であるため、在留者全体の数は増加している。にもかかわらず、国内移動に絞れば、かなりの数が短期間のうちに他県に流出していることになる。

(参考1)在留外国人と日本人の国内人口移動(都道府県別、転入超数の推移)

―― 2014~16年の合計、人

(参考1)在留外国人と日本人の国内人口移動(都道府県別、転入超数の推移)

  (注)在留外国人は、「移動者(外国人含む)」と「日本人移動者」の差。

 (出典)「住民基本台帳人口移動報告」(総務省統計局)を基にNTTデータ経営研究所が作成。

目立つ埼玉、神奈川、愛知、群馬への転入~~自動車関連産業の影響が大きいか

 第2に、在留外国人の移動の受け皿は、埼玉、神奈川、愛知、東京、群馬の5都県が中心だ(前掲参考1参照)。

 なかでも埼玉、神奈川、愛知3県の外国人の転入超数は、人口転入超総数(外国人、日本人の合算)の2割を超える。また群馬は、日本人は転出超過にあるが、その数の3分の2を外国人の転入超が埋めた計算となる。

 埼玉、神奈川、愛知、群馬4県への転入の多さや、大阪、千葉の転出超過を踏まえると、外国人の移動には自動車関連産業の人手不足が大きく影響している可能性が高い。

大都市中心地は避け、周辺都市へ

 第3に、東京圏(除く千葉)や愛知が転入超過にあるとはいえ、大都市中心地への転入は限られる。転入の中心は周辺都市である。

 都道府県単位でみれば、転入超数が多いのは埼玉、神奈川、愛知の順であり、東京はこれに次ぐ規模にとどまる。日本人の場合、東京への流入が圧倒的に多いのとは対照的だ。

 21大都市をみても、川崎市、横浜市、相模原市、さいたま市への転入超が多い一方、名古屋市は転出超が続く。東京都特別区部(23区)も2016年には転出超に転じた(参考2参照)。

 移動する在留外国人の年齢が10代後半から30代が多いことを踏まえれば、居住地の選択は、働く場所と家賃の水準に左右されるということだろう。

(参考2)在留外国人の国内人口移動(21大都市、転入超数の推移)

(人)

(参考2)在留外国人の国内人口移動(21大都市、転入超数の推移)

  (注)在留外国人は、「移動者(外国人含む)」と「日本人移動者」の差。

 (出典)「住民基本台帳人口移動報告」(総務省統計局)を基にNTTデータ経営研究所が作成。

地方圏への移動も活発

 第4に、地方圏も一部の県は転入が活発だ。

 日本人の場合、中核4域7都府県と宮城を除く39道府県はすべて転出超過だった。一方、外国人の場合は、中核7都府県や宮城以外(転入超は埼玉、神奈川、愛知、東京、宮城)でも、群馬をはじめ16道県が転入超を記録している(前掲参考1参照)。

 その典型は群馬、北海道、鹿児島であり、技能実習生の受け入れが寄与しているとみられる。

留意すべきこと~~よりよい労働環境を提供できるか

 以上のように、在留外国人の人口移動は国内の労働需要を敏感に反映する姿となっている。

 以前にも書いたように、日本の労働市場はすでにかなりの程度を外国人に依存している。2009年から16年にかけて国内の就業者数は約2百万人増加したが、うち4人に1人は外国人と試算される(2016年6月「「外国人」は労働市場にどれだけ貢献しているか」参照)。

 日本の総人口に占める在留外国人の割合は2%に満たないが、労働市場や人口動態に及ぼすインパクトはこれをはるかに上回る規模に達しているということだ。

 国内移動する外国人の在留資格は、その移動の規模や速さからみて、「留学」、「技能実習」、「永住者」、「定住者」、「技術・人文知識・国際業務」など多岐にわたるものと推測される。

 これら外国人にどれだけよりよい労働環境と生活環境を提供できるかが、日本経済にとっても地方創生にとっても重要だ。

 外国人の多い米国は、英語能力の十分でない子供に対し、公立校で充実した言語(英語)教育プログラム(English as a second language)を提供している。また、成人向け言語教育プログラムも、教育内容のスタンダード化など、充実が図られている。

 言葉の問題をはじめ、多くの障害を取り除き、外国の人々に、日本で働き、生活することを好きになってもらう必要がある。そのための努力を怠ってはならない。

以 上

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