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Insight
経営研レポート

インタビュー
Withコロナ/ニューノーマル時代における観光教育の現状とは?

2021.03.10
情報戦略事業本部ビジネストランスフォーメーションユニット
スポーツ&クロスクリエイショングループ
マネージャー 松川 勇樹
コンサルタント 荏原 圭
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観光教育とは

 観光教育とは、観光分野における人材育成を目的とした教育、あるいは観光を題材(手段)とした様々な学習効果の実現を目指す教育を指す。従来、職業教育として専門学校や高校の専門学科で観光ビジネスに関する教育が行われていた。しかし、国内で観光が重要産業に位置付けられる中、2018年から観光庁を筆頭に、図1のように初等中等教育における観光教育の普及が進められているところである(参考:「観光教育の普及に向けて」(観光庁)https://www.mlit.go.jp/kankocho/shisaku/sangyou/kyoiku_juujitsu.html)。

 そこでは、直接的に観光分野への就業を目指す教育だけでなく、観光を題材とし教科横断的に、学校外の人材も活用した地域としての教育の実現などを目指すとされている。これらは、学習指導要領の昨今の改訂のポイントに合致した、先進的な教育の一つとしての観光教育の実践が図られているといえる。

 本インタビューは、そのような注目の教育テーマである「観光教育」を取り上げ、新型コロナウィルス(以降、「コロナ渦」と略す)の影響を受ける中での現状や課題などについて、京都文教大学総合社会学部総合社会学科の澤達大准教授に伺った。

図1 観光庁における観光教育の取り組み

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(出典)「初等中等教育における観光教育の推進に関する協議会 第1回会議資料」(観光庁)

インタビュー概要

  • 日時:2021年2月10日(水)
  • 実施方法:オンライン(Zoom)
  • 話し手:京都文教大学 総合社会学部 総合社会学科 澤達大 准教授
  • 聞き手:NTTデータ経営研究所 松川、荏原

図2 当日のインタビューの様子

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澤先生のご経歴をおしえてください。

 元々は神奈川県の私立中学校・高等学校で20年ほど教員として勤めていました。現在は京都文教大学で観光教育、防災教育、高校卒業から大学入学までの初年次教育にも取り組んでいます。専門は社会科の中でも地理教育です。

 京都文教大学の総合社会学部では、学部名のとおり、教育だけでなく幅広い分野を学ぶことができます。この数年は和歌山県・湯浅町で「まち・ひと・しごと創生委員会」の取り組みにも協力しています。湯浅町で学生と一緒に街の将来像について考え、フィールドワークに出かけるということに取り組んでいます。

コロナ禍における「観光教育」の現状をお教えください。

コロナ渦の影響で観光教育の取り組みに遅れ

 今年は色々なことができず、観光教育の取り組みが遅れました。コロナ禍でオンライン授業となり、多くの大学でフィールドワークが中止されていた状況でした。本学でも観光教育に必要なフィールドワークがほとんどできませんでしたが、日帰りで定員を削減し、開催日程を増やすことで、なんとかフィールドワークを実施することができたところです。

観光教育において“データの利活用”が重要

 今の観光教育の傾向として、データを利用する高校がかなり増えている印象です。大学でも徐々にその流れが来ていると思います。私は、高校の普通科でどれだけ観光教育に取り組めるかが重要だと感じています。

 従来の小中学校における観光教育にはデータがあまり用いられてきませんでしたが、中学校に上がるころには徐々にデータに基づく戦略策定を学んでいく必要があると考えています。

 データ利活用の一例ですが、和歌山県の企画部企画政策局企画総務課に「データ利活用推進センター」があり「データ利活用コンペティション注1」が行われています。「RESAS」「eStat」「JStat map」などを使って地域振興のアイディアを作るものですが、関係者の方に聞くと今年はかなり参加が多かったとのことです。和歌山県の企画ですが、参加者は全国から集められ、アイディアの対象地域も和歌山県に絞らず募集しています。

