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コラム・オピニオン 2014年10月01日

グローバル・バリュー・チェーン下の競争力はどこから生まれるか
~~カギをにぎるサービス部門

取締役会長
山本 謙三



付加価値ベース貿易統計では、「サービス」の取引ウェイトが高い

 グローバル・バリュー・チェーン深化の特徴の一つは、生産拠点のグローバル分散だ(2013年12月「グローバル・チェーンにおける日本企業の立ち位置を探る」 参照)。しかし、バリュー・チェーンは、財だけでなくサービスの国際的な移転も担う。これをOECD-WTO「付加価値ベース貿易統計」にしたがって確認してみよう(注1)。

(注1)OECD・WTO「付加価値ベース貿易統計」の詳細は、前出2013年12月コラムを参照。

 付加価値ベース貿易統計によれば、国際取引に占める「サービス」部門の生みだす付加価値ウェイトは、想像以上に高い。従来の国際収支統計では、サービス取引のウェイトは2割程度とされてきた。一方、付加価値ベース貿易統計では、G20諸国の国際取引(総輸出額)に占める「サービス」付加価値の比率を4割強と計算している(OECD,WTO, UNCTAD (2013))。

 参考1は、理解のために、この関係を模式的に描いたものである。ここでは、A国がB国にサービスを提供し、B国製造部門がこれを利用して財を生産し、C国に輸出する場合を例示している。

 従来の国際収支統計では、B国からC国への輸出は、A国からのサービス輸入にB国による付加価値を上乗せしたものを、すべて「財」の輸出として計上する。一方、付加価値ベース貿易統計では、B国からC国への輸出のうち、もともとA国が生み出したサービス付加価値分を控除して計算することができる。この結果、付加価値貿易統計では、B国によるA国からの輸入分の二重計上が回避され、従来の国際収支統計に比べサービス取引のウェイトが高まることになる。


参考1:国際収支統計と付加価値ベース貿易統計の概念図

参考1:国際収支統計と付加価値ベース貿易統計の概念図

バリュー・チェーンの深化とともに「サービス」の付加価値ウェイトが高まる

 参考2は、グローバル・バリュー・チェーン下における「サービス」の付加価値ウェイト(対総輸出)を、国・地域別に集計したものである。以下、特徴をいくつか挙げてみよう。


参考2:「サービス」の生み出す付加価値の比率(対総輸出,%)

(注)「サービス」の付加価値輸出ウェイト(対総輸出)には、同国・地域が国内で創出した付加価値に加えて、海外から輸入し海外に再輸出した付加価値を含む。

出典:OECD-WTO TiVA データベースを基にNTTデータ経営研究所が作成

 第1に、グローバル・バリュー・チェーンの深化とともに、多くの国で、国際取引に占める、「サービス」の生み出す付加価値ウェイトが高まっている。バリュー・チェーンないしサプライ・チェーンという用語は、財の連関をイメージさせがちだが、実際にはそれ以上に、サービスの国際的な連関が高まっている。

 ここでいう「サービスの国際的な連関」とは、コールセンターの海外移転などだけを指すものではない。グローバル・バリュー・チェーンが円滑に機能するには、情報通信サービスのグローバル展開や、高品質の輸送サービスが不可欠である。また、取引契約や会計などのグローバル・スタンダードへの収れんとともに、法律や会計などの事務所サービスの国際的な利用が進んでいる。バリュー・チェーンの深化は、これら「サービス」の付加価値向上とその国際的な連関の強まりによって、はじめて実現したものとみることができる。


サービスの付加価値生産ウェイトは、先進国ほど高い

 第2に、「サービス」の生み出す付加価値ウェイトは、新興国に比べ先進国が高い。しかも、先進国(OECD加盟国)は、グローバル・バリュー・チェーンが深化する過程で、そのウェイトを着実に高めてきた。なかでも欧米諸国のウェイト上昇が目立つ。

 こうしたもとで、日本も、「サービス」の生み出す付加価値ウェイトは新興国を上回っている。しかし、その上昇テンポは欧米諸国に比べ緩やかにとどまる(韓国も同様)。

 一方、新興国のうち東南アジア諸国(タイ、ベトナム)は、「サービス」の生み出す付加価値ウェイトがむしろ低下している。グローバル・バリュー・チェーン深化のもとで、これら諸国は財の生産基地としての役割を強めてきたことが分かる(注2)

(注2)こうしたなかにあって、インドが、 90年代後半以降「サービス」の生み出す付加価値ウェイトを急上昇させてきたのが目立つ。 欧米諸国からインドに向けてコールセンターやアナリストの移転が活発に行われたことや、 ソフトウェア開発が盛んであることなどが反映されたものと推測される。

高付加価値「サービス」分野の拡充こそが、グローバル・バリュー・チェーン下の競争力強化のカギ

 上記のように、先進国ほど「サービス」の生み出す付加価値ウェイトが高いのには、いくつかの理由が考えられる。

 第1に、高度サービスの典型である研究開発(R&D)分野は、教育水準が高い先進国ほど有利といえる。第2に、生産のグローバル展開に欠かせない情報通信技術は、主に先進国で開発されてきた。第3に、法務や会計などのグローバル・スタンダードは、先進国中心に策定されてきた。

 これらの事実を踏まえると、わが国でも、グローバル・バリュー・チェーン下の競争力は、サービス部門による付加価値生産の向上が大きなカギをにぎると考えられる。たしかに、法務、会計などの分野は、グローバル・スタンダードの策定を主導してきた欧米に一日の長があることは否めない。しかし、研究、設計、開発の分野などでは、日本も引き続き高い競争力を有している。品質の高い財・サービスを時間通りにデリバリーする力なども、高い付加価値を生み出すサービス要素かもしれない。

 わが国は、こうしたサービス部門の生み出す付加価値の向上に全力で取り組んでいかなければならない。国内の新しい産業構造も、こうした高付加価値のサービス生産と製造部門による付加価値の高い財生産とが一体となって、形成されていくことになろう。

(参考文献)
OECD, WTO, UNCTAD (2013) “Implications of Global Value Chains for Trade, Investment, Development and Jobs”
Working Party of the Trade Committee, OECD (2012) “Mapping Global Value Chains”
OECD(2013) “Interconnected Economies: Benefiting From Global Value Chains “
内閣府「平成26年度年次経済財政報告(経済財政白書)」

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