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特集 地域金融機関のSNS活用のポイント

金融機関のSNS活用戦略

情報未来イノベーションセンター
エクゼクティブコンサルタント 山下 長幸

 近年「インスタ映え」「YouTuber(ユーチューバー)」などSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)にまつわる流行語をよく耳にするようになりました。前者は写真共有SNSの「Instagram(インスタグラム)」に写真等を投稿した際に写真の見栄えが良いという意味です。最近、店舗入口付近や企業本社の受付周辺などにインスタ映えするディスプレイやオブジェを設置する企業も出てきました。訪問者に「今日、ここに来たよ」とインスタグラムに写真を投稿してもらうためです。後者は動画共有SNSの「YouTube(ユーチューブ)」に独自製作の動画を投稿し、その再生による広告収入で生活する人物を指していて、日本の小学生の憧れの職業としてランクインし、世の中に驚きを与えました。従来、SNSはFacebookやTwitterなどのテキスト投稿メインのものが主流でしたが、近年は、写真や動画を共有するSNSも人気を博するようになっています。

 本稿では、このように社会に根付いてきたSNSを金融機関が顧客接点としてどのように効果的に利用すべきかを述べたいと思います。

SNSが社会に与えたインパクト

 SNSは、2002年サービス開始のFriendsterが2004年に登録ユーザーが数百万人規模となったことで、新しいネットコミュニティの形態として注目を集め、その後2004年から2006年にFacebook、Twitter、YouTubeなど現在の有力なプレーヤーが続々と市場参入しました。

 SNSで提供されている機能にはプロファイル機能(自己紹介、写真等)、日記機能(近況報告、共有機能)、メッセージ・チャット機能、コミュニティ機能などがあり、これらの機能により友人・知人間のコミュニケーションを円滑にしたり、趣味や嗜好、居住地域、出身校、「友人の友人」といったつながりを通じて新たな人間関係を構築したりすることを可能とします。このようにインターネットを通じたSNSは人と人のつながりを促進するコミュニティ型ウェブサービスです。

 SNSは社会におけるマスコミュニケーションのあり方を大きく変革したと筆者は考えています。これまでテレビや新聞など伝統的なマスコミュニケーション媒体では、主として著名な評論家、学識経験者、タレント、記者など一部の限られた人々が社会に情報発信することができました。これらは基本的に発信側からの片方向のコミュニケーションです。これに対してSNSの登場は、一般の人々が社会に情報発信することを可能にするだけでなく情報の受信側が返信することも可能という双方向のコミュニケーションを実現しました。このようなSNSの普及により、個人が様々な生活体験や思い(コンテンツ)を発信し、それらは人から人へ日常的に伝わり、シェアされるようにもなりました。共感を呼ぶコンテンツの拡散スピードは非常に速く、あっという間に社会に拡散し共有されることもあります。

 このようなSNSの利用拡大の状況は、2010年代のスマートフォンの普及によりさらに加速しました。人々は、通信機能がついた小さなコンピュータを常時携帯し、わずかな空き時間でも情報の受発信を日常的に行うようになりました。これにより、社会に流通する情報量は爆発的に増大しました。昨今、事件・事故現場に居合わせた人々がスマートフォンを使ってその場で動画を撮影し、さらにそれをSNSに投稿することで、その場にいない人々が生々しい現場の状況をリアルタイムに近い形でビジュアル的に情報を得る機会も多くなりました。今後、個別のSNSサービスの栄枯盛衰や送受信媒体機器の変化はあろうかと思いますが、社会のコミュニケーション形態に大きなパラダイムシフトをもたらしたSNSというスキーム自体は、存続し続けると筆者は考えています。

金融機関によるSNS活用戦略

 SNSの進化・普及は企業によるマーケティングにも大きな影響を与えてきました。人々のSNSを含めたインターネットに接する時間が大幅に増加し、テレビや新聞などのマスコミュニケーション媒体に接する時間は減少しました。さらに、各種の購買行動に関して、テレビや新聞などのマスコミュニケーション媒体の広告宣伝よりも、SNSなどインターネット上の口コミが重視されるようになりました。伝統的なマスコミュニケーション媒体による広告宣伝が急になくなるわけではなく、その重要性は依然として大きいですが、企業としてはマーケティング媒体として、SNSをどのように活用していくかが重要な経営課題になってきています。

 企業によるマーケティング媒体としてのSNSの重要な活用の仕方として「情報発信」「ソーシャルリスニング」「企業コミュニティ」の3つを取り上げたいと思います。

1 SNSによる情報発信

 どのようなコンテンツを投稿すると、「いいね!」され、「フォロー」され、「シェア」され、「コメント」されるのか、金融機関としては非常に悩ましい課題だと思います。前記のとおり、SNSは友人・知人間のコミュニケーションの場なので、金融機関としても広告宣伝色を前面に出すよりも、利用者との交流を意識したコンテンツを投稿すべきだと考えられます。投稿頻度もできれば1日1投稿程度が望ましく、ネタ切れにならないよう投稿内容パターンをいくつか準備し、本店だけなく、営業店担当者も含めて、投稿者を多様化する等の工夫が必要です。

