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(「月刊金融ジャーナル」2013年3月号より)

スマホバンキングの現状と将来

NTTデータ経営研究所
金融コンサルティング本部
マネージャー 堤 大輔
 

 

2007年にiPhoneが登場したことを契機として、グローバルレベルでスマートフォン(スマホ)の普及が急速に進んでいる。将来、インターネット利用のメイン媒体と見込まれているスマホを活用して金融機関がどのようなサービスを提供していくのか、重要な論点となっている。「利用目的に応じてブラウザやアプリケーションを活用すること」「セキュリティーを確保すること」が、スマホバンキング普及に向けたカギとなる。

急速に拡大するスマホ利用

米国調査会社IDCによると、スマホの年間世界出荷台数は、11年に約5億台(前年比61%増)となり、パソコンの出荷台数約3.5億台(前年比2%増)を上回った。グローバルレベルで見ると、ここ数年でインターネットアクセスの主役がパソコンからスマホへ急速にシフトしている傾向が読み取れる。

国内でも、10年時点でスマホ利用率はモバイル全体の9%であったが、11年に23%、直近では40%となっており、普及が加速している(12年インプレスR&D調べ)。このトレンドは今後更に拡大し、17年にはモバイル契約全体の約7割がスマホになると見込まれている(図表1)。

図表1:スマホ契約数の推移・予測(12年3月予測)
図表1:スマホ契約数の推移・予測(12年3月予測)
(出所:MM総研「スマートフォン市場規模の推移・予測(12年3月))

スマホ利用者の特徴

「インターネット白書2012」の年代別スマホ利用動向では、「既に利用している」「今後利用を検討している」の合計が、20~30歳代の男女、40歳代の男性で約6~7割に及んでいる。

利用者の用途に関する「スマホ白書2012」の調査結果では、モバイルとしての基本機能である通話・メールの割合が高く、「ウェブサイトの閲覧(68%)」「ダウンロードしたアプリの利用(48%)」がそれに続く。また、スマホ利用者の96%がアプリケーションのダウンロード経験があるとの調査結果もある(12年、リサーチバンク調べ)。

利用目的に応じたブラウザやアプリケーションの活用

(1)スマホバンキングの利用状況と今後の利用意向

図表2は、インターネットバンキングにアクセスする際に「現在どの媒体を利用しているか」「今後各々の媒体を利用する意向はあるか」を聞いた調査であるが、現時点ではパソコン58%、スマホ24%、携帯電話(フィーチャーフォン)16%とパソコン中心である一方、利用意向ではパソコンの比率がやや低下し、スマホが33%となっている。

スマホの普及が先行している米国では、利用者全体(約1.2億人)のうち、バンキング利用率は約6割(米国COMPETE社調べ)となっており、前述の利用意向も考え合わせると、今後、国内のスマホバンキング利用率は、一定程度拡大するポテンシャルを秘めている。

図表2:インターネットバンキング利用チャネル
図表2:インターネットバンキング利用チャネル
(出所:2012年NTTアド実施調査結果を基にNTTデータ経営研究所が作成)

(2)スマホを活用したサービスのあり方

スマホを活用して将来、金融機関が提供するサービスは大きく3つに分類して考える必要がある。第1は、これまでのパソコンや携帯電話でのインターネットバンキング利用を踏襲する「ブラウザベースでの金融サービス」、次にスマホでの利用率が高い「アプリケーションを利用した金融サービス」、最後に同じアプリケーションでも「金融以外の付加価値を提供するサービス」である(図表3)。

図表3:金融機関のスマホ向けサービス
図表3:金融機関のスマホ向けサービス
(出所:NTTデータ経営研究所が作成)

この3つのサービスは、インターネットで既に金融取引を利用している顧客層、現時点ではインターネットで金融取引を利用していない顧客層のそれぞれに対して効果を見込める(図表4)。

図表4:スマホ向けサービスの効果
図表4:スマホ向けサービスの効果
(出所:NTTデータ経営研究所が作成)

インターネットで既に金融取引を行っている顧客層に対しては、金融取引の操作性を高め、より使いやすいサービスを提供することで効果が発揮できると考えられる。「ブラウザベースでの金融サービス」では、これまでパソコンや携帯電話から利用していた取引をスマホに拡張することで、外出先でも比較的大きな画面で取引できるといった利便性を享受でき、「アプリケーションを利用した金融サービス」では、分かりやすいインタフェースによる取引のしやすさ、非接触IC等を活用した新たな金融機能の提供による、金融サービスそのもののレベル向上が見込まれる。

