「経済安全保障」に対する米中二カ国における認識と政策に関する調査レポート

第3回:米中経済・安全保障検討委員会と最新の年次報告書

NTTデータ経営研究所
社会システムデザインユニット・グローバルビジネス推進センター
シニアスペシャリスト 新開 伊知郎

エグゼクティブ・サマリー

  • 米中経済・安全保障検討委員会(USCC)は、米中間の通商および経済関係が国家安全保障に与える影響を監視・調査して議会に報告することをミッションとする米国議会の諮問機関である。
  • USCCの委員は12名で、米国議会上院・下院の民主党・共和党のトップが3名ずつ任命する。
  • USCCは年次報告書を議会に提出することが義務付けられており、最新の2020年年次報告書のポイントは以下のとおりである。
    • 中国は、中国が頂点に立つ新しいグローバル秩序を形成し、そこでは世界は中国の世界観を受け入れ、中国に市場や資本、資源、人材を提供するという構想を描いている。中国は中国中心の国際秩序を形成する手段として、アフリカへの関与を深め、また国連機関の主要なポストを獲得し、自己のプレゼンスを高めている。
    • 従来、中国は鉄、アルミ、運輸といったレガシー分野で経済的優位を確保しようとしてきたが、現在の中国の目標は、バイオ、半導体、AI、クリーンエネルギーといった最先端の産業を支配することである。産業政策の重点は変わっても、中国政府の戦略は重商主義的であり、国有企業を強力に補助したり、わずかな市場参入と引き換えに外国企業に技術移転を強要したり、不法な手段も使って知財やデータを入手したりするなど、強圧的な手段を用いることは変わっていない。
    • 批判を封じ、情報の流れを止める中国の措置は今年一段と激しくなった。COVID-19発生時のミスマネジメントや香港への直接的な専制支配の押し付け、南シナ海の軍事化など、中国は国際的な責務や公約を無視している。

1. はじめに

本レポートでは、米国議会の諮問機関である「米中経済・安全保障検討委員会(U.S.-China Economic and Security Review Commission, 以下、USCC)」および本委員会が公表した最新の年次報告書(2020年)について紹介する。

米国においては、議会と大統領は独立の機関であり、それぞれの権限に関する憲法の記述は極めて簡単であるが、相互に入り組んでいる。そのため「大統領は、議会からの支持または同意なしに、外交・防錆政策を成功裏に策定し遂行していくことができない」1ようになっている。

米中関係については、米中貿易は両国に経済メリットがありながらも、米国にとっては大幅な貿易赤字を生み出し、米国国内には米国から中国への雇用移転に対する有権者の不満の高まりがある。国外では、中国が増大した国力・軍事力を背景に、米国が築いてきたグローバルガバナンスに挑戦しようとしているような動きを見せている。さらには中国の共産党一党独裁という思想・統治体制と米国の自由民主主義の対立がある。そしてそれらは独立の事象ではなく、相互に絡み合っている。このような多面性を持つ米中関係のマネジメントには、国内の利害調整と支持が必要であり、これに関して議会の役割を無視することはできない。

現USCC委員長であるキャロリン・バーソロミュー氏はナンシー・ペロシ下院議長の元首席補佐官であり、ロビン・クリーブランド副委員長はミッチ・マッコネル上院共和党リーダーのスタッフを務めてきた人物である。USCCは、包括的に米中関係を調査、分析しており、提言を添えて毎年議会に報告している。USCCの提言がすべて実行されるわけではないが、議会の米中関係認識に影響を与える機関と考えられるため、USCCについてレポートする。

1吉原欽一「現代アメリカの政治権力構造」日本評論社、2000年、p177

2. 米中経済・安全保障検討委員会(USCC)について

米中経済・安全保障検討委員会(USCC)は、2000年10月、米中間の通商および経済関係が国家安全保障に与える影響を監視、調査して議会に報告することを目的に、議会によって設置された。

1 USCCの活動

USCCの最大のミッションは、毎年12月1日までに議会に対し、米中間の通商および経済関係が国家安全保障に与える影響に関する公開および非公開の報告書を提出することである。この報告書は、第三国を介した通商や移転も分析の対象とし、米中間の通商および経済関係が国家安全保障に与える影響の分析の他、財、サービス、資金取引および技術移転に関する中国との通商および収支バランスに対する立法的・行政的措置への提言が求められている。