⑴ 広報的なSNS投稿コンテンツ
 地域の祭りや植林活動への参加など社会貢献活動の広報は手堅いSNS投稿コンテンツとして多くの金融機関でも実施していますが、大きな反響を得ることは難しいのが実態です。また、金融商品拡販のためのキャンペーンコンテンツの投稿もよくあるパターンですが、これも内容的によほどのインパクトがない限り、十分な広告効果を得ることは難しいと思われます。それでは金融機関にとってどのようなSNS投稿コンテンツがふさわしいでしょうか。
 まずは「お金」にまつわるコンテンツが考えられます。そもそも、金融機関に対する一般的なイメージは「お金に関するプロ」です。イメージと実態とは少々かい離しているかもしれませんが、利用者としては金融機関への「お金」に関するうんちくについての期待は大きいと思います。具体的なコンテンツとしては、金融関連ニュースの解説、お金に関する教育、ライフステージに応じたお金の必要性、多様な決済手段、ローンの借り方・返済のコツなど多種多様なものが考えられます。個人向けだけでなく、キャッシュフロー経営、事業性融資獲得のコツなど企業向けのコンテンツも有効だと思います。最初にコンテンツを作成するところが少々面倒ですが、一度コンテンツを作成すれば、時間をおいてアップデートしての投稿も可能ですし、公式ウェブページにコンテンツをカテゴライズして情報をまとめて掲載するということも考えられます。このようにして、「お金」にまつわる良きアドバイザーとしてファン顧客を獲得することが可能となると考えられます。
 別の観点でのSNS投稿コンテンツとしては、自金融機関の顧客紹介が考えられます。融資先企業の歴史、こだわりなどを顧客企業役員と金融機関職員との対談などを実施する等によりコンテンツを作成します。顧客企業としては自社の宣伝になり、銀行としても顧客企業や地域支援・振興の一環になると思います。また、顧客紹介は企業だけでなく、個人単位で行うこともよいかもしれません。もちろん、ご本人の了解は必要ですが、趣味や地域活動でこだわりのある個人顧客の方々について、金融機関のSNSに投稿されれば、本人のみならず、周りにもプラスの影響を与えることが考えられ、一定程度の拡散効果があると思います。
 「顔が見える銀行」にしたいという目的のために、SNSを活用している金融機関もあります。これに関しては、それほど拡散されるわけでもないので賛否両論ありますが、筆者としてはお勧めのコンテンツの一つです。無機質な印象が強い金融機関としては、それを払しょくできるコンテンツだと思います。コツとしては、行員個人の趣味などの紹介というよりも、業務の苦労話などを交えて、さりげなく自金融機関の商品・サービスの宣伝を付け加えるとよいでしょう。閲覧しているほうからすると、人間味のある印象を与え、親近感がわき、ファン顧客を増やす要素の一つになると思われます。

⑵ SNSへの広告出稿
 SNSへの情報発信としては、自金融機関の公式SNSページへの投稿だけでなく、広告費を負担してSNSに広告出稿することも可能です。多くのSNSでは、ユーザー登録の際に、性別、年齢、居住地などの基本属性がインプットされているのに加えて、投稿情報や「いいね!」情報などから、そのユーザーの嗜好性を把握しているので、広告出稿の登録ユーザーターゲティングを細かく設定することが可能となっています。ただし、SNSは、本来、個人間のコミュニケーションの場なので、よほどインパクトのあるキャンペーン内容ならともかく、タイムライン上にあからさまな広告宣伝コンテンツが表示されても、なかなか大きな反応を得ることは難しいでしょう。お勧めの広告コンテンツとしては、前記の「お金にまつわるうんちく」などのSNS投稿コンテンツを広告コンテンツとして利用し、「いいね!」「フォロー」「シェア」「コメント」などのSNSユーザーによるポジティブな反応を増加させて、ファン顧客の増加にじっくり取り組むのがよいのではと考えています。

