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コラム・オピニオン 2013年11月01日

「高齢化が変える企業構造 ~~事業所・従業員数の大企業シフトと中小企業の海外進出」

取締役会長 兼 金融システム研究所所長
山本 謙三


大規模事業所は事業所数・従業員数が増えている

 高齢化の進展とともに、企業構造が大きく変化している。2つのマクロデータから確認してみたい。

 第1は、事業所・従業員数の大企業シフトだ。1996年からの10年間、従業員299人以下の中小規模事業所数(民営)は1割強減少した。その後の統計の変更によりデータは連続しないが、09年からの3年間をみるとさらに8%減少している。その一方、従業員300人以上の大規模事業所数はむしろ増加している。それぞれの統計では同時期、7%増、0.4%増である。

 従業員数も同様である。従業員数299人以下の事業所は、96~06年7%減、09~12年5%減となった。一方、300人以上の事業所は同時期、1%、0.7%の増加を示した。ウェイトが異なるためトータルでは減少だが、全体としてみれば大規模事業所へのシフトが着実に進行した姿となっている。(参考1)

※2014年3月11日、2012年のデータを確報値に改定済み。

参考1:全産業(除く公務)・民営の事業所数、従業員数の推移

参考1:全産業(除く公務)・民営の事業所数、従業員数の推移

 シフトの背景のひとつは、団塊世代の大量退職をきっかけに、大企業が子会社群の再編を進めたことだろう。もうひとつは、中小企業自身の後継者難への対応がある。中小企業は、後継者となりうる対象者が少ないため、現役人口減少の影響をとくに強く受けやすい。実際、後継者がみつからず廃業する例は多い。わが国で廃業率が開業率をはっきりと上回ったのが90年代後半であるのも、生産年齢人口のピークアウトと符合している。

 これに加えて、最近は後継者難を背景に、中小企業から大・中堅企業への事業譲渡や、中小企業同士の統合が活発化している。仮に中小事業所同士が合併し、結果的に従業員数が300人を超えれば、中小規模事業所が2つ減り、大規模事業所が1つ増える計算になる。こうした動きが、事業所・従業員数の大企業シフトを加速させている。

事業所数・従業員数を減らすなかで、海外進出を加速させる中小企業

 第2の構造変化は、中小企業の際立った海外進出の増加である。03~11年度の8年間、親企業が資本金1億円以下の企業の海外現地法人数は、実に2.7 倍の伸びを記録した。同1億円超の企業もこの間3割増加したが、中小企業の海外進出はこれをはるかに凌駕している。この結果、中小企業が全体に占めるシェアは03年度当時の7%から13%へと一挙に拡大した。(参考2)

参考2:親企業の資本金別海外現地法人企業数の推移

参考2:親企業の資本金別海外現地法人企業数の推移

 すなわち、わが国中小企業は、事業所数が減りつづけるなかで海外進出を大幅に増やしたことになる。もちろん、その背後には苦渋の選択もあったろうし、厳しい決断があったことも間違いない。ただ、現役世代の人口が減少するもとで、事業の譲渡・統合や海外への進出は、中小企業が事業や技能を維持していくための「ひとつの解」であったことは疑いない。

金融機関は中小企業のM&Aや海外進出の支援強化を

 実際、国内企業の海外進出は、為替相場よりも、国内GDPに対する世界GDPの比率との連関がはるかに高い。これは、わが国企業が人口動態や国際環境の変化に、企業規模を問わず着実に対応してきたことのあらわれである。多くの中小企業は、取引先工場の海外移転を背景に海外に進出したが、結果的にそうした動きがグローバル・バリュー・チェーンの一角を形成してきたことになる。

 そうであれば、この流れを定着させることがなによりも大事だ。高齢化とグローバル化がますます進展することを思えば、国内外のバリュー・チェーンに中小企業の技術と人材をしっかりと組み込むことが、日本経済発展のカギとなる。そのためには、中小企業にかかるM&Aや海外展開を支援することが重要だ。

 この分野では、すでに多くの民間企業や公的機関が活動している。それと同時に、金融機関には、内外の事業環境、市場動向や個別企業の動向にかかる豊富な情報がある。データベースの整備や人材の育成により、金融機関が企業をサポートできる余地はまだまだ大きい。中小企業の技能と事業を次世代に伝えていくためにも、この分野での金融機関の支援強化を大いに期待したい。

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