委員会は職務を遂行するために、公聴会を開催することができ、また、国防省、中央情報局(CIA)など連邦省庁から、委員会が必要と考える情報を直接入手することができる。 ただし、委員会への情報提供は、CIA長官によって承認されたプロセスに従って、機密情報の入手元や入手方法、その他の非常に機密性の高い事項に関連する非公開情報の不正開示の防止を十分に考慮して行われることが定められている。

設置法によって年次報告書に求められている内容は具体的には以下のとおりである。

大量破壊兵器および他の兵器システム(軍民利用のシステムや技術を含む)の拡散における中国の役割、および米国が中国にこのような活動を止めさせるために取れるアクション
製造業や先端技術・知的財産およびR&D施設の移転など、中国への米国の生産活動の移転の量的・質的性格、それらの移転の米国の国家安全保障(米国の国防産業基盤の中国からの輸入への依存を含む)、経済安全保障、米国国内の雇用および中国に関連する輸出管理法の妥当性に与えるインパクト
中国のエネルギーや自然資源に対するニーズが中国の外交・軍事政策に与える影響、中国の巨大で成長を続ける経済が世界のエネルギーや自然資源の供給、価格および環境に与えるインパクト、中国のエネルギーおよび自然資源政策に影響を与えうる米国の役割(共同研究や技術支援を含む)
米国から中国への対外投資および中国から米国への対外投資の経済的および安全保障上の影響の評価、中国への米国の潜在的投資の市場アクセスに関する課題、中国国内の金融機関による海外活動
中国の軍事計画・戦略およびドクトリン、中国軍の構造と組織、中国軍の意思決定プロセス、中国における軍人・文民幹部間の交流、中国軍幹部の育成・昇進プロセス、中国軍の配備、中国軍が利用できるリソース(予算編成や執行、資金の分配を含む)、中国軍の戦力近代化の目的と傾向、この目的と傾向が米国の安全保障に与える影響
中国のサイバー能力と運用の戦略的な経済および安全保障上の影響
中国の国家予算、財政政策、金融政策、資本管理および通貨管理、その中国国内の安定性へのインパクトと米国への影響
中国と他国、他地域、国際・地域機関との経済的、技術的、政治的、文化的、人的および安全保障上の関係の推進要因、特徴、影響(米国、台湾、中国間の関係を含む)
WTOへのコミットメントや多国間コミットメント、米国との二国間協定、二国間科学技術プログラムに対するコミットメントやその他知的財産権や囚人労働輸入品などに関する米国との協定に対するコミットメントへの中国のコンプライアンス、およびこれらの協定に関連する米国の強制措置への中国のコンプライアンス
中国における言論の制限や情報アクセスへの制限が、経済および安全保障政策に関して米中関係に与える影響、中国によるメディア管理が米国の経済的利害に与える潜在的インパクト
中国からの食品、薬品およびその他の製品の安全性、製品の安全性を監視し確保するために中国政府および米国政府の措置、技術支援を含め、米国が中国製品の安全性を向上させるために取ることができる措置

さらに、以上の事項に関する調査分析の上、1994年のGATT21条(安全保障例外条項)の発動といった具体的提言を含め、米国の安全保障への悪影響に対して取るべき措置に関して、議会および/または大統領への提言が求められている。

2 USCCの委員

本委員会は、上院・下院の与党・野党のリーダーがそれぞれ3名任命し、計12名からなる2(現在、USCCのホームページには11名のみ掲載されており、1名欠員の模様)。委員は、経済、国際貿易、製造業、労働問題、環境問題、ビジネス、安全保障、米中関係などの専門性知識や経験を有する議会スタッフ幹部、業界団体幹部、労働組合幹部、シンクタンク研究員、実業家、弁護士など、多様な経歴をもったメンバーが集まっている。任期は原則1期2年で、毎年委員の半数が年末に任期満了を迎えるが再任が可能で、現委員長のキャロライン・バルトロミュー氏は過去4回レポートサイクル(4年)で委員長、9回レポートサイクルで副委員長を務めている。またマイケル・ウェッセル氏は本委員会設立時より委員を務めている。