⑶ 自金融機関顧客とSNSを利用する顧客との突合を利用したSNS広告出稿
 自金融機関顧客とSNSを利用する顧客との突合を利用してSNSに広告出稿することも可能です。例えばFacebookの場合「カスタムオーディエンス」というサービス名で、自金融機関が保有している顧客データ(メールアドレス、電話番号、FacebookのユーザーID、モバイル広告ID)とFacebookのユーザーアカウント情報を突合し、その分析結果から広告を表示することができます。Facebookユーザーの中から自金融機関顧客をターゲティングから除外したり、自金融機関が保有するターゲット顧客層に関する分析データに基づき、Facebookによる類似拡張の機能を活用して、新規顧客獲得を目的に自金融機関顧客の「類似ユーザー」に広告を配信することができます。
 Twitterの場合、「自社で保有している顧客のメールアドレスや電話番号」と「ユーザーがTwitter上で使用しているメールアドレスや電話番号」が一致した顧客に向けてや、Twitterから提供された専用のタグを自社公式Webサイトのコードに設置し、自社Webサイトを訪問したことのあるユーザーを特定し、Twitter上でターゲティングを行ったり、スマホアプリにトラッキングコードを設定して、自社公式アプリを利用したことのあるユーザーを特定し、Twitter上でターゲティングを行ったりすることも可能です。
 このように自金融機関保有の顧客データとSNSの顧客データを統合させて、マーケティングを高度化することも検討することが考えられます。

2 ソーシャルリスニング

 ソーシャルリスニングとは、SNS投稿情報から登録ユーザーの生の声を収集・分析し、企業のマーケティングやリスク管理などに活用する手法です。この場合、分析対象となるSNSはTwitterが一番有力です。例えばFacebookの場合、投稿情報をつながっている友人限定としている登録ユーザーが多数を占めており、投稿情報を外部から閲覧することができないケースが多いようです。これに対してTwitterでは、世の中への情報発信を目的に使っている登録ユーザーが多く、多くの投稿が外部に公開されており、投稿内容を外部から把握することが容易となっています。Twitterでは、投稿情報を外部販売していますので、企業としては大量の投稿内容をじっくり分析することも可能です。

⑴ 風評監視
 当初、SNS上での自社の風評監視の目的でソーシャルリスニングを実施している企業がそれなりにあり、現在でもそのニーズは存在しています。SNS上での自社に関する炎上監視などに敏感な企業では、24時間365日、リアルタイムに風評監視するため、インターネット監視サービスを提供している企業に業務委託するケースもあります。そこまでやる必要がない企業の場合は、自社社員が1日1回、SNSを検索して風評などをモニタリングして定期的に役員会などに報告している企業もあります。
 監視対象としては、自社社員のパワハラ、セクハラなどを示唆するような投稿、自社社員の犯罪行為を示唆するような投稿や自社商品を利用した犯罪行為などのパターンが考えられます。筆者の分析経験では、大きな事件・事故の場合、投稿量が急激に増大しますが、3、4日くらいで激減するパターンも多く、炎上といっても熱せられやすく冷めやすいものであるともいえます。

⑵ アンケート調査に対するSNS利用者のニーズ把握のメリット
 顧客のニーズの把握などの目的であれば、ウェブアンケート調査を行うという手法が企業において用いられてきました。SNS投稿情報を活用した顧客のニーズ把握は、ウェブアンケート調査と比較して、いくつかのメリットがあります。一番大きなメリットとして、ウェブアンケート調査の場合、回答者が本音ではなく、アンケート調査主催者が答えて欲しい内容を忖度して回答してしまう可能性が存在しているのに対して、SNS投稿情報の場合、登録ユーザーの自然な気持ち・本音が把握しやすい点が挙げられます。筆者の調査経験において、これはアンケート調査ではなくコールセンターのケースでしたが、契約解約の申出があった顧客に対して解約理由をコールセンターのオペレーターが聞くことになっていて、それで把握された解約理由とSNS投稿情報から把握できた解約理由が大きくかい離していたケースがありました。解約を申し出る顧客からすれば解約理由をオペレーターから問われても、本音ではなく、その場しのぎの体裁のよい回答となっていたものと想定されます。実態を反映していない解約理由をベースにした解約防止策では、的を射ない不十分な施策になりかねず、SNS投稿情報分析の価値が大きく発揮できたケースでした。
 次に大きなメリットとしては、SNS投稿情報分析からは顧客ニーズ発見型の調査分析が可能となる点です。ウェブアンケート調査は、調査主催者が検証したい仮説があり、その仮説にそって設問が設計されるのが基本です。したがって、自由回答欄を設けてみても、基本的には設定された仮説以上の示唆を得ることは難しいものがあります。これに対してSNSでは、登録ユーザーの生の感情や行動が投稿されており、場合によっては、企業サイドとして思ってもみなかった事柄を把握することが可能です。例えばカードローンはどのような動機で顧客に利用されているのかに関して、金融機関としてはこれまでの経験則からそれなりに仮説があろうかと思いますが、SNS投稿情報で調査分析すると意外な動機が発見でき、それに基づいて新たなマーケティング施策を打つことも可能となるかもしれません。

