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Insight
経営研レポート

シリーズ連載 
Withコロナ/ニューノーマル時代の観光地のデジタル化・観光DX
第1回:観光におけるパラダイムシフトとは?

2021.02.25
情報戦略事業本部ビジネストランスフォーメーションユニット
スポーツ&クロスクリエイショングループ
マネージャー 松川 勇樹
コンサルタント 梶原 侑馬
コンサルタント 幸坂 央
コンサルタント 荏原 圭
(監修 同 アソシエイト・パートナー 河本 敏夫)
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1.はじめに

2019年に発生した新型コロナウィルス感染症(COVID-19、以降「コロナ渦」と略す)は、観光産業に大きな影響を及ぼしている。近年、インバウンドの増加により観光産業の市場規模は急成長していたものの、現在では感染拡大抑制のための入国制限などにより、インバウンド需要は全く期待できなくなっており、その回復の見通しも未だ立っていない。また、国内客については、一部マイクロツーリズム注1の好況の恩恵を受けている地域はあるものの、多くの観光地において従来の客足が遠のき、多くの観光事業者の事業継続に困難が生じている状況である。

一方、コロナ渦は我々の社会生活にマイナスの影響だけでなく、プラスの影響をもたらしているとも言える。近年、テクノロジーの進歩とともに進んできた社会のデジタル化について、コロナ渦が契機となり、急速に導入が進み、従来から起こりつつあった様々なパラダイムシフトがすさまじいスピードで起こっている。

そこで、そのようなパラダイムシフトや社会のデジタル化について、観光分野に特化したトレンドを把握し、観光地のデジタル化の理想像、あるべき姿を考察することで、今後の観光産業の支援に役立てるべく、本シリーズを取りまとめることとする。

注1:マイクロツーリズムとは、自宅から1~2時間以内の地元や近隣への旅行のこと

2.本シリーズの概要

本シリーズでは前述の目的のため、以下のとおり3回に渡る連載を予定している。また、本シリーズの考察を深めるために、不定期ではあるが観光地・プレーヤへのヒアリングを行い、関連する記事として取りまとめることとする。

図1 本シリーズの概要

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3.コロナ渦がもたらした観光におけるパラダイムシフトとは?

コロナ渦の影響により半ば強制的に進んだ社会のパラダイムシフトは、観光においても大きな変化をもたらしつつある。図2に現在起こりつつある観光における主要なパラダイムシフトを整理した。これらは、必ずしもコロナ渦の発生後に初めて起こったものではなく、もともと緩やかに起こっていた変化が今回加速したものである。

図2 コロナ渦がもたらした観光における主要なパラダイムシフト

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①直接的なパラダイムシフト

まず、コロナ渦の直接的な影響として、①-1~①-4の4つのパラダイムシフトが起こっている。

<①-1.“非日常”としての観光→観光の“日常化”(ワーケーションなど)>

従来、観光は特別な社会活動で、事前に計画や予約をして旅行することが一般的であった。しかし、コロナ渦の影響で先の見通しが立ちづらくなり、気軽に日常の延長で空いた週末に旅行したり、平日に仕事の予定を調整して旅行したりする行動がマス化・一般化していくと考えられる。今後、観光地の環境整備や企業の規則整備などが進めば、ワーケーションもより一般化していくと考えられる。

<①-2.遠方への旅行/団体旅行→マイクロツーリズム/少人数での旅行>

コロナ渦においては、従来行われていた遠方への旅行や大勢の人数が参加する団体旅行の催行数が減り、県内などの近場への旅行(=マイクロツーリズム)や、密にならない少人数での旅行の催行数が増えることが見込まれる。

<①-3.“量”の観光→“質”の観光>

近年、世界の主要観光地で起こっていたオーバーツーリズム(観光公害)の問題への対応として、観光客の数にこだわるのではなく、観光客数をコントロールしてでも、観光体験の質向上を目指すトレンドが生まれていた。国内でも京都、鎌倉、ニセコなどにおいて発生がみられたものの、多くの観光地において影響が少なかった。しかし、今後はオーバーツーリズムへの対処としてだけでなく、限られた観光体験の質向上を重視する方向へトレンドが変化するだろう。

<①-4.対面/接触/リアルな交流→非対面/非接触/オンライン上の交流>

従来、観光の醍醐味は観光地の現地でみて、触って、体験・交流してということであったが、コロナ渦においてソーシャルディスタンスの確保が必要となり、今後は同様の楽しみを、リモートでも接触せずにオンライン上でいかに味わえるかが重要になると考えられる。

②上記に伴うパラダイムシフト

次に、上記の変化の中、観光におけるカスタマージャーニーは図3のように変化していく。

図3 カスタマージャーニーの変化

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日常化する観光において、生活者起点で質の高い観光を地域として実現する方向性に変化が生じている。それにより、次の②-1~②-4のパラダイムシフトが起こりつつある。今後、観光地はその変化に対応したデジタル化を進めていくことが肝要である。

<②-1.観光“客”(お客様)→関係人口(創り手、担い手、ステークホルダ)>

従来は、観光地においてはゲスト(=観光客)とホスト(=観光事業者&自治体)が明確であった。しかし、今後は、より観光客が地域に関わり関係人口化し、住民とともに観光地を支える存在(≒ホスト)として活躍する関係にシフトしていくことが考えられる。コロナ渦で注目が集まる“二地域居住”(移住・定住せず、従来の住居のまま、別の地域に滞在すること)が進めば、さらに関係人口が果たす役割が増すと考えられる。

<②-2.プロダクトアウト(事業者・自治体)→マーケットイン(住民・関係人口・観光客)>

従来から商品・サービス開発の重要な視点としてマーケットインは言われているが、コロナ渦においては、観光の“日常化”や関係人口化が進むことが想定され、事業者や自治体だけでなく、生活者(住民・関係人口・観光客)から新たな観光資源や商品・サービスが生まれることが期待される。観光地や観光資源の情報発信・PRも、口コミやSNSにより生活者からの発信が今後ますます重要となるだろう。

<②-3.観光業→観光業&非観光業(地域プレーヤの参加)>

従来、非日常としての観光行動を支えているのは旅行代理店をはじめとする観光業の事業者であったが、観光の日常化に伴い、今後は、観光以外の分野のプレーヤが新たな観光資源の担い手となったり(例えば、農家が観光農園として活躍)受入を担う存在となったり(例えば、地域を良く知る住民がボランティアガイドとして活躍)することが期待される。

<②-4.個々の主体→地域連携(DMO・DMC注2など)>

近年、すでに「日本版DMO」の整備が国を挙げて進められ、観光地域における連携の重要性は叫ばれていたが、コロナ渦においては、ますます地域における連携の重要性が増すだろう。従来は観光業でなかった事業者や観光に関わってこなかった住民等が、ホストとして地域の観光に関わってくるものの、個々の主体での単独の取り組みでは限界があり、地域でいかに連携していくかが重要となる。

注2:DMOは「Destination Management/Marketing Organization」の略称であり、観光地域づくりを持続的戦略的に推進する経営管理体制・機能のこと(特定の事業者・組織ではなく、体制・仕組み)。DMCは「Destination Management Company/Center」の略称であり、DMOを牽引する専門性の高い組織のこと(特定の事業者・組織)

4.次回に向けて

今回は、Withコロナ/ニューノーマル時代の観光地のデジタル化を考える最初のステップとして、観光におけるパラダイムシフトについて取りまとめた。

次回の第2回では、そのようなパラダイムシフトの中で、実際にどのような観光DXの種類があり、どのようなものがトレンドとなっているのかについて、一部事例を交えつつ動向を取りまとめる。

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