コロナ渦により修学旅行に変化が生じている

 コロナ禍における変化として、修学旅行を近場で行うケースが増えてきています。京都の学校では沖縄に行くのを中止して、丹後や徳島のような近場へ行くケースがありました。さきほどの湯浅町でも、地元・和歌山県の小中学校から見学が増えているので、地域について学ぶという意味では逆にコロナ禍が追い風になっているケースもあるでしょう。

 学校の周辺を歩いてみたら、こんな良い場所があった、と生徒も教員も再認識できます。また、修学旅行に行けないけど、姉妹都市間でオンライン交流をするといった取り組みも出てきています。

 この修学旅行に関する変化は、修学旅行そのものを見直す動きもでています。学校現場は色々な取り組みを積み上げることは得意ですが、何かをやめることが苦手な傾向があります。コロナ禍によって強制的に取り組みを変更せざるを得なくなったことが、取り組みを見直すきっかけになっているのではないでしょうか。ただし、取り組みを見直す際には、大人になってからでも取り組めることと、子供だからこそ取り組みやすいことを仕分ける必要があると思います。例えば座禅や農業体験は大人になってから初めて取り組むにはハードルが高いですが、中学生のうちにそういった経験が出来るのは良いことだと思います。

 大学でもオンライン会議システムを使って観光協会の人と手軽に交流できるような機会を作っても良いのではないかと思います。ただ、行政側のICT環境が整っていないことが多いと聞いていますので、上記の様な取り組みを行うために、ICT環境を整えていく必要があると思います。

観光教育におけるバーチャルツアー活用の可能性

 観光教育でのバーチャルツアーの活用については、学校の金銭的負担がない場合は取り組んでもらえると思います。学校側に金銭的負担が発生する場合、プログラムにどれだけの付加価値があるかを、しっかりと伝える必要があります。ただし、クラスの中で半分がリアル参加、半分がバーチャル参加という形式は教室内で格差が生じてしまうので、学校は取り組まないでしょう。引率の先生がバーチャル体験用に動画を取るのも負荷が高いと思います。

 一方で観光教育として「動画」を作る取り組みが増えているという印象はあります。例えば、長野県大町市では「大町の未来をつくる」という取り組みを地元の小中学校とNPOが行っています。大町のPRプロジェクトの一環として、小中学生がホームページ作成やパンフレット作成、CM作成にも取り組んでいます。このように、動画づくりに関する取り組みは、教育現場に一人一台ずつタブレットが整備される環境が整えば増えてくるのではないでしょうか。

 また、こういった取り組みを増やすためにも、学校と地域がつながりを持つ機会を増やすべきだと思います。例えば、佐渡島の南佐渡中学校は合併前の小木中学校の時代から、観光ボランティアガイドに積極的に取り組んでいます。しかし、地域の観光協会と連携を取らずに学校単独で取り組んでいるのです。せっかく学校主導で良い取り組みが出来ているのであれば、地域との連携を増やすことでさらに取り組みを改善できるのではないでしょうか。特に公立高校の場合は、設置者が地元の市町村ではなく都道府県のため、余計に地域とのつながりが希薄になっている可能性があります。現在、コミュニティスクール(地域と協働して生徒を育てる学校)が推進されているので改善されると思われますが、そのきっかけになるのはキャリア教育や観光教育だと考えています。

教育におけるICT活用について教えてください。

 主体的学習が学校では推進されていますが、実際はあまり質の高くないものも展開されています。創造的な価値を生み出す「アクティブさ」が公立には足りていない傾向があります。タブレットを使う教育では、私の知る限りでは府内にある同志社中学校などは進んでいる印象です。