委員会は政府機関より機密情報を入手する権限を有するので、委員は機密情報を扱う適正審査を受け、守秘義務の宣誓を行うことが定められている。

2具体的には、下院議長(下院多数党リーダーが務める)が、下院軍事委員会委員長および下院歳入委員会委員長(下院の委員会委員長は下院多数党から選出される)と協議の上、3名の委員を任命する。上院多数党院内総務が上院軍事委員会委員長および上院財務委員会委員長(下院同様、上院の委員会委員長は上院多数党から選出される)と協議の上、3名の委員を上院仮議長(上院第2位のポスト。慣例的に上院多数党最長老委員が選出される)に推薦し、上院仮議長が任命する。上院少数党リーダーが、上院軍事委員会の少数党筆頭委員および上院財務委員会少数党筆頭委員との協議の上、3名の委員を上院仮議長に推薦し、上院仮議長が任命する。下院少数党リーダーが、下院軍事委員会の少数党筆頭委員および下院歳入委員会少数党筆頭委員との協議の上、3名の委員を任命する。

3. 2020年年次報告書について

2020年12月1日に議会に提出された2020年年次報告書を作成するにあたり、米中経済・安全保障検討委員会は7回の公聴会を開催して政府機関、民間セクター、大学、シンクタンク、研究機関などの62人の専門家の証言を聞き、また行政府省およびインテリジェンス・コミュニティから公開・非公開情報を含むブリーフィングを受けている。公開版の報告書は575ページもある大冊のもので、別途、エグゼクティブ・サマリーと提言を切り出した別冊が発行されているが、これも2段組みで27ページもある。以下は、このエグゼクティブ・サマリーと提言を抄訳したものである。なお、委員会は本報告書で19の提言を行っているが、そのうち10点を特に重要なものと位置付けている。その10の提言には項番の前に☆をつけた。

第1章 米中グローバル競争

第1節 パワーと影響力をめぐるグローバル競争、米国との戦略的競争に対する中国の見方

  • 中国はパワーと影響力をめぐって米国とグローバル競争を行っている。中国共産党は、米国が支持する自由民主主義の価値観を対外的な野心に対する重大な障害であり、国内支配の根幹に関わる脅威とみなしている。
  • 中国は近代化の努力によって、かつてない経済的ライバルであり、米国とその同盟国およびパートナーに重大な危害を加える能力を持つ軍事的脅威となった。
  • 中国指導者は、中国と米国のパワーギャップが着実に縮まっていると認識しており、優勢なグローバルリーダーとしての米国に追いつき、最終的には追い越すという長年の野心に基づいて行動することへの自信を着実に高めている。
  • 中国政府が経済的、外交的、軍事的目標の達成に今後も成功を続けるならば、米国の経済的および技術的進歩を数十年後退させ、良好な雇用と繁栄に損害を与え、世界中の独裁者を大胆にし、将来、紛争が生じた際にはインド太平洋の米国の同盟国およびパートナーに対する米軍支援を妨害する可能性がある。

【提言】3

☆①米中関係に関するすべての法律の基礎として相互主義の原則を採用すること

☆②国務省に対し、国連およびその関連機関における国連の原則と目的に反するような中国の行動を詳述する年次報告書を作成するよう指示すること

☆③外国政府の補助金を監視し、合併事前届出プロセスにおいて考慮するよう連邦と取引委員会(FTC)の権限を拡張すること

☆④米国の経済的および安全保障上の利益に反する行動または人権侵害により中華人民共和国の団体(entity)を制裁する場合、親団体(parent entity)も制裁するよう行政府に指示すること

☆⑤外国政府が米国の戦略的競争相手と判断される場合、またはビザ申請者がスパイ行為、妨害行為または輸出管理に関する米国法に違反していた場合、当該外国政府の技術移転プログラムとの関連が、非移民ビザを拒否する理由になりうることを明確にするよう移民国籍法を改正すること

