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(「月刊金融ジャーナル」2012年1月号より)

大震災再び、その備えと想定外マニュアル

NTTデータ経営研究所
金融コンサルティング本部
シニアコンサルタント 堤 大輔
 

 

東日本大震災は、金融インフラが国民の重要なライフラインであること、並びに、金融機関が事業を継続することへの社会的要請の高さを改めて知らしめた。同様の震災が再び起きないとも限らず、その備えとして、金融機関は今後早急に業務継続体制を整備し、「バックアップ拠点」「バックアップシステム」「運用体制」といった観点で高度な実効性を確保した対策を講じていく必要がある。

実効性喪失の危険信号は出ていた。日本銀行「業務継続体制の整備状況に関するアンケート(2010年11月実施)」において、金融機関のおよそ9割が「全体的な業務継続体制を整備し、定期的に見直している」とした一方で、実効性について「業務継続体制の実効性が確保されている」とした金融機関は3割にとどまっていた。

図表1:東日本大震災で業務継続計画は機能したか
出典:NTTデータ経営研究所「東日本大震災を受けた企業の事業継続に係る意識調査(2011年7月実施)」

実際、11年7月に弊社が金融機関を含む企業向けに実施したアンケートにおいて、「東日本大震災で自社の業務継続計画に問題があった・機能しなかった」と回答した割合は、全体の約7割に上った。(図表1)

業務継続体制の実効性が損なわれた主な理由は大きく二つ、まず第一は、「地震に加えて発生した津波により、東日本管内全体の電力供給能力が損なわれたこと」、いま一つは「想定以上の災害発生によって、情報システム・運用体制双方の問題から業務復旧が思い通りに進まなかったこと」が挙げられる。

各々の理由を鑑みると、金融機関における今後の業務継続体制の実効性確保に向けては1. バックアップ拠点2. バックアップシステム3. 運用体制―― の3点がキーワードになると考えられる。

バックアップ拠点

東日本大震災では、東京電力管轄内が一斉に電力危機に陥った。このことによって、従前のバックアップ拠点の基準となっていた「距離」という条件が、それだけでは不十分であることが明らかになった。その意味では今後、バックアップ拠点設置に際しては、距離に加えて「異なる電力供給源を確保する」ことが最低条件になると考えられる。

では、バックアップ拠点を設置するに適した場所とは何処か。第一ステップとして、異なる電力会社の管内という見方、つまり東日本から見た西日本、西日本から見た東日本、という観点が挙げられる。ただし、この場合、東日本大震災後に発生した原発の定期検査に伴う稼働停止による全国的電力供給不足の状況には対応できない。

そこで、将来的な第二ステップとして、バックアップ拠点を海外に設置することが考えられる。韓国やシンガポールなどは、「地盤が日本と比べて強く、自然災害が起こる可能性が極めて低い」「安定した電力供給、高品質・大容量のネットワークなどインフラが充実している」「高度なIT人材が豊富」といった理由から、バックアップ拠点の有力な候補となり得る。

バックアップシステム

バックアップシステムの性能は、コストをかければいくらでも上げることが可能だが、当然、金融機関の投資には限度がある。自営、共同利用・相互利用のいずれを採用している金融機関も、重要業務の復旧目標時間と多くが定めている4時間以内を実現するため、費用対効果を鑑みて投資している状況である。リアルタイム性の高い業務継続を実現する要請が高まる中、バックアップシステムの品質とコストのバランス最適化は、今後、より一層金融機関の重要課題になると考えられる。

そのような課題解決にあたっては、新たな情報技術の採用の検討が求められる。例えば、クラウド化を採用することでコストを抑え、よりリアルタイムバックアップに近い品質を達成することも可能となる。

運用体制

業務継続に向けたバックアップ運用体制において実効性を維持するための最大のポイントは、「想定外をいかにして最小化するか」と考えられる。

実現に向けて特に重要と考えられるポイントとして、「リスクシナリオ」「運用訓練」を挙げたい。

リスクシナリオについては、東日本大震災での被災レベルとすることの妥当性、それ以上の潜在的リスクの有無を注意深く検討する必要がある。東日本大震災時、多くの企業は「阪神大震災レベル」をリスクシナリオとして設定し、結果として甚大な想定外を生むこととなった。

また、運用訓練の見直しも極めて重要性が高い。前述の日本銀行実施のアンケートにおいて、9割の金融機関がバックアップシステムへの「切り替え」訓練を実施している一方で、「切り戻し」については3割程度にとどまることなどから、運用訓練の網羅性には改善の余地が残っていると考えられる。

今後は、リスクシナリオに準じた訓練の範囲、訓練規模等についても、より一層の精度向上を持続的に進めることが求められよう。

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