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「環境新聞」2016年2月10日より

本格化する廃棄物処理・リサイクルビジネスの海外展開(8)
タイ 冷媒フロン回収と破壊/増える廃棄・進まぬ対策、日本技術で現状に風穴

NTTデータ経営研究所
社会・環境戦略コンサルティングユニット
アソシエイトパートナー 鈴木 敦士

 ASEAN新興国の中ではマレーシアに次いで高い1人当たりGDP(国内総生産)水準を有するタイ。人口800万人を超えるバンコクを中心に、2000年代に入ってから家電など耐久消費財の普及が急速に進んでいる。複数の民間調査によれば、2000年代前半には50%程度であった冷蔵庫の普及率は10年代に入り90%を超えた。電子レンジや洗濯機、エアコンの普及も進んでいる。特にエアコンは普及途上ではあるものの、タイ国内販売台数は10年以降ほぼ毎年100万台を超えており、市中で保有されるエアコン台数はますます増加している。一般に、こうした耐久消費財の普及拡大が見られる新興国では、それら機器の廃棄にまつわる課題が顕在化する。タイにおいても例外ではなく、廃棄される家電機器の発生量は増加の一途をたどる。行政側でも工業省を中心に回収率やリサイクル率の向上を目指す取り組みがなされており、日本の家電リサイクル法に相当する電気・電子機器廃棄物(WEEE)リサイクル制度の法制化も進んでいる。

 そうした中、議論がやや宙に浮いたままとなっている課題がある。冷蔵庫やエアコンに含まれる冷媒フロンの回収・破壊問題だ。タイでは、モントリオール議定書に基づき冷媒フロンの数量を、輸入、保管、使用の各段階で管理している。また、製造工程において工場で発生する処分対象フロンは、工場法に基づき管理される。その一方で、冷蔵庫やエアコンなどの使用済み家電機器に含まれる冷媒フロンは、有害物質として指定されてはいるものの、回収や破壊の段階での規制や法的要求事項はない。使用済み機器が建物から取り外された後に、インフォーマルなスクラップ業者等により有価部品が回収されるケースも多いが、冷媒フロンは取り外しの段階で大気中に放出されているのが現状だ。年間100万台単位で機器が廃棄されれば、そこに含まれる冷媒フロンは少なく見積もっても年間数百トンに達する。それらの適正な回収という課題もさることながら、最終的な破壊処理をどうすべきなのか、その対策も急がれる。

 タイでフロンを含む有害廃棄物を商業的に焼却できる施設はただ一つ、中部サムットプラカーン県に位置するバンプー工業団地内で操業している。同施設は、タイ工業省が建設した有害廃棄物焼却炉であり、タイにおいてはライセンス上唯一、外部から受け入れたフロンを破壊処理することが可能だ。しかしながら、そのフロン破壊容量は年間2~3トン程度と見られており、今後ますます増加するであろう要破壊フロンへの対応には不十分だ。そのほか、日系メーカーが保有する工場内での自社処理施設が存在するが、現状の許認可では工場外からのフロン受け入れはできない。同メーカーでは事業認可の申請を行っているものの、認可プロセスの変更もあって手続きは長期化している。

 他のASEAN主要国にも共通するが、タイにおいてもフロン回収・破壊のスキーム整備は立ち遅れている。タイの行政担当者からは、「日本に使用済みフロンを輸出して日本国内で破壊処理することは可能か」といった声もある。かつても同様の検討をした経緯があるようだが、バーゼル条約などのハードルも高く、政府間での合意実現に向けた動きを待たねばならない。一方で日本側からは技術を通じて現状打開に貢献しようとする動きが官民連携で始まっている。例えば、タイ国内で優良な稼働実績を有する非有害廃棄物処理施設に日本の技術を活用してフロン破壊の可能性を模索する取り組みが進展する。また、可搬式フロン破壊施設の導入に、タイ国内関係者の関心を喚起する試みもある。モントリオール議定書と京都議定書の狭間で扱いが曖昧になっていたフロン回収・破壊問題。その解決に向けた突破口を日本技術が開こうとしている。

タイにおけるエアコン販売台数と廃棄台数(予測)の推移

出典:Electrical and Electronics Institute, Thailand、日本冷凍空調工業会、および経済産業省調べよりNTTデータ経営研究所作成

タイにおけるエアコン販売台数と廃棄台数(予測)の推移



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