3提言欄の文章の主語は議会である。「議会は~すること」という文章の羅列の煩雑さを避けるため主語を省略した。

第2節 中国モデル:中華帝国の復興

  • 中国共産党は、中国の拡大する力を利用して国際秩序を変革し、最終的にはその権威主義的な一党統治モデルを正当化しようとしている。中国共産党は、グローバルガバナンスを再構築し、最終的に中国が現在のルールに基づく秩序に制約されずに行動できるようにすることを目標としている。これは、習総書記の政権以前からの目標であり、習政権以降も存続する可能性が高いため、米国の利益、国際制度の公平性、および世界中の自由民主主義に長期的な課題をもたらす。
  • 中国政府は、普遍的な価値観と個人の権利を全く受け入れない中国自身の原則に沿って、国際的なガバナンスシステムを作り替えようとしている。中国は、国連機関における指導的役割の活用や、一帯一路イニシアチブ(BRI)などの中国主導の取り組みを通じて、中国のリーダーシップの下で統合された経済的および地政学的秩序を生み出そうとしている。その中で、中国は支配的な国家部門と腐敗したビジネス環境に有利な、民間企業と法の支配を脅かすような経済モデルを発展途上国に対し輸出している。
  • グローバルガバナンスを形成し、卓越した強国になるという野心の一環として、中国共産党は最新技術の開発を支配し、これらの技術をその地政学的目標の達成に確実に貢献するような規範や価値観に従って利用しようとしている。中国政府は技術標準を産業政策と市場アクセスのツールにしているため、中国の野心は、米国の技術エコシステムの繁栄を可能にした有機的な産業主導のイノベーションを混乱させる恐れがある。さらに、情報通信技術に対する中国の影響力は、中国の監視とデータ収集をサポートし、また、他の権威主義体制国に自国民を抑圧したり情報の流れをコントロールしたりするツールを提供している。
  • 中国がその統治の考え方を一般化することに成功した場合、世界中の個人の権利を損なう恐れがある。国際秩序を変更するという中国の意図を過小評価すると、過去75年にわたって生活と自由のかつてない繁栄を可能にした自由な国際秩序を維持するのに手遅れになるリスクがある。

【提言】

☆⑥国際技術標準に関する米国政府の政策と優先順位を調整するための、商務省、国務省、国防省、エネルギー省、科学技術政策局、および国際技術標準に関連する管轄権を保有する他の省庁の高レベルの政治任命者で構成される省庁間執行委員会の設立を検討するための公聴会を開催すること。

第3節 アフリカにおける中国の戦略的目的

  • 過去20年間、中国はアフリカ諸国との長年の関係を再活性化し、アフリカ大陸をその野心の中心に位置づけて、世界の政治的および経済的リーダーになることを目指してきた。中国は、アフリカをその政治的および経済的モデルの輸出の試験場と見なしており、より多くのアフリカ諸国が中国の統治システムを模倣すれば、中国が大陸全体および世界全体で戦略目標を前進させることが容易になると考えている。
  • 経済は中国のアフリカ戦略の重要な柱であり、2009年には中国はアフリカの最大の貿易相手国として米国を上回り、今日、中国はアフリカ最大の二国間債権者である。 アフリカ経済における中国の存在感の高まりは、アフリカのインフラ整備を促進する可能性がある一方、中国政府の透明性、説明責任、および世界的な開発基準への準拠の欠如は、汚職や抑圧への支援などの懸念を引き起こしている。コバルトなどの主要なアフリカ商品の供給に対する中国の規制の強化は、最新技術に必要な物資への米国のアクセスを脅かす恐れがある。さらに、中国のインフラ融資には、多くの場合、中国企業がプロジェクトを完了する条件がついており、多くのアフリカ諸国で非中国企業のビジネスチャンスを奪っている。
  • 中国の融資はまた、一部のアフリカ諸国で持続不可能な債務負担を生み出すリスクがあり、中国政府の強制に対して脆弱になる恐れがある。一方、米国と他の責任ある貸し手は、債務救済の取り組みにおいて莫大な負担を背負い、結果的に中国の無責任な融資活動を救済する可能性がある。中国はアフリカの新興デジタル経済にも注力し、アフリカに新たな技術標準を設定しようとしている。
  • 中国は大陸での目に見える軍事的プレゼンスを最小限に抑えているが、アフリカ諸国との安全保障上の関与に多面的なアプローチを採用しており、政治的、経済的、軍事的利益を保護している。中国は投資の保護を、主に民間軍事請負業者とアフリカのパートナーに依存している。アフリカでの経済目標を前進させるために国連の平和維持活動システムへの影響力を活用する意欲を示している。民間の港への多額の投資は、将来、デュアルユース(軍民両用技術)の取り決めまたはジブチに続く軍事基地の設立4につながる可能性がある。中国が大陸とその周辺で軍事的プレゼンスをさらに拡大すれば、中国人民解放軍は、東アジアで将来の紛争が発生した場合、インド洋西部、さらには大西洋南部での米海軍の移動を妨げる恐れがある。

