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コラム・オピニオン 2016年2月1日

ITが人口の大都市集中を加速させる?~~なぜ人口は中核4域(7県)に「凝縮」するのか

取締役会長
山本 謙三



東京一極集中でなく、中核4域への「凝縮」

 「東京一極集中」という表現はミスリーディングだ。都道府県単位でいえば、最近20年間の人口移動の特徴は、「中核4域7県への凝縮」にある(注1)。中核4域7県とは、東京圏4都県(東京、神奈川、埼玉、千葉)と大阪、愛知、福岡だ。

(注1)市町村単位でみれば、中核4域内大都市に札幌、仙台などを加えた10数都市への「凝縮」が特徴となる。

 これは、1990年代半ばまでの20年間と比較すれば、より鮮明となる。当時の人口移動の特徴は、東京、大阪、愛知からの人口流出と、周辺各県への人口流入だった。

 これが、90年代半ばを境に逆転した。東京、愛知に再び人口が流入するようになり、大阪も2010年代になって流入超に戻った。一方で、岐阜、三重、奈良、茨城、栃木、群馬の周辺各県は、流入超から流出超に転じた(参考1)。

 東京一極集中論は、「東京圏の流入超」と「地方および大阪圏・名古屋圏の流出超」を前提としている。だが、実際に起こっているのは、「中核4域の流入超」と「地方および周辺各県の流出超」である。いわば、「地方から3大都市圏へ」の人口の流れが、より狭い圏域である「中核4域7県」に凝縮してきたようにみえる。

(参考1)都道府県別人口転入超数の推移

(マイナスは転出超、人)

(参考1)東京圏・非東京圏の人口転出入超数推移

(注)2014年以降の転入超数には外国人を含む。

(出典)「住民基本台帳人口移動報告」(総務省統計局)を基にNTTデータ経営研究所が作成

中核4域への集中度が際立つ情報通信業、学術、専門・技術サービス業

 では、なぜ中核4域に人口が「凝縮」してきたのか。企業立地の観点からみてみよう。

 参考2は、業種別付加価値額の中核4域への集中度をみたものである。想像どおり、農林漁業はきわめて低く、製造業も相対的に低い。一方、サービス業は全般に集中度が高い。小売業や金融業などは、人口集積地に立地するのが経営効率を高めるとみられるからだ。これは介護や医療分野にも当てはまる。病院、介護施設の多くは都市部に集まる。

 さらに、これらサービス業にもまして高い集中度を示すのが、①情報通信業、②学術研究、専門・技術サービス業、③不動産業の3業種である。とくに前2者は、近年、医療・福祉分野に次いで就業者を増やしてきた業種であり、人口へのインパクトは大きい。

 「情報通信技術の革新が進み、社会のIT化が進めば、都市部だけでなく地方でも仕事ができるようになる」と言われてきた。それは紛れもない事実だが、現実は、社会のIT化・知識集約化が人口の大都市集中を加速させてきたようにみえる。

(参考2)業種別付加価値額の中核4域(7県)集中度(%)

(参考2)業種別付加価値額の中核4域(7県)集中度(%

(出典)総務省・経済産業省「平成24年経済センサスー活動調査 調査の結果」を基にNTTデータ経営研究所が作成

法人顧客に寄り添う情報通信業、学術研究、専門・技術サービス業

 多くの企業は、機械化やIT化を進める過程で、支店・営業所の人員を圧縮し、大都市にあるシステム部門の人員を増強してきた。ITサービス業も、こうした顧客企業の動きにあわせて、大都市での人員を増やしてきた(注2)。

(注2)専門・技術サービス業(法律事務所、会計事務所、経営コンサルタント会社など)も大都市集中度が高い。これも、法人企業を主たる顧客としているためと考えられる。

 情報通信分野におけるITサービス業と法人企業の関係をみると、日本と米国では、IT技術者の所属先に大きな違いがある。米国では、IT技術者の7割がユーザー企業に、3割がITサービス企業に所属しているのに対し、日本では、2割がユーザー企業に、8割がITサービス企業に所属している(独立行政法人情報処理推進機構「グローバル化を支えるIT人材確保・育成施策に関する調査 概要報告書」)。

 こうした下で、日本では、ITサービス業(ベンダー)の技術者が日常的にユーザー企業に出向き、共同で設計・開発を進めるのが通例となっている。米国のように、ユーザー企業側で仕様がほぼ確定し、これを基にITサービス業に指示を与えるのとは趣が異なる。この結果、日本の情報通信業は、顧客企業に近接する大都市――とくに中核4域――に拠点を設ける例が多い。

 ITサービス業者が外部に開発の委託を行う場合も、ほぼ同様だ。日本では、ユーザー企業、ITサービス業(委託者)、開発事業者(受託者)の3者が、対面でのコミュニケーションを密にしながら開発を進めることが多い。仕様がかなりの程度確定している場合には、海外や地方にアウトソースするケースもあるが、主流はなお近接した場所での共同開発にある。

地方で育つIT産業は?

 以上のように、情報通信業や学術研究、専門・技術サービス業にみられる大都市への集中傾向は、わが国の企業構造に深く根差したものといえる。もちろん、コスト競争力の観点などから今後アウトソーシングが進む可能性があるが、本格的な進展はユーザー企業側にIT技術者が増え、ITサービス業との役割分担がより明確になってからのことだろう。

 しかし、これらは地方でIT産業が育たないことを意味するものではない。大都市の比較優位が法人顧客との距離にあるとすれば、地方には、「働く者に対する豊かな生活環境の提供」という比較優位がある。多彩なアイデアはそうした環境下でこそ生まれやすいのかもしれない。IT産業でいえば、こうした比較優位を活かしやすいのは、自社企画に基づくパッケージソフトやゲームソフトの開発などの分野だろう。

 実際、そうしたIT企業が地方に増えている。これらの企業がただちに大量の雇用の受け皿となるとは考えにくいが、その成長は地方経済に刺激を与え、地方産業の生産性向上に寄与するものと期待したい。

以 上

(本稿の執筆に当たっては、NTTデータ経営研究所パートナー三谷慶一郎氏から多くの示唆を得た。ただし、本稿の文責はすべて著者にある。)

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