 ICTを活用すると、先生たちがこれまで良いと思い込んでいることが、実は違ったというようなことに気づけます。例えば、先生は生徒にやる気を出してもらうために、グループワークの導入部分に注力していますが、実際に脳の血流を測定すると導入部分で血流が上がらないことがわかっています。血流が上がるのはグループワークで先生が「きっかけ」や「ゆさぶり」を与えることだとわかるようになりました。

図3 ICTツール事例:位置情報(GPS)と連動したイラスト地図のオンラインプラットフォーム「Stroly」

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(出典)「Stroly HP」より弊社作成

 観光教育におけるICTツールの一例として、このStrolyはとてもよいアプリケーションだと思います。このような、なじみやすいアプリを使えば、地理教育に取り組む最初のステップになるかもしれません。ずっとアナログでやってきたことをStrolyのようなアプリでデジタルに置き換えていくのは良いことです。地図作りに取り組むことは「地理リテラシー」の向上にもつながります。こういったイラスト性を重視したアプリケーションで作られる地図の情報が必ずしも正確なわけではないため、読み手に誤解を与えることがないように注意が必要ですし、イラストを描くことに夢中になって脱線しないようにする必要はあるかと思いますが、観光教育においてもこういったアプリケーションが非常に役立つと思います。無料でも使えるようなのでぜひ試してみたいと思います。

ICT活用に向けた学校側の課題は何でしょうか?

 ICTを使った取り組みを進めようとしても、結局は学校の体制が整っていないと出来ません。学校の先生たちの意識は徐々に変わっていますが、まだ時間がかかるという印象です。教育委員会がトップダウンで取り組みを進めようとしても、学校の管理職の意識が変わらないと取り組みが始まりません。学校によっては特定の先生が意欲的に取り組みを進めるケースもありますが、その先生がいなくなると取り組みが続かなくなる可能性が高いです。また、私の印象ですが、学校の先生は、新しい教育に対して、明確にメリットや必要性が見えないと取り組まないケースが多いように思います。どうしても不安材料を持ち出しがちです。具体的にいえば、昨年、新型コロナの影響によりオンライン授業を取り入れなかった学校がありましたが、プライバシーや教育の公平性の問題を挙げて、せっかくの教育の機会に消極的だった例があります。

上記のような課題に対して企業はどう貢献すべきでしょうか?

 さきほど申し上げたように観光教育においてデータの利活用が進みますので、ICTツールの活用を積極的に取り入れるためのインフラ整備の面で、企業に期待することは多いです。

 また、1つ考えられるのは、ICTを活用して卒業生の追跡調査を行うことが出来ないでしょうか。特に私立の学校にニーズがあると思います。異動が定期的にある公立の学校と違い、私立は教員がその学校に長くいるため、卒業生がどのような進路で活躍しているかは非常に気になっています。私立の卒業生に対して追跡調査を行い、学校での学びがどのように役立ったかのデータを収集することには価値があると思います。入学前教育でも、入学前教育を受けた生徒が大学入学後にどう変化があったかのデータが取れていません。そういった取り組みの影響を長期で計測できることには価値があると思います。

プロフィール

Profile
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澤 達大(さわ たつひろ)
京都文教大学 総合社会学部 総合社会学科 准教授
研究テーマ:社会科教育(観光教育、防災教育)、教師教育学

社会科教育に取り組み、特に地理教育(地図等)を専門とする。著書は、「観光教育への招待」(共著)、「京都・宇治発 地域協働の総合的な学習 : 「宇治学」副読本による教育実践」(共著)など多数。2018~2019年には観光庁の「観光教育のモデル授業検証・普及事業」の有識者を務め、福島県立猪苗代高等学校における取り組みを支援。
 わかった時に子どもたちが“ニコッ”とする笑顔を、教室に咲かせられる教員の育成に取り組む。知的好奇心や探究力が芽生える教材開発と、学びの過程を大事にする指導方法を研究し、興味がわき確かな学力が身に付く授業を学生と一緒に模索している。さらに学校現場で教員に求められる「一瞬の対応力」などの能力の研究も進めている。

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