【提言】

⑦米国通商代表部に、アフリカ成長機会法(AGOA)の対象国が本来の目的のとおり原産地規則の恩恵を享受し、中国が米国の通商政策を回避するためにこれを利用していないことを確保するため、中国によるAGOA対象国のための原産地規則の利用に関する報告書を180日以内に作成することを要求すること

4(参考)【アフリカウオッチ】やはり始まった軍事拠点化 中国 唯一の海外軍事基地ジブチ、産経新聞(オンライン)、2021年5月27日、
https://www.sankei.com/article/20210527-MAYLOTJQBVKELELY6KQGVRP2TQ/

第2章 米中経済・通商関係

第1節 1年の振り返り

  • 中国共産党によるCOVID-19発生のミスマネジメントと隠蔽は、パンデミックを悪化させ、2020年の世界経済に大きな打撃を与えた。中国自身の経済は早期に回復しているように見えるが、2020年は年初より不安定な経済状況にある。経済ショックと不均一な回復が不平等を深め、資源と信用の非効率的な配分を永続させた。成長を復活させるために、政府は産業部門への国家主導の投資といういつもの戦略を発動したが、社会的セーフティネットをほとんど強化しなかったため、需要の回復はなく供給のみが増加した。これが継続すると、中国の過剰生産により世界的に物価が下落し、中国国外の労働者や企業が傷つく恐れがある。
  • 2020年1月、米国と中国の政府はフェーズ1協定に署名した。これにより米国のさまざまな利益に対するコミットメントが保証された。この協定は多くの利害関係者に歓迎されたが、中国の経済政策によってもたらされた長年の構造的歪みには対処できていない。また、一部の外国金融サービスの市場アクセスを拡大するという中国のコミットメントは、米国企業にビジネスチャンスをもたらす可能性があるが、一方で不公正な競争や中国金融機関の改革の遅れにより、米国の金融機関や投資家を大きなリスクにさらす恐れもある。
  • 2020年も米中の二国間緊張は深まった。一連の一方的な措置において、米国の政策立案者は国家安全保障上の脅威をもたらす中国企業への米国の先進技術の流れを止めるように動き、中国の政策立案者はさまざまな報復措置を検討している。中国からの米国の輸入が減少するにつれ、米国の多国籍企業は、不確実性と政治的リスクに晒されるサプライチェーンを最適に構築するにはどうすればよいか、検討を始めている。

第2節 中国の金融システムの脆弱性と米国にとってのリスク

  • 2020年、中国政府はCOVID-19によるパンデミックのショックを吸収するために国の金融システムを動員した。中国経済の急速な回復は、この経済活動の管理における国家の役割を強化し、過去に信用の誤配分や膨大な債務を生み出したのと同様の政策によるものである。
  • 中国政府は、この政府支援の暗黙の保証を止め、中国の金融システムのリスクを和らげる試みを開始した。このための手段の一つとして外資に着目している。近年の中国政府の金融開放は、外国投資の流入を確保し、それを利用して国内経済を強化し、企業を強化するという戦略を反映している。この開放が続くにつれ、外国人投資家は、中国金融システムにおける独特のリスクにさらされる恐れが高まる。特に懸念されるのは、世界の投資指数に中国の証券が含まれるようになったことである。これにより、透明性、リスクに対する適切な価格設定、および規制の監視を欠いた金融システムに向けて数千億ドルの投資を注ぎ込まれ、また、米国の国家安全保障や外交政策の目的に反する事業を行っている企業に資金が提供される。中国金融システムのリスクへの米国のエクスポージャー(特定のリスクにさらされている資産の割合)が高まるにつれ、米中の金融統合を深めることが望ましいかどうかに関する問題が明確になりつつある。