⑶ SNSを活用した金融関連ニーズ把握
 前記のように、SNS投稿情報を活用した顧客ニーズ把握は、アンケート調査に対するメリットがありますが、金融機関関連では制約条件もあります。顧客ニーズといった場合、まずは、自金融機関の顧客が自金融機関の商品・サービス等に関してどのような投稿をしているかを把握したいところです。顧客数が千万人単位の大きな金融機関では自金融機関に関する投稿情報は非常に多くあり、分析レポートを作成するのに十分な量ですが、顧客数が少ない金融機関ですと、自金融機関に関する投稿が年間数十件などと非常に少なく、顧客ニーズの傾向を把握できない場合も多くあります。しかし、そのような場合でも、カードローン、住宅ローン、投資信託、インターネットバンキング、ATMといった一般的な金融商品をキーワードとすると非常に多くのSNS投稿情報が存在し、一般的な金融商品・サービスに関する顧客ニーズの把握は可能となります。

⑷ ソーシャルリスニング支援ツール
 前記のとおり、ソーシャルリスニングはマーケティングリサーチ等の目的に有効な手段ですが、その情報を活用するには、支援ツールの利用が必要になります。筆者はソーシャルリスニングに対して金鉱山から純金を抽出するような印象を持っています。金鉱山は1トンの金鉱脈の岩石から3グラムくらい金を抽出できると採算性が合うそうですが、Twitterから特定のキーワードで抽出された投稿情報からビジネス的に示唆が得られる投稿情報は、筆者の経験では、5~10%程度しかありません。例えば、キーワード検索で抽出された1万Tweetを分析したとして、9000から9500Tweetはビジネス的に意味がないため、人力でそれらをかき分けてビジネス的に示唆が得られる投稿情報を見つけ出すのは非常に労力がかかり、さらに100万Tweetなど分析対象投稿数が多くなればなるほどビジネス的な示唆を得るのが困難となります。現状、月に10数万円かかる形でTweet分析ツールがいくつか提供されていますが、基本的には一般的なインターネット検索サイトと同様で、ビジネス的に意味のあるTweetもそうでないTweetも混ざった状況で検索結果が抽出され、重要度判定アルゴリズムも不十分なケースが多く、非常に分析作業に時間が掛かります。弊社ではビジネス的に意味のあるTweetを抽出し分類するツールを構築しましたので、ご関心がありましたら、お問い合わせください。

3 企業コミュニティ

 企業コミュニティとは、企業が商品開発やサービス改善などのテーマを設定して、それに対して消費者の意見を求め、ディスカッションをしたり、する場を設定・運営する仕組みです。多くの登録ユーザー数を確保することは難しいですが、ディープなファン顧客醸成やファン顧客とのコミュニケーションに役立ち、そのようなファン顧客には強力なインフルエンサーとしての役割も期待できます。大手企業事例としては、無印良品の「IDEAPARK」、本田技研工業の「クルマ家族会議」、資生堂の「おめかし会議」、森永乳業の「Newの森」などがありますので、具体的な内容はアクセスしてご確認ください。金融機関の方々に企業コミュニティへの取組みをご紹介すると、自分達はメーカーでないので、モノ作りなどを対象にした顧客共創は難しいという意見をよくいただきます。たしかに金融商品の設計は専門的で、一般の生活者によるコメントは難しいかもしれません。しかし、ソニー損保の「コエキク改善レポート」のように顧客の意見から契約手続や顧客対応での改善を図ったり、海外の金融機関の例では、商品パンフレットの説明内容の改善を企業コミュニティで実施し、顧客共創を図ったりする例があります。金融機関における企業コミュニティのテーマ設定としては、営業店単位での地域コミュニティ、趣味などを切り口にした高齢者コミュニティ、顧客企業を対象とした顧客企業コミュニティなど様々な切り口でのコミュニティ設定が考えられます。企業コミュニティサイトの運営はかなり手間がかかりますが、金融機関においてもぜひ前向きに取り組んでいただきたいと思います。

デジタルイノベーション

 近年、FinTechベンチャービジネスによる新たな金融サービスの提供の動きに対応して、金融機関自身でもデジタルイノベーションを図る動きが活発化しています。海外の金融機関では、SNSへの投稿情報の内容や友達の状況などから個人の与信審査に活用する動きもあります。マーケティングに関しても、取引履歴やSNS情報のみならず、IoT情報、ウェアラブル機器からのバイタルデータなど様々なデジタルデータを統合化し、さらにリアルタイムでマーケティング内容や対象を制御する動きも出てきています。金融機関の方々におかれましても、SNSのみならず、人工知能、ブロックチェーン技術、オープンAPIなどデジタル技術を活用したデジタルイノベーションを実現して、業績向上を図っていただきたいと願っております。

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