現時点ではインターネットで金融取引を利用していない顧客層に対しては、「アプリケーションを活用した金融以外の付加価値機能」が効果的である。GPS、モーションセンサー、AR(拡張現実)等スマホならではの機能と連携し、金融取引以外のアプリケーションを提供することで、顧客の興味を喚起、金融取引に誘導する効果が期待される。

(3)「ブラウザベースでの金融サービス」の現状

スマホによる「ブラウザベースでの金融サービス」は、10年後半~ 11年にかけて、都市銀行やインターネット専業銀行において提供が開始された。地方銀行では12年に取り組みが進み、信用金庫業界も13年に本格的な取り組みが予定されている。

サービス内容として、提供当初は残高照会・入出金明細照会・振込・振替等基本的な取引が多かったが、最近の傾向としては都市銀行やインターネット専業銀行において、前述の基本的な取引に加え、定期預金・外貨預金・投資信託・カードローン等パソコンによるインターネットバンキングに近い取引が可能となっている。

(4)「 アプリケーションを利用した金融サービス」の現状

アプリケーションを利用した金融サービスは、現在、都市銀行やインターネット専業銀行の一部で導入されているが、そのレベル感は、金融機関ごとのサービス提供ポリシーによって異なる。

都市銀行では、スマホでの金融サービスをブラウザ中心としたうえで、付加価値機能としてアプリケーションを提供する傾向があり、アプリケーションを利用した金融機能の提供は今のところ限定的である。

インターネット専業銀行では、金融機能の提供をブラウザに特化している銀行、アプリケーションに特化している銀行に二分されており、ポリシーの違いが明確に分かれる。アプリケーションに特化している銀行の一部は、既に定期預金・外貨預金・住宅ローン等の取引も可能としているが、スマホ利用者のほとんどはアプリケーションをダウンロードする可能性もあるため、将来的な金融取引端末のスタンダード化に向けて、その利用状況に注目が集まるところである。

海外に目を向けてみると、アプリケーションを利用した金融サービスは、多様な決済を実現する手段として位置付けられている。例えば、スマホに登録されている電話番号やメールアドレスを利用した個人間決済、搭載カメラを利用した電子的な小切手支払サービス等が既に提供されている。

また、非接触ICの国際標準規格「NFC(Near Field Communication)」の活用も進んでおり、最近ではクレジットカード会社、他社Wallet機能と連携した決済アプリケーションを金融機関が提供する例も見られる。

(5)「 アプリケーションを利用した金融以外の付加価値サービス」の現状

アプリケーションを利用した金融以外の付加価値サービスは、国内金融機関においても徐々に取り組みが進んでおり、店舗・ATMの検索機能、月間の個人収支管理機能、為替レート情報等が既に提供されている。海外金融機関の成功事例としては、スマホバンキングへの取り組みを09年より始めている韓国ハナ銀行がよく挙げられるが、10年に「位置基盤サービス」「クーポンサービス」「オンライン家計簿サービス」を提供した際、利用者が20倍となった実績があるようである。

今後、インターネットで金融取引を利用していない顧客層の取り込みという観点から、スマホ利用者の行動特性を精緻に把握した上で、訴求力のある付加価値サービスを展開することが重要となってくる。

セキュリティーの確保

(1)スマホバンキングのセキュリティー

スマホを活用したサービス検討に際して、現在最も注目されているのがセキュリティー性といっても差し支えない。スマホOSベンダー・通信事業者等においてセキュリティー性向上に向けた取り組みが進められているものの、脅威が時々刻々と形を変えて発生しているのが現状である。

ブラウザベースのサービスでは、スマホの画面ではURLがすべて表示されないため正規サイトに見えるような偽サイトにアクセスしてしまうフィッシング等が脅威となっている。アプリケーションを利用したサービスでは、偽アプリケーションが作られ易い点、悪意があるアプリケーション(マルウェア)を利用者が既にインストールしていたことによるID・パスワードの詐取等が想定される。

(2)今後のセキュリティー確保に向けて

スマホバンキングのサービス進展に向けては、金融機関は生体認証等を活用した複数要素での認証を導入する等の対策を継続的に実施することが求められる。加えて、利用者に対しては、マルウェアをインストールしないための意識付け、偽サイトや偽アプリケーションに関する注意喚起を徹底することが重要である。

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