【提言】

☆⑧商務省の経済分析局に、中国金融市場の動向および中国金融システムにおけるリスクと脆弱性への米国のエクスポージャーに関する公式・非公式の中国経済データを収集・生成する中国経済データ調整センターを設立する法律を制定すること。

⑨行政府に対し、中国で活動している米国の多国籍企業の関連会社の研究開発活動と、当活動が米国の生産、雇用、経済に与える影響に関する報告書の作成を要請すること

第3節 ヘルスケアとバイオテクノロジーにおける米中関係

  • 中国政府は、医療制度の改善のために特にバイオテクノロジー、デジタルヘルス、精密医療などの高成長セクターを優先している。
  • 中国政府は、医療セクターへの外国人の参加を公式に奨励しているにもかかわらず、医療データの収集と共有に関して外国企業を不利な立場に置き続けている。中国の米国の医療データの収集は、米国企業への投資や学術研究パートナーシップなどの合法的チャネルおよび米国の医療提供者や企業に対する国が後援するハッキングなどの違法な方法を通じて行われている。中国の米国の医療データの収集は、米国市民のプライバシーに関する懸念を引き起こしている。また中国の非相互的なヘルスデータの収集は、「バイオ革命」が経済と安全保障にますます重要な影響を与えるようになった現在において、医学とバイオテクノロジーにおける米国のリーダーシップを損なう恐れがある。
  • 中国政府は最先端のバイオテクノロジー開発を積極的に支援する一方、公衆衛生システムにはあまり注意を払っておらず、感染症の蔓延を食い止める国の能力を弱めた。さらに、ますます抑圧的な政治的雰囲気がCOVID-19発生の初期段階での重要な情報共有を妨げた。中国政府が外国政府や国際機関との協力や情報共有を望まなかったため、当初は局地的な発生であったものを封じ込める取り組みが妨げられた。 COVID-19パンデミックによる広範囲にわたる人命の喪失と経済的荒廃は、中国の疫学的準備の欠点を明らかにし、中国共産党の政策優先事項が世界にどのような影響を及ぼすかを示した。

【提言】

⑩遺伝子検査サービスおよび健康診断サービスに(1)調査目的で集計した個人データを他者に提供、販売、リース、または貸与する際には顧客からの明示的な同意を得ること、(2)親会社または子会社の関係を顧客に開示することを要求する法律を制定すること

⑪バイオテクノロジーにフォーカスした新しい国立研究所を設立するか、既存国立研究所のどれかをバイオテクノロジーにフォーカスさせること

☆⑫アメリカ国民に救命および生命維持のために不可欠な医薬品や医療機器が安全かつ確実に供給されること、およびそれらの物資が国内または必要な場合には、信用できる同盟国より入手できることを確保するために、「マンハッタン計画」のような技術者・科学者を総動員する国家プロジェクトを立ち上げることを検討すること。当委員会は2019年年次報告書において、議会は米国の生産施設または米国の基準に準拠していると認定された施設からのみ医薬品を調達することを米国政府に要求する法律の制定を目的に、公聴会を開催することという提言を行ったが、このプロジェクトはこの提言を補足するものである。

第3章 米中安全保障、政治、外交

第1節 1年の振り返り

  • 中国政府は、COVID-19の発生と蔓延の責任を認めることを拒否し、批判する者を激しく非難し、パンデミックの荒廃から世界を導くのに最も適した国として自国をアピールする外交キャンペーンを開始した。世界の注目がパンデミックに集中したため、中国はその行動に批判的な国々に経済的圧力を課し、近隣諸国には軍事的圧力を強めた。6月に中国政府が香港に厳格な国家安全維持法を課したことは、中国の指導者たちが国際的な公約と香港の民主化運動の願望を無視していることを示し、世界中に衝撃を与えた。
  • 中国指導層は、中国共産党創立100周年など一連の重要な政治的、経済的、軍事的節目を準備するにあたり、深刻な国内外の課題とパンデミックの影響に直面している。
  • 海外での批判の高まりと国内でのCOVID-19による影響に直面して、中国の指導者たちはイデオロギーの統制と抑圧を強化した。教育省は、大学のカリキュラムが中国のイデオロギーに適合することを要求する新しいガイドラインを発行した。中国のウイグル人、チベット人、モンゴル人の少数民族の文化的荒廃や迫害に関する状況が明らかになりつつあり、ウイグル人に対する中国共産党の行動はジェノサイドの法的定義に適合していると主張する専門家もいる。また、中国共産党は、習総書記の下で、米国との緊張を高め、米国との関係をこれまで以上に対立的なものした。

第2節 中国の戦力投射能力と遠征能力の拡大

  • 中国は過去20年間に軍事戦略、装備、世界的な配備態勢を発展させ、今では沿岸からより遠くに戦力を投影できるようになっており、中国の指導者は今世紀半ばまでに世界のどこででも限定戦争を戦うことができるようになることを目指していると権威ある専門家は示唆している。
  • 人民解放軍は、①水陸両用攻撃、②海軍の戦力投射、③空軍の戦力投射と輸送、④長距離射撃、⑤グローバルロジスティクス、⑥グローバルな指揮統制の6つの作戦領域における弱点の是正に重点を置いている。人民解放軍の能力構築努力の2つの注目すべき側面は、戦力投射のためのサイバー技術と宇宙技術の活用と、グローバルロジスティクスと戦力維持のための民間組織の活用である。
  • 人民解放軍の戦力投射能力は、すでに東アジアの米国の安全保障アーキテクチャに重大な影響を及ぼしており、最終的には世界各地の米国の利益を守る能力に影響を与える恐れがある。

第4章 台湾

  • 2020年は、両岸関係と米国の台湾との関係にとって極めて重要な年だった。中国が香港に国家安全維持法を課し、台湾周辺で軍事作戦を強化していることは、中国の指導者が、既存の公約やその違反によって生じる評判の悪化を考慮することなく、政治目標を追求しようとしていることを表している。蔡英文大統領の台湾での再選と香港での民主化運動への国民の支持は、中国の圧力の高まりに直面しても自由を維持するという台湾の決意を示した。台湾政府はまた、貿易と防衛に関する米国の長年の懸案事項に取り組んで(中国本土に対する経済依存の低下、台湾企業や多国籍企業への投資インセンティブなどによるサプライチェーンでのポジションの強化、米国産食肉の輸入制限の解除など)米国に接近し、中国の好戦的姿勢に対応した。
  • 米国政府が、両岸関係を不安定にする中国の行動に今後数年間どう対処するかは、台湾の人々、この地域における米国の利益、そして世界における米国の立場に広範囲な影響をもたらすであろう。

【提言】

☆⑬米国在台湾協会の所長を米国上院の助言と同意のもとに大統領が指名するための法律の制定を検討すること

⑭米国がメンバーであるあらゆる国際機関において、当該機関の言語、方針、または手順を歪曲することによって台湾の地位を変更しようとする中国の試みに反対できるよう台湾関係法を改正すること

⑮テクノロジー分野を嚆矢として、ユニークな互恵関係がある主要分野での台湾との経済関係を強化する機会を評価すること

⑯サプライチェーンにおける協力と確保に向けた多国間の取り組みに台湾を含めることを行政府に奨励すること。 これは、「グローバル協力訓練枠組み」5のプログラムの拡大、または志を同じくする民主主義国との新しい多国間協定を通じて実施することが可能である。この多国間関与は、情報通信技術、集積回路、電子部品など、経済競争力と国家安全保障にとって重要な戦略的産業にとって不可欠な投入物の確保とサプライチェーンの強靭性の確保に焦点を当てるものである

52015年に米台間で立ち上げられた人材育成プログラム。公衆衛生や環境問題など地域の共通課題となっている分野について,台湾外交部と米国在台協会などがワークショップを主催し,東南アジアや大洋州諸国を中心に各国から同分野の担当官や専門家を招き,交流を深めるという取り組み。日本台湾交流協会も2019年よりワークショップを共催するなどして協力している。参考:日本台湾交流協会、https://www.koryu.or.jp/business/gctf/

第5章 香港

  • 中国政府は、北京で可決された国家安全維持法の施行により、香港の750万人の居住者を完全かつ直接的な権威主義的支配下に置いた。香港の地位の劇的な変化は、中国共産党が香港の人々に対する国際的な公約と義務を全く無視していることを示している。台湾にとって、香港のケースは、「一国二制度」の下での統一は実行可能な選択肢であるという中国共産党の約束は、空約束であることを意味する。
  • 現在、香港にある米国の多国籍企業とその従業員は、今までと全く異なる政治的および個人的リスクを評価するという困難な課題に直面しており、国家安全維持法の施行と米国政府の対応を注視している。
  • 米国政府は、米国法で香港に付与された特別な地位を取り消すプロセスを開始した。

【提言】

☆⑰行政府に対し、政治的迫害を恐れて香港を出ようとする香港居住者が米国ビザを取得する際の障壁を明らかにし除去することを指示すること

⑱現在、香港特別行政区旅券以外に身分証明書を申請することのできない1997年6月30日以降に生まれた香港居住者に政治亡命を拡大する立法を検討すること

⑲米国通商代表部に対し、中国本土が香港を利用して第301条の貿易執行措置または他の米国の貿易救済措置を回避するリスクを評価する報告書を90日以内に作成することを指示すること

4. 終わりに

筆者が2016年6月にワシントンにあるシンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)に客員研究員として赴任した頃、中国からのサイバー攻撃や2015年に発表された「中国製造2025」、中国の南シナ海における人工島建設など、中国の脅威をテーマとするセミナーが様々なシンクタンクで開催され、米国の中国を見る目の厳しさを肌身で感じた。2016年の米国大統領選へのロシアのサイバー攻撃による介入が明らかになってからしばらくの間、米国の関心は中国からロシアに移ったような感があったが、トランプ大統領が中国に対する対立姿勢を明確に示し、ロシアに対しては、例えば米国大統領選へのサイバー攻撃による介入にあまり関心を示さなかった(むしろ、ロシアを弁護していた)など親ロシア的な言動があったことから、トランプ政権の政策に呼応する形で中国脅威に関する議論、トランプ政権に注意を喚起するためのロシア脅威に関する議論の両方がワシントンで盛んに展開された。バイデン政権が2021年3月に発表した「暫定国家安全保障戦略指針」でも国家的な脅威としては中国とロシアの2カ国が名指しされている。しかしその扱いから見て、米国は中国を最も警戒すべき競争国と位置づけていると考えてよい。

中国を安全保障上の脅威として警戒心を高めた時期については様々な見解があると思われるが、2010 年7月にクリントン国務長官(当時)がASEAN地域フォーラム(ARF)において、「米国が南シナ海における航行の自由、アジアにおける国際公共財としての海洋への自由なアクセスの確保、同地域における国際法の順守を求めていく姿勢を明確に示した」6のは一つのメルクマールであろう。本論で紹介したように、米中経済・安全保障検討委員会が設立されたのはその10年前の2000年である。翌2001年に中国はWTOに加盟し、中国経済は順調に成長を続け、米国の対中国貿易赤字は急速に拡大していく。経済成長とともに、国防費も毎年大幅に増加し、軍の近代化が進められる。そのスタートの時期にあたる。G.W.ブッシュ政権(2001~2009)で影響力を発揮することになるいわゆる「ネオコン」(新保守主義者、ネオコンザバティブ)は、当時、中国の脅威を喧伝しており、もし9.11がなかったら、ネオコンの標的はイラクではなく、中国のままであっただろうと言われている7。中国の脅威が顕在化し、中国に対し強硬な姿勢で臨むことが超党派に支持されるようになったのは、ここ10年くらいではないかと思われるが、そのかなり以前から専門機関を設置して中国の安全保障上の脅威について調査分析を続けてきたことに覇権国の戦略性、警戒心、周到さを感じた。

6防衛省防衛研究所編『東アジア戦略概観 2012』、2012 年3月、p209
7吉原欽一「アメリカ人の政治」PHP新書、2